ガバガバ近代日本史(世界史) in 惑星パラドックス 作:AKI久
1860年(+19) 水戸藩主徳川斉昭死去(惑星パラドでは将軍)
1867年(+12) 大政奉還
1873年(?) 自由民権運動の開始
1885年(-6) 内閣制度制定
すげえいい空気吸ってる人が居ますね。
教室に入るなり教師は口を開いた。
「今日こそ東郷平八郎のクーデターまでいくぞ~。
これには大政奉還も関わって来るからちょっと自信ない……。
間に合わなかったら、ごめんな」
「だ~か~ら~、日本史でやればいいじゃん。ヨーロッパ史に戻ろうよ!
どうせ間に合わないんだからさぁ!」
「今日はアヘンの出番はなさそう……」
「前回の振り返りからいくぞ~。
世界史だから日本国内の政治事情はざっくりだけど気にすんな」
―――――
「日本は1870年代から80年代にかけて一気に経済成長を遂げた。その代表例が富岡製糸場を有する大企業三井だ。経済力でいえばフランスを超えて世界4位になった」
「それがクーデターとどう関係するんですか?」
教師は東郷平八郎について話したい意思が先行しすぎて、生徒を困惑させてしまった。まだこの年代について学んでいない者にとって、これら二つの事象を結びつけることは難しい。
「まあまあ、その前に大政奉還だ。
1879年8月17日に幕府制が終了し、明治天皇が国の主権者になった。その後は一定以上の財力を有する日本男児が投票する富裕者投票によって政権を担うことになった。これが大政奉還だ」
「そんなの小学生でも知ってるよ~」
「やっぱりヨーロッパ史にしよ~ぜ~」
生徒達は目先にぶら下げられたニンジンを取り上げられたかのように、授業に対して不平不満を述べ始めた。それに対し教師は、これがニンジンにどう繋がるのかを説明していく。
「これの背景を高校では教えるんだよ。
日本が国際社会に参加した後、国内で一番力をつけたのはどういった勢力だと思う?
今日は7/15だから、出席番号22番」
指名された生徒はすかさず回答をした。
「金持ちです。そこまで前振りがあれば誰でもわかります。
富裕者投票って、金持ちのためのものでしょう?」
「簡単すぎたか。
それと店主や学者といった層だな。士農工商という言葉からも分かるように、当時の彼らの身分は低い。だけど、近代化に伴って財力だけはあるって感じだ。そんな訳で政治への参加を求め始めたってことだ」
教師はその制度で主に利益を得た層を板書していく。そして、それぞれがどの階級に属しているかを分けていく。
「ようは成金ってか。身分が上の奴等は特に恩恵はなかったんだな」
「まあ間違いではないな。
彼らに対して、武士や地主はそれほど儲けることができなかった。江戸時代から貧乏侍は居たが、70年代にはその数と経済的格差がより大きくなった」
それらの階層の主な収入を書き加えていく。新興層が近代化による産業・技術発展の恩恵で商工業で収入が増加していることを記す。そして、一方支配階級は土地から得られる地代や仕官先から与えられる俸給くらいしかないことを明確にしていく。これによって白板上に、売上が伸び従業員の給金も上がる新興層、方や大名達の収入が変わらないから侍の賃金も上がらないことがはっきりと対比された。
「それでも外国相手の武力は欠かせない。そして刀は侍の矜持だから、早々に兵の動員数は増やせない。まとめると、武家も幕府もデッドロック状態だったってことだ」
「それを代表して東郷提督のクーデターになる訳ですね」
確かに今の話だけではそう繋がると思われても仕方ないと教師は反省する。
「それは更に10近く年先。まだ大政奉還の話だ。
資金力をつけた層は政治に介入できるよう権利を求め始めた。それで70年代中盤頃、そこまで大きくないが貧窮した一部の侍と手を組み軍事力を手に入れて革命を企て始めた。身分間の力関係が崩れ始めていることが読み取れるな」
「えっ、やばない!」
「やばい。
皮肉にも、幕府が主導した経済成長が、自らを倒そうとする革命を引き起こす要因になってしまった。これ以外にも、江戸時代から続いた寺子屋制度、幕府の建てた大量の大学のおかげで世界的にみて高い識字率だったことも影響した。文字による情報伝達が革命の気運を広めたってことだ」
「……なんか、悲しいね」
何時も元気の良い生徒達の声が小さくなった。それ程までに感情移入をしているとは教師にとって想定外であり、歴史の悲哀やロマンを分かち合える同士が生まれてくれるかもしれないと密かに期待もする。
「これに対し、当時の将軍徳川斉昭は1877年に投票権を富裕者に限定した選挙法の審議を開始すると発表した。これにより急進的な革命運動は鎮静化された。このことから当時の民衆は幕府を信頼していることが読み取れる。この点からも公武合体は評価されている。
分かりやすく言えば、倒そうとした相手が命乞いでテキトー言ってると思われなかったってことだ」
「一方、法案可決の最大の障害は既得権益だ。
彼らも富裕層の取り込みの必要性は理解している。なんてったって、これまで国家運営を担っていたのは彼らだからな。だが、国を担う自負や侍の誇りがあったし、それこそ成金に譲ってなるものかという気持ちもあったんだろう。今後自分の家に利益を流しづらくなるという現実的な問題もあったに違いない」
「あれ? 結構さっくり大政奉還がなされたって中学で習いましたけど?
先生の話だと揉める感じですか?」
これまで学んできた知識とは矛盾するように生徒は感じたのだろう。高校からは、政府にとっては好ましくない事実も教える。それだけ愛国心が育ったと判断されているのか、過去と今のは別と捉えられるだけの分別を備えていると国家に考えられているかは、一教師でしかない者には分からない。
「血は流れなかった。一人の死がきっかけにはなったがな。
79年1月26日、将軍徳川斉昭が薨去された。その直前に、まだ幼い次代の将軍徳川矢八の後見人として島津斉彬が指名された。彼は九州出身であり、四賢侯と評される実力を持ち、富裕層とも親しかった。つまり、幕府にも新興層にも顔が利き、前将軍から幕府の幕引きを任されたってことだ」
「将軍が亡くなった混乱はすぐに収まり、79年8月17日に富裕者投票が可決された。これを以て、長きに渡った江戸時代、徳川の世は終わりを告げた。
エポックメーキングな事態だというのに、その場に参加した大名から資本家まで皆が喪服に身を包んでいたとされている。国内での武力衝突を避け、二度と黒船来航のような事件を起こさないよう富国に務めた幕末の仁君へ、その恩を忘れていないことを示すようだったと記録が残っている」
「……だから今でも幕府は人気なんですね」
教室はしんみりとした雰囲気になってしまった。だが、それだけではないことを伝えるべく教師は再び口を開く。
「かもな。
世界史的には非常に珍しい形の政体変更とされている。
恐怖と暴力に満ちたフランス革命、清国内の軍閥が独立し群雄割拠の中華大陸といった時代に、いわゆる無血開城は特異としかいえない。
これによって国力を損なわなかったことが、その後の大日本帝国の躍進に繋がったと考えられている」
「幕末の将軍はみんな戦いを回避していましたもんね! その集大成だ!」
「そうかもな。
ここまでをまとめると、経済成長を背景に政治体制が変わったってことだ。
国を守るための工業化が親の手を離れたなんて評されるな」
―――――
一度仕切り直すため、教師はホワイトボードに書いた文字を消していく。
「今度こそクーデターに入るぞ~。
85年頃には財閥と呼べるまでに大企業は拡大していった。政府に働きかけ、ロシアやオランダと相互に投資権を与えあう条約を結ばせることに成功した。投資権っていうのは、相手の国内に工場といった施設を建設し、利益の一部を配当として受けるものだ」
「ま~た~経済のは~な~し~! 政経とまちがえてない?」
「日本史とも間違えてるぞ! ヨーロッパはいずこ!」
生徒達は産業発展の話に興味を持てないようだ。これまでのように身近な企業ではなく、耳馴染みのない外交条約では当然ともいえる。
「気持ちは分かるけど、重要なんだよ。
このように富裕層の権利拡大に伴い、普通の市民、といっても当時の身分制では二流以下の発言権が強くなっていった。そうなれば、幕府から引き継がれた政府の検閲制度にも不満が貯まる。まあ検閲自体は江戸時代の浮世絵や武者絵でもあったんだけどな。これも特権階級以外が経済的に育って発言権を強めた影響だな」
「そんな状況から、1885年に議会で検閲制度を廃止し、集会の権利を保証する法案が審議され始める。これを受けて東郷平八郎のクーデターが始まったとされているな」
「なんでですか? 東郷元帥って落ち着いた御方だって言われてますよ?
別に人が集まることに文句をつける方だとは思えないんですけど?」
生徒が教師の言に反論をしてくる。まだ授業で取り扱ってもいない人物だというのに、このような指摘が飛んでくるとは流石だなと教師は内心で呟く。
「本人の心の内は分からない。
だから、歴史家は状況や証拠から推測している。その前に彼のプロフィールを簡単に確認するぞ~」
教師は簡単ではあるが東郷平八郎の来歴を白板に記していく。これでは本当に日本史の授業のようだと思ってしまう。もう少し世界との関連を強調しようと心掛ける。
「彼は九州出身で、日本海軍の父とまで呼ばれる人物だ。みんな知っての通り、母も兼任してるなんて茶化されることもある。
海軍の立ち上げから軍艦の生産、指揮や管理・運用までやっていたからな。そんな背景から、当時の日本全ての軍艦100隻は彼の下にあった。まあまだ十分に艦隊の指揮や管理をできる人材が他に居なかったからとされている。そういう訳で、当時唯一の提督にして海軍元帥だった」
「船って色んな所に行くからオーバーワークでは?」
「電話とかないはずっすよね。どうやって指揮してたんすか?」
次々に的を射た質問が飛んでくる。生徒が教えられた言葉を鵜呑みにせず自己なりに解釈するのは私人として喜ばしいが、教師としては回答に困る。
「そうだな。先生も訳が分からん。手旗信号とかじゃないかな?
ここらへんの海軍事情は謎過ぎて専門家も困ってる。それだけ開国からの混乱や幕藩制による出身派閥の名残といった障害があったんだろうとされてるな。東郷平八郎が有能過ぎたのも一因だ。天才過ぎて後世が困るってのがこの時代にはあるんだよ。
政治のビスマルク、海の東郷なんて茶化されることもある。両方後が困った」
生徒達は不思議そうな顔を浮かべている。教師はドイツの鉄血宰相に食いついてくると思っていたが、一切そちらに対する反応はない。
「性格的には几帳面で直接的な人物だとされている。薩摩隼人らしいとも捉えられるな。だから、クーデターの企ても早い内から政府に伝わってしまったとされている。
一説には、将軍徳川斉昭の七回忌も済まない内に恩を忘れて利権拡大に努める集団に憤怒し、撃鉄を与えるだけのためだったと言われているな。つまり、国を割るつもりまではなかったと考えられている。幕府の苦労を共に分かち合った仲だしな」
「そこはドラマのイメージと変わらないんですね!」
「昔気質の九州男児って感じだよね~」
先ほどとは打って変わって明るい声を挙げる生徒達。人気者が出るだけで授業に集中してくれるのは、教師にとってありがたい。
「じゃあ話を戻すぞ。
そんな人物が集会の権利の制定に反対し、クーデターを画策し始めた。自然と彼の経歴や思想からすぐに賛同者が集まり始めた。
同郷や同じ志を持った侍、彼が国防のためにどれだけ尽くしているか知っている者にとって、彼が動こうとしているという事実は重すぎた。
まだ東郷が声をかける前の最初期段階で前田陸軍准将が押しかけて来た。その後も同じく陸軍の白川好古が合流し、陸海軍はその法案に対して完全に反対の姿勢を取った」
「えっ……めっちゃやばない? 誰が戦うの?
大政奉還の時は侍の一部は残ってたよね?」
軽薄そうな見た目をした女生徒も今回の授業前半とこの事件を結び付けられている。これなら教室全体の理解は十分そうだと教師は確信し、続きを話す。
「やばいを超えてる。
国の兵士は完全に侍で構成されていたから内戦にもならずに終わる。そういう訳でクーデターの気運は高まる一方で、止める良策も抵抗の手段もない状況に政府は陥った。はっきり言って、外患誘致で対処するか無抵抗で受け入れるしかなかった」
「一人の男が立ち上がったんですよね! 『隼人の一分』で見ましたよ!」
「『沈黙の提督』もいいよ~!
外では寡黙なダンディーが、立派な船長室では毛布にくるまってガタガタ震える姿がネ……母性をくすぐるんだよ~」
「まあここについては知ってる奴も多いだろうな。
そんな状況下で東郷平八郎は全艦隊を率いてインドシナに向かった。これは国内を離れることで高まり過ぎたクーデターの気運を抑えるためだと考えられている。加えて、この動乱に乗じてイギリス等の西欧勢力がマラッカ海峡を超え攻めてこないよう監視していたともされている。その時、日本近海から国防のための海軍は居なくなったしな。実際、彼の艦隊はそれから1年ほどそこに滞在した」
この授業が何であるかを意識させるため、あえて一段大きく声を張る教師。
「世界史的に重要なのは、ここでの滞在でオランダ及びその属国であるオランダ東インド諸島との交流を結べたってことだ。後々勃興するゴム産業に協力できた遠因でもあるし、そのつながりでパプアニューギニアという植民可能な地域が残っていることを日本は知ることができた」
「いや、東郷提督の方が重要でしょ。日本が海軍国家になったのは元帥のおかげだよ?」
「日本史でやれ。ミン先生、東郷ターンについてめっちゃ詳しいから楽しみにしとけ。
俺も色々語りたいけどさ~、ここまで前回で終わらせる予定だったんだよ~」
「せんせ~時間配分苦手なんだね~。間に合うはずないじゃ~ん」
壁にかけられた時計は、既に授業時間の半分を超えていることを指し示している。教師自身としては日本史と被る部分を省略していたつもりだが、当初の予定は机上の空論にすぎなかったらしい。
「外国から見ればこれまで日本はすぐに敵対者に跪くチョロい奴、事なかれ主義だと思われていた。戦わずに開国するし、国内の声に負けて大政奉還もした。当時の帝国主義、啓蒙思想の流れでは軽んじられて当然だ」
「あれ、もしかして舐められてたんですか? 日本ですよ? 列強ですよ?」
「普通に舐められたよ。
当時的には未開のアジアの強国が弱腰なんだから、啓蒙してやろうって思うだろ。
今回のクーデター騒動で、本当に受け入れられない事柄に対して明治天皇は絶対折れない、海軍全戦力相手でも断固とした姿勢を示す大胆な君主であり、徳川幕府とは違うと諸外国に印象付けた。勿論、国内の新興勢力にもな」
「皮肉にも、侍の忠義が武家の頭領を弱く見せてしまった。
近代日本の歴史は血に彩られている、それは敵ではなく侍が握りしめた拳から流れていた。なんて評する西洋の歴史家もいるな」
「はえ~、この一件って中学まであんまり勉強しなかったけど重要だったんすね」
「それで情勢が落ち着いた頃、クーデターの容疑で東郷平八郎は京都に召喚された。彼は召腹も許されないだろうと辞世の句を携えて向かったが、明治天皇直々に軽微な罰を言い渡されただけだった。当時の彼への人気は地に堕ちたが、それだけで海軍元帥のまま退役まで勤め上げた」
「人気なかったんですか⁉ 一人提督ですよ⁉」
「まあ天皇に直接叱られたし、国民からすれば勝手にどっか行った海軍なんて好きにはなれないだろ。
東郷提督や将軍徳川斉昭は後年になって評価が変わった人物だな。増長した田舎者と刀を抜くことも出来ない将軍なんて言われていたなんて記録もある」
生徒が反応する前に教師は続きを話す。この後のことを思えば、あまり時間に余裕があるわけでもない。
「話を元に戻すが、東郷が許された理由には様々なものが挙げられる。
さっき教えたメリットがあったからとも、それまでの忠勤を思ってとも、下手に処罰すれば今度こそクーデターが起きる危険からとも、そもそも彼以外に海軍を動かせる者が居なかったからとも考えられている」
「冷たいな……。なんか合理的な理由ばっかりだ」
「個人的には、1年も大艦隊を駐留させられたオランダが文句を言ってこなかったことから、そんな離れ業を為した東郷の外交力を評価したんだと思ってる。まあどれが主要因かは分からないが、それだけ彼が大人物だったってことでここは一つ手を打とうじゃないか。」
「まとめると、禍を転じて福と為す、禍福は糾える縄の如しってことだ。
という訳で、小テストの時間だ~!」
生徒達の悲鳴が教室内を満たしていく。
プレイ中:
・徳川矢八
誰?
・清分裂
いつの間にかバラバラに。録画を見ても、国内しか気にしていなかったせいで分からない。ついでにいつアメリカが分裂したのかも分からない。
・東郷平八郎のクーデター
名前聞いたことが人が暴れようとしてるんですけど⁉→外国派遣で反乱の進捗下げ。
名の知れた人なのでクーデター失敗後も登用。プレイ的には特に外交の役に立ってない。