100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~ 作:羽黒楓
「話? 話ってなんだ」
アンティアはタバコを床でもみ消すと、もう一本取り出してライターで火をつけた。
煙が漂う。
夏子はその煙を手で払いながら言った。
「あなた、まだ
それを聞いて、アンティアはフッと鼻で笑った。
「そりゃ眷属はほしい……が、あのホウキ女と戦うのは難儀だからな。なんだあいつは? あれほどの人間は見たことがないぞ」
「私も詳しくは知らないわ。どこかのダンジョンで修行しながら暮らしてたと聞いたけど」
「その程度であんな強くなるもんかねえ? 突然変異的な才能の持ち主なのかもな。いまいましい」
「ふん、とにかく、もう
「もちろんそうするさ」
口角を片方だけあげて笑うアンティア。
夏子は眉を片方だけあげて冷たい目で言う。
「嘘でしょう? あなたの表情がそう言っていないわ。なんなら、他の子供を私が用意してもいいわよ? それで完全に手を打たない?」
「それこそ嘘だろう。お前みたいな人間べったりな守護霊がそんなことできるわけがない。それに、眷属にできるってなら私はあの子がいい」
「なぜ?」
そこで、アンティアはタバコをくわえたまま目を細め、自らの腹部を撫でた。
「子宮がさ……言うんだよ。子供がほしい、子供がほしいってな。だが、私はモルモーだ。女しかいない種族だ。いくら子宮が泣いても、私のこの腹が子を孕むことはないんだ。でもな。あの子を見た時……私の子宮がな、疼いたんだよ。私の乳首すら授乳したくてビリビリと痛くなったくらいだった……。おかしいだろ? あいつは乳を飲む年齢でもないのに。理由なんてない、理屈じゃない。私の魂と身体が、あの子を娘にしたいと叫んだのさ。お前ら人間だって同じようなもんだろ? 男と女はそれでくっつき合いするってわけだ。わかるだろ?」
夏子はため息とともに横を向く。
「わからないわね。なんだか、不潔だわ」
「小学生で死んだお前だからそう思うだけさ。人間の大人ならわかってくれると思うぜ。……ふん、子供を産めるなら、こいつらと交尾してもいいくらいには思ってるよ」
アンティアは黒い狼の頭を撫でる。
狼は気持ちよさそうに目を閉じ、アンティアのなすがままになっている。
「私たちモルモーだって生きている。子孫を、眷属を増やしたいと思うのは当然だ。人間にだって死後リッチになったあとでも自分の子孫を見届けたい、増やしたいって思っているやつと一度だけ会ったことあるしな」
「気持ち悪い」
「だから、それはお前がお子様だからだよ。で、お前は私を監視に来たってわけだろう? 大丈夫さ。私は賢い。あのホウキ女と戦うのは得策じゃないくらいわかるし、だから自分の本能を抑えることくらいはする。あの子は諦める。サンジーヴァニを手に入れて若返る、それで手を打つことにするよ。共にラクシャーサを倒そうぜ」
★
狼に先導されて、
途中なんどかモンスターとの戦闘もあったが、
驚いたことに、黒い狼もかなりの戦闘力を持っていて、小型のドラゴン程度であれば一匹であっというまに組み伏せてしまうほどの実力を持っていた。
「このままだとすぐに目的地につきそうだね」
心配なのはまだ小学生である
途中で力尽きて歩けなくなるのではと危惧していたけれど、母を救うという使命感からか、その足が止まることはなかった。
「ねえ、視聴者のみんな、多分モンスターに詳しい人もいると思うけど……。ラクシャーサってどんなモンスター?」
〈モンスターといっていいのか……。インド神話には鬼神として描かれています。そもそも人類が遭遇した記録がないのでわからないことだらけです。私はモンスター研究してる大学院生ですけど、実在しているらしいことがわかって実は興奮してます〉
「それじゃあ、なんにもわからないのと同じだね……」
〈仏典では羅刹とも訳された存在です。モンスターとか妖怪よりもレベルが一つ違うというか、神話における格が一つ上というか、そんな感じです。そもそも、ラクシャーサってのがおおまかな分類で、様々な個体がいるはずです。アンティアにもっと情報をもらいたいところです〉
「あんなやつ!」
「何をいっても信用なんかできないよ」
「わたしもそう思います。今、夏子さんが監視しているそうですが……。どんなことをやってくるか。ラクシャーサに会敵したとき、
ところが、一番のんきなのが一番命の危険に曝された人物だった。
そう、
「えー? でも、そんなに悪い人……悪い化け物じゃないと思ったよ、あのお姉さん」