100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第53話 物置部屋

 休息には、温かい食べ物が一番だ。

 紅亜(くれあ)たちは通路の角で壁を背にして座っていた。

 湯歌(ゆか)がガスバーナーの上にコッヘルをのせてお湯を沸かしている。

 

「カップラーメン持ってきてるの。お湯は二人分ずつしか沸かせないから、まずは乃音(のの)ちゃんと紅亜(くれあ)さんが食べて。私とお姉ちゃんはそのあとにいただくね。……で、あなたも食べる?」

 

 湯歌(ゆか)が夏子に尋ねると、夏子は少し残念そうな表情を見せた。

 

「守護霊がカップラーメンを食べるわけないわ。ただし、言っておくけどすごくおいしそう。守護霊じゃなかったら絶対食べたいわ」

「じゃあ匂いだけで我慢してね」

「恨めしい……」

 

 お湯を注がれるカップラーメンを見つめながら夏子がそう言った。

 

「伸びると悪いから、ほら、乃音(のの)ちゃんと紅亜(くれあ)さん、先に食べて食べて!」

 

 割りばしを乃音(のの)に押し付ける湯歌(ゆか)。

 乃音(のの)は、泣き疲れて不機嫌そうな表情をしていたが、カップラーメンの匂いで食欲を刺激されたのか、黙って麺をすすり始めた。

 

 紅亜(くれあ)も周囲を警戒しながら麺をすする。

 

「ん、おいしい。やっぱりシーフードだよね。二日酔いのときとか、これが一番」

「紅亜(くれあ)ちゃん、お酒強いのに二日酔いになるときあるの?」

「調子乗って二升飲むとなる……」

「二升!? ……うわばみってモンスターいたら仲良くなれそう」

 

〈聞いたことないぞ〉

〈うわばみホウキ女だな〉

〈カップラうまそうだな〉

 

 ホカホカの湯気を立てているラーメンを、乃音(のの)は夢中ですすっている。

 

「デザートにチョコレートもあるよ。……でもこれはあとに取っておいた方がいいかな。このあと地下8階にもぐるなら」

 

 湯歌(ゆか)が言うと、澄見歌(すみか)が眉をひそめた。

 

「地下8階に行くのは反対。このまま帰るべきだと思うよ」

 

 それはそうだよね、と紅亜(くれあ)も思う。

 論理的に考えるならば、いったん乃音(のの)を地上に連れて帰るのがベストだ。

 だけど、人間はいつでも論理的に行動できるわけじゃない。

 母親を助けたい、と願う乃音(のの)の気持ちはすごくよくわかる。

 

 澄見歌(すみか)がミエスタに襲われて死にかけていた時。

 紅亜(くれあ)の心は澄見歌(すみか)の死という現実には全然耐えられなかった。

 あのときの自分と同じ、いやそれ以上の苦しみと悲しみを乃音(のの)は、そして気丈にふるまってはいたけど、沙希だって今味わっているのだ。

 

 アンティアの言うとおりだった。

 

 人が苦しんでいて、それを救う力が自分にはある。

 多少の危険はあるにせよ、人の苦しみを無為によって続けさせるなんてことは、紅亜(くれあ)にはできなかった。

 

 紅亜(くれあ)は実家にいたころを思い出す。

 父は早くに死に、血のつながらない義母との生活。

 与えられたのは階段下の物置部屋。

 冬は凍えるほど寒くて、夏は一秒も耐えられないほどの暑さ。

 未来が見えない絶望。

 社員寮付きのブラック飲食店での労働。

 怒鳴られ続けながら、眠る暇もないほど毎日毎日毎日働いた。

 紅亜(くれあ)の人生が苦しい時に、紅亜(くれあ)を救ってくれる人は誰もいなかった。

 誰も助けてくれなかったのだ。

 モンスターであるご先祖様くらいだった。

 だから。

 紅亜(くれあ)は思う。

 

 ――私は、みんなを助けたい。そんな人間になりたいんだ。

 

 湯歌(ゆか)がガスコンロの火を消した。

 

「はい、またお湯が沸いたよ。お姉ちゃん、私たちも食べよう」

「うん……でもほんとに、もう帰った方がいいよ」

 

 ズズッ、と汁をすすってから紅亜(くれあ)は思い切って言ってみた。

 

「私は、サンジーヴァニを採りに行きたい」

「紅亜(くれあ)ちゃん!?」

「正直、さっきのアンティアは強敵だったよ。でも、それ以外のモンスターだったら全然負ける気がしない。で、アンティアと協力して、なんだっけ、なんとかってモンスターをやっつければいいんだよね? そしたら、乃音(のの)ちゃんのお母さんも助けられる」

「うーん……」

 

 納得していない様子の澄見歌(すみか)。

 紅亜(くれあ)はその澄見歌(すみか)の手を取った。

 

「ね、お願い、澄見歌(すみか)ちゃん。私、みんなを助けたい。このまま乃音(のの)ちゃんだけを連れて帰っても、乃音(のの)ちゃんの境遇はなにも変わらない。私たちは地獄に垂らされた一本の『蜘蛛の糸』なんだよ。私、全員を救いたい。沙希ちゃんも乃音(のの)ちゃんも、お母さんも」

 

 

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