100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第35話 1000円

 紅亜(くれあ)たちが現場につくと、ブレザーを着た中学生らしき少女が悄然として座り込んでいた。

 ここは裏高尾、日影バス停から少し歩いた林道の近く。

 草木が生い茂る中に地下へと続く階段の出入り口がぽっかりと開いている。

 そこのすぐそばに、女子中学生が一人で座り込んでいたのだ。

 バケツを持っている紅亜(くれあ)の腕を、澄見歌(すみか)がポンと叩く。

 JCに話しかけるのは怖いけど、今は紅亜(くれあ)が救助隊の隊長なのだ。

 意を決して話しかける。

 

「あの……村原沙希さん?」

 

 女子中学生――沙希がパッと顔を上げる。

 その目元は真っ赤に腫れている。

 黒髪のショートカットはぼさぼさで、髪を整えるヒマもなく急いでここに来たのが見てとれた。

 

「はい……。あの、蜘蛛の糸の方ですか?」

「うん、そうです。私が隊長の田中紅亜(くれあ)。それに、こっちがメンバーの……」

「奏天寺澄見歌(すみか)です」

「その妹の奏天寺湯歌(ゆか)です」

 

 沙希がハンカチで口元を押さえながらペコリと頭を下げる。

 

「この出入り口から妹さんがダンジョンに入っちゃったの? 妹さん、おいくつ?」

「小学四年生です」

「それって、いつの話? 正確な時間わかる?」

「乃音(のの)は……妹は、GPS付きのキッズスマホを持っているんでだいたいの時刻はわかります。多分、今日の朝6時半くらいだと思います。一人でバスに乗ってここまで来たんだと思います」

 

 今はもう夕方近い時刻である。

 小学生が一人でダンジョンに入って10時間……。

 生存なんてできるもんだろうか?

 

 考え込んでいる紅亜(くれあ)の代わりに湯歌(ゆか)が言う。

 

「バス……運転手さん、おかしいと思わなかったのかな」

「乃音(のの)は年齢にしては背が高いし、大人びてるので、普通の登山客だと思われたのかもしれません。高尾山には登ったこと何度もあるから乃音(のの)もバスに慣れてるし……」

 

 そこに、澄見歌(すみか)が自分のスマホを取り出しながら聞いた。

 

「妹さん、キッズスマホ持ってるって言ってたよね? 通話はできない?」

「『現在お客様は電話に出ることができません』って……」

「電源は入ってるのかな? どこのキャリア?」

「ダコモです」

「よし! ダコモならいけるかも! 格安だったらダメなとこだった!」

 

 グッとガッツポーズを取る澄見歌(すみか)。

 沙希は不思議そうな顔をしている。

 

「ちょっと私のスマホで見られるようにしたい。探索済みのダンジョンってある程度の階層まで通信中継器があって、三大キャリアで位置測定オンにしてあれば、かなりおおざっぱだけど位置情報を拾えるんだ。GPSがオンになっているなら位置測定の電波も拾えるはず。私の探索者用アプリなら追跡できるかもしれない」

「そんなことが……?」

「有料だし、探索者でもなければそんなこと知らないよね。見守りサービスのパスワードとかわかる?」

「一応……」

「じゃ、私のスマホで認証して」

 

 澄見歌(すみか)が沙希にスマホを渡すと、沙希は自分のスマホを見ながら、澄見歌(すみか)のスマホにパスワードを入力する。

 二段階認証のSMSが届いて、パスコード入力。

 澄見歌(すみか)はスマホを返してもらってからパパッと操作する。

 

「よし! よしっ! 拾えた!! ……二時間前に、地下3階から4階に降りてる! 北側の地域……それ以上はしぼりこめないけど」

「生きてるんですか!? 乃音(のの)はまだ生きてる!?」

 

 まるで悲鳴のような声をあげる沙希。

 澄見歌(すみか)は難しい顔をしてかすかに頷いた。

 

「その可能性はあるよ。わかるのは二時間前に端末が移動しているってことだけだけど、生きて活動しているってことも十分あると思う」

「お願いします! 助けてください! 助けてください! お母さんも乃音(のの)もいなくなったら私……私、もう生きていけない……やだ……やだよお……助けて……助けてあげて……」

 

 紅亜(くれあ)たち三人は顔を見合わせて頷いた。

 

 紅亜(くれあ)はなるべく明るい声を出して、

 

「うん、任せて。みんな、急ごう。時間との勝負だよ。絶対に助け出そう!」

 

 それを聞いた沙希はハンカチをギュッと握りしめて言う。

 

「でも……お金、あんまりないです。日本探索者協会が前金3500万円だって……」

「大丈夫、前金1000円ある? なければ貸しでいいよ、あとでちょうだい」

「1000円あります!」

 

 震える手で財布から1000円札を取り出して紅亜(くれあ)に差し出す沙希。

 紅亜(くれあ)は安心させるようににっこり笑ってそれを受け取る。

 湯歌(ゆか)が領収書を沙希に渡した。

 その領収書を大事そうに胸に抱いて、でも沙希はまだ不安そうな表情をしている。

 

「こんな値段で……」

「大丈夫」

 

 澄見歌(すみか)が答える。

 沙希はまだ不安そうに、

 

「でも、1000円なんて……」

「その代わり、配信しながら救助に向かうよ。配信の収益が私たちの生活費になるから。それだけが条件」

「はい……」

「じゃあほんとに時間が勝負だから。もう行こう! 村原さん、まだスマホの充電ある? 詳しい話は通話しながら聞くよ!」

 

 そう言って澄見歌(すみか)はイヤホンを耳に押し込む。

 

「もう夜になっちゃいます。村原さんはバスで街の方に戻っててください!」

 

 湯歌(ゆか)はドローンを地面に設置しながらそう言った。

 紅亜(くれあ)もイヤホンを装着してからホウキとバケツ、それにチリトリを持った。

 

「ほんとにそんなホウキで……?」

 

 沙希の言葉を聞いた澄見歌(すみか)がニコッと笑った。

 

「紅亜(くれあ)ちゃんのホウキは最強だから! 安心して! じゃあ、紅亜(くれあ)ちゃん!」

「うん! 私が先頭を行く! 湯歌(ゆか)ちゃんは私のすぐ後ろ、その後ろから澄見歌(すみか)ちゃんが湯歌(ゆか)ちゃんを守りながらついてきて!」

 

 ブゥン……と低い音を出して、カメラ付きのドローンが浮かび上がった。

 

 沙希が手を合わせて祈っているのを背にして、紅亜(くれあ)たちは力強い足どりで階段を降りてゆく。

 

 そして私設救助隊『蜘蛛の糸』の、初めての探索が始まった。

 

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