100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第52話 それは罪

「交渉? なにを交渉するっていうの?」

 

 紅亜(くれあ)は警戒を解かずそう聞く。

 相手は吸血鬼、モンスターだ。

 まともに話を聞く必要なんてない、とも思ったけど、下手に刺激してまた攻撃されるのも避けたい。

 紅亜(くれあ)にとってもアンティアは脅威になる敵なのだ。

 

 狼は静かに言う。

 

「簡単なことだ。サンジーヴァニは地下8階に間違いなくある。だが、お前は地下8階の広さを知っているか? 25平方キロメートル。その広さの迷宮だぞ。そこの子供を連れて探索するなら何日もかかる」

 

「関係ない、私たちはこのままこの子を連れて帰るよ」

 

 紅亜(くれあ)の言葉に、乃音(のの)がジタバタと手足をばたつかせて、

 

「やだー! やだやだ! お母さんを治すの! やだ! お母さん死んじゃいやだもん! それだったら私も死ぬ!」

 

 狼がその様子を見て嗤った。

 

「その子はそう言っているぞ? どうするんだ? その子だけを助けて母親は助けないのか? お前は地下8階を探索するだけの力を持っている。そして、私はサンジーヴァニが自生している場所を知っているんだ」

 

「………………だから?」

 

「その力があるのにしない。その子の母親が死ぬ。お前が見捨てたから死ぬ。お前にはサンジーヴァニを手に入れる力があるのに。それは罪だと思わないのか?」

 

「それは……」

 

 紅亜(くれあ)は答えを持ち合わせていなかった。

 今、ここだけの局所的な回答を言うならば四の五の言わずにこの子を引きずってでも地上に帰るべきではある。

 しかし、サンジーヴァニを採りにいくことも可能なのはその通りだった。

 

「で、交渉って何を交渉しようっての? なにがあっても、この子はあなたに渡さない。それは絶対。これだけはどうあろうと変わらない」

 

「チッ、お前みたいにめんどくさいやつがついているんだからそれは諦めるさ。私にとっては十数年ぶりのチャンスだったが仕方がない。だがそれでも私はお前たちにサンジーヴァニの場所を教えてやってもいい。なんなら、案内してやってもいいんだぞ」

 

「…………もしそうなったとして、あなたは私たちに何を望むの?」

 

「実は、私もサンジーヴァニがほしい」

 

「あなたも?」

 

「当たり前さ。伝説の薬草だぞ? 欲しくないわけがない。サンジーヴァニがあれば若返りの薬が作れる……。私はモルモーだが完全な不老不死というわけじゃない。いつまでも若い身体でいたいじゃないか。お前も女ならわかるだろ?」

 

「それなら自分一人で採りに行けばいいじゃない」

 

「サンジーヴァニを守っているモンスターがいる」

 

「あなたなら倒せるでしょう? あなたに倒せないモンスターが守っているならなおさら乃音(のの)ちゃんを連れてはいけない。乃音(のの)ちゃんを地上に送り届けてから、改めて考えるよ」

 

 その時、乃音(のの)がパッと立ち上がってタタッと走り出した。

 

「え?」

 

 乃音(のの)の一番近くにいた湯歌(ゆか)は呆気にとられて動けない。

 二人を守るために乃音(のの)に背を向けていた澄見歌(すみか)もとっさに手を伸ばすが、指がかすめただけで乃音(のの)を引き留められなかった。

 

「乃音(のの)ちゃん、ダメ!」

 

 紅亜(くれあ)は自分のすぐそばを通り抜けようとした乃音(のの)をかろうじて抱きとめた。

 

「離して! 私はあのワンちゃんと一緒に行く! サンジーヴァニが採れてお母さんが助かるなら私はケンゾクでもなんでもなるよ!」

 

「ちょっと待って、落ち着いて、乃音(のの)ちゃん。あのね、そんなことしてもお母さんが悲しむだけだから……」

 

 と。

 狼の背中が割れたかと思うと、そこからドレス姿の女――アンティアが飛び出して天井に張り付いた。

 先ほどと同じく、ガニ股でしゃがみこんでいる。

 ただし、天井に足をついてさかさまになっている。

 赤いドレスのスカートが重力に負けて翻った。

 まるで赤い花が咲いたかのようだった。

 白いパニエだけはアンティアの真っ白な太ももを覆っている。

 

「ハハッ、その子もそう言っているぞ? ところで、この状況はどうだろうなあ? その子を守りながら私の攻撃をかわせるか?」

 

 アンティアの言う通り、紅亜(くれあ)の片手は乃音(のの)を抱きしめていて塞がっている。

 しかし、紅亜(くれあ)は動じない。

 アンティアの立場になってみれば、ここで紅亜(くれあ)を攻撃しても乃音(のの)を巻き込むだけだし、それでは乃音(のの)もサンジーヴァニも手に入らない。

 それがわかっていたので落ち着いて尋ねる。

 

「……何がしたいの」

 

「だからさ。話は簡単さ。ちょっとだけ厄介なモンスターがいる。私だけでも、お前だけでも倒すにはすこーし骨が折れるだろう。だから、私と一緒にそいつを倒してやろうってわけさ。お前と私、二人がかりなら確実に殺れる。それは間違いない。どうだ?」

 

「どんなモンスター?」

 

「ラクシャーサってやつさ。手ごわいが、私とお前で同時に攻撃すればなんということもないだろう」

 

「………………」

 

「すぐには答えられないか? なら少し時間をやろう。いい返事を待っているぞ」

 

 アンティアはそう言うと、まるで天井に『沈み込む』ように消えていった。

 

「……みんなで、話し合おう」

 

 紅亜(くれあ)は振り向いてそう言った。

 

 

     ★

 

 

「ふふふ、あいつ、乗ってくれるかな?」

 

 アンティアの周りには数匹の真っ黒な狼が座っている。

 そのうちの一匹の頭をなでながら、アンティアはにやついていた。

 

「私が眷属を諦めるわけないだろうが……。あの子は、私の娘だ……サンジーヴァニも、娘も、どちらも手に入れてやるさ」

 

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