100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第42話 青汁を飲みたがってる

 紅亜(くれあ)たちはダンジョンを行く。

 その後方にドローンが宙を飛んでついてきている。

 

「あの子、なんだったんだろう」

 

 紅亜(くれあ)の呟きに、コメント欄の沙希が答える。

 

沙希 〈乃音ではなかったです。全然知らない子でした〉

 

 うーん、と澄見歌(すみか)が首をひねった。

 

「本当の小学生……ってことはなさそうだよね。なんかのモンスター?」

「そうかもしれない。こっちについてこい、みたいなジェスチャーしてた」

 

 湯歌(ゆか)が震える声で、

 

「罠かな? なんか怖い雰囲気があったよ。乃音(のの)ちゃんに関係ある? それとも関係ないのかな」

 

 謎だらけだった。

 

「わからないよ」

 

 紅亜(くれあ)にはそう答えることしかできない。

 

 ダンジョンは言うまでもなく、迷宮となっている。

 マップアプリがあるとはいえ、分かれ道が無数にあり、目的地まで迷うことなくたどり着くのは困難なことだった。

 その上、今回はその『目的地』、つまり乃音(のの)は移動をしている。

 これでは乃音(のの)と出会えるのはいつになることか。

 

〈一応その小学生は地下6階にいるんだよな〉

〈今地下5階〉

〈でもダンジョンって一辺が数キロある四角形だろ〉

〈まあその辺はダンジョンによるけど、高尾山ダンジョンはそうだな〉

〈それで地下6階の北エリアにいるってだけで見つけられるかよ〉

 

「多分……大丈夫だと思う」

 

 澄見歌(すみか)が答える。

 

「だって、乃音(のの)ちゃんは明らかに下層階を目指している……。だから、私たちも乃音(のの)ちゃんより早いペースで下層階を目指せば、いつかは追いつくはず」

「でもさ、お姉ちゃん。下層階への階段だって、何か所もあったりもするよ」

「まあ、それはそうなんだけど――」

「お姉ちゃん、ドローンを使って偵察するのはどうかな」

「その手もあるんだよね。ただ、ドローンのバッテリーも有限だからここぞってときに使いたいな」

 

 その時、紅亜(くれあ)の目が、またも制服を着た小学生女子の姿を捉えた。

 通路の曲がり角、その手前でじっとこちらを見つめていた。

 ただ、その表情は険しい。

 

「ちょっとあなた!」

 

 紅亜(くれあ)は叫んだけど、すぐに思い返した。

 追いかければまた消えてしまうかもしれない。

 立ち止まって、なるべく優しい声を出すことにする。

 

「ね、私は田中紅亜(くれあ)っていうの。村原乃音(のの)ちゃんって子がここに迷い込んだんだよ」

 

 乃音(のの)の名前を出した瞬間、小学生がピクリと肩を震わせた。

 ――なにかの手掛かりになる!

 そう確信した紅亜(くれあ)は続けて言う。

 

「私たちは乃音(のの)ちゃんのお姉さんに頼まれて助けに来たんだ。私、どうしても乃音(のの)ちゃんを無事に連れて帰りたい。あなた、何か知ってる?」

 

 じいっと紅亜(くれあ)の目を見つめ続ける少女。

 黒くて長い眉が印象的だ。

 そして。

 ついに、その子が口を開いた。

 

「あの子は死にかけているわ」

 

 子供っぽい舌っ足らずな話し方だった。

 

「じきに死ぬわ」

「どういうこと? あなた、乃音(のの)ちゃんがどこにいるかわかるの?」

 

 紅亜(くれあ)が聞くと、少女はぷいっと横を向いて角の向こうへと走り去る。

 急いでその角まで行くと、そこには少女の姿はない。

 だけど、ずっと向こうから声だけが聞こえてきた。

 

「あなたたちは、強い?」

 

 その声は石でできた通路に反射して不気味にエコーがかかっている。

 

「強いよ!」

 

 紅亜(くれあ)の代わりに澄見歌(すみか)が叫んだ。

 

「人類最強レベルに強い!」

 

「なら、こっちよ」

 

 声が響いてくるが、湯歌(ゆか)がスマホを見ながら、

 

「でも、そっちだと南エリアだよ。乃音(のの)ちゃんは地下六階の北エリアに……」

 

「それは罠よ」

「罠?」

「モンスターにスマホをくくりつけて移動させているのよ。そのスマホの場所には乃音(のの)はいない」

「……私たちを罠にはめようとしているのがあなたかもしれないじゃない」

「……信用してもらうしかないわ」

 

 声を追いかけるようにして通路を行く。

 すると分かれ道が見えてきた。

 二股の通路の真ん中に、その少女は立っていた。

 

「乃音(のの)を助けたいならこっち。ケルベロスと戦って乃音(のの)のスマホを回収したいだけならあっちよ。スマホはケルベロスの首輪に括り付けられているわ」

「言い方がまわりくどいね。……乃音(のの)ちゃんを助けに行くと、私たちはナニと戦うことになるの?」

 

 澄見歌(すみか)がそう聞くと、少女は口を開きかけ、そのまま少し考え込み、またすぐに閉じた。

 

「なに、答えてくれないの?」

 

 澄見歌(すみか)が重ねて問う。

 

「……まあ、ドラゴンみたいな、強いモンスターよ」

 

 視線を斜め下に向け、セーラー服のリボンをいじりながらぼそっとそう言う少女。

 紅亜(くれあ)にはすぐに嘘だとわかった。

 

「なんで嘘を言うの? 本当はなにがいるの?」

 

 自分の嘘がバレたのが意外だったのか、少女は目をキョロキョロさせる。

 

「言ったらきっとあなたたちは来てくれないわ」

 

 相手がなんだってかまわなかった。

 紅亜(くれあ)は少しイライラして言った。

 

「なんだって相手にするよ! 私は乃音(のの)ちゃんを絶対に助けるの! 早く案内して!」

 

 澄見歌(すみか)が不安そうな顔で紅亜(くれあ)を見る。

 

「でもこっちが罠かも……」

 

 その通りだった。

 この女の子がなんらかの理由で逆に乃音(のの)から紅亜(くれあ)たちを遠ざけようとしているだけの可能性もある。

 

 乃音(のの)のスマホが発する位置情報と、この正体不明の少女。

 どちらを信じるべきか。

 

 と、その時。

 少女が静かに言った。

 

「離れすぎたわ……もう力が使えない……一度消えるわ……そうそう。マーチが青汁を飲みたがってるから、すぐに来なさい……」

 

 そして、少女の姿が暗闇に溶けるようにすうっと消えていった。

 

 

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