100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

30 / 32
第31話 起業

 湯歌(ゆか)の声だった。

 紅亜(くれあ)と澄見歌(すみか)は同時にパッと起き上がり、慌ててドアに向かう。

 ガチャリ。

 ドアを開けると視界に入ったのは――。

 半透明の粘液体に下半身を飲み込まれている湯歌(ゆか)の姿だった。

 

「きゃーーー! 食べられるぅ! なんでこんなとこに悪魔がぁ!」

 

 湯歌(ゆか)は紅亜(くれあ)と澄見歌(すみか)に気づくと、涙をビュッビュッと飛ばしながら、

 

「紅亜(くれあ)さーん! お姉ちゃーん! 死んじゃうーー!」

「…………悪魔?」

 

 どこからどう見ても最弱のモンスター、スライムだ。

 悪魔どころか紅亜(くれあ)にしてみればただの気持ち悪いだけのナメクジと同じ扱いである。

 

 紅亜(くれあ)はつっかけてきたスニーカーを無言で片方脱ぐと、それでスライムをパーン! とはたいた。

 あっという間にスライムは霧散する。

 

「ふー! 助かったぁ! 死んだかと思ったー!」

 

 紅亜(くれあ)は心底呆れてしまった。

 

「え、今の本気だったの? 絶対遊んでるんだと思ったよ……ってかもう少し強い害虫が出てきたらまずかったかも……これから湯歌(ゆか)ちゃんは一人でここに来ちゃダメだよ……」

 

 

     ★

 

 

 ちゃぶ台の前に座る湯歌(ゆか)。

 紅亜(くれあ)はその前にグラスを置いた。

 

「ただのハイボール用炭酸水だけど……。うちはお茶とかないんだ」

「いえいえおかまいなく……って、紅亜(くれあ)さん、そのパーカー!」

 

 湯歌(ゆか)がそこで紅亜(くれあ)の服装に気づいた。

 

「昨日お姉ちゃんが買っていったやつでしょ! 早速着てくれてるんですね、良かったねお姉ちゃん!」

 

 澄見歌(すみか)は笑顔でウンウンと頷いている。

 昨日、澄見歌(すみか)が持ってきていたブランドの紙袋、その中身がパーカーだったのだ。

 

「紅亜(くれあ)ちゃんはこういうファッションが好きなのかなあって思って。気に入ってくれたみたいで良かった! それより、なんで湯歌(ゆか)、ここに来たの?」

 

 澄見歌(すみか)の質問に湯歌(ゆか)が答える。

 

「なんでもなにも、お姉ちゃん、紅亜(くれあ)さんへのプレゼントばっかり持っていくんだもん。お姉ちゃんは妖命酒で命が助かったんだし、小梅さんへもお礼を持っていくべきじゃないの」

「あ、まあそれは……」

「というわけでこれは小梅さんにどうぞ。もちろん紅亜(くれあ)さんも一緒に召し上がってください」

 

 そう言って、『たらや』の高級羊羹の箱を差し出す湯歌(ゆか)。

 

「あ、これはご丁寧に……」

 

 紅亜(くれあ)はペコリと頭を下げてそれを受け取った。

 

「小梅ちゃん、お酒も甘いものも好きだから喜ぶよ」

「そうですか、よかった!」

 

 

 ほっとした表情の湯歌(ゆか)。

 まだ16歳だっていうのに、ずいぶんしっかりしているなあ、と紅亜(くれあ)は思った。

 湯歌(ゆか)は続けて言う。

 

「もちろん用事はこれだけじゃないよ。お姉ちゃん、一昨日、いろいろ話したじゃない? 紅亜(くれあ)さんがダンジョン救助の仕事やりたいって。紅亜(くれあ)さん、本気でやるつもりですか?」

 

 聞かれて、紅亜(くれあ)は力強く頷いた。

 

「私、やりたい。会社で他人といっしょに働くとか無理だけど、一人でそういう仕事ならできるかなって」

「一人で……」

 

 湯歌(ゆか)はなにか言いたそうな雰囲気だ。

 実は、それは紅亜(くれあ)も気づいていた。

 

「まあ、私一人だと、助けが必要な人がケガとかしてたら治せないんだよね」

「その辺、なにか考えてます?」

「ほら、妖命酒があるから……」

「DMで小梅さんに聞いたらすごく貴重なお酒でそんなにたくさんないって言ってましたよ」

「う……」

 

 沈黙が流れる。

 どうやら、自分がものすごい戦闘力を持っているらしい、ということはさすがに紅亜(くれあ)自身にも分かってきていた。

 でも、救助となると強いだけではすまない。

 紅亜(くれあ)はチラッと澄見歌(すみか)を見る。

 澄見歌(すみか)はニコニコしながら紅亜(くれあ)を見ているだけだ。

 

「えっと、えっと……本当は、治癒魔法が使える人もいればなあとかは思う」

「それで?」

 

 湯歌(ゆか)がじっと紅亜(くれあ)を見つめてくる。

 というか、その視線はなぜか紅亜(くれあ)の唇に向いているように見えた。

 ほっぺたも少し赤い。

 

「本当は……」

 

 紅亜(くれあ)がつぶやくように言った。

 

「本当は、澄見歌(すみか)ちゃんと湯歌(ゆか)ちゃんにも協力してもらえれば嬉しいなって思ってる……」

 

 それを聞いて、湯歌(ゆか)の表情がパッと明るくなった。

 何かを言おうとする湯歌(ゆか)。

 澄見歌(すみか)がそれをそっと片手で押し留めて優しく言う。

 

「私は紅亜(くれあ)ちゃんが私や湯歌(ゆか)の力が必要だっていうなら、いくらでも力を貸すよ? 紅亜(くれあ)ちゃん、どうする?」

 

 生まれて初めてのフー。

 とても楽しかった誕生日。

 澄見歌(すみか)ちゃんとずっと一緒にいたい……。

 そんな気持ちも合わさって、紅亜(くれあ)はついに思っていたことを言った。

 

「私がモンスターをやっつけて、その間澄見歌(すみか)ちゃんが湯歌(ゆか)ちゃんを護衛して、で、要救助者がケガしていたら湯歌(ゆか)ちゃんが治して……とかなったら、すっごくいいと思う……。私と一緒にやってくれないかな? でも、料金はすごく安くしたいからお金はいっぱいあげられない……」

「それなら大丈夫だよ!」

 

 澄見歌(すみか)が嬉しそうに言った。

 

「私のチャンネルで配信しながら救助に行けばいい。その広告収入で私と湯歌(ゆか)の分のお金は稼げるよ、どう?」

「それなら、二人にお願いしたい……」

 

 少しうつむいて、上目遣いで澄見歌(すみか)と湯歌(ゆか)を交互に見る紅亜(くれあ)。

 二人の姉妹は目を輝かせて同時に頷いた。

 

「決まりだね! 私も実は紅亜(くれあ)ちゃんの力になりたいって思ってたの! 命を助けられたからだけじゃなくて……ええと、とにかく紅亜(くれあ)ちゃんの役に立ちたいって!」

 

 澄見歌(すみか)がそう言い、湯歌(ゆか)も、

 

「私も……せっかく持っているこの能力をどうやったら一番人の役に立てられるか考えてたら……紅亜(くれあ)さんと一緒に活動させてもらえればなって、そう思ってたんです。それに、紅亜(くれあ)さんがいれば私も魔力がいっぱい使えるし……」

 

 と紅亜(くれあ)の唇を見つめながら言った。

 あれか、と紅亜(くれあ)は思った。

 マウストゥーマウス。

 ま、まあ湯歌(ゆか)ちゃんは澄見歌(すみか)ちゃんの妹だし、いいよね?

 

「じゃあ、この三人で始めるってことで、いい?」

 

 紅亜(くれあ)がおずおずと尋ねると、姉妹は再び同時に頷いた。

 

「じゃあ早速、私たちの屋号を決めなきゃ! キャッチーで人目を引くようなのがいいな。紅亜(くれあ)ちゃん、なにか案ある?」

 

 紅亜(くれあ)は自信なさげな声で答えた。

 

「実は、こんなのがいいかなって思ってたのがあって……」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。