100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

35 / 64
第36話 10時間

 ダンジョンの暗闇を、ランタンの光がわずかに照らしている。

 紅亜(くれあ)たちが行くのは通路だが、通路といっても幅数メートルはある。

 ランタンの光は頼りなく、数メートル先になるともう真っ暗だ。

 

 そんな暗闇を切り裂くように紅亜(くれあ)はズンズンと進んで行く。

 すぐ後ろから湯歌(ゆか)がついてきているのが足音でわかる。

 そのさらに後方に澄見歌(すみか)がいるはずだ。

 

〈お、始まった〉

〈こんスミ〉

〈こんスミー〉

〈こんスミ!〉

〈前金1000円の救助!〉

〈初めての要救助者は誰だ?〉

 

 コメントはイヤホンを通じて紅亜(くれあ)たちにも聞こえている。

 発達したAIによる選別で、スパムコメントは弾かれ、常連のコメントが読み上げられやすくなっている。

 

「小学生の女の子がダンジョンに潜っちゃったみたいなの。それを助けに行く」

 

 澄見歌(すみか)がコメントに答える。

 

〈は?〉

〈え、それいつの話? どのくらい時間が経ってる?〉

 

「10時間ってとこかな……」

 

〈生存は絶望的じゃないか〉

〈生きてるってこと、ある?〉

〈さすがに……〉

〈回収だけすることになりそう〉

 

「……二時間前に位置情報が動いてる。まだ生きてるって信じてるよ。でも……もし……。……もしかしたら、配信を途中で止めることもあるかも。そのときはみんなごめんね」

 

 そう。

 モンスターや犯罪者が巣食うダンジョンの中である。

 女子小学生が迷い込めば、たったの30分でも生きぬくことは難しいはずだった。

 

「いや、絶対助ける! 助けてみせるから!」

 

 紅亜(くれあ)は力強く言った。

 位置情報を信じるならば、乃音(のの)が持っていたキッズスマホは今、地下4階にあるはずだ。

 地下4階?

 女子小学生が一人で?

 ありえない。

 しかし、ありえないことが起きるのがダンジョンの中というものである。

 ミエスタのような犯罪者に襲われてスマホを奪われていたり、モンスターに食われたりしてスマホがそこに移動したということは考えられる。

 いや、そっちの方が可能性が高い。

 

 でも、ほんの0.1%でも、救助できる可能性があるならそこに賭けたい。

 

「……私たちもシーコさんみたいに馬がほしいね……」

 

 湯歌(ゆか)がそう呟いた時だった。

 紅亜(くれあ)は、前方に何かの気配を感じた。

 

「来るよ! 澄見歌(すみか)ちゃん、湯歌(ゆか)ちゃんの護衛をお願い!」

「任せて! ラララララー!」

 

 澄見歌(すみか)の歌声に合わせてマイクから光を帯びた刃が出現する。

 紅亜(くれあ)はそれを確認してからホウキを握りしめた。

 

 カシャン、カシャン、という乾いた音が聞こえる。

 ランタンの光に反射して、刃のきらめきが見えた。

 

 

〈スケルトンか〉

〈地下一階によく出てくる敵だな〉

〈レーティングは800くらいだろ〉

〈いや、剣をもっているスケルトンウォリアーだ。それでも1000くらい〉

〈地下一階にしてはちょっと強いか〉

〈三体いるな〉

 

 もとは白骨化した探索者の死体である。

 それがダンジョンの瘴気を吸ってモンスター化したものだ。

 

 スケルトンウォリアーのうちの一体が、剣を振り上げて襲ってくる。

 紅亜(くれあ)はその攻撃をチリトリであっさり受け止めると、ホウキを突き出した。

 スケルトンの頭部が吹っ飛び、壁にぶつかって粉々になる。

 胴体の方はその場で崩れ落ちた。

 

「邪魔しないで!」

 

 紅亜(くれあ)は素早く踏み込むと、残り二体のスケルトンウォリアーの首をホウキで跳ね飛ばしていく。

 

〈おおー!〉

〈さすがに強い!〉

〈この程度だと敵にならないな〉

〈楽勝楽勝〉

 

 だけど、紅亜(くれあ)の胸中は複雑だった。

 確かに、この程度の敵は紅亜(くれあ)なら一撃だ。

 でも、女子小学生だったら……?

 こんなモンスター相手でも、なすすべもなく殺されてしまうだろう。

 乃音(のの)ちゃんが生きているとして、どうやって地下4階までたどり着いたんだろう?

 

 もしかしたら、何か特殊な訓練でも受けていたのだろうか?

 姉の沙希に聞きたいが、まだバスで移動中のはずだ。

 

 もしかしたら探索者として訓練を受けていて、天才的な戦闘力を持っている、という可能性もある。

 そうであってほしい、と思った。

 でなければ、小学生がダンジョンの中で10時間も生き延びる方法はとてもとても限られているからだ。

 

 紅亜(くれあ)は振り向いて湯歌(ゆか)と澄見歌(すみか)の無事を確認する。

 

「紅亜(くれあ)さん、さすがです!」

「うん、じゃあもっと進むよ……!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。