100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第47話 まるで夢を見ているかのように

「どういうこと?」

 

 紅亜(くれあ)が小学生に聞くのと同時だった。

 湯歌(ゆか)の声が聞こえてきた。

 

「紅亜(くれあ)さん! もう魔力が持ちません! お願いします!」

 

 パッとそちらの方を見る。

 乃音(のの)を治療していた湯歌(ゆか)が、額に汗をにじませ、紅亜(くれあ)の方を向いていた。

 切り落とされた乃音(のの)の左腕は縫合が終わっていて、胸の傷も縫い合わされていた。

 

「でもまだ血が足りないの! 魔力が……尽きちゃう!」

 

 湯歌(ゆか)の言う通り、彼女の背中から伸びているオーラは薄くなり、消えかかっている。

 

 紅亜(くれあ)は湯歌(ゆか)と乃音(のの)の元に駆け寄る。

 乃音(のの)の息は荒い。

 意識は戻っておらず、顔色は真っ青だ。

 

沙希 〈乃音(のの)! 乃音(のの)を助けて!〉

 

 紅亜(くれあ)たちは乃音(のの)を救いに来たのだ。

 その命がなによりも優先だ。

 考えているヒマはない。

 

 ——また、マウストゥーマウスで……。

 

 だが。

 紅亜(くれあ)は気づいていた。

 今までにないほどの強さを誇る敵との戦闘。

 紅亜(くれあ)自身も頬を突き破られるほどのケガを負った相手と、全力で戦ったのだ。

 今まであらゆる敵に勝利してきた紅亜(くれあ)の戦闘能力、そして身体能力は、強大な魔力を消費して増幅させることで成立していた。

 つまり、最大の強敵と戦うことで、紅亜(くれあ)もかなりの量の魔力を消費していたのである。

 

 ——魔力が、足りない……。

 

「紅亜(くれあ)さん、早く!」

 

 湯歌(ゆか)が目をギュッとつむって紅亜(くれあ)に口を突き出す。

 

「うん、とにかくやってみる!」

 

 すー、と大きく息を吸い、そして湯歌(ゆか)の唇に口をつける。

 そして、思い切り呼気を吐き出した。

 でも。

 

「あれ? 魔力が戻っていない……」

 

 湯歌(ゆか)が困惑した表情でそう言った。

 

 紅亜(くれあ)がマウストゥーマウスで湯歌(ゆか)に魔力を補充できる仕組み。

 それは、あくまで紅亜(くれあ)自身の魔力が満タンであるということが前提だ。

 

 ダンジョン内に充満する魔力と瘴気。

 紅亜(くれあ)という生命ろ過装置を使ってダンジョン内の瘴気を取り除き、魔力のみを供給する。

 だけど、今は紅亜(くれあ)の魔力もかなり使っている。

 だから、紅亜(くれあ)が呼吸しても魔力は紅亜(くれあ)自身の魔力の補充に使われ、その呼気に魔力はあまり残っていないのだ。

 

「やっぱり……。じゃあ、これを使うしかない! とにかく乃音(のの)ちゃんの命が第一だから!」

 

 紅亜(くれあ)はワイドパンツのポケットから小瓶を取り出した。

 

〈おい小学生に酒は……〉

〈アルコール入ってるんだよな?〉

 

「大丈夫、私が飲む!」

 

 紅亜(くれあ)はキャップをひねって開けると、妖命酒を一気に喉に流し込んだ。

 胃がカッと熱くなる。

 次に血流が強くなって身体のすみずみまで行き渡っていくのを感じた。

 失われた魔力が充填されていく。

 

「よし! 湯歌(ゆか)ちゃん!」

「はい!」

 

 もう一度、湯歌(ゆか)の口に自分の唇をあわせようとして——。

 

「痛っ」

 

 ガツンと歯と歯が当たった。

 目の前に火花が飛ぶが、かまわず思い切り息を吹き込んだ。

 

 次の瞬間、オーラでできた多数の腕がパチパチ! と音を立て、薄くなりかけていたそれが存在感を取り戻した。

 

「ありがとうございます!」

 

 オーラの手が持つ輸血バッグ。

 そこから伸びる管から血液がどんどんと乃音(のの)の体内に送り込まれていく。

 

 それだけではない。

 

「ヒーリング! ヒーリング!」

 

 澄見歌(すみか)も残りの魔力を使い果たそうとしているかのように治癒魔法を連続でかけた。

 

「はあ、はあ……私も魔力がっ!」

 

 澄見歌(すみか)はそう叫ぶと、両手で紅亜(くれあ)のほっぺたを挟み込んだ。

 

「はい、紅亜(くれあ)ちゃん息を吸って!」

「え? うん、すーーー……」

「えいっ」

 

 え、嘘、推しの顔が近い、と思う間もなく澄見歌(すみか)が唇を押し付けてきた。

 えーとえーと?

 柔らかい唇を押し付けられたまま、全身をカチコチにさせて固まる紅亜(くれあ)。

 その紅亜(くれあ)の肩を澄見歌(すみか)がダン! ダン! と強く二回叩いた。

 

 ——あ、そうか……!

 

「フーーーーッ!」

 

 気を取り直して紅亜(くれあ)は思い切り息を吹き込む。

 それが終わると澄見歌(すみか)はパッと顔を離して一瞬だけ潤んだ目で紅亜(くれあ)を見た後、

 

「私も満タン! ヒーリング!」

 

 乃音(のの)に向かって治癒魔法を再び連発し始めた。

 

 紅亜(くれあ)は突然の推しとのキスに衝撃を受けて足腰に力が入らなくなり、床にへたりこむ。

 

 しばらくすると。

 

「う……ううん……お母さん……」

 

 乃音(のの)が目をうっすらと開けて、そう呟いた。

 

「乃音(のの)ちゃん! 乃音(のの)ちゃん、わかる!?」

 

 澄見歌(すみか)が乃音(のの)の肩をやさしく叩いた。

 乃音(のの)は澄見歌(すみか)の顔を見て、

 

「え、誰……? あれ、私、なにしてたんだっけ……。お母さん……助けなきゃ……サンジーヴァニ……確か、おばあちゃんのお姉ちゃん……それで……」

「よかった、意識が戻った! いいから、もう少し休んでて! ヒーリング!」

「私……私、あのとき……」

 

 乃音(のの)は何かを思い出すように言って、そのまま再び目を閉じた。

 そしてそのままブツブツ呟き続ける。

 

「私、お母さんを助けに行くの……。手伝ってくれるの?」

 

 それはまるで夢を見ているかのように見えた。

 

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