100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~ 作:羽黒楓
村原
――絶対お母さんを治すんだ!
まだ小学生の
母親を失うのは世界を失うのと同じくらいの恐怖であった。
10歳の
リュックには水筒とお菓子。
手にはキッズスマホ。
真っ暗闇のダンジョンは、小学生にとって足をすくませるほどの恐ろしさを感じさせるものだったが、それよりも母親を失うことの方がよほど恐るべき事態であった。
――モンスターが出てきたら走って逃げればいいもん!
知らないということはどんな勇気よりも無謀な挑戦をさせる。
そして、階段を降り切ったその瞬間だった。
目の前にすうっと人影が現れた。
黄色い帽子、セーラー服の制服を着た、
彼女は目を吊り上がらせ、両手で今にも掴みかかってきそうな恰好で、
「わあああ!」
と叫んだ。
「きゃあ!」
ビクッとして身体を硬直させる
女子小学生は言った。
「私はお化けよ! モンスターよ! 殺して食べちゃうわよ! 今すぐにここから出ていきなさい!」
そしてその『お化け』は
「わああ!」
と叫んで
一つは踵を返して階段を上り、ダンジョンから出ること。
もう一つは……。
「お母さん! お母さん! おかーさーーーん!」
「あ、こら、待ちなさい! バカ! そっちに行ったら死ぬわよ!」
お化けの小学生が追いかけてくる。
「やだああ! 怖いい! お母さーーん!」
ダンジョンの奥に向かって闇雲に走る
お化けはずっとついてきているようだった。
「待ちなさい! バカ! 今のは嘘! 私は……」
「おかーーーさーーーん!」
「違うの、そっちには……」
しゃにむに走る
そして、何かにドンッ! とぶつかった。
びっくりしてスマホのライトを向ける。
そこにいたのは。
高さ2メートル、長さ3メートルはあろうかという、巨大なスライムだった。
そのスライムは、やってきた獲物に喜んでいるのか、
「グジュジュジュ……」
とおかしな音を立てながら
「あ、あ、やめて! やめて! やだあ!」
じたばたともがくが、スライムの粘液は
すぐに肩から下を飲み込まれ、かろうじて頭だけ出している状態になった。
このままだと消化されてすぐに死んでしまうだろう。
「やだ! 助けて! 助けて! 誰かぁ!」
お化け小学生がスライムに飛びかかった。
「やめなさい! こら!」
そしてバチバチとスライムの粘液を叩きまくる。
お化け小学生の手の平がかすかに発光する。
スライムはその攻撃とも言えない攻撃を嫌がっているようで、
「グジュ~~」
と音を出すと、ペッと吐き出すように
その途端、
「やだーー! 助けてー! おかあさーーん! おねえちゃーーん!」
ダンジョンの奥へ、奥へと。
「違う、そっちじゃないわ! 奥に行っちゃだめぇ!」
★
そして。
30分後。
幸いにも、足の速いモンスターには会わなかった。
途中スケルトンなどの弱いモンスターには遭遇したが、お化け小学生が威嚇して追い払ってくれた。
だけどもう限界だ。
これ以上走れない。
「うう……お母さん……」
「
お化け小学生はまだそこにいた。
「うう、ひっく、ひっく……あなた、何なの? 私を食べるんでしょ?」
「食べないわ。あれはあなたをダンジョンから追い出すために演技しただけ……。失敗したわ。なんで奥に向かって走るの」
「だって、だって……お母さんを、助けたいんだもん……」
「……私も春子を死なせたくはないわ。でも、ダンジョンに入るなんて無謀よ」
春子とは
「お母さんを知ってるの?」
「知っているも何も。春子は私の姪よ。私の妹の娘」
「………………?」
「だから、
「……知らない……」
「そりゃそうよ。私は7歳の時に死んだんだもの。交通事故でね」
「じゃあ、ほんとにお化け……?」
「そうよ。最初は春子のそばにいたわ……でも、あなたが生まれたとき、私は感じたのよ。この子を守るのが私の使命だって」
「なに言ってるかわかんないよ……」
「だから、私はあなたの守護霊ってわけ。ずっとあなたのそばにいたのよ。ダンジョンの中だからあなたにも私の姿が見えるようになっただけ」
「じゃあ、私を食べないの?」
それを聞いてお化け小学生はため息をつく。
「かわいい妹の孫を食べるわけないでしょう。私の名前は夏子。夏に生まれたから夏子よ」
「夏子……。お母さんは春子だから似てる……」
「妹の名前は冬子だったから。一族ネーミングセンスがなさすぎるわ。
そして夏子はあたりを見回す。
「ずいぶんダンジョンの奥に来てしまったわ……。私の力じゃ、スライム程度を追い払うのがやっと……。このままじゃ、生き残れないわね……」