異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
――セシリアから、大勢がお前たちの話を聞いているとは聞いていたが。
「そっち?」
僕としては、異世界めしの話をしたつもりだったけれど、エルナさんは人数の話が気になったようだった。
「その、前にセシリアと話した時、いまこの話を聞いている人が10万人くらいいるって説明したでしょ? いまも同じくらいの人が聞いているんだけれども」
――それは聞いている。10万人、王都の者がほとんど全員集まるほどだとな。
「うん。えーと……。50万人っていうのはそれとは別なんだ」
――別なのか。
同接10万人は、まだわかりやすかった。
今この話を聞いてくれている人の数。
さっき言ってしまった50万人は、登録者数の話。
登録……なんて言えばいいのか。
「その、50万人、っていうのは、僕たちの話を一度聞いてくれて、また聞きたい、って思ってくれた人。そう。そう思ってくれて、名前を残してくれた人の数、っていえばいいかな。それが、7日前にセシリアと2回目につながったときに、合計で50万人を超えたんだ」
――……50万人。
『めっちゃ引っかかってて草』
『改めて異世界人に言うと50万ってやばいな』
『姫様その説明で登録者いけるのか』
『エルナの知ってる人数の単位じゃなさそう』
『50万人って異世界の王都何個分だよ』
「うん、50万人」
10万人でも驚かれたのに。50万人はどう説明したらいいかわからない。
――お前たちふたりを、か。
「そう」
――待て。
「なに?」
――先ほど、お前たちの話は長い間信じてもらえなかったと言っていたな。
「うん」
――その50万人は、お前たちの話を信じている者なのか。
「いや。じつはまだ半信半疑って人も結構いると思うよ」
――信じていないのに、それでもまた話を聞きたいと思うのか。
「……なんでだろうね。信じているかどうかはともかく、僕たちの話を面白がって聞いてる人が多いよ」
「イオリ目当てのやつが大勢いる」
「それ今いる? それをいうならリョウ目当ての人だって大勢いるよ!!」
――……そっちの世界はどうなっているんだ。まあふたりが見目麗しいのは認めるが。
「僕に聞かれても困るよ! たぶん、暇人が多すぎるんだよ!」
『エルナのツッコミ面白い』
『姫様を見たいだけの人でーすノシ』
『戦闘が普通に強かったからな』
『俺の姫から入りました』
『【悲報】異世界の騎士団長、配信文化にドン引きするwww』
『信じてないけど毎回見てました』
『異世界人に説明すると意味不明で草』
『リスナーを暇人呼ばわりwww』
『見目麗しいのは認めるのか・・・』
『もしかして地球ってやばいか?』
『きょう時点52万人です』
普段は画面に出ている数字として見ているうちに、僕もすっかり慣れていた。
でも、セシリアやエルナさんに説明するために口にすると、とんでもない人数に聞こえる。
――50万人というのは、どれほどなのだ。
エルナさんの声は、僕たちに話しかけているのかよくわからない、つぶやきのようだった。
「それが難しいんだよね」
10万人なら、王都の人口で伝わったんだけど。
すると、セシリアが答えた。
――王都の大聖堂を訪れる者を、長い年月にわたって数え続ければ……きっとそれくらいになるでしょうか。王国中の者が、人生で一度は訪ねたいと思う場所ですから。
「そんな換算になるの!?」
――つまり、お前たちはそちらで巡礼先になったのか。
「違う!」
リョウがエルナやセシリアではなく、カメラに向かって言う。
「おまえら。家には来るなよ」
「リョウ、それ言うと本当に家まで巡礼地みたいになるから! 絶対やめて!」
『巡礼地ww』
『帰還配信=人生で一度は訪ねたい大聖堂だったwwww』
『すでに近所のパン屋さんまでバレてます・・・』
『巡礼者50万人』
『俺ら聖地巡礼者だったのか』
『急に宗教規模になるの草』
『やっぱ人口だけはぜんぜん違うんだな』
『エルナ普通に感心してそう』
――その50万人は、一度に家へ来るのか。
「来ないよ!」
「来たら困る」
「だからリョウも真面目に答えないで!」
――なんだ、来ないのか。
「来ないってば!」
――でも、それほどの者が、お前たちの話をまた聞きたいと思っているんだな。
「……それは、そう。そうみたい」
ちゃんと伝わったのかよくわからなかったが、エルナさんはそれで納得したらしい。
「それでさ。その名前を残してくれた人の数が50万人になった記念に、僕たちがそちらの街でよく買ってた料理を、こちらでもちゃんと作ってみようってやってるんだ」
――何を作ろうとしている。
「薄いパンに、焼いた肉と葉物を挟んで、酸っぱい白いソースをかけるやつ」
――……あれか。お前たち、街へ入るとよく買っていただろう。
「そう、それ!」
説明だけで通じた。
「リョウが歩きながら食べられるから気に入ってたんだよ」
「お前も毎回食ってただろ」
「僕も好きだったからね」
――私も何度か食べたな。
「じゃあ分かるでしょ。一回こっちで作ってみたんだけど、パンがうまくいかなくて」
「薄くすると破れる」
「そう。破れないようにすると今度は厚くなるんだよ。あれ、もっと薄いのに肉を挟んで普通に持ち歩けたよね?」
――ああ。折っても簡単には破れないな。
「やっぱりそうだよね。そこまでは覚えてるんだけど、どうやってあの生地を作ってたのかが分からないんだ」
――お前たちは3年もいたのに、作り方は知らないのか。
「食べるだけだったからな」
「エルナさんは知ってるの?」
――私も買って食べてるだけだ。
「エルナさんも知らないの!?」
『パンの作り方聞け』
『巡礼地の名物料理になるぞ』
『ソース何入ってたかも聞こう』
『エルナも食ってるだけか』
『勇者、騎士、姫←料理が仕事のやついないじゃん』
『レシピ知ってる人ゼロ』
『異世界料理監修失敗』
『セシリアならワンチャン』
――イオリ様。
「セシリア?」
――厨房の者であれば、パンの材料や焼き方に心当たりがあるかもしれません。聞いておきましょうか。
「……聞く前に言われた」
――イオリ様がお知りになりたいのは、作り方でございましょう。
「……セシリアありがとう! お願いします!」
「ソースの方も、分かりそうなら聞いてほしい」
「それもお願いします!」
『異世界へレシピ照会w』
『さすがセシリア』
『異世界めし前進してて草』
『文化交流はじまってんな』
――では、もし分かりましたら、次にお話しできた時にお伝えいたします。
「お願いします!」
魔王城や知らない道の話をしていた時とは、全然違う話になっていた。
でも、こういうことも聞きたかった。
2年前まで普通に食べていたものを、地球でもう一度作る。その作り方を、そちらにいる人へ聞いて、次に話せた時に教えてもらう。
帰ってきた頃には、そんなことができるなんて考えたこともなかったな。
「そういえば、セシリアたちは、こちらへ声を届けるために術式を使ってるんですよね」
――はい。こちらからお二人へ声を届けるための術式を使っております。
「僕たち、そちらへつなぐための術式は何も使ってないんです。そもそも使い方を知らないから」
隣のリョウが自分の外套をつまんだ。
「実は、やったことというと、こっちに戻ってきた時に着てた装備をつけただけ。二人してつけてる」
――こちらとは、ずいぶん違うのですね。
「うん。何でそれでそちらとつながるのかは、僕たちにもまだ分かってない」
――少々お待ちください。術師にも聞いてみます。
セシリアが席を立ったような音がした。
「そういえばエルナさん、今は何人くらい連れていってるの?」
――私が直接見ているのは40人ほどだ。ほかにも別の隊が動いている。
「40人全員で街道を回ってるのか?」
リョウが聞いた。
――まさか。何組かに分けて、街道と周辺の集落を見ている。何かあれば私のところへ知らせが来る。
「じゃあ、前みたいに全員で野営しながらの生活ってわけでもないか」
――今はラーデンを拠点にしている。異常が出た街道も迂回させているから、同じ場所に兵を置き続けるより、その方が動きやすい。
「ラーデンなんだ」
僕にもすぐ場所が浮かんだ。むこうにいた頃、僕たちも遠征の途中で何度か立ち寄った町だ。
「それなら、あの辺を何組かで回るには動きやすそうだな」
リョウも同じように思ったらしい。
――そうだ。ほかの街道や集落から知らせがあれば、そちらにも行く。旧魔王領に近いからといって、例の道だけを見ているわけではない。
「そっか。まだ普通にそこで暮らしてる人もいるんだもんね」
――ああ。まだ、戦ではないからな。
2年前の遠征なら、僕たちも同じ場所で寝起きして、そのまま次の地点へ進んでいた。
今のエルナさんたちは、僕たちも知っているラーデンを拠点にして、そこで暮らしている人たちの周りを回っているようだ。
『服着たら異世界から電話きました←これおかしいだろ』
『兵隊の数で国の小ささがわかるな・・・』
『ラーデン←語感がそれっぽい』
『異世界地名出るのはじめてじゃね?』
「なんか、ちゃんと騎士団長の仕事してるな」
「リョウ。それ本人に言う?」
――お前は私を何だと思っていた。
「強い人」
――リョウは2年経っても変わらんな。
++++
そこへ、セシリアの声が戻ってきた。
――お待たせしました。術師が申しております。お二人と共に帰還の術式を通り、そちらの世界まで渡った品であること自体に、意味があるのではないかと。ただし、それだけが理由だとは断定できないそうです。お二人が長く使い、帰還の際にも共に術式を通った品なら、お二人との結びつきが残っている可能性はある、と。
『帰ってきたときの服なのが大事なの?』
『やっぱり勇者姫君ゆかりの品が強いやつwww』
『ガバガバすぎる』
『おきにの髪留めだけでもいけそう』
『術師でも分からんのかーい』
僕は自分の格好を見下ろした。
今は、帰還した時の装備を一式、タイツも外套もそのまま身につけている。
リョウも同じ。
帰還の術式を通った物と、僕たちとの結びつき。
それなら、家でセシリアたちとつながった時に、この装備が効いていた理由にはなるのかもしれない。
でも、さっき聞いたエルナさんの道には、僕たちも、この装備もなかった。
それになにより……
「第三新宿から魔王城が見えたことも、エルナの見た変な道も、この服では説明がつかないな」
「……うん。そっちは、まだ分からないね」
家で声がつながる時のことは、少し分かった気がするけれど、謎はたっぷりと残った。
「エルナさんも、さっき言ってた聞き取りで何か分かったら、次に教えて」
――ああ。そちらも何か分かったら聞かせてくれ。
エルナさんが言う。
――そういえば、お前たちは、こっちとつながる時はそのたびに、そっちへ帰ったときの格好をしているのか。
「あ。そうなんです。それで……実は、今日これを始める前にも、毎回同じ装備をつけてるけど、こっちの洗剤で洗って大丈夫なのかって話してたよ」
――……それが悩みなのか。
「重要でしょ! セシリア、この服って、そちらではどう手入れしてた?」
――お帰りの際につけておられたお召し物でしたら、水と石鹸で手入れしておりました。
「やっぱりそうだよね。でもこっちの洗剤をつかって大丈夫か分からないの」
――そちらの洗剤については、わたくしにも分かりかねます。
「……ですよね!」
「当たり前だろ」
リョウは呆れたような声をだした。
「聞いてみただけだよ!」
世界をまたいで通信できるようになったのに、服の洗い方までは世界をまたいで解決しなかった。
これは地球側で決めるしかなさそうだった。
僕たちも手作業で洗ってもいいかも。
『草』
『一人ぐらしはじめた社会人みたいなこといってる』
『異世界通信の議題がこれでいいのか』
『重要課題』
『クリーニング屋「素材は?」』
『何でもは知らないセシリアさん』
それからも話題はいくつか変わって、しばらく話した。
ひと区切りついたところで、セシリアが言った。
――次も、7日後のこの頃でよろしいでしょうか。
「うん。僕たちは大丈夫」
――承知いたしました。
――私も王都へ戻れていれば来よう。
「じゃあ、さっきの道のことで何か分かったら、その時に教えて。戻れなかったら、セシリアに伝えておいてもらえる?」
――ああ。そうしよう。
「僕たちも、今日聞いたことはもう一回考えてみる。何か気づいたら、次に話すよ」
――ああ。そちらで気づいたことも聞かせてくれ。
「うん」
『毎週夜10時にミーティングw』
『異世界ホットラインすげーな』
『来週もエルナさん来るかも?』
『これもう外交関係樹立だろ』
『異世界の定例連絡になってきたな』
そのあとも、すぐに通信を終えることはなかった。
さっきの料理の話に戻ったり、エルナさんと昔通った街や、今も残っている店の話をしたりした。
2年前には、帰ったらもう話せないと思っていた人たちと、「7日後も同じ頃に」と約束している。
「またね、セシリア。エルナさんも」
「またな」
――ああ。
――また7日後に、お呼びいたします。
そこで、セシリアたちの声が途切れた。
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通信が終わってから、僕はカメラへ向き直った。
「じゃあ、そろそろ今日の配信も終わりにしましょうか。ミナトさん、今日もありがとうございました。何か告知とかあります?」
ミナトさんは、自分のチャンネルで次に予定している配信について簡単に説明した。今回の調査とは別の、いつもの探索関係の内容らしい。
「一応、リョウも何か言いたいことある?」
「ない」
「ないんだ」
『勇者即答w』
『ミナトさんおつー』
『次の通信も待ってる』
『洗濯がんばれ』
そんなやり取りを最後にして、今日の配信を終えた。
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ミナトさんは持ってきた機材をバッグへ戻して帰っていった。
玄関から戻ると、リョウはテーブルに残っていたカップを片づけ始める。
僕も空いたボトルを持ってキッチンへ行く。
冷蔵庫の前まで来て、貼ったままになっている2枚のお知らせが目に入った。
「あ。明日の更新、これ持っていけばいいんだよね?」
「裏に書いてあるだろ」
「一応、もう一回見る」
僕は冷蔵庫からお知らせを外した。
明日は、僕たちが探索者になってから初めての探索者登録の更新日だ。