100均ホウキに百合が咲く ~限界無職女のダンジョン救助配信~ 作:羽黒楓
カマキリが
そのスピードは人間にはとうてい反応不可能なほどで、通常なら
「もう、めんどくさいなー」
ボキッという気持ちの悪い音を立ててカマが根元で折れた。
さらに一歩踏み込んでペシペシとカマキリの頭をホウキで叩く。
本来、鋼鉄なみの防御力を誇るモンスターである。
しかし、
通常なら剣をも弾くモンスターの頭部を、100円ショップのホウキがいとも簡単にへこませていたのだ。
カマキリは意識を失ったようで、その場にくたりと倒れこんだ。
「まったくもう!」
ピクピクと痙攣しているカマキリの首を素手でつかむと、
「はい、今日の掃除終わり! ……
部屋に戻ると、小梅はすでにちゃぶ台を広げ、コップを二つ並べているところだった。
「
20歳でお酒を覚えて以来この三年間、
「もちろん!」
「せやせや、それでこそあたしの子孫や」
小梅はニコニコ顔で一升瓶を傾け、コップに酒を注ぐ。
トクトクトク、という音が耳に心地いい。
芳醇な香りが部屋に漂う。
その匂いが
まだ飲んでもいないのに嗅覚からの刺激だけで脳みそがピリピリと喜び始める。
「
「うん!」
二人同時にコップを手に持つと、小梅が声高らかに、
「よっしゃ、乾杯や!」
「うん、乾杯!」
早く飲みたい気持ちがあふれ出て、
「おっとっと、こぼれるこぼれる!」
口の中が日本酒の香りでいっぱいになる。
もう我慢できなくて、
「んぐ、んぐ、んぐっ!」
一気にそれを喉に流し込んだ。
甘い香り、コクのある味わい。
胃袋に落ちた日本酒が、内臓を温めていく。
ちりちりとした心地良い刺激感が胃袋を満たす。
「もっと飲めや」
小梅が
それも一気にゴクゴクと飲み込む。
ああ、もう酔いが回ってきた。
酒が血管を通して全身にしみこんでいく。
身体の細胞が喜びでザワザワし始めるのを感じた。
身体がポカポカしてきて、脳みそがジンジンとしびれる感覚。
「ふはあああ! おいしー! 紙パックの鬼ころしもいいけど、やっぱ地酒最高だね!」
酒はいい。
いっぱい飲むと、嫌な記憶や将来への不安がその時だけ消えてなくなる。
「ね、小梅ちゃん。スマホつけていい?」
「しょうがないな。お前の推しの……なんだっけ、ミカだっけ」
「
「BGM代わりにするか。つけてええで」
「やった!」
スマホホルダーにスマホをセットし、
よかった、まだ終わっていなかった。
スマホの画面の中では
『心配ないよ、君には素敵な未来が待っているから♪ 今のつらさは思い出になるよ♪』
耳には推しの歌声、口には芳香豊かな地酒。
生きる痛みが消えていく。
息を吸って吐くだけでも苦しい人生だけれど、いまこの時だけは楽しい。
働きもせずに酒を飲んで、人ならぬモンスターと共同生活しながら推しの配信を見る日々。
過去の痛みと未来への不安を紛らわすための痛み止め。
いつまでこんな生活を続けるのか、自分でもわからなかった。
23歳、まだなにもわからない若者。
未来はあるけど、それはきっと暗いだろう。
いや、そんなこと考えるだけで苦しい。
とにかく飲もう。
酔おう。
酒と歌声に酔いつぶれよう。
あ、小梅ちゃんのコップが空だな。
「おっとっと、おおきに。へへ、冷やはええな。でもこの酒、燗にしてもうまいんやで」
「わかる! じゃあこの歌が終わったらお燗つけるよ」
だが。
その歌が終わることはなかった。
画面の中で、