100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第44話 ガニ股で

 そこには、頑丈そうなドアがあった。

 この先に、乃音(のの)がいるという。

 

「行くよ。まず第一は乃音(のの)ちゃんの救出。ケガをしているっていうから、乃音(のの)ちゃんを見つけたら湯歌(ゆか)ちゃんがすぐに治療、澄見歌(すみか)ちゃんがその護衛。敵がいたら私がかたっぱしからやっつける!」

 

 澄見歌(すみか)と湯歌(ゆか)が頷く。

 

 紅亜(くれあ)はそっとドアノブに手をかけ、ゆっくりと少しだけ開ける。

 その隙間にルセッシュのノズルを当てると、紅亜(くれあ)は思い切りそのレバーを引いた。

 プシュゥ! と液体が霧状になってドアの向こうにばらまかれた。

 十回ほどレバーを引く。

 これで、弱いモンスターならば昏倒しているはずだ。

 ドアの向こう側からはまだなんの気配もしない。

 

「3,2,1……ゴー!」

 

 バンッ! とドアを開けた。

 

 まず最初にドローンが飛び込み、ライトを点灯した。

 それに続いて紅亜(くれあ)たちも部屋の中に侵入する。

 

 そして紅亜(くれあ)たちの目に入ったのは。

 

 壁に寄りかかっている、小学生くらいの少女。

 

沙希 〈乃音(のの)!〉

 

 だけど。

 乃音(のの)の身体は袈裟斬りに斬られていて。

 白かっただろうワンピースは血で真っ赤に染まっていた。

 わずかに開いた瞼から見える瞳には、輝きがない。

 

「フシューフシュー」

 

 乃音(のの)が呼吸するたび、その口からは血が飛び散っていく。

 さらには。

 乃音(のの)の左腕も斬り落とされており。

 傷口からは骨と肉が見えていた。

 

 血液特有のムッとした匂いが充満している。

 

〈死んでる!?〉

〈間に合わなかったか!?〉

〈ああああああ小学生がこんな……ひどい!〉

〈いや息はしてるぞ〉

〈でもほぼ死にかけだぞ!〉

 

沙希 〈乃音! 乃音! 乃音!〉

 

 その傍らにいるのは、一人の女性だった。

 オフショルダー、つまり肩まで出ている赤いドレスを着た、地中海系っぽい若い女性。

 ガニ股で床にしゃがみこみ——斬り落とされた乃音(のの)の左腕を持っている。

 そして、その切り口に自らの口をつけてじゅるじゅると血液をむさぼるように吸っていた。

 

 ――乃音(のの)ちゃんを、食っている!

 

 紅亜(くれあ)の脳内にアドレナリンが充満した。

 身体が一瞬で熱くなった。

 

 怒りと闘争心が沸き上がる。 

 

 その女は紅亜(くれあ)を見ると、持っていた左腕をぽいと床に置く。

 

「ちょうどいい、血液が自分でやってきた——」

 

 女がそう言うのと、紅亜(くれあ)がホウキを振り上げて突っ込んでいくのとは同時だった。

 

 紅亜(くれあ)はホウキを突き出す。

 女はそれをヒョイと顔だけで避けた。

 

「うわあああああああ!」

 

 紅亜(くれあ)は叫びながらそのまま身体ごと女に突っ込んでいく。

 すると、狙い通り、女は地面を蹴って飛び退り、紅亜(くれあ)の体当たりを避けた。

 

 乃音(のの)と女の間で仁王立ちする紅亜(くれあ)。

 そして叫んだ。

 

「湯歌(ゆか)ちゃん! 奇跡の外科手術(ミラクル・オペレーション)を! 澄見歌(すみか)ちゃん、護衛!」

 

「はい!」

 

「うん! ララララルラーーーー!」

 

 途端に澄見歌(すみか)のマイクから光る刃が飛び出した。

 それは長さ3メートル、稲妻のように曲がった長刀だった。 

 湯歌(ゆか)は自分の手が血で汚れるのもいとわず乃音(のの)の身体を横たえる。

 そして、叫んだ。

 

「奇跡の外科手術(ミラクル・オペレーション)!」

 

 湯歌(ゆか)の背中から無数のオーラでできた手が出現する。

 その手はそれぞれ、メス、鉗子、縫合用の針、それに輸血用バッグを持っている。

 

「まだ生きてる! 助かる! 助ける! 損傷した内臓を縫合!」

 

 手術を始める湯歌(ゆか)、その湯歌(ゆか)を守るように剣を構える澄見歌(すみか)。

 

「ああ? そいつは私のもんだぞ?」

 

 女が腰を落とすと、前蹴りを繰り出してきた。

 紅亜(くれあ)はそれをチリトリでいなすと、ノーモーションでホウキを突き出す。

 これだけで並みのモンスターは瞬殺してきた。

 だが。

 女はそれを片手だけで受け流すと、

 

「おらよ!」

 

 ドレス姿にはおよそ似つかわしくないあらっぽい声を出し、紅亜(くれあ)の頭部に向けて右ハイキック。

 赤いドレスのスカートがひらめく。

 

「くっ」

 

 チリトリでその蹴りを防ぐ紅亜(くれあ)、だけどあまりの衝撃でビリビリと手がしびれた。

 

「やるな、もういっちょだ!」

 

 女が今度は左ボディフックからの右ストレートのコンビネーションで殴ってくる。

 とんでもないスピードだったが、紅亜(くれあ)はしっかりと反応し、最初の左ボディフックをホウキの柄で受け止め、次に右ストレートをチリトリでガードする。

 バキッと音がして、チリトリにヒビが入った。

 

〈なんじゃこいつ強い!〉

〈あのホウキ女が防戦一方だぞ〉

〈こいつなにもんだ!〉

 

 女は紅亜(くれあ)から少し距離を取る。

 紅亜(くれあ)としても、まずは湯歌(ゆか)が乃音(のの)を治療できるだけの時間が欲しい。

 

 すぐには反撃せずに、女の顔をじっと見た。

 女はその場でガニ股でしゃがみこみ、紅亜(くれあ)の後方で治療を開始している湯歌(ゆか)に視線を移す。

 

「……ありゃなにやってんだ? あいつは私のものだぞ?」

 

 

 

 

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