100均ホウキに百合が咲く ~限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第3話 アイドル配信者の小腸

 新宿ダンジョン、地下三階。

 その小部屋で、奏天寺澄見歌(すみか)は全力で歌っていた。

 登録者は98万人、現在の同時接続者数二万人。

 個人勢としては破格の数字だろう。

 こんなにもたくさんの人が私の歌を聞いてくれてる!

 そう思って澄見歌(すみか)は宙に浮くドローンのカメラをしっかり見つめる。

 

 『ひとりぼっちのキミのそばには

  だれもいないと思っているだろう

  でもボクの心がそばにいて

  お互いに暖め合っているんだ

  寒い冬も

  悲しい夜も

  寂しさはどこにもない』

  

 

 自作の歌詞、自作の曲。

 陳腐な歌詞だとは思うけど、本心だった。

 私の歌で、たくさんの孤独を埋めたい。

 そう思って書いた詩だ。

 

 ――私は、太陽になりたい。

 

 みんなを光で満たせる、そんな存在に。

 

 世界で最も危険であるがゆえに、最も注目を浴びる職業。

 ダンジョン配信者。

 二万人じゃ足りない。

 20万人、200万人、2億人、20億人。

 人類を照らす、光り輝く恒星になりたい。

 

 だからこそ。

 清く強く美しく。

 そう思いながら歌う澄見歌(すみか)の目の端に何かが映った。

 それを澄見歌(すみか)は見逃さなかった。

 

「ふふ……! みんな、モンスターだよ!」

 

 そこに出現したのは、植物だった。

 形だけ見ると一年草の『雑草』に似ていた。

 だが、『雑草』にしては巨大であった。

 緑色の幹は直径1メートルほど、全長は……測りようがない。

 人の腕ほどもあるツタが何本も生えていて、それがうねうねと動いているのだ。

 そのツタは伸縮自在なようで、その中の一本がマイクを握る澄見歌(すみか)へと伸びてくる。

 

〈うお、なんだこれ〉

〈待て、この子武器も持っていないのに〉

〈いやいやお前新参か? 武器は持っているだろ〉

〈そうそう、この子のスキルはすごいから見ていろ〉

 

 澄見歌(すみか)は自らに襲い掛かるツタの動きを見極める。

 そして、握っているワイヤレスマイクのスイッチを操作した。

 ムチのようにしなりながら、ツタが澄見歌(すみか)の頭部を狙ってくる。

 だが、澄見歌(すみか)がそのツタに向かって叫ぶほうが早かった。

 

「ラララララー!」

 

 高音と低音を交互に発声する澄見歌(すみか)

 すると、ワイヤレスマイクの集音部と反対方向から、黄金に輝く刃が出現する。

 その刃は、澄見歌(すみか)が奏でるメロディの高低に合わせてクネクネと曲線を描いた。

 古代中国で使われた武器、蛇矛の刃にそっくりの形をしている。

 

〈おお!? なんだこれ〉

〈スミーは歌を武器に変えられるんだ〉

〈こんなのは序の口、本気だしたときはすげえ形してるんだぜ〉

〈まあ見てろ〉

 

 澄見歌(すみか)はマイク――いや、それはいまや剣だった――を『順手』に持ち替えると、刺突しようと伸びてくるツタを切り裂いていく。

 

「へへーん! 私の実力があれば! こんなモンスター、あっという間だよ!」

 

 一歩、二歩、三歩。

 澄見歌(すみか)はツタの攻撃を剣で薙ぎ払いながら踏み込む。

 そしてついに本体に剣が届く位置に来た。

 蛇のようにうねった刀身を持つ剣がきらめく。

 

「えい!」

 

 一瞬の残像を残して、剣がモンスターの最も太い茎を一撃のもとに切り落とした。

 のと同時に。

 澄見歌(すみか)は自分の腹が熱くなるのを感じていた。

 目の前で崩れ落ちていく植物のモンスター、だが澄見歌(すみか)の視線は自分の腹部から突き出た何かを見ていた。

 

「なに……これ……?」

 

 それは、人間の手だった。

 

「え…………? ん??」

 

 澄見歌(すみか)は自分の見ているものが一体何なのかを判断できなかった。

 自分の下腹部から突き出た人間の手。

 その手はなにかの臓器を握っている。

 それはちぎれたホースのようで――。

 

 ドブッと嘘のような量の血液が噴き出て床に落ちていく。

 血液で真っ赤に染まった人間の手がゆっくりと開いていく。

 なにかの臓器――澄見歌(すみか)の小腸――がベチャっと音をたてて床に落ちた。

 

 その時には、澄見歌(すみか)もようやく気付いていた。

 何者かに背後から攻撃され――それは澄見歌(すみか)の細いウエストを貫通して、内臓を突き破り、そして腹部から出ていたのだ。

 

 ズルズル、と腕が澄見歌(すみか)の背中から引き抜かれる。

 澄見歌(すみか)はゆっくりと振り向いた。

 すぐ目の前に、女性の顔があった。

 褐色の肌、切れ長の目、快感に打ち震えているような表情。

 

「ヒヒヒ……。あんた、それなりに美人だねぇ……。いくらで売れるかなあ?」

 

 長い舌がペロリと澄見歌(すみか)の頬をなめてきた。

 舌の粘膜の感触、生暖かさ、甘い吐息の香り。

 あ、こいつ……。

 澄見歌(すみか)はその人物の名前を思い出す前に、意識を失ってその場に膝から崩れ落ちた。

 

〈おわあああああああああああああああああああああああああああああ〉

〈なに?〉

〈あああああああああ〉

〈ミエスタ・キンバリーだ!〉

〈探索者狩り!〉

〈ミエスタ!〉

〈おおおおおおおおおおおおおおおおおお〉

〈ふぉじおっじょあじあrgじゃ〉

〈なんで日本にいるんだよ!〉

〈あああああああああああああああああああああ〉

〈おいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃ!〉

〈AI動画だろ?〉

〈おい、スミー冗談はやめろ〉

〈そういうドッキリだろ?〉

〈うsだらっらら〉

〈スミーが死んだぁぁぁぁぁ〉

 

 コメント欄の読み上げが澄見歌(すみか)が持っていたタブレットから聞こえてくる。

 

 

「ああん? まだ死んでないよぉ。剥製にするのに、十日はかかるからね」

 

 ミエスタはドローンのカメラに向けて、耳まで裂けているかのように見える大きな口を歪めて笑ってみせた。

 

「私、映っているかい? 私の日本語わかる? 勉強してきたんだよ、偉いだろう。ヒヒ。出来栄えによるけど、こいつの剥製を300万ドルからオークションにかけるから、みなさんよろしくね? ここは新宿ダンジョン地下三階、北西エリアだよ。ヒッヒッヒ。助けに来たいやつはどんどんおいで。剥製が増えて私が儲かるだけだけどねえ」

 

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