100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~ 作:羽黒楓
『混ぜるな危険』
『カビ取りスプレー』
そう大きく書かれたスプレーボトル。
バケツの中に入れていた掃除道具のうちの一つである。
そのハンドルを、
そのたびに、泡と化した液体が壁に貼りつく。
そして、その部分がシュウッと音を立てて溶けていった。
ボトルが空になるまで
壁はドロドロと溶けてあっという間に大きな穴が開いた。
空になったボトルをバケツに戻し、その穴の向こうへと足を踏み入れる。
そして。
その向こうに、シーコがいた。
ピンク色のインナーカラー、アッシュブロンドの髪の毛。
壁に寄りかかるようにして、左手に握ったムチを振るっている。
しかし、その目はうつろで、意識があるのかどうかすらもわからない。
シーコがいるのは幅数メートルほどの通路の行き止まりで、通路にはいたるところにクモの巣のような糸が張り巡らしてある。
シーコがいるのと反対方向にはセーラー服の少女、さらに先には大きなクモが天井に張り付いている。
通路の床にはユニーが強行突破したときのものだろう血液が点々と残っていた。
「シーコさん! 無事!?」
「…………」
シーコは答えない。
もう声を出す気力もないのだろう。
だけど、
――まだ生きてる! 意識もある!
本来、並の探索者であれば、一本切るのにも苦労するほどの強度をもつ糸。
しかし、
セーラー服の少女が、
「ウウウウウアアアアアアア」
とうめき声をあげながら
まずはシーコの安全確保が先だ。
しかし、それにはこの少女を先に何とかしなければならない。
シーコの言葉によれば、この子こそ助けが必要な要救助者なのだ。
「
ちなみに
「ラララララララー!」
すると、持っていたマイクから大きく湾曲した偃月刀のような刃が出現した。
クモがさらに糸を吐き出してくるが、
「この糸、すっごい硬い!
「うん!」
目を凝らしてよく見ると、少女の口の中に小さなクモが顔をのぞかせている。
あのコグモが少女を操っているのだろう。
「オオオオオオオオオオオ!」
叫び声をあげて口から糸を吐き出す少女、その糸をホウキで振り払いながら
「まったくもう!」
そう言って
「うぎゃggggぎゃぎゃ」
バタバタと暴れる少女、しかし
柔道でいえば小外刈りだ。
中学校の必修授業で習ったので少しは使えるのだ。
っていうか女子ならダンスでいいじゃん、なんで柔道させてんのあの学校、と当時は思っていたけど、役に立てたので許すことにする。
もちろん、ここまで綺麗に技を決められるのは、魔力――マナが充満しているダンジョン内ならではなのだけれど。
そして
「こらこら逃げるな……掴んだ!」
そして一気に引き抜いた。
掌の中でコグモが暴れまわる。
「まったく、もう!」
それを壁に向かって思い切り投げつけた。
すると勢いがありすぎて、ボムッ! と音を立てて壁に直径十センチほどの穴が開いてしまった。
これではコグモなど四散してしまっただろう。
「じゃあ今度はこっち!」
オヤグモの複眼が
カタカタカタ、という音を出して顎を開閉させている。
複眼から表情は読み取れない。
コグモを殺された恨みか、それともそんなことはどうでもよくて、獲物を前にした喜びなのか。
クモの腹部から大量の糸が吐き出された。
それは八角形のクモの巣となり、通路をふさぐ。
カタカタカタ、と再びクモの顎が音を立てる。
〈こいつ……サタンスパイダーだ!〉
〈レーティング2500だぞ!〉
〈まずいまずいさすがのホウキ女もやばいんじゃないか〉
〈さすがに苦戦するだろう〉
〈頼む! シーコを助けてくれ!〉
〈お願いだ、勝ってくれ!〉
〈っていうかホウキ女が負けたらスミーもおしまいだぞ!〉
〈神様神様神様お願いお願いお願い〉
〈がんばれー!〉
「まったくもう!」
床に置いておいたバケツから、
『クンチョール』
と書いてある、赤いスプレー缶だ。
「めんどくさいからこれで終わりっ」
その勢いは圧倒的で、クモの巣を突き破って数十メートル噴出し、オヤグモに命中する。
数秒間殺虫剤の直撃を食らったクモは、声をたてることもせずに床にボトリと落ち、しばらく八本の脚をワギワギと動かしていたが、すぐに絶命してピクリともしなくなった。
〈なんじゃそりゃー!〉
〈ただの殺虫剤がなんでそんな威力なんだよ!〉
〈スミーが助かって喜んでいいのか突っ込めばいいのか呆れていいのかもうわからん〉
〈いやシーコは瀕死だぞ、どうすんだ?〉