100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~ 作:羽黒楓
独立行政法人八王子病院機構、飛島病院6階、西病棟。
その一室で、ベッドに横たわる女性がいた。
顔色は悪く、酸素マスクをつけている。
ベッドにはカードがついていて患者名が書いてあった。
『村原春子』
それが患者の名前だった。
ベッドの傍らに二人の少女。
中学校の制服を着た少女と、ランドセルを背負った女の子。
春子の娘である村原沙希と、妹の
小学生の女の子――
「ねえ、お姉ちゃん……お母さん、もう治らないの……?」
それを聞いた沙希は、グッと唇をかみしめる。
進行性神経融解症。
それが母の病名だった。
現在の医学では治療法が見つかっていない。
余命はあと3か月と言われている。
父親はもとよりいない。
「お母さん……」
こんなことになるなんて。
優しかった母親。
今は意識もない。
母親を失ったら、まだ中学生の自分と小学生の妹はどうやって生きて行けばいいのだろう。
どこかの施設に引き取られるんだろうか。
悲しみ、不安、恐怖、絶望。
「ねえお姉ちゃん、お姉ちゃんってば! どうしたらお母さん治るの?」
まだ中学一年生の彼女は、ぎゅっと妹の手を握った。
「
そういう沙希の表情には生気がなく、目もうつろだった。
妹を元気づけたいと思うのに、自分自身がショックを受けていてそれもままならない。
そんな沙希の表情を
「お姉ちゃん……」
「
そう言う沙希の目に涙が浮かんだかと思うと、それがポロポロと流れ落ちて頬を濡らした。
そんな姉を見て、
「
「お姉ちゃん、お姉ちゃん……お母さん……うえーーん!」
姉妹二人は抱き合って泣き続けた。
★
自宅、アパートの一室。
沙希は泣きはらした目で寝ている。
そんな沙希の指に、
指紋認証が通り、スマホが起動する。
まだ小学生である
「進行性神経融解症を治すにはどうすればいいの」
『国の指定難病だね。残念だけど、現在の医学では治療法がない』
「魔法でも治らないの」
『ダンジョン内での魔法治療も試みられたけど成功例がない。ただし、ダンジョンの中に自生しているサンジーヴァニという薬草なら治療の可能性があるよ。インドの大学で治療に成功した例がある』
「その薬草どこのダンジョンにあるの」
『高尾山ダンジョンの地下8階に自生していたという報告があるよ。ただし、そこに行くには極めて――』
そのとき、沙希が「ううーん……お母さん……」と寝返りを打った。
「
★
八王子市、高尾山の近く。
地面にポッカリと穴が開いている。
ダンジョンの出入り口だが、警備員の姿はない。
出入り口の前で、沙希はスマホを耳に当てていた。
「あの、小学生の妹が一人でダンジョンに行っちゃったんです!」
沙希は、スマホに向かって悲痛な声で叫んだ。
スマホの向こう側で警察官が答える。
「お気の毒ですが、ダンジョンの中は国際条約で人類の共有地となっておりまして、日本の法律が適用されません」
「助けてくれないんですか!」
「申し訳ございません。ダンジョン内では警察権限がございません。日本の法律の適用外でして、その救助は警察では対応しておりません」
「じゃあどうすればいいんですか!」
「日本探索者協会か日本探索者互助連盟がダンジョン内救助を受け付けてます」
ピ、ポ、パ。
「まず、協会への前金で1000万円必要です。そして救助隊一人につき、これも前金500万円、成功報酬も500万円。最低5人のパーティを組みますから5000万円。全部合わせて6000万円。前金だけでも3500万円ですが、キャッシュでお支払いいただけますか?」
中学生の沙希に、そんなお金が払えるわけもなかった。
目の前が真っ暗になって、意識を失いそうになる。
「どうして……どうして……
『薬を取りにいってきます』
と書き置きがあった。
スマホのAIアプリに履歴が残っていた。
GPS信号から見てもこの高尾山ダンジョンに潜ったのは間違いないはずだった。
死なせたくない。
死なせたくない。
まだ死んでいいはずがない。
どうしたらいいかわからず、スマホでチャットCPTに尋ねる。
『それは大変だね。でも、日本探索者協会の6000万円は決してボッタクリじゃないよ。命がけでダンジョン探索するんだから、そのくらいの報酬は妥当かも』
「ほかに助けてくれる所ないの?」
『ネットを検索してます…………。
あるよ。
たとえば、最近設立された私設救助隊『蜘蛛の糸』。
ここなら、格安で救助を請け負ってくれるんだ。
必要ならもう少し深掘りできるよ』