100均ホウキに百合が咲く~最強限界無職女のダンジョン救助配信~ 作:羽黒楓
テージャスが握っているのは『アシ』と呼ばれる聖なる剣であった。
インド叙事詩『マハーバーラタ』にはブラフマー神が最初に創造した伝説の剣として登場している。
対して
「ふん!」
テージャスがその剣を
その瞬間、
右手がしびれる。
ホウキの柄がミシッと音を出した。
――すごい攻撃!
さすがは伝説の剣であった。
今まで幾多のモンスターを屠ってきた
――まともに戦ったらまずいかもしれない!
筋肉隆々の偉丈夫が再び剣を振るう。
真正面から剣を受けたらホウキが壊れる、そう判断した
そして左手に持っていたバケツからクンチョールのスプレーを取り出す。
「……くらえ!」
思い切り噴射ボタンを押すと、あのデビルスパイダーを秒殺した殺虫剤がテージャスに向かって勢いよく飛び出す。
「はは、毒か!? まさか毒でこの我を倒そうとするとは!」
テージャスは笑ってアシの剣で殺虫剤を薙ぎ払う。
「我はこんな毒ごときでは死なんぞ!」
「じゃあこれはどう?」
今度はカビ取りスプレーを取り出して、テージャス本人ではなくアシを狙ってノズルを握る。
霧状の洗剤がばらまかれる。
「また毒か?」
カビ取りスプレーは金属を腐食させる。
これでアシを腐食させられないかと思ったのだが――。
「ふん!」
洗剤がまとわりついた剣を、テージャスは大きく一振りする。
振り払われた洗剤はビシャッと音をたてて床に落ちた。
床が煙を出して溶け始めた。
「ははは、面白いことをする。だが、このアシがその程度の薬剤でどうこうできるわけもなかろう!」
テージャスは笑いながら踏み込んでくる。
「さあ、命を差し出せ!」
すさまじいスピードで繰り出されるテージャスの攻撃。
それを
ポリプロピレンでできた穂先がだんだんと削れていった。
「ふん、なかなかの腕だが。そんな武器とも言えぬホウキで我を倒そうというのが間違いだ!」
テージャスが剣を巧みに使ってホウキの柄に斬り付けた。
だが、そこまでだった。
テージャスがまっすぐに振り下ろした次の攻撃で、
メキッ! と嫌な音をたててホウキが折れた。
「
背後から
「ははは、それでどうするつもりというのか!」
テージャスが剣をクルクル回転させながら笑った。
そして今度は剣先で突きかかってきた。
それを
ただのスポンジなのに、
そのまま
バケツがバキバキに割れて飛び散った。
――まずい!
手に持った武具はもうスポンジだけ。
もはや、
目の端でアンティアがしゃがみこんでニヤニヤ笑っているのが見えた。
「これで終わりだ! お前の死をもってサンジーヴァニは渡してやるぞ!」
テージャスが剣を大きく振りかぶって――そして
「
「
伝説の剣、アシ。
その一撃を、スポンジだけで受け止めきれるわけはない。
血のつながっていない義理の両親。
教室で
ブラック飲食店の店長。
小梅。
ケーキにロウソクを差す
――ああ、駄目だ――。
神話にも描かれた伝説の剣。
その威力は強大だ。
その攻撃を、スポンジ一つではどうあっても防ぐことはできないだろう。
振り下ろされるアシの剣先が、スローモーションのように見えた。
「来た! 早く!」
来た?
何が?
誰が?
ああ、でももう私は真っ二つに斬られてなにも考えられなくなる――。
その瞬間。
ギィィィン! という金属音が響き渡った。
目の前に見えるのは伝説の剣、アシ。
そして、それを十字に受け止めている二本の剣だった。
なびく黒髪、翻るスカート、セーラー服の赤いリボン、黒いローファーに白いソックス。
伝説の剣、アシを受け止めていたのは。
この世に存在するありとあらゆるものを斬れるほどの鋭く強靭な剣。
光り輝く
「間に合った……」
「アカリちゃん!?」
アシを受け止めた
「く……折れる……!」
アカリが呻きを漏らす。
「なんだお前らは!?」
叫ぶテージャスに向かって、白い馬体が突っ込んでいく。
「ぬおっ!」
それをすんでのところでかわすテージャス。
白馬――いや、白いユニコーンの背に跨る女性が言った。
「こないだの借りを返しに来たよ! お土産ももっちょるけん!」
「シーコさん!?」
「ほらよ!」
馬上からシーコが投げてよこしたのは、柄の長いホウキだった。
「東京京橋の老舗、黒川傳兵衛謹製の最高級江戸長柄箒‼ ウチが直々に買ってきたんよ! 3万円もしたんだから大事に使いな!」