異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
イオリと俺が、むこうの世界から戻ってきて探索者になってから、もう2年になる。
セシリアだけでなくエルナとも繋がった次の日、俺たちはダンジョンではなく、お役所の町、霞が関に来ていた。
俺はいつもの外出用の服。イオリも普段着だけど、今日はスカートで、いつもより少し女の子っぽい格好をしていた。
似合っている。普通にかわいい。
「2年前も思ったけど、探索庁って……もっとこう、でーんっと探索庁って書いてある建物があったり、立派な建物だと思うよね普通」
イオリが、建物の入口の案内板を見て言う。
探索庁が入っているのは、いろいろな役所やらなんやらの名前が入口に書いてある、普通の会社みたいなビルだった。
イオリは、ニュースやドラマで出てくるような、お掘の横にたってて雰囲気のある役所を想像しているらしい。
「探索庁は借りぐらしって感じだな、いまだに」
「でもこういうところにダンジョンを管理するお役所が普通に混ざってると、そこだけちょっとファンタジーだね?」
「異世界帰りのお前が言うのか」
「リョウもでしょ」
建物の入口へ向かいかけたところで、イオリがまた口を開いた。
「昨日も言ってた術師さんの話なんだけどさ。エルナさんが知らない道を見た時って、僕たちも、むこうから持ってきた物もそこにはなかったんだよね」
「ああ。家でセシリアと話してる時とは違う」
「だよね。……あの道、なんだったんだろ」
俺も昨日から考えているけれど、答えは出なかった。
「分からん」
「うん。でも、やっぱり気になる」
イオリはそう言って、入口の案内へ目を戻した。
今日は2年ごとの探索者登録の更新。
普段のダンジョン探索がらみの手続ならオンラインや各地のダンジョン近くの窓口でもできるものが多い。
でも、更新だけは本人確認と講習を受けて新しい探索者証をもらうのに地方ごとの指定更新所へいかないといけない。
関東地方での指定先が、探索庁の本庁舎だった。
ダンジョンが地球に現れてまだ5年。探索者制度自体も新しいから、最初期に登録した人でも更新経験は2回程度らしい。
……ここまでは、イオリが高瀬さんと電話をスピーカーモードにして話していた時に聞いた話の受け売りだ。
俺たちは今回が初めての更新だった。
+++++
午前中の講習には、俺たち以外にも30人くらい来ていた。
装備を見なくても本業の探索者だと分かるような人もいるが、スーツ姿のまま来ている人も多い。
講習は車の免許の更新と似たようなものですよと高瀬さんは言っていたけど、俺たちにとっては、地球に戻ってきてからとった車の免許の最初の更新よりこっちの方が先だった。
部屋の前の方で、講師の人が、ここ2年で変わった規則や事故傾向を説明している。
【勤務後・長時間労働後の探索による事故が増加しています】
「本当に副業の人多いんだね」
隣のイオリが小声で言った。
「そりゃ、ダンジョンの浅いところなら週末だけ入る奴もいるだろ」
【疲労状態での入坑を避け、予定していた探索であっても体調不良時は中止してください】
「会社終わってからダンジョン行くの、僕には無理かも」
「イオリは配信終わってからもゲームするだろ」
「それとは違うでしょ。部屋から出ないんだから」
+++++
講師が次の資料へ進めた。
今度は、この二年間に起きた事例をいくつか紹介するらしい。
【事例3 未登録大型個体との遭遇後、周辺異常が継続した事例】
【2名で活動中、地球側未登録の大型個体と遭遇】
……見覚えがある。俺は前のスクリーンを見直した。
【既知生物との類似を確認したが、同一種とは断定せず】
【個体排除後も周辺の空間歪曲値が低下せず】
……似てるというレベルじゃない。
「リョウ」
隣から小さく呼ばれた。
顔を向けると、イオリもスクリーンを見たままだった。
「なんだ」
【個体の角片及び壁面試料を回収】
【付近に未知の黒色植物状構造を確認】
「僕たちだよね?」
「俺たちだな」
ここまで揃えば間違いようがない。
俺たちが遠征で、灰角獣と同じ姿の大型個体を狩って、黒い根を見つけた時の話だ。
「……教材になってるの?」
「なってるな」
「教材になってる事自体驚きだけど……早くない?」
「何日前だと思ってるんだ」
「え? 一ヶ月たってないんだけど……用意が早すぎる! こういうのって本人に連絡来ないの? 教材使用料とかは?」
「出るわけないだろ」
前の席にいた人が、ちらっとこっちを見た。
その隣も振り返る。
イオリが資料で口元を隠した。
「……バレてる」
「そりゃバレるだろ」
探索者の数そのものはたくさんいるはずだけれど、地球側で未登録の大型個体を倒して、黒い根まで見つけ、その様子を全部配信していた二人組なんて、そうそういるわけじゃない。
講師だけは、俺たちのことには気づいていないらしく、そのまま事例の説明を続けている。
俺たちとしては普通に仕事をしていたつもりなのに、もう別の探索者が講習で見る資料になっていたとは。
+++++
休憩に入った途端、近くにいた人から声をかけられた。
「すみません、あれってやっぱり帰還配信の遠征ですよね?」
俺とイオリの名前を確認することもなく、直球の質問だった。
イオリが俺を見てから答える。
「……たぶんそうです。僕たちも今日知りました」
「やっぱり。大型個体の方も見ましたけど、黒い根が出たのもあの時ですよね」
「そうです。そっちは今も調査中ですけど」
「ああ、やっぱりそこまではまだなんですね」
相手はそれ以上踏み込まず、「ありがとうございます」と戻っていった。
「配信の話じゃなくて、普通にダンジョンの仕事の話されたね」
「ここ探索者の更新所だからな」
「そうなんだけどさ」
+++++
講習と本人確認、新しい探索者証の発行まで終わったのは昼過ぎだった。
「これで更新手続きはすべて終了です」
「ありがとうございます」
俺たちは新しい探索者証を受け取った。
2年前のものと並べると、イオリの写真は結構違う。
「髪、伸びたな」
「2年経ってるからね」
古い方は、今より髪が短い。
帰ってきて、まだそんなに経っていなかった頃の顔だ。
あの頃は、俺たちが何者なのか、むこうで何があったのか、それを説明するだけでもずいぶん時間がかかった。
2年しか経っていないのに、写真の中のイオリはずいぶん前のイオリに見えた。
「……なに?」
「別に」
イオリは古い探索者証をケースへ戻しかけた。
「イオリ。朝の話だけど、第三新宿、もう一回見に行かないか」
「……うん。僕もそう思ってた」
「前に行った時より、分かってることが増えてるからな」
「うん。エルナさんが知らない道を見た話もあるし。高瀬さんがいたら、第七階層へもう一度入れるか聞いてみようよ」
「規制区域が今どうなってるかもな」
「それも聞こう」
「それと、相沢さん、小宮さん」
ちょうどそこで、受付の人に呼び止められた。
「弊庁の高瀬がお待ちです。もしこのあとお時間があれば、少しお話ししたいとのことですが」
俺とイオリは顔を見合わせた。
「……ちょうどよかったね」
「俺たちも用ができたところだからな」
昨日も配信後に一度は電話していたのに、わざわざ待っているということは、高瀬さんの方にも何か話があるらしい。
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