異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
「馬が?」
――ああ。進ませようとしても、前へ出ようとしなかった。
エルナさんが馬を御せないところなんて、ほとんど想像できない。
何かいたのかと思ったけれど、エルナさんは別のことを話し始めた。
――道の先が、違って見えた。何度も通っている道だ。曲がる場所も、その先にあるものも知っている。だが、その時だけ、本来あるはずの古い石標も林もなく、知らない道がそのまま先へ続いていた。
「……別の場所が見えてた?」
さっき自分たちがエルナさんへ説明したものを思い出した。
僕たちの場合は、第三新宿のなかで、何もないところに黒い線が見えて、それが広がって、窓みたいになって、その先に別の場所が見えた。
同じことがおきてる! とはいえないかもしれない。でも、まったく関係がないとも思えなかった。
『?!』
『うおw』
『どういうこと』
『異世界でも同じこと起きてるの???』
『地球につながる道だった可能性ある???』
『これ魔王軍の地球侵攻の伏線です』
僕がコメントを見ながら考え事をしているあいだに、ミナトさんが横から聞いた。
「エルナさん、ミナトです。その道を見たのは、エルナさん一人ですか?」
――いや。私を除いても、3人いた。
「その三人にも、同じ道が見えてたということですか?」
――ああそうだ。全員だ。本来あるはずの石標も林もなく、その先に知らない道が続いていると言った。
「エルナさんが見えていたものを3人に話したのは、その前ですか?」
――いや。まず三人に、何が見えるか聞いた。そのあとで私が見えていたものを話した。
「なるほど」
――何か違うのか?
「先に『知らない道が見える』って聞いてたら、その言葉につられて、同じものに見えた可能性も残るので。順番だけ確認したかったんです」
『ミナトン、異世界相手でもガチですw』
『詰めてて草』
『ミナト、実験だけじゃなくてヒアリングも得意かよ』
――3人とも、自分の目で見たものを答えたぞ。
「うん。だから、先に何も聞いてなかったなら助かります。エルナさんを含めて4人が、それぞれ同じ景色を見たってことになりますから」
――……そういうことか。
ふたりの会話を聞いていて、思った。
「いいなあ、エルナさん」
――何がだ。
「僕たちなんか、勇者と姫君が2人そろって『別の世界からこっちに帰ってきました』って言っても、全然信じてもらえなかったんだよ」
リョウが「最初はな」となんでもないことのようにいう。
「いや、最初どころか、かなり長かったよ!?」
『設定乙www』
『そらそうよ』
『証拠も証人もなかったからね』
『なにげに今は信じてもらえたって言ってるなコレ』
『〈設定じゃない〉』
『なんかしみじみしてて草』
「でも、最近はだいぶ変わったけどね」
――何かあったのか。
「セシリアやエルナさんと、こうやって本当に話せるようになったから。それで、信じてくれる人もかなり増えたよ」
――わたくしたちとお話しになったことで、ですか。
セシリアが聞いてきた。
「うん! それがすごく大きかったと思う」
――それでしたら……少しでも、お二人のお役に立てたのであれば嬉しく思います。
「役に立ったどころじゃないよ!!」
僕はすぐに答えた。
「2年前からずっと話してたセシリア本人が出てきたんだから! 本当にびっくりしたよ。僕たちだけじゃなくて、一緒に聞いてたみんながびっくりした!」
『セシリア本人降臨はでかかった』
『空気変わったからな』
『姫様が二年前から名前出してた人だもんな』
『エルナさんまで来たしもう設定の登場人物が増殖してる』
――そういう話なら、街道の件でもうひとつある。
「なに?」
――同行していた術師が、そのあと、周囲の魔力の流れも普段とは違うと言っていた。
ミナトさんが食らいつく。
「魔力の変化に気づいたのは、道がおかしいって確認したあとですか?」
――そうだ。術師自身も先に何が見えるか答えている。
「ありがとうございます」
僕も聞いた。
「その道って、本当にどこかへ続いてたんですか?」
――そこまでは分からない。誰も入れていないからな。後ろの者も止めて、その道は使わせなかった。斥候も出していない。今も街道は迂回させている。
「怪我した人はいない?」
――いない。
「よかった」
エルナさんたちが確かめたのは、本来あるはずの石標と林が消えて、その代わりに知らない道が続いて見えた、ということまで。その先がどこにつながっていたのかまでは分からない。
「最初に馬が止まったのも気になるけど……」
――それも理由は分からない。道を見て止まったのか、周囲の変化を感じたのか、それ以外か。確かめるために進ませるつもりもなかったし。
『馬センサー有能』
『地球の道がくさかった説』
『〈なるほど〉』
『動物のほうが察知が早いの異世界ぽい』
「エルナさん、その辺りにはまた行くの?」
――ああ。明日からもまた行く。旧魔王領に近いからな。
「僕たちのために、その道に近づいたりしないでね」
――分かっている。元から私の仕事だ。お前たちのために危険な場所へ踏み込むつもりはない。
2年前まで何度も一緒に戦場へ出ていた相手に、仕事へ行くなとは言えない。ただ、今回の話で気になることはまだあった。
「そっちのダンジョンでも、道が変わったり、距離がおかしくなったりすることはあったよね」
――そうだな。お前たちがこっちにいたときも見てるだろう。だから地図作りがいつも仕事になる。
地球のダンジョンでも、それは同じだ。
歩いた距離と地図が合わなかったり、来た時と帰る時で道が変わったりすることはある。
でも、エルナさんが見たのはダンジョンの中じゃなかった。
旧魔王領に近い街道だ。
リョウが言う。
「こっちで裂け目の先に見えたのは魔王城だった」
「うん」
地球では、第三新宿の裂け目の先に魔王城が見えた。
その一方で、むこうでは、旧魔王領に近い街道に、知らない道が現れた。
「第三新宿で僕たちが見たのは、魔王城だった。で、エルナさんが知らない道を見たのも、旧魔王領の近くなんだよね」
別の出来事かもしれない。
それでも、場所まで近いなら、何も関係がないと言い切ることはできない。
「……そこは気になる」
「ああ、そうだな」
リョウもすぐに頷いた。
「もし同じような現象なら、エルナさんが見た道の先も、こっちにつながってた可能性あるのかな」
「可能性はあるね」
ミナトさんが答える。
「ただ、今分かってるのは、第三新宿から魔王城が見えたことと、旧魔王領の近くで知らない道が出たことまで。まだ同じ現象だとは言えないよ」
「うん。だから、旧魔王領の近くで、ほかにも似たことが起きてないか知りたい」
――戻ったら、似たものを見た者がいないか聞いてみよう。
「無理しないでね」
――分かっている。
僕たちがいなかった2年間に、むこうでも同じことが起きていたかもしれない。
それを、今日まで誰も知らなかった。
『やっぱり地球と異世界つながってるじゃん?』
『これ双方向開通してるぞ』
『話がでかくなってきたな』
『新宿のやつと関係あるのかな』
『新宿から魔王城まで特急で何分?』
『これやばいのでは?』
ますますコメントもヒートアップしていく。
「みんな、新宿と魔王城がつながってるって決まったわけじゃないですからね」
――そっちで聞いてる人たちにいってるのか。
「そう。そっちには届いてないと思うけれど、なんかこっちの人たちの中では、もう魔王城と僕達の住んでる町がつながってるんじゃないかって感じになってたから。……そっちは本当に魔王城の近くにまた行くっていうのに、こっちはのんきでごめんね」
――何を謝る。こちらのことは、こちらでやる。
「でも」
――無茶はしない。さっきもそう言っただろう。
「……うん」
今すぐ答えが出る話ではない。
エルナさんにも無理はしてほしくないし、こっちで確認できることもある。
それ以上、今ここで知らない道について聞けることはなさそうだった。
声だけなのが、やっぱりもどかしかった。
顔が見たい。
今も同じ鎧を着ているのか、髪は変わったのか、二年で何か変わったのか。聞きたいことはいくらでもある。
「エルナさん、今も自分で現場に出てるんだね?」
――そうだ。
「よかった」
――何がだ。
「いや。2年経ってるし、仕事の仕方も変わってるかもしれないと思ってた」
――2年程度で私が現場を離れるとでも思ったか。
「そういう意味じゃないよ!」
僕が言い返すと、リョウが横から口を挟んだ。
「2年前も、エルナにそうやって言い返してたな」
「リョウまで言う?」
「今の聞いたら思い出すだろ」
――リョウも相変わらずだな。
「なんで俺まで言われるんだ」
『エルナさんって姫様を訓練してた人だよね?』
『短剣教えた人だっけ』
『空気良いな』
『〈かわいい〉』
「そう。エルナさんからは短剣も教わったし、訓練ではかなり怒られたんだよ」
――必要なだけだ。
『やっぱり怒られてたw』
『本人確認完了』
『姫様の師匠つよい』
『異世界時代の保護者増えた』
「保護者ではないからね?」
――またそっちの連中と話してるのか?
「ごめん! そう! こっちの話だから!!」
リョウが横で笑っている。
「リョウも笑わないでよ。そっちだって何度もエルナさんに怒られてたでしょ」
「お前よりは少ない」
――そうだったか?
「エルナ」
――冗談だ。
『勇者も被弾ww』
『戦友相手だと勇者も普通だな』
『この三人昔からこんな感じだったんだろうな』
帰ってきてから、もう会えないかもしれないと思っていた人と、こうしてまた普通に言い合えている。
それが嬉しかった。
「……本当に変わってないなあ」
――お前たちも、思ったより変わっていないようで安心した。
それから、さっき途中になっていた仕事の話へ戻った。
「だから今は、地球にできたダンジョンに入る仕事をしてるんだ。魔物を倒したり、素材を持って帰ったり」
「それでお金ももらえるからな」
――帰ってからも結局、二人で魔物のいる場所へ行っているのだな。
「そうだね」
『帰還しても魔物と縁切れてないw』
『地球にもダンジョンあったのが全部悪い』
『これ切ない』
「でも、それだけじゃないよ。今はこうして、僕たちがこっちで何してるかを大勢の人に伝えるのも仕事になってる」
――ああ。セシリアから聞いている。ずいぶん大勢が聞いているそうだな。
「うん。こっちでそれに魔物を討伐する話だけでなくて、そっちの世界でのことを話したり、今の生活のことを話したり。僕たちが何かしてる様子を見てもらうこともあるよ」
――お前たちの仕事は、思っていたより幅が広いらしいな。
「そう。今もちょうど、そっちで食べてたものを、こっちの食べ物で再現しようっていう準備をしてて」
――旅の途中で食べていたものか。
「そう。50万人になった記念にやろうって」
――待て。今、人数を何と言った。
「……50万人だけど?」
50話(!)をお読みいただきありがとうございました。
50話で、エルナは50万人が気になっているようです。
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