100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~ 作:羽黒楓
ホウキを右手に握る。
チリトリは壊れてしまったので、バケツを左手に持った。
バケツの中にはスプレーやスポンジが入っている。
一つ、大きく深呼吸をして後ろを振り向く。
すると、
しばらく見つめあってから、笑顔を交わしてうなずく。
「よし、行くよ!」
「うん!」
広さは十メートル×十メートルくらいだろうか。
まず、明るかった。
通常、ダンジョン内というのは真っ暗闇なのだけれども、そこだけは天井がかすかに発光して柔らかな光に包まれていた。
そして、地面は固い石ではなく、草の生えた土でできていた。
奥の方に、ひときわ明るい光を浴びて高さ50センチほどの植物が3株ほど生えている。
それを見てすぐに
植物であるのにとんでもなく神聖なオーラを放っているのである。
――あれが、サンジーヴァニ!
だが。
その聖なる薬草のそばに、一人の人物が立っていた。
若い男だった。
彼はこちらに背を向けていたが、すぐに振り返り、
インド系の顔立ち、艶のある浅黒い肌。
すっきりした眉、黒い瞳。
長い黒髪を頭の上でまとめている。
上半身は裸で、見事に鍛え抜かれた筋肉が見えている。
片手にはまっすぐな剣を持つその姿は、神々しくすら見えた。
「……こんにちは」
「やあ。君は何者だ?」
若者は、胸に響くような低い声で答える。
「私は田中
「そうか。私の名はテージャス」
「テージャスさん……。ラクシャーサって聞きましたけど」
「人間にはそう呼ばれることもあるな」
テージャスの視線が
「君は、掃除婦かい?」
「いいえ。私たちはテージャスさんにお願いがあって来ました」
「なんだろう」
「そこに生えている植物……。サンジーヴァニですよね? それを、一株、分けていただけないでしょうか」
「……なるほど。理由を聞こう」
アンティアの口ぶりだと、問答無用で襲い掛かってくるモンスターのように勘違いしてたけど、実際のラクシャーサは違っている。
戦闘ではなく交渉で決着がつくのならばそれに越したことはない。
「人を助けたいんです。病気で大事な人が死にそうなんです。でもサンジーヴァニがあれば助かるんです」
「ほう、なるほど」
テージャスは少し考え込むふうにあごに手をやる。
「そういう理由なら、分けてやらんことない」
〈おいおい〉
〈なんだ、これで解決か?〉
〈戦闘になるかと思ったのに〉
沙希 〈ありがとうございます!〉
「ただし。条件がある」
〈そらきた〉
「サンジーヴァニは聖なる薬草。それは人の世にはない神秘の存在だ。それをもって人の命を助けると言うのならば、お前たちのうちの一人の命を差し出せ。一つの命と一つの命。そうでないと自然の摂理が崩れる」
「……嫌だと言ったら?」
「帰ってくれ。我はここで静かに暮らしたいだけだ。それとも、力づくで奪うつもりか? そこにいる吸血鬼の力を借りてまで?」
テージャスが顎をしゃくるその先に、赤いオフショルダーのドレスを着た女性がガニ股でしゃがみこんでいた。
「アンティア……! いつの間に……」