100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~ 作:羽黒楓
それを見たとき、夏子はまずい、と思った。
目玉は溶け落ち、肉は腐り、ところどころ骨も見えている。
このダンジョンで命を落とした探索者たちの成れの果てである。
「ウヴォアァァ……」
不気味な声を出しながら一歩一歩、ゆっくりと
「
夏子が叫ぶ。
「なにあれ? 怖い!」
「ゾンビよ。生きている人間を襲ってその肉を食う……でも、動きは遅いから走って逃げれば追いつけないわ。走って!」
スマホのライトを構えて
ところが、また別のモンスターが現れた。
それはヘラジカに似た生物だった。
体長もヘラジカと同じくらいで、3メートルほど。
しかし、ヘラジカとは違い、その角は刃のように鋭く尖っている。
キラーエルクと呼ばれるモンスターである。
その角で他の生物を突き刺して殺し、その肉を喰らう、獰猛なモンスターであった。
キラーエルクは
「ガァァァ……!」
と声を出した。
そして走る
すぐには襲ってこない。
なにか罠でも疑っているのか、
夏子は考えていた。
どうしよう、もうほかのモンスターを探しているヒマはない!
「
夏子は
それは……。
ホロウサムライのいる場所であった。
熟考する時間などなかった。
一番近い場所にいたのがホロウサムライだったのである。
「……また来たか。我がご主君はどこだ?」
「今から探すわ! だから、この子をお願い!」
「……そうか。おなごか。では必ず、我がご主君を探し出せ。さもなくば……このおなごを斬り殺す」
会話をしている間にも、キラーエルクが近づいてきた。
ホロウサムライは刀を抜く。
「約束だぞ。必ず、ご主君を探し出せ……!」
ホロウサムライが言うと同時に、キラーエルクが鋭いツノを突き出して突っ込んでくる。
「むぅぅん!」
刀でそのツノを防ぐホロウサムライ。
キラーエルクとホロウサムライが死闘を始めた。
「
夏子が
目に飛び込んできたのは、女の笑顔だった。
赤い髪、赤い瞳、そしてオフショルダーの赤いドレス。
彼女が、
「へへ……人間……処女……やっと、見つけたぜ……」
尋常ではないオーラを発しているその女を見て、夏子は恐怖した。
これはまずい……ホロウサムライなど比較にもならないほどのモンスターだ。
「
夏子がそう叫んだ次の瞬間には、夏子の喉元に女の爪が食い込んでいた。
「幽霊か……こいつの守護霊だな?」
「あなたは誰?」
「アラクネに聞いたよ」
「アラクネ……」
上半身が人間で下半身が蜘蛛のモンスター。さきほど、夏子が交渉した相手だ。
「アラクネに人間の子どもがここに迷い込んでいると聞いたんだ。その子を守ってくれるモンスターを探しているようだね。だから来たんだよ。まあ、アラクネのやつは私が血を吸いつくして殺してやったがな」
「血を……? あなたは、吸血鬼?」
「お前らの想う吸血鬼とは少し違う。少し物の分かった人間は私をモルモーと呼ぶけどな。私は娘を探していたんだ」
「娘? その子はあなたの娘ではないわ」
「そうじゃない。私もそろそろ眷属を増やすときがきた。それにぴったりな人間を探していたんだ。知らないのか? 私たちは、年若い人間の処女か童貞を我が子として育てるんだ」
「その子をあなたにあげるわけにはいかないわ」
「チッ、いいじゃないか。死ぬわけでもないし。むしろ、永遠の命を得られる。お前もずっと一緒にいられるぞ? いやならまずお前をこの世から消滅させる」
女の爪がズズッと夏子の首にめり込む。
夏子の霊体がビリビリと震えた。
あの子を何としてでも助けたい、と夏子は思った。
「私を殺すのはかまわないわ。そのかわり、あの子を地上に帰してほしい」
「ダメだね。選択肢は二つ。あの人間を私にくれ。ダンジョンの中であんな新鮮なおさなごに遭えるチャンスはほとんどないんだ。どうしてもほしい。拒否するならお前を倒してあいつを連れていくだけさ」
「………………」
「お前があの子に霊的な保護を与えているのはわかる。保護者の許可なく私の眷属にはできない。……まあ、倒してしまえばいいだけだけどな。お前が承諾しないならお前を消滅させるしかない。私はあの子を連れていく。これは絶対だ」
そのとき、キラーエルクを切り伏せたホロウサムライがこちらを向いて近づいてきた。
「その人間は我の人質だ。主も、我のご主君を探してくれぬか?」
「チッ、てめえの主君なんざ知るかよぉ!」
女はホロウサムライの胴体に向かって前蹴りを放った。
それをまともに食らってホロウサムライは数メートル吹っ飛ばされる。
「チッ、弱いくせによ。血も吸えねえから殺す価値もねえや。で、どうなんだ?」
「…………わかったわ。その子を連れて行きなさい。ただし、私もついていく」
「ヘヘッ、最初からそう言えばいいんだよ」
女は
「荷物は私が預かる。ほら、私についてこい」
そして女は