100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~ 作:羽黒楓
アンティア・メランティ。
300年の時を生きる、モルモーである。
ギリシャ神話において、冥界の女神ヘカテーに仕える女性の魔物と伝えられる。
ローマ帝国時代のギリシャ人弁論家、フィロストラトスが著述した「テュアナのアポロニオス伝」4巻25章においても、若い美男子を誘惑して太らせ最後にはその肉と血を食う怪異として描かれている。
モルモーは一個体一種族のようなモンスターではないため、アンティアとは別の個体の話ではあるが、それほど古代から恐るべき怪異として知られている存在なのである。
アンティアは、孤独の中にいた。
ダンジョンの中で人間やモンスターを襲い、その血を吸う。
そうやって300年を過ごしてきたが、最近になって特に、彼女自身の持つ本能が眷属を求め始めたのだ。
「つまらない」
一人でいることは、アンティアにとって退屈をもたらした。
家族を持ちたい。
我が子がほしい。
その想いは、年々大きくなってくる。
モンスターといえど、生きているのである。
自らの子孫を残したいという欲求にとらわれるのは当然であった。
とはいえ、モルモーはそもそも女性のモンスターであり、同種の男性はいない。
それに、人間との生殖行為で子をなすことはできない。
だから、家族が欲しいと思ったら、人間の子どもをさらい、その血を吸い、さらには自分の血を吸わせることによって眷属にするほかに手段はなかった。
しかもその作業には数日を要する儀式が必要だった。
だが、問題は、そもそも危険なダンジョンの中で人間の子どもに遭遇するチャンスなど、ほとんどないことだった。
だから、今回、子どもが自らダンジョンに足を踏み入れてきたことは、アンティアにとって僥倖であった。
――このチャンスを逃せば、次はまた数十年待つかもしれない。
ところが、
せっかく希望が見えたのに、みすみす逃す手はなかった。
「あのホウキ女は強い……人間としては破格だ。だが、ラクシャーサとぶつければ――漁夫の利を得られるかもしれない……サンジーヴァニも欲しいしな」
★
狼はアンティアの声で話しかけてくる。
「よお。私だ」
「……あなた、サンジーヴァニの場所を教えてくれるって言ってたよね?」
「もちろんさ。さっき言った通りだ。だが時間はないぞ」
「どういうこと?」
「別に、お前の助けがなくてもラクシャーサなんざ私一人で倒せる。苦労はするだろうがな。私は今からサンジーヴァニのところに行く。ついてくるなら来い。サンジーヴァニのところまで案内はしてやる。その場合はラクシャーサを倒すのに協力しろよ。サンジーヴァニは山分けでいい」
「待って。一度、この子を地上まで送ってから……」
「待たない。お前たちがいたほうがやりやすいというだけで、待つ義理はない。私は今から行く。ラクシャーサは私が倒しておいてやるさ。あとからゆっくりと自分たちで25平方キロメートルの地下8階を探索しな。……複雑な道のりだから何か月かかるかわからないけどな」
サンジーヴァニを間に合うように手に入れるには、アンティアの案内がどうしても必要だった。
「ついてくるのもこないのもお前たちの自由さ」
黒い狼はそう言って、くるりと