100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~   作:羽黒楓

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第61話 一刀で斬り殺す

「チッ。ラクシャーサさんよお……。大人しくサンジーヴァニをよこせよ」

 

 アンティアが苦々しい表情でそう言うと、テージャスは朗らかに笑った。

 

「ははは。またお前か。先日は痛み分けだったが、何度来てもお前ごとき吸血鬼に聖なる薬草は渡せんぞ。そこの、人間の女よ。どうだ、命と命。あの吸血鬼の命でもいいのだぞ? 私と戦うよりはマシではないか? あいつを殺せばサンジーヴァニを渡そう」

 

〈あれ、それでよくね〉

〈それだ!〉

〈そこのバカ女を殺せばいいのか〉

 

 一瞬、紅亜(くれあ)の心も揺れた。

 だがすぐに思い直す。

 

 ――私たちは、地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸。

 

 モンスターといえど、アンティアは知性と感情を持つ存在だ。

 しかも、動機はどうあれ、一人でダンジョンに潜った小学生の乃音(のの)の命を彼女が救ったことには違いない。

 

 『殺す』ほどの罪だろうか?

 アンティアは乃音(のの)を殺そうとしたわけでもないのに?

 乃音(のの)を自らの眷属にしようと連れまわしていたのだから罪は罪である。

 だが、問答無用で『殺す』ほどの罪だろうか?

 

 逡巡する紅亜(くれあ)。

 アンティアはどこに持っていたのか、タバコを一本取り出すとカチン、とジッポーライターのフタを開けフリントホイールをカシュッと回して火をつける。

 

「そんなこと言わないでさ、サンジーヴァニをすこーしだけ分けてくれればそれでいいんだよ。そしたら誰も傷つかずに済む」

 

 煙を吐き出しながらそう言うアンティア。

 テージャスはかぶりを振って、

 

「サンジーヴァニは我にとっても大事なものだ。お前は自分の家に見知らぬ人間が来て、お前の大事なものを分けてくれと突然言われたら、はいそうですかと渡すのか? なにかの見返りが必要だ。我は命を一つ助けたいなら命を一つ差し出せ、そう言っているだけだ」

 

「いいや、その理屈はおかしいね。なぜなら、そのサンジーヴァニは自生している植物で、別にお前の物じゃないからだ。ここはお前の家ではないし、お前の土地でもない。ただお前がここにいただけだ。お前は道に花が咲いてたまたまお前がそこを通りがかったら、花の所有権がお前にあるとでもいうのか」

 

「聖なる薬草である。我のものではなくても、我が守る責務がある」

「チッ、話にならねえな」

 

 澄見歌(すみか)と湯歌(ゆか)は黙って会話を聞いている。

 テージャスは剣をバトンのように一回転させた。

 

「この神剣、アシにかけて。命の摂理は守らねばならぬ。これ以上の問答は無用だ。そこの吸血鬼を殺す。その後、サンジーヴァニを後ろの女に渡そう。それでいいだろう?」

 

「いいや、私じゃない。そっちのホウキ女の命をやるよ。人助けが好きな善人だ。サンジーヴァニのためなら喜んで命を差し出すだろう」

「我にしてみればどちらでもよい」

 

 夏子が鋭い目でアンティアを睨んだ。

 

「あんた! 約束が違うわよ! 最初からそれが狙いで……?」

 

 アンティアはタバコを咥えたまま煙を吐き出した。

 

「サンジーヴァニは分けてやるよ……。その子を私の眷属にしたあとにね。そしたら、母親でもなんでも治してやればいいさ。おい、ラクシャーサさんよ、そのホウキ女、存外強いぞ? なんなら私が手助けしてやってもいい」

 

「我は武人なり。掃除婦一人殺すのに手出し無用。手ごわいなら戦いを楽しめそうだな!」

 

 テージャスが紅亜(くれあ)に向き直った。

 紅亜(くれあ)は片手でスッとホウキを構える。

 

「澄見歌(すみか)ちゃん、乃音(のの)ちゃんをしっかり守っていて! アンティアが狙ってるよ!」

「うん、任せて! ラララララー! ルラルルラルラーー!」

 

 澄見歌(すみか)が歌う。

 その手に握ったマイクの尾部から剣が生成されていく。

 それはただの剣ではなかった。

 長さは1メートル超、刀身の途中からさらに刀身が生えている、七支刀だった。

 

「乃音(のの)ちゃんは湯歌(ゆか)と一緒に壁を背中にして私の後ろへ!」

「はい!」

 

 紅亜(くれあ)はそれを見届けた後、さきほどテージャスがやったのと同じようにホウキをくるりと一回転させる。

 もちろん、目の端にアンティアを捉えながら、だ。

 

「私の命はあげられない。誰の命もあげられない。他のものならあげられるかも」

「サンジーヴァニと引き換えにできるのは命のみ! 痛みのないよう、一刀で斬り殺してやるぞ!」

 

 そして、テージャスが紅亜(くれあ)に襲い掛かってきた。

 

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