異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

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第53話 TS姫様と勇者の異世界通信を、探索庁の人も放っておけなくなったそうです

 探索庁の高瀬さんが俺たちを待っていたのは、4人掛けの机が一つあるだけの小さな会議室だった。

 大きな窓から、都心の高層ビル群や大きな公園がよく見える。

 

 俺たちと高瀬さんは電話では何度も話しているけれど、こうして顔を合わせる機会は少ない。

 高瀬さんは20代後半くらいの女性。肩につかないくらいの黒髪で、紺色のジャケットを着ている。

 探索庁の人だからといって特別に堅そうな感じでもなく、融通も効くので助かっている仕事相手だった。

 

「はじめての更新、お疲れさまでした」

「ありがとうございます」

 イオリが答えた。

 

 席についてすぐ、俺はさっきの講習で気になったことを聞いた。

 

「高瀬さん。俺たちの遠征が教材になったの、知ってました?」

「はい。採用されたことは知っています」

「本人には何も来ないんですね」

「個別に通知する制度ではありませんので」

 

 横からイオリが口を挟んだ。

「教材使用料とかも出ないんですか?」

「出ません」

「ほらな」

「分かってたけど、一応聞いただけでしょ」

 

 高瀬さんが苦笑している。

 

「お役所なんですね」

「役所です」

 

 高瀬さんがテーブルにおいたノートPCを開く。

 本題に入る前に、俺たちにももうひとつ、聞いておきたいことがあった。

 

「それで、俺たちからも一ついいですか」

「はい」

 

「第三新宿の第七階層、もう一度入れますか?」

 

 イオリが続ける。

「昨日、エルナさんから知らない道が見えたって聞いて、前に第三新宿で見たものがまた気になってるんです」

 

 俺も付け加えた。

「前に行った時とは、分かってることも増えてます。できれば、第七階層をもう一度見たいです」

 

「……なるほど。でしたら、ちょうどよかったです。今日お待ちしていたのも、昨日の配信についてお話しするためでした」

 

 イオリが先に反応した。

「……エルナさんの話ですか?」

「はい。……じつは、正直に言うと、過去2回のセシリアさんとのやりとりまでは、探索庁としても比較的扱いやすかったんです」

 

「扱いやすかった?」

 今度は俺が聞き返した。

 

「はい」

 高瀬さんが小さく微笑んで続ける。

「この先、『異世界』や『魔王』など、おふたりの配信で使われている呼び方をそのまま使わせてください。私も初期から配信を拝見しているファンですので、その方が話しやすいです。ただし、探索庁としてその実在性を認定している、という意味ではありません」

 

「はあ……わかりました」

「僕も大丈夫です」

 

「おふたりが実現した異世界との通信現象そのものは、前例がありません。ただ、そこで話していた内容は、おふたりとセシリアさんとの関係とか、2年前以前の出来事、もしくは、異世界の人たちの現況が中心でしたよね」

 

 本人しか知らないような昔話。

 エルナやミレイが今どうしているか。

 なるほど、たしかにセシリアとつながった最初の2回、俺たちはそんな話しかしていない。

 

 

「でも昨日は違った、と?」

「違いました。現在、旧魔王領に近い地域で、空間異常のようなものを見たという証言が出た。さらに、それが第三新宿で起きた現象と関係する可能性について、お二人が配信上で話した」

「証言……」

 

 知り合いのことばがそんなふうにいわれるのは変な感じだ。

 

 俺たちにとっては、昨日エルナと話しただけだった。

 でも、探索庁から見れば、もうそういう扱いになっているのか。

 

「僕たちも、第三新宿と魔王城がつながってるって言ったわけじゃないです」

 イオリがすぐに言った。

 

「それは、昨日も電話で伺ってますし、承知してます。ただ、公開配信で現在進行中の異常について話が出たことで、こちらも急に忙しくなりまして」

 

 高瀬さんが、こっちに顔を寄せて、話を続ける。

 この締め切った小さい会議室で、その仕草に意味があるのかはわからないが。

「……今朝から、問い合わせが来ています」

「視聴者からですか?」

「それもありますが、庁内からです」

 

 高瀬さんは一度そこで止まり、さらに声をひそめる。

「それと実は……内閣官房からも照会が来ています」

 

「……内閣官房?」

 イオリの声が低くなった。

 

「なんでそんなところまで」

 気づけば、俺まで声を落としていた。

 

 俺たちは急に刑事ドラマの世界の住人になっていた。

 さっきまで、探索庁の教材使用料が出るかどうかを話していたのに。

 

「登録者が50万人を超えているチャンネルの公開配信で、現在規制中の第三新宿に関係する可能性がある話が出ましたから。あ、登録者50万人おめでとうございます。言ってませんでしたね」

 

 登録者50万人は、普通にめでたい数字だと思っていた。

 まさか、そのせいで俺たちが配信で話したことを、別の役所まで動いて確認することになるとは思っていなかった。

 

「……ありがとうございます」

 イオリが答える。

 

「で、その内閣官房、さん? からは何を聞かれてるんです??」

 俺は話を本題へ戻した。

 

「要約すれば、『第三新宿は今のままで大丈夫なのか』です」

 

 高瀬さんによると、規制を強くする必要はないのか、現在の観測に変化はないのか、昨日出た話を探索庁としてどう見ているのか。そのあたりを聞かれているらしい。

 

「……大変ですね」

 イオリが言った。

 

「かなり」

 高瀬さんの返事は、早かった。

「ただ、こちらとしても『異世界で何か起きているそうです』で回答するわけにはいきませんので、地球側で確認できる範囲は今朝から確認しています」

 

 国内のダンジョン全体で、昨日の通信時間帯に目立った同時異常は確認されていない。

 第三新宿についても、現在の観測値に急激な変化はなく、あの空間異常が出た区画の封鎖の継続でたりると判断しているとのこと。

 

 そこまで説明してから、高瀬さんが俺たちを見た。

 

「それで、先ほどの質問への答えですが」

 

 俺も姿勢を戻す。

「第七階層へ入るかどうかですか?」

「第七階層はもともと、許可のない探索者が自由に入れる場所ではありません。ただ、前回の現場をもう一度確認したいということであれば、日程と入れる範囲は管理側と調整できます」

 

 イオリがすぐに言った。

 

「じゃあ、お願いします」

 

 俺も続ける。

「第七階層を見られる範囲で、調整してもらえますか」

「分かりました」

 

 これで、俺たちが地球側で次にやることは決まった。

 

 高瀬さんが、まだ閉じていなかったノートPCへ目を戻す。

 

「それと、もう一つご相談があります」

「まだあるんですか?」

 イオリが聞く。

「あります」

 

 高瀬さんは今度は笑わなかった。

 

「次の通信は、6日後の予定で合っていますよね?」

「はい。エルナさんも、王都へ戻れていたらまた来るって言ってました」

「その通信に、私も立ち会わせてもらえませんか」

 

「高瀬さんが?」

 イオリが聞き返した。

 

「はい。昨日のように、現在の旧魔王領周辺で起きていることがまた話題になる可能性があります。第三新宿の管理に関係しそうな話が出た場合、その場で確認したいことが出るかもしれません」

 

 高瀬さんがいること自体は別にいい。

 ただ、俺たちがセシリアやエルナと話しているところへ、探索庁が勝手に割って入る形になるなら、それは違うと思った。

 

「通信そのものは、今まで通り俺たちが進めるんですよね?」

「もちろんです。私が直接確認したいことが出た場合も、まずお二人にお願いします」

 

 それならいい。

 

「僕は大丈夫です」

 イオリが答えた。

「俺も」

 

「ありがとうございます」

 

 そこでふと思って、俺は聞いた。

 

「これって、やっぱり偉い人たちに説明するためですか?」

「それもあります」

「それも?」

「内閣官房から照会が来ているからといって、ダンジョンを管理しているのが内閣官房に変わるわけではありませんから」

 

 高瀬さんが言う。

「必要なことは、探索庁でも直接把握しておきたいんです」

「……なるほど」

 

 ちょっと負けず嫌いなのかもしれない。

 

「じゃあ、次の通信の時間が決まったら連絡します」

 イオリが言う。

「お願いします。第三新宿の件も、調整でき次第こちらから連絡します」

 

 高瀬さんがノートPCを閉じる。

「そういえば、お二人はこのあと何かご予定がありますか?」

 

「今日はこれで終わりです」

 イオリが答えた。

 

「探索もないし、配信も予定してないですね」

「それは珍しいですね」

「そんなに働いてるように見えます?」

「最近お話しすると、探索か配信か通信の準備か、だいたいお二人で何かしていますから」

「……それは仕事がほとんど一緒なんで」

 

 

 +++++

 

 

 俺たちは高瀬さんと別れて、建物を出たときには、昼をだいぶ過ぎていた。

 

「帰るか」

 

 駅の方へ向こうとしたところで、イオリに呼び止められた。

 

「リョウ! このあと、どっか行かない?」

「どこに?」

「まだ決めてない。今日はもう仕事ないんでしょ? なんか遊んで帰ろうよ!」

 

 イオリからそう言われるのは珍しかった。

 

「……まあ、いいけど」

「じゃあ行こう!!」

「だからどこに行くんだよ」

「歩きながら決める!」

 

 イオリはもう、駅とは違う方へ歩き出していた。

 俺もそのあとを追った。

 




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