ガバガバ近代日本史(世界史) in 惑星パラドックス 作:AKI久
1853年(-10) 黒船来航
1863年(×) 薩英戦争
1868年(+11) 大政奉還、明治元年
1868年(×) 戊辰戦争
史実より開国が10年も早かったのに、明治へ移行するまで10年以上遅れるプレイヤーがいるらしいっすよ。
「今日は世界史から見た公武合体をやるぞ~」
「だから日本史でやるからいいって。それよりヨーロッパ史がいいです」
「新選組! ついに新選組!
侍になった者、侍になれなかった者、侍になってしまった者達がついに出るんですね!
鴨さんメインでオナシャス!」
「どうせアヘン……」
生徒達は素直に席に着きながらも、口々に好き勝手言っている。
―――――
「1843年の黒船来航から64年の公武合体をメインにやってくぞ~」
教師が白板に向かい、その区間で重要な出来事を次々に書いていく。誤ったことを教えないように、授業用資料をタブレットで表示しながら記していく。
「まずは前回のおさらいからだ。
イギリスが開国を要求し、徳川幕府はそれをすぐに受け入れた。これにより天皇を国のトップにし、外国勢力を追い払おうとする尊王攘夷派が台頭し始めた。ここまではいいな?」
「新選組! 新選組が取り締まったんですよね!」
「そうだけど落ち着け~。
史実ではアニメやマンガみたいに尊王攘夷は幅を利かせられなかったんだ。実は攘夷志士は鬼で夜に潜み国を壊すことを目論む化物でも、異国を招き入れるような悪でもなかった。つまり、新選組は陰陽師でもないし、悪の側に潜り込んで間者を炙りだした訳でもない。反体制派を取り締まる秘密警察的なものだったんだ」
「……そんなの、知ってますし……」
新選組に限らず、人気の題材を扱うときは生徒が興奮してしまいがちだ。そのこと自体は私人としての教師にとって共感できることではあるが、公人としては妨げになりかねないため困っている。だからといって、素気無く扱えば生徒の学習への意欲を削いでしまう。その塩梅を上手く調整できるものが一流の教師だとされている。
「まあ、彼らの精神は今でも生きている。
公開はされていないが、現代の公安も局中法度のような厳しい内部規則を守っているらしいぞ」
「おぉ! どんなのですか先生! 教えてください! どうせ知ってるんでしょ!」
こういう生徒は毎年いる。恐らくただの好奇心なのだろう。
だが、教師にはどんな者であっても公安を探ろうとする者を伝える義務がある。本土以外の土地からスパイとして若者が送られて来ているかもしれないからだ。歴史の教師達にとってはいつものことで、その結果何かが起こるようなことは滅多にないと頭で理解もしている。だというのに、どうしても胸の中に渦巻くものが生じてしまう。白板に向かい、生徒に今の顔が見られなくて良かったと教師は心の奥底から思った。
「知らん。
ともかく、攘夷志士の反乱は起きなかった。これは外国との唯一の窓口であった九州に幕府が積極的に投資したこと、それにより当時の知識層でもあった侍が国力差を把握していたこと、そしてイギリスに強制された自由貿易と国境開放が日本の経済を上向けたことがあげられる。ここでの国境は、開国と国内の藩間の移動の自由を保証したってことだぞ。
論述問題はこの3点を抑えておけば、部分点はもらえるぞ~」
板書するべき内容はもう残っていないが、教師は振り向かずに続ける。
「確かに経済の面からは開国の強制は喜ばしいことだったが、人々の感情はそう単純にはいかない。それまでの二百年を支配し続けた武家の頭目が、戦いもせずに降伏したことが問題なんだ」
「何言ってるんですか。さっき侍は力の差を理解してたって言ったじゃないですか」
まるで今の自分のようだと教師は口に出さずに自嘲してしまう。だが、生徒へと向き直るには丁度良い話題だ。多少変わった顔をしていても生徒達は気にしないだろう。
「それはそれ。これはこれ。
現代の人間には絶対分からない感覚なんだろうが、例えるとしたら突然知らない国の奴が好き勝手して、それを国が放っておいてく感じなんじゃないかな。
相手にムカつくのは当然としても、そんな弱腰で何やってるんだと行政を責めたくなる気持ちも分からなくはないだろ? 侍なんだから戦えよって。
だから、絶望的な戦力差でも1900年代の大陸の国々は大日本帝国と一度は戦ってから保護国になった」
教師は白板に記した1843年にアンダーラインを引く。
「本題に戻るとして、体制への反対派が増加した。だけど大きな反乱までは行かなかった。
それに対して幕府は朝廷と一体化し権力の強化と国内の安定化を図ったのが公武合体だ」
「ロイヤルウェディングですよね! 『和姫』で見ました!」
生徒の反応を受け、1864年にも下線を付け足す。そして、その二つを結びどれだけの時間が公武合体に必要だったのかを視覚的に分かりやすくする。
「わかる~! 白無垢を西洋のドレスと比べて、姫が白無垢を選ぶのがいいんだよね~!
同じ白でも飾りの少ない白無垢の方が清純そうだからっていう理由で、自分の好みより優先したんだよね~!
旦那様に尽くす健気さと確かな誇りと賢さが見え隠れする、まさに大和撫子なシーン!」
色恋の話が出ると女子生徒達はすぐに盛り上がってしまう。教師にとって、その鈴が転がるような声は今のささくれだった心を癒し、隠すのに役に立った。
「はいはい、私語はそこまで。象徴的だがそんなに世界史的には重要じゃない。
公武合体の条件として孝明天皇は自由貿易の廃止と国境閉鎖を要求した。ここでの国境は国内の国境、藩や地域間の移動を制限する方だからな」
「分かり辛! 地域間移動の制限とかに名前変えろよ!」
男子生徒の直截なツッコミが教師の口角を自然と上げる。勝手に脳内に自分の恩師の姿が浮かび、彼と同じように対処することにする。いつか、自分と同じことを思う生徒もここにはいるのだろうと余計なことまで考えてしまっている。
「俺も学生の時通った道だ~。諦めろ~。
という訳で43年の開国から20年近くかけ天皇の要求を満たし、交渉を上手くまとめ、64年9月25日の和宮殿下の降嫁をもって公武一体化が為されたと世間に公示された。それを受け、元々大した運動もしていなかったが、尊王攘夷派の重鎮達は活動終了を宣言した。ここに開国後の動乱は決着したとされている」
「さっき納得できないみたいな話してたじゃないですか!」
「経済発展はもちろん、夷狄に対抗するための海軍の増強、何よりも幕府が天皇の要求全てを飲み込んだことで尊王の姿勢を示したことが大きいんだろうな。それでも暴れようとする過激派は、この期間に結成された新選組の検挙や成敗されていった」
歴史作品の彼らは勇ましく、侍の心が失われ始めた時代にあえて逆向する傾奇者だ。だが、その取り締まりを受ける者はどうだったのだろうかと、その後継組織に現在縛られている教師は思ってしまった。
「そして、徳川家慶将軍と和宮殿下が頻繁に文通していたことも有名だった。そのおかげで直接顔を合わせたことも無いのに、お互いのことを知り尽くしていたなんて逸話もあるな。
ここまでお膳立てされていて、仰ぐべきトップも満更でもないなら家臣が反対し続ける訳に行かないだろ」
「その話は色んなラブストーリーの題材になってますよ! もっと語って! ほら先生、語って!」
「それより新選組で何番隊が好きか聞かせてください! それで先生の性格を暴いちゃります!」
教師の複雑な内心など知らず、古の恋物語に思いを馳せる女子生徒。今か今かと新選組の逸話を待ちわびている男子生徒。そんなキラキラした子供達を見ているだけで、教師の胸中に渦巻く感情が凪いでいく。
生徒の誰一人として板書や教科書なんて見ていない。そんな退屈な文字列よりも、歴史の出来事を多角的な視点から観察し、自分たちに分かりやすく工夫して説明してくれる教師の言葉を求めている。
「それは日本史に任せる。いや、語っていいなら語りたいんだがね。
具体的には『七千三百日の飛脚』とか、この件をきっかけに三井が大企業化したとか、新選組最強議論とか。
まあ世界史的にはこの区間の幕府の外交が重要でな。時間的にもそっちを教えたら今日は終わりだな」
―――――
教師はホワイトボードマーカーを置いて、時計へと目をやる。説明しきるには心もとないが、出来ないわけでもない残り時間が示されていた。
「開国後にどんな国とやり取りをしていたのか答えてみろ。そうだな、今日は7/6だから出席番号42番、分からなくてもいいから答えてみろ」
「ラッキー! チョロ問!
そりゃあオランダと仲良くしてたんでしょう。だって、今も大の仲良しだし、出島条約ってのがあったじゃないですか」
教師の想定した通りの答えが返ってきた。中学までの知識で授業に臨む者、言い換えれば予習もせずに来た生徒らしい回答だ。
「残念ながら外れだ。オランダへの貿易特権剥奪どころか公的な交易も断絶したぞ。
正解はロシアとの友好関係構築だ」
「うっそだ~! カステラとか色んな技術を教えてくれた相手を捨てる訳ないですよ!
そんなの、日ノ本らしくない! お侍様がすることじゃない!」
「先にそっちを説明してやるからしっかりノート取っとけよ~。
孝明天皇の提示した条件に外国との条約破棄があったんだ。攘夷派の気持ちを汲んで提示したんだろうとされている。
当時のオランダ商館長は、将軍と和宮内親王との結婚のためを思ってオランダ本国に条約破棄を掛け合ってくれた。その名残もあって、今でも長崎では9月25日は恋人の日あるいはカピタンの日として祭りが行われるそうだ」
どうでもいい豆知識を付け加えることが、記憶を定着させる上で有効だとされている。カピタンの意味を知れば、数は少ないだろうが将来ポルトガル語を学ぶ者の役に立つかもしれないと教師は思う。ただその意味を伝えるだけだとオランダ語と勘違いしそうだなと考え直し、補足も加えて説明しようとするが、視界の端に捉え続けている時計の長針がそれを押しとどめた。
「幕府も、朝廷も、オランダ人も、そして蘭学を教わった者達もそんなことはしたくなかっただろう。イギリスという強大な敵相手には、仲間が多い方がいい。
だが、時代が許さなかった。一言で言えばそういうことなんだろう。
まあ公武合体の後はすぐに国交を回復し、オランダ東インド諸島の反乱鎮圧の手伝いもしたんだけどな。ここに関するエピソードも数多くあるが、それも今日は脇に置かないといけないから無しだ」
「えぇ~! いいじゃん! もっとエモい話聞かせてよ~!」
生徒の声を打ち切るように教師はマーカーを持ち、日本列島周辺の簡単な地図を描く。
線がぶれていて北海道がトゲトゲしたなにかにしか見えない。生徒も何なのか分からないようで、シャープペンシルを強く握り、慎重にノートに写そうとしている。
教師は地名を書き込みながら授業を続けた。
「はいはい、それよりロシアだ。
幕府にとってロシアは海を挟んで存在する大国、千島列島や樺太からみれば驚異的な隣人だ。そんな列強に責められてしまえば、せっかく大過無く開国できたのにおじゃんになってしまう。だから、様々な手を尽くして関係改善を行っていた。
その一つとして、アヘン戦争後に軍閥に分かれた清国の一部の解放を無償で手伝うこともしたんだ」
現代に至っても、あの帝国との関係を国は重視している。大陸生まれの生徒の中にはロシアにルーツを持つ者も少なくない。そういったことから無駄に感情を逆撫でしないように言葉に気を付けるよう、教師は教員研修で口を酸っぱく指導された。
「あぁ~ロシアと仲いいですもんね~。
ボランティアで協力したことが今につながったんですね」
「そういうことだ。
その縁もあって、西欧社会に日本が認められる際にロシアが多大な助力をしてくれた。
おかげで69年に国際社会デビューが出来た。その時に国家ランク、まあ国の総合的なスコアみたいなもんが再計算され、列強6位、つまり世界の上から六番目の国力を持つとされた。
そんな派手なデビューのせいで欧州各国に薄っすら嫌われたんだがな」
「えっ、それってメッチャ強いんじゃないですか?」
教師は生徒の発言に答える前に今一度時計を確認する。正解を伝える時間はある。
だが、教師は口を開かず、生徒達に背を向けて白板を消す作業を始めた。
「上にはイギリスとフランスとドイツ……あとは……」
「まだこの時代にはドイツ出来てないだろ。ない……よな?」
「アヘンどこ……アヘン無くない?」
生徒達は自国が昔から強国だったことに驚いている。直前まで外国の言いなりになってしまったような弱い側面を学んでいたせいもあるだろう。
ただ一言、正しい知識を教えた方が効率的だ。教科書のページを示すだけでも解決する。
そうだとしても、教師は生徒がお互いの知恵を分け合って考える姿を見守ることを選んだ。
少しすると教師の声とは違う高い音が教壇の上から流れる。
「チャイムが鳴ったからここまでだ。どんだけ凄いか教えたかったんだがな。
まあそれは世界史というより日本史だからな……。
次に日本を扱う時は東郷平八郎のクーデターまでをやるからしっかり予習しておけよ~」
プレイ中:
・なんか昔より開国後の実業家弱くね……?
そんなこんなで大政奉還がかなり遅れる。大名を中々政府から外せなくて辛い。
・国内治安に新選組……?
よく分からないまま史実再現ぽいので選ぶ。これといい侍といい、日本の固有が多くなったことに困惑する。楽しいけど、地味にWikiで効果を見直す時に辛い。
・ロシア怖い。
海軍の仕様がかなり変わってよく分からないので戦争にならないよう立ちまわる。貿易特権やらを渡しまくる。後から思えば、多分必要なかった。その癖、サハリンには植民する。