100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第37話 紙切れ

 三時間が経った。

 紅亜(くれあ)たちはすでに地下3階までたどり着いていた。

 何度もモンスターの襲撃に遭ったが、紅亜(くれあ)の敵ではない。

 あっという間に倒してここまで来たのだ。

 目の前には地下4階へ続く階段。

 

「ちょっと、小休止しよう」

 

 紅亜(くれあ)はそう言った。

 澄見歌(すみか)はまだ体力に余裕がありそうだったが、湯歌(ゆか)は少し疲労しているのが見てとれた。

 当然とも言えた。

 普段から探索者をやっている澄見歌(すみか)と違って、湯歌(ゆか)はダンジョン内での活動は素人なのである。

 

 澄見歌(すみか)の探索者レーティングは1860。

 1500あれば中級者、1800あればトップクラスと言われる中で、このレーティングはかなり高い方だ。

 

 それに対して湯歌(ゆか)のレーティングは278。

 初心者以下の数字である。

 実際、スライムにも負けるほどの戦闘力しかない。

 そんな湯歌(ゆか)が、たった三時間で地下3階を踏破したのである。

 疲労の影が見えるのは当然だった。

 しかも。

 

「湯歌(ゆか)ちゃん、荷物重かったでしょ?」

 

 湯歌(ゆか)は大きめのリュックを背負っていた。

 中には水や食料、それに衣料やタオルなどが入っている。

 

 紅亜(くれあ)と澄見歌(すみか)は戦闘要員なので、不意の戦闘にも対応できるよう、多くの荷物は持っていない。

 その分を非戦闘員である湯歌(ゆか)が持っていたのだ。

 リュック自体が背後からの斬撃を防ぐ防具代わりにもなるという判断もあった。

 

「大丈夫です……でも、少し、休みたいかも……」

 

 ハアハアと苦しそうに呼吸しながら湯歌(ゆか)が答える。

 湯歌(ゆか)ちゃんに荷物まで持たせるのは良くないのかな、と紅亜(くれあ)は思った。

 なにしろ『蜘蛛の糸』を立ち上げて初めての救助探索だ。

 まだまだ最適化する余地があるように思えた。

 

「じゃ、ここでちょっと小休止。壁を背にして休もう」

 

 地下4階へと続く階段の目の前で、紅亜(くれあ)たちは壁にもたれかかるようにして床に座り込んだ。

 もちろん、紅亜(くれあ)は右手にホウキを握ったままだ。

 チョコレートバーを一袋ずつ、皆で口にする。

 

「おいしい……。生き返ります」

 

 チョコレートバーを一口かじり、水筒の水を飲む湯歌(ゆか)。

 

「15分くらい休もう。澄見歌(すみか)ちゃん、乃音(のの)ちゃんの位置わかる?」

「ちょっと待って」

 

 澄見歌(すみか)は自分のスマホを操作して位置情報アプリを立ち上げる。

 

「動いてる! 30分前に地下4階から地下5階に降りてるよ!」

 

〈まじか〉

〈ここまでもけっこうモンスターにエンカウントしてきたけど〉

〈小学生がこんなところまで生きてこれるか?〉

 

 それは、紅亜(くれあ)も疑問に思っていたところだった。

 10歳の小学生女子なんて、湯歌(ゆか)よりも戦闘力がないだろう。

 それが一人で地下5階までたどりつくなんて、あり得るだろうか?

 

 紅亜(くれあ)はアカリの顔を思い出す。

 光機の剣(ライトニング・ソード)を操る15歳の高校生。

 あのくらいのスキルを持っていれば、地下5階に到達してもおかしくない。

 

 しかし、乃音(のの)の姉である沙希に通話で聞いたのだが、乃音(のの)は今までダンジョンに入ったことはなく、そんなスキルもないはずだと言っていた。

 

「10歳でこんなところまで……」

 

 紅亜(くれあ)がそう呟くと、隣に座っていた澄見歌(すみか)が、紅亜(くれあ)の左手を優しく握る。

 

「大丈夫だよ。紅亜(くれあ)ちゃんなら、きっと助けられるよ。私、紅亜(くれあ)ちゃんの力を信じてるもん」

 

 紅亜(くれあ)もその手を握り返すと、自分を元気づけるように言う。

 

「そうだね。きっと、大丈夫……。乃音(のの)ちゃんは、生きてる……」

 

 と、その時だった。

 湯歌(ゆか)が、階段を見つめながら、

 

「あれ、なんだろう……」

 

 と呟いた。

 紅亜(くれあ)がそちらの方を見ると、なるほど、たしかに紙切れのようなものがそこに落ちている。

 

 いや、落ちているのではない。

 階段の途中に置かれた紙切れ、その上に固定するかのように石が置いてある。

 

「なんだろ、これ……」

 

 紅亜(くれあ)はその紙切れを手に取った。

 

 そこには、青い蛍光ペンでこう書いてあった。

 急いで書いたのだろうか、走り書きの文字だったがなんとか読めた。

 

『村原乃音です 助けてください

 女の人にゆうかいされ』

 

 メモはそこで途切れていた。

 紅亜(くれあ)はメモをドローンのカメラに向けた。

 今、乃音(のの)の姉である沙希は、街のモクドナルドでこの配信を見ているはずだった。

 モデレーター権限を与えているので沙希のコメントは優先的に表示される。

 

「沙希さん、これ、乃音(のの)ちゃんの字?」

 

沙希 〈乃音の字です!〉

 

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