ガバガバ近代日本史(世界史) in 惑星パラドックス   作:AKI久

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現実:()内は惑星パラドでの年号との差
1673年(+196) 三井(越後屋)の起業
1691年(+172) 住友(別子銅山の開鉱)の起業
1867年(+12) 大政奉還
1873年(+57) 大政奉還後、初めて万博に参加
1886年(×) ノルマントン号事件を受け、国民が国際社会に注目


第三講 箱物行政の産声(1864~1886)

「今日は1864年の公武一体化後から1886年の東郷平八郎のクーデターまでをやるぞ~」

 

「……元帥の話なら、ヨーロッパ史を我慢してあげてもいいですよ」

 

「アヘンの出番は流石になさそう……」

 

―――――

 

教師はマーカーを掴み白板に向くが、思い直す。一つの歴史的な出来事を説明するだけなのに20年も前の話から始めては生徒達が混乱してしまうだろう。ホワイトボードマーカーを持ったまま、首だけを生徒の方へと向ける。

 

「東郷平八郎海軍元帥がクーデターを図った理由を理解するには、それまでの日本社会の変化を把握しないことには始まらない。少し遠回りだけど、付き合ってくれよな~」

 

「それ日本史じゃん。別に世界史でやらなくてもいいでしょ。

無二の五つ星と関係ならヨーロッパ史でいいじゃん」

 

生徒の反論に教師は言葉を返すことができない。全くその通りだからだ。

勿論、この事件が全く世界に影響しなかったという訳ではない。人気の高い英雄の足跡を追うことで、世界史とはただの教科書上の文字列ではなく、人の感情や考え、そして各人の積み重ねこそが歴史を作ったものだという理解の助けになるだろうと教師は考えている。

 

そして、縁遠い外国の話ばかりになりがちな世界史と生徒を繋ぐ一助にもなるだろうという目論見から、教師は取り扱うことにした。

 

言うまでもないが、教師自身が語りたいという私情もある。

生徒の言葉を無視し、世界から見た当時の日本について説明する。

 

「国際社会に参加した後の日本の国力増加は凄まじいものがあった。ということは、外国から厳しい目線を向けられるようになるということだ。直接というよりは、その後の歴史の流れを理解する助けになるからだな」

 

「そんなこと言って~、せんせが話したいだけでしょ~。

この間は語れなかったもんね~」

 

別の生徒に教師の意図は読まれてしまっていた。好きなものを語りたいという欲求は、年齢や立場が変わったからといって生まれないものではない。教師は咳ばらいをし、先週の小まとめを一息に話しきる。

 

「はいはい、前回のおさらいからだ。

1869年にロシアの助力もあって国際社会入りした後、徳川幕府は国家ランク6位の列強入りを果たした。これは、国際貿易や他国との外交に好影響をもたらした。

分かりやすく言えば、どこの馬の骨とも知れないアジアの未開人より、よくは知らないが西洋社会に加わろうとする意欲を持ってる奴の方が取引相手として信用できるだろう」

 

「先生、当時の日本やアジアを舐めすぎじゃありませんか?

オランダ東インド諸島はゴム産業で栄えてますし、天の共和国*1は世界中にアヘンを供給しています」

 

「そういう時代だ。今じゃそうは思えないだろうがな。

そうだな~、今と当時の分かりやすい違いで言えば服の供給量だな。今じゃあ余り過ぎて外国に売りつける位だが、昔は足りなくて仕方なかった。文字通り擦り切れるまで着て、当て布で修理して使っていた。今でいうパッチワークだな、おしゃれ目的じゃないぞ。

それこそ、前回のロイヤル・ウェディングで白無垢しか選べなかったのはそんな背景もあるとも言われているな」

 

教師はあえて女子生徒の食いつきが良かった俗説を持ち出した。

 

「えっ! それと関係があったんですか!」

 

「いや、御姫様が晴れ着とはいえ用意できないってことはないでしょ」

 

本土外出身ではない生徒は、フラットに国の権力者を見れる傾向がある。教師にとって、授業が脇道に逸れすぎないよう本筋に戻してくれるため助かるものの、舌禍が過ぎて秘密警察に報告しなければならないか少し不安でもある。

 

「事実は知らんが、臣下を慮ってとかだろうな。

こんな話が瓦版を通じて社会に広まったせいか、幕府は勿論民間の企業も衣料品をどうにかしなければと考えた。そこで台頭したのが三井だ。養蚕・染料・織物・石炭を主に取り扱い、幕府の後押しを受け大企業になった」

 

「あぁ~うちの毛布も富岡シルクだわ。そんな昔からあったんだ。

てゆうか服屋より、総合商社のイメージだわ。ららぽーととか作ってるし」

 

「今ではそうだよな~。

絹糸はレーヨンで代用できるし、石炭じゃなく石油で発電になったから当時主流だった産業は下火になってしまってる。そこは時の流れってやつだよ」

 

当時から百年以上たった現在とでは状況が異なる。とはいえ、近代であるから現代に直接残っている存在も少なくない。それがかえって、知識の混同を招いてしまわないように歴史教師は気を付ける必要がある。

 

「当時は、衣料品の生産と流通を全て担おうとしていたんだ。服の原材料である絹と染料、インクじゃなくて藍とか茜を自前の農場で調達し、織物工場で高級な服を生産する。それで各地に配達するのに必要な石炭、ああこれは鉄道用だからな、これを安く仕入れることで鉄道会社に便宜を図ってもらう戦略をとっていたんだ。

まとめると、素材調達から加工、流通までを一手に担ったってことだ」

 

教師は白板に簡単な流通工程を描く。文字ではなく簡単な絵にすることで、産業構造について詳しくないであろう生徒達が直観的に理解できるように努めた。ただ、教師は染料の絵は何を書けばいいのか迷い、赤と青のホワイトボードマーカーでインク瓶を描いた。

 

「そもそも高級な服ってなんですか? 普通と違うの? ブランドもの?」

 

教師は想定外の質問を受け、マーカーを強く押し付けてしまう。インクが白板に強く残る。教師は後で消しづらくなってしまった事を、本日の日直に少しだけ申し訳なく思う。

 

「あ~そこを説明し忘れていたな。ごめん、ごめん。

絹っていうのは蚕からしか取れないから高級だったんだよ。表面の光沢や手触りがいいから人気もあった。普段着にするのはそれこそ特権階級くらいだっただろうな」

 

教師は絹やそれを用いて生産された衣服の特徴を板書していく。染料や石炭で躓くと思い補足をしながら説明したが、生徒にとっては別の部分の方が掴みづらかったらしい。

最後に肝心の三井が躍進した要因も白板に並べていく。

 

「この産物を主力商品にした理由としては、主に3つが挙げられることが多い。

まずは国内需要を満たすためだ。既に教えたように徳川幕府下の社会では絶対的な服の供給量が足りなかった。高級品のついでに普通の服も作っていたからな。

まあ、そっち用に必要な布の生産は足りなかったんだがな」

 

背後から飛んでくる生徒のツッコミを意に介さずに、教師は白板への記述と説明を止めない。

 

「次に外貨獲得のため。当時西洋ではアジアブーム、ようは最近注目されるようになった地域への興味がヨーロッパの上流階級で流行したんだ。ジャポニスムやシノワズリなんていわれるが、詳しくは文化史で扱うから後回しにするぞ。道具や鉱物よりも服や絹の方が軽くて輸出しやすいっていうのもあっただろうな。だから、軽くて高価な商品として選ばれた」

 

「ポケカとかめっちゃ高いらしいね。弟がパックも買えないって言ってたわ」

 

「あれは転売だよ。流行っては……いるか……ちょっと変な形だけど。まあお金にはなるよなね

 

「最後に国家の威信のため。

姫君にそんな思いをさせるだなんて幕府は何をやっているんだという声もあった。公武一体化で情勢は落ち着いたとはいえ、そういった声を無視するわけにはいかない。

こういった理由から幕府は三井を様々な面からバックアップし、無事大企業になったという訳だ」

 

「やっぱり『和姫』は昔も人気だったんですね!

政治の表に立ってないのに、国を変えちゃうなんて凄いです!」

 

「やっぱコイバナはみんな大好きっしょ!

源氏物語も万葉集もラブばっかだもんね!」

 

そこは重要ではない。ただ生徒の興味をひくために付け足しただけだというのに生徒達はそちらに意識を取られてしまった。これほど多くの情報を話しながら書いたというのに結局興味を引くのはそこかと、教師は内心で嘆息する。

 

「はいはい、まあそんなこともあって三井には、当時の幕府が用意できる最先端の設備と最大級の規模の工場を調達できた。設立されてから10年も経たず、1877年には三井は独自にして世界最高級の絹、富岡製糸場をこの世に生み出した」

 

「先生、富岡糸だったり富岡シルクじゃないんですか?

それだと工場の名前になっちゃいますよ?」

 

「あぁ……それは当時の西洋での勘違いのせいでな。

輸出で納入された絹が入った箱に生産地が書かれていたんだ。それをそういう名前絹だと勘違いした西洋人がそのまま呼んでしまったからそうなってる。インドのカシミール・ショールが人気だったせいで勘違いされちまったのかもな。テストにはちゃんと富岡製糸場(絹)って書いてくれよ~」

 

「いやそうはならんでしょ!」

 

「そりゃなるでしょ。アヘンだって中国語のアーピエンから変わったんだし」

 

様々な経験が交差する場だからこその指摘だ。本土外の生徒が同じ教室にいるとトラブルもあるが、こういった思わぬ助けがある。このような偶然の助けと出会うと、教師は何故だか嬉しさを覚えてしまう。自らの学生時代を思い出すからかもしれない。

 

「ピエンが無くなってぴえん……ってか!」

 

「聞かされるこっちがぴえんに決まっとるやろ! もっと上手い洒落を言いなはれ!」

 

京都出身の女子生徒が厳しいツッコミをしている。教師はお笑いに厳しいのは大阪なんじゃないかと思いながらも本題へと戻す。

 

「一旦ここでまとめるぞ~。

徳川幕府は国際社会に参画後、爆発的に経済発展した。その代表例の一つが三井だ。

そんなこんなで1876年にはフランスのGDPを抜いて世界4位になった。国家ランクはまだ6位のままだが、自力は付き始めてるってことだ」

 

―――――

 

「つまり、日本は産業発展したってこと。

アヘン! 絶対アヘンのおかげだ! またアヘンか……」

 

一部の生徒が騒ぎ出すのを流し、教師が生徒に呼びかける。

 

「それも無くはないが、まだそんなに重要じゃない。

幕府に経済力が付き始めた訳だが、並行して何に投資したか当ててみろ。

今日は7/12だから出席番号19番、答えろ。ヒントは前回の授業だぞ~」

 

指名された生徒が急いでノートをめくる。その上を目を滑らせ、ほんの少し時間を置いて口を開いた。

 

「……工業化ですか?

生糸産業はどっちかっていうと軽工業だから、鉄鋼とかの重工業だと思います。

この間工具とかの話もあったから、それに使う金属かな~って……」

 

この生徒はしっかりと前回の授業を聞いていたようだ。だが、着眼点が少しだけずれてしまっている。教師は当時の風潮や考えについてより分かりやすく、印象が残るようにせねばと密かに自省する。

 

「いい推理だぞ。それもあった。

それ以上に軍艦の生産だ。生産や修理を行う造船所や蒸気船に不可欠な機関部、ようは蒸気機関の調達だな。鉄鋼は生産の過程で必要だったから間違いではないぞ」

 

「あぁ、黒船ショックですね。当時の感情を忘れてました」

 

生徒は少しの訂正だけで正解の背景まで見通した。今度のテストは期待できそうだと教師は内心でほくそ笑む。

 

「それもあるが、国際社会に参加するためには外国へ向かえる足と、外国船を迎え修理する用意をしなければならなかったんだ。

今みたいにスマホもタブレットも、勿論電波も無い時代だったからな。まだ電話も無いぞ。ようは直接足を運ぶか、手紙や伝言を頼むしかなかった。どちらにしても誰かが赴く必要があるってことだ」

 

「はぇ~私、絶対生きらんないわ~」

 

教師は一度ホワイトボードマーカーを置く。そして時計を一瞥した。

本日のメインテーマに辿り着くまで中々の時間がかかってしまった。だが、長針の一からして説明しきることは出来そうだ。それどころか、少しなら余談も入れられるかもしれない。

 

「この海軍の拡張、というより創設に奔走したのが東郷平八郎だ。

当時外国と最も近かった九州に巨大な造船工場を建てる上で、薩摩藩士の家庭に生まれ、まだ青年と言ってもいい年齢の彼に白羽の矢が立てられた。その経緯については日本史でな」

 

「『若薩摩、海を駆けよ』で見ました! めっちゃ方言がいじられてました!」

 

「いやいや、あれがいいんじゃん。界隈では方言系イケメンのパイオニアだよ。

実際の写真を見てみ? 顔がいい……って三次元でなるから」

 

教師の予想通り、生徒達は色めきだした。

 

あの主演は線の細いイケメン系で優男感が強く、武士らしいゴツゴツした男前の方が解釈一致だと教師は思っている。折角時代考証を頑張って小物も当時らしいものを用意していたというのに。不意に教師の視界に時計が入り、我に返る。

 

「はいはい、ナマモノはそこまでにしとけ~。

そんな経緯もあって、76年頃には軍艦40隻を有するまでになった。作っただけじゃなく、停泊出来るスペースも作ったと考えれば、凄さがより伝わるんじゃないか?」

 

「少ないな……。

もっとあると思ってた。それじゃあ『軍艦、言えるかな?』の1番にも足りない」

 

生徒達は想像よりも少なすぎて困惑している。日本と言えば戦艦、戦艦と言えば日本だという国民意識を揺るがされてしまったのかもしれない。

 

「十分多いぞ。黒船来航の時は0隻だったことを思い出せ~。

当時の清が36隻程度だったし、アジアにある艦隊では一番と言って差し支えないだろう。

ロシアはバルト海に主力を置いていて、バルチック艦隊がアジアまで来ることはなかっただろう。

まあ、日本は艦隊を運用できなかったんだがな……」

 

「えぇ……意味ないじゃん……。船があるのになんでさ?」

 

生徒の大半は船を用意すれば使えるものだと思っていたようだ。教師自身もかつてはその一人だった。

 

教師自身も、その疑問については全くその通りだと思う。その背景には様々あったのだろうし、ゼロから物事を始めることは簡単ではないと理解はしている。だが、もっとやりようはあっただろうとも思ってしまう。

 

「それな……一応存在感の維持や外国船の修理は出来るようになったから……。

船はあっても乗組員の養成を全くしていなかった。当然だが、パソコンも無い時代だから作業のほとんどは人力だ。そして、オールを漕げば進むような太古の船じゃない。操船技術を身に着けた人材が船に見合うだけの人数必要だったんだ」

 

教師は白板に簡単な船の絵を描き、必要とされる物品、兵士や大砲、燃料の石炭等を列挙していく。

 

「そして船団を取りまとめる指揮官の養成も必要だった。

乗員育成もまだなんだから、当然この時点ではこっちもしていなかった。

こういう時、普通は後進国は若手を先進国に留学させて学ばせるものなんだがな……」

 

「箱物行政……この時代からあったのか……」

 

生徒達の反応がそれほど大きくないことに教師は安堵する。中学校まではこういった自国の欠点はあまりカリキュラムに組み込まれない。今後はこんなことが連発するのにも堪えられそうだ。激しすぎる反発の場合、この教室ごと秘密警察のお世話になることになる。それを防ぐべく、急いでフォローを入れる。

 

「推測になるが、単純に手が回らなかったのもあるんだろうよ。

軍隊の育成には時間と金がかかる。それをしたところで目に見える利益なんて生まない。何かを作り出す訳でもないし、維持費だけがかかっていく。

陸軍なんてしばらく開国以前のままずっと行くんだぞ。銃火器も足りてなかった」

 

「やば……せめて軍人は銃が無きゃ、外国と戦えねえよ……。

それどころか、新選組と侍の違いが分かんねえよ……」

 

教師はフォローに失敗したことを自覚し、冷や汗をかく。見て取れるほど大きく首を振って、教室に備え付けられた時計を見る。

 

「あっやべ、時間足りないわ。

クーデターどころか大政奉還も話せそうにないな。ちょっと早いけどキリがいい今日はここまで」

 

*1
清分裂後、太平天国内のクーデターで出来た国。最終GDP世界4位




プレイ中:
・企業設立
研究が後回し&明治維新の遅れで起業が遅れる。Vic3素人にとって日本が地味に難しいと思うポイントの一つ。私は設立要件の建物だけはかなり前に立ててしまっていた。

・海軍の建設
Hoi4の民生品と軍用品工場みたい。(乗組員育成に気付いてない)
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