式神のセーラー猫又ちゃんの忠義が重すぎて、異世界がハーレムすぎる 作:黒おーじ
かつて妖怪大戦争すら沈めた退魔の名門、
「いらっしゃいませー」
その最後の末裔である俺は、ショッピングモールでモップを握っていた。
そう。
あらゆる困難が科学で解決するこの令和の時代……
妖怪や悪霊の
もはや霊能力はカネにもならない。
そんなことはガキの頃からわかっていたから、勉強して大学へ行き、そこそこ良い会社に入りはしたんだけどねー。
結局なじめず5年でヤメてしまった。
それからはずっとバイトで生計を立てている。
時給は970円で、内容はモール内の清掃だった。
「鴉丸くん、上がっていいよ」
社員の人がそう言うので、俺は「どうもー」とあいさつしてバックヤードへ足を向けた。
はぁ……
正直バイトで毎月の生活費を稼ぎ続けるのはキツイ。
このまま年だけ取っていくのかと考えると、ちょっと落ち込む。
でも幸い、住むところだけは家を相続していたから、そこはマジ助かっているんだけどね。
――スポポポポポ……
俺は原チャリで山道を登り、一軒の古い屋敷の前で停まった。
これが俺んちである。
同時に、鴉丸家最後の財産だ。
「ただいまー」
と言って玄関を開けるが返答はない。
この屋敷に一人暮らしだからな。
俺は鍵を閉め、カバンを放ると、冷蔵庫から炭酸水を取り出して居間へ向かった。
「〇谷はまたホームランかぁ」
だだっ広い居間。
疲れた身体で座椅子にもたれ、テレビのチャンネルを回す。
そんな時だ。
「……」
誰もいないはずの部屋の隅に、ふと気配を感じた。
「誰だッ!」
「あ、ええと、その……」
振り返ると、そこにはセーラー服を着たおかっぱ頭の少女が立っていた。
「ここは鴉丸家でよかったでしょうか……ニャ?」
しかし、その頭には猫の耳が生え、プリーツスカートのお尻からもふわふわな尻尾が生えている。
「いかにもそうだけれど……アンタは、猫又か?」
「はい」
返事をすると猫耳がぴょこんと伏せる。
「へえ。妖怪なんて久しぶりだなあ。で、なあに? かたき討ちか?」
俺が指先に霊力を集めると、猫又はあわてて言った。
「にゃあっ!? ち、違います! 私は清十郎さまの式神で、聡子と言います。決して逆らいませんニャー」
なんかビビり散らしている。
少なくとも敵意はなさそうだが……清十郎?
名前にピンときた俺は、隣の部屋の和室の押入れを開き、一つの巻物を引っ張りだした。
代々伝わる家系図である。
「ええと、俺の親父の、親父の、そのまた親父……」
清十郎は、俺のひいじいさんにあたった。
そうだ。
たしか、俺が生まれる前に『異なる次元の世界』へ行って、そのまま帰って来なかったひいじいさんがいるって聞いた覚えがあったな。
「あなたは鴉丸家の跡継ぎですか? にゃ?」
「そうだ。ここの
俺は巻物の一番最後に書かれた名前を指さした。
「それでは申し上げます。この度……清十郎さまが異世界の地でお亡くなりになりました」
「……はあ? つーか、今まで生きてたのか?」
「はい。享年103歳ですニャ」
すげえ。
「葬式とかある?」
「いらないと言っておられましたが、ささやかながらお墓を作りました。ご案内いたしますニャ」
「ああ。頼む」
セーラー服姿の猫又――聡子は、しっぽをひるがえすと、屋根裏へ続く梯子の下へ向かった。
そこは普段、古い座布団やら壊れた掃除機やらを突っ込んでいる物置同然の空間だ。
「こちらですニャ」
聡子はそう言って、俺がずっとただの板壁だと思っていた、なんでもない場所に指をかける。
――ズズ、ズズズズ……
板壁は、何食わぬ顔で横へ滑っていった。
その向こうには真っ暗な洞窟のような場所が見える。
「……この屋敷にこんな謎空間があったんだな」
俺は玄関からクツを持ってくると、そーっと足を踏み入れた。
「どっかに繋がってんの?」
「すでにここは異世界です。あちらから外へ出られますニャ」
たしかに、向こうの岩壁が薄ぼんやりと照らされている。
そんな洞窟空間を抜けると、そこは陽の光にあふれた野原であった。
「うーん、たしかに異世界のようだな……」
そう。
家の外はすでに夜だったはずだが、ここはどう見てもまっ昼間だ。
草木も日本のものとは微妙に違う。
それに……
心なしか霊力が湧き出る感じがした。
「のどかな野原だな」
「にゃー」
スペースは小さく、辺りは森に囲まれている。
はじっこには小屋が一つ建っていて、その隣にはお墓らしきものがあった。
小さな石に、黄色い花がお供えされている。
俺たちは二人並んで手を合わせた。
「清十郎さま……」
となりの猫又は、少しさびしそうに見えた。
家系図の中の名前でしかなかったひいじいさんだけれど……
ちゃんとここで生きて、死んだのだ。
そんな実感が腹に落ちた気がする。
「ありがとう。ひいじいさんのお墓、お前が作ってくれたんだな」
「にゃー……」
そう言っておかっぱ頭をサラサラと撫でてやる。
聡子は目を細めていたが、それでも尻尾の先だけは、少し元気なく揺れていた。
「ひいじいさんは、ここに住んでいたのか?」
俺は小屋の方を見て尋ねた。
「若い頃と晩年はここにお住まいでした。でも清十郎さまは、この世界を旅して暮らすことの方が多かったですニャ」
小屋の扉を開けると、小さな土間の向こうに、敷きざらしの布団や古い
「猫又……聡子だっけ? お前、これからどーすんの?」
「私は鴉丸一族の式神ですニャ。清十郎さまが亡くなった以上、
「俺かぁ」
「ニャ……ダメですか?」
「いや……」
ダメじゃないんだけどな。
猫又は超強力な式神である。
それだけに『幻想』の余地がない現代日本では存在を保てない可能性もある。
ならば、俺もひいじいさんみたいに異世界で暮らしてみるか?
日本じゃ退魔師なんてもう商売にもならないし、モールの床を磨く代わりならいくらでもいる。
少なくともこの異世界は、まだ妖怪が存在できるような幻想の余地があるらしいし。
ここなら人生をやり直せるかもしれない。
いや、是非ともやり直したい。
ただ……
「それじゃ鴉丸の屋敷が維持できないってとこがネックだな」
「ニャ……」
そんなふうに、まだ答えの出ないことを考えていた時だ。
――ドーン……!!
ふいに、低く大きな音と、地面の揺れを感じた。
「なッ、地震か?」
いや、違う。
妖気……のようなモノを感じる。
「近いぞ。あっちだ!」
「にゃー!」
俺は妖気の方へ駆けていった。
すると、森の木々を超える巨体が立っているのが見える。
でっぷりと太って毛むくじゃらだ。
「なんだあの妖怪は……」
「あれはこの世界の魔物、トロルです。しかも上位種ニャ」
さらに近寄ると、トロルとやらの巨体の前には村が一つ広がっていた。
その村を守るように、槍を持った金髪の女が一人立っている。
まるでファンタジー系のRPGの戦士のようだ。
「あの子は?」
「村の警護に雇った冒険者ですニャ」
どういう職なのかはよくわからんが、プロか。
しかし……
「マズいな」
女は必死に槍を振っているが、トロルとやらの身体があまりにデカすぎだ。
攻撃が通っている気配が、ほとんどない。
「これは助けた方がいいのかなあ」
「ニャ……できればお願いしたいです。清十郎さまを慕う者たちが集まってできた村ですニャ」
その名を聞いた瞬間、さっきの小さな墓が頭に浮かんだ。
黄色い花と、隣でしょんぼりしていた猫耳と。
「……やれやれ」
俺はため息をついた。
「あれに霊能力は通じるのか?」
「にゃ! 鴉丸の力に敵う者はおりません!」
聡子が誇らしげに頷く。
しかし……
異形のモノとの戦闘なんて小学生の時の悪霊退治以来だな。
なまってねえといいけど。
「おい! こっちだブサイク野郎!」
俺は道へ飛び出して、怒鳴った。
場が一瞬凍る。
トロルの背中が、怒気で膨らんでゆくのが見えた。
「――ッ!!」
槍を持った女が何か叫ぶ。
だが、言葉がわからない。
一方で、毛むくじゃらな巨体がゆっくりと振り向き、大きな口を開けた。
――グオオオオ……!
そして、ヤツは俺を叩き潰そうと大きな拳を振り上げる。
「へえ、頭悪そうなのに悪口言ってんのはわかるんだな」
俺はそう言うと、指先に霊力を集めた。