100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第45話 私の娘

「違う。あの子はあなたのものじゃない」

 

 ホウキを握る手に汗が滲むのを感じた。

 こいつは今までの敵とは違う。

 かなり強い!

 

 紅亜(くれあ)は身構えて次に相手がどう動くかを見極めようとする。

 

 女はしゃがみこんだまま、白目の目立つ赤い目で紅亜(くれあ)を見上げた。

 

「ふん、びっくりだ。……人間のくせになかなかの力だな、お前」

「あなたは人間……じゃないよね。何?」

「聞いているのは私だ。ありゃ何をやっている?」

 

 あごをしゃくって湯歌(ゆか)の方を見る女。

 

「治療しているんだよ、見たらわかるでしょ?」

「そうかい」

 

 ガニ股でしゃがみこみ、その膝に肘をついてじっとしている女。

 燃えさかる炎のように赤い髪の毛、それと同じく赤い瞳。

 紅亜(くれあ)は相手がどう攻撃してきても対応できるように決して目を離さない。

 

「………………」

「………………」

 

 にらみ合う二人。

 紅亜(くれあ)の額に汗が浮かび、それが鼻筋を通って流れ落ちる。

 脳内で興奮物質が分泌され、紅亜(くれあ)は「ふっ、ふっ」と短い呼吸を繰り返している。

 それに対して女は落ち着いた様子でしゃがみこんだ姿勢を崩さない。

 そのまま20秒ほどの時が流れた。

 

 ――なぜ攻撃してこないの?

 

 さらに沈黙が流れる。

 女はまだしゃがみこんだままで紅亜(くれあ)の顔を見ている。

 

「…………何かを待ってる?」

 

 紅亜(くれあ)が問う。

 女はほんの少し口角を上げた。

 

「そうさ。お前らが私の娘を治療してくれてるんだろう? 終わるまで待つさ。その後お前らを殺すんだがな。娘は連れていく」

「娘?」

「そうさ。あれは私の娘さ」

 

 何を言っているのかわからない。

 乃音(のの)ちゃんはこんな女の娘なわけがない。

 

沙希 〈お母さんは入院中です。そんな奴知りません〉

 

「……どういうこと? あなた、乃音(のの)ちゃんを食べていたじゃない」

「食っていたわけじゃない。血を吸ってたんだ。もったいないからな」

「同じことだよ!」

 

 どちらにせよ、自分たちを殺すつもりでいることには違いない。

 紅亜(くれあ)はホウキを振りかぶった。

 

「ふん。やるのか? 治療しているのはあっちの女だ、お前は殺してもよさそうだな」

 

 女が跳躍した。

 それも、しゃがんだままの体勢で。

 赤いドレスのスカートがバラの花のようにふわりと開いた。

 

「ふんっ!」

 

 宙を飛ぶ女に向けて、紅亜(くれあ)はホウキを振り下ろす。

 だがホウキのスピードよりも、女の跳躍スピードの方が勝っていた。

 ホウキは空を斬り、女は天井まで飛び上がると、その天井に手をつき反動をつけて紅亜(くれあ)に向けて飛び蹴りを放ってくる。

 

 チリトリで防ぐが——。

 

 すでにヒビが入っていたチリトリは蹴りの威力に耐えられず、バキィ! と大きな音をたてて割れた。

 紅亜(くれあ)の目に映ったものは赤いヒールのかかと。

 次の瞬間には、そのヒールが紅亜(くれあ)の頬にめり込んだ。

 頬を突き破り、ピンヒールが歯に当たった。

 

 痛みで頭がチカチカした。

 着地した女がさらに追撃の前蹴りを紅亜(くれあ)のみぞおちにくらわした。

 身体ごと吹っ飛ばされる。

 空中で二回転しつつも、なんとか足で着地する。

 そこにはバケツが置いてあった。

 バケツに手を突っ込む。

 さらに追撃してこようともう一度飛び上がる女に向けて、『クンチョール』を噴射した。

 殺虫剤の霧が女を包み込む。

 

「ぬお! くそ、ゴホ、ゴホ……」

 

 予想外の攻撃に女は地面に転がり落ちてせき込んだ。

 

 紅亜(くれあ)は左手の持ち手だけになったチリトリを放り捨てると、両手でホウキを構え、女に向かってダッシュする。

 

「おおおおおおおお!」

 

 そして思い切り振り下ろす。

 

「チッ!」

 

 女は片腕をあげてそれを受け止めた。

 ボキリと骨の折れる嫌な感触がホウキを伝わって紅亜(くれあ)の腕に響く。

 

「チッ、人間風情が!」

 

 女が折れた腕でそのままホウキを掴んだ。

 

「……! 離せ!」

 

 ホウキの引っ張り合いになった。

 

「オルァ!」

 

 女が下段の右回し蹴り。

 紅亜(くれあ)は左足を上げてそれを受け止め、お返しとばかりに右足で女の胴体を蹴る。

 

「クッ!」

 

 一瞬女の膝が崩れそうになるが、しかし歯ぎしりをしながら踏みこたえる。

 紅亜(くれあ)は口の中に鉄の味を感じながらホウキを握りしめる。

 ぐいぐいと引っ張って取り戻そうとするが、女もしっかり握っていて離さない。

 再びホウキを引っ張りあう体勢になった。

 

 そのとき。

 

 二人の間に、一人の少女がふっと姿を現した。

 

 名門小学校の制服を着たその少女は静かに言った。

 

「待ちなさい。アンティア・メランティ、一度引きなさい」

 

 

 

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