サカイ・マキナは蛮族の手綱を握りたくない。 作:青いカンテラ
-24-
「……そういえばマキナ、模型部の廃止は保留になったらしいな。おめでとう」
「マキナおめでとー!」
「んぇ……?」
昼休み。屋上で焼きそばパンを食べていると、一緒しとったクラスメイトの
模型部廃止の危機がひとまず去ってから数日。アレハレみたいに前髪で隠れている顔の半分が左右で違うこの双子も、耳にするところになったらしい。まあ別に隠し立てしとるようなわけでもないからええねんけど。
「ああ、まあ……。と言ってもなんとか首の皮一枚繋がったって感じやけどな。模型部の廃止は保留になったんはええけど、今度は美術部がケチつけて来たからそっちとガンプラバトルすることになったし」
生徒会での一件を思い出す。ガンプラバトルは模型部の実績にもなる、みたいなこと言ってたけど、割って入ってきたタイミングは完全に狙っとったしなあ。狙った獲物が弱ったところを頂く気満々って感じやったであれは。
「ふーん、美術部かー」
「どうしたん?」
美術部の名前を聞いて、微妙な顔をするウミ。タマゴサンドを大きな口でパクついてるウミに代わって、弁当を食べてるサワがいったん箸を止めて答える。
「あそこの部長は、あまり評判のよくないことで有名だからな。神経質で嫌味っぽく、そして直情型だ。美術部への強引な勧誘もするし、他の部活への妨害活動も辞さない。勝負となれば勝つためには手段を選ばないだろうな。用心した方がいい」
「……評判か」
生徒会室でのことを思い出す。確かに何か含みのある感じの顔しとったな。それに評判がよくないっていうのも、本当に悪い噂や悪い話がついて回ってそうやし、美術部とのガンプラバトル、気を引き締めていかんと。
「……そもこの時期は姫百合交流会も近い。だというのに、他の部と争っている余裕があるとも思えんが……」
「あぁー、そういえばそんなんあったなあ……」
姫百合交流会、姉妹校の百合籠女学園と部活を通して交流を深める……とかなんとかいう名目で年に夏と冬の二回行われとる行事や。夏の交流会は百合籠から百合星にお嬢様が来るんやったかな。
部活の交流なので百合籠と百合星、両方にある部活が参加する。つまりは百合籠に無い部とは関係ないってことや。ウチの模型部とか。
「んー、でもなんで百合籠には模型部とかガンプラバトル部とかないんだろー? 世はまさに大ガンプラ時代! なのに。今時ガンプラのガの字も知らない人の方が珍しいくらいだよー?」
「百合籠ではガンプラなど、下賤な庶民の遊びとして見下しているらしいからな。そのようなものにうつつを抜かすお嬢様など、向こうにはいないということだろうよ」
下賤な庶民の遊び、ねえ……。まあ確かに、超お嬢様学校である百合籠の生徒たちが塗料で指先を汚しながら熱心にプラ板削ってるような姿は想像できんけども。
交流会の話が出たことで、ウミは何かを思い出したのか、露骨に深いため息を吐く。
「マキナのところはいいよねー、
「それを言うならタコやろ……」
「きゅーりは生えるものだがタコはできるものだぞ」
きゅーり。あの緑色で細長い野菜の方やなくて、姫百合交流会のことや。いったい誰がそんな呼び方を初めたんかはわからんけど、百合星では交流会のことを『きゅーり』と呼ぶ生徒が結構多い。
あんまりにもきゅーりきゅーり言うもんやから、一時期きゅーりの丸かじりやら浅漬けやらが流行った。なんでやねん。
「ウミ、そんなに言うなら
「え、それは無理。うーはシンナー臭いのとかやだし。塗料混ぜるくらいならお茶点てるよ」
「なんやこいつ」
真顔で両手でおっきなバツを作るウミ。そして「むーりー」と言いながらイチゴ牛乳のパックを飲む。ほんまこいつ……。
「サワはどうや? ガンプラ持っとったやろ」
「私も無理だ。剣道部のインターハイが近いからな」
「さーは剣道部のエースだからねー! 引き抜き勧誘はお断り! です!」
「なんでウミが言うねん」
-25-
「……ん?」
部室に向かう途中、廊下の真ん中に誰かが立っとるのが見えた。それは鋭角的な三角フレームのメガネをかけた女子生徒……。生徒会室でガンプラバトルを仕掛けてきた、あの美術部部長。
「生徒会でお会いした以来ですね、模型部の部長さん」
「なんやアンタか。何の用や?」
「ふ、用というほどのものではありませんがね……」
そう言って、美術部部長は中指と人差し指でメガネをクイッと押し上げる。
「我々とのガンプラバトルに向けて、模型部などという弱小部が健気にも無駄な努力をしていると聞きましてね……。少し気になったので見に来ただけですよ」
「……無駄かどうかはわからんやろ」
嫌味のある言い方に、さすがのウチも少しカチンと来る。けど、ここで怒ったりしたら向こうの思う壺やと思って、こらえる。
「ククク、無駄な努力ですよ。たった三人程度の弱小部に、いまさら何ができると? おとなしく部室を明け渡す準備でもしておくことですね」
「勝負はやってみんとわからんよ。それに美術部はガンプラ初心者、素人揃いって言ったのはそっちやで。交流会も近いのに、ガンプラにまで手を回すなんて、随分と余裕があるんやね?」
交流会のことを引き合いに出すと、美術部部長の眉がピクリと動いた。百合籠との交流会、美術部はあまりいい成績を残せてないとか。
そこで新たな部室を獲得して美術部の勢力を拡大し、百合籠との交流会でいい成績を残すための人材発掘なりをしたい……と、まあそんなところやろ。
模型部に目をつけたんも、ガンプラバトル素人の集まりでも三人相手なら勝てるとでも踏んだんやろうな。まったく舐められたもんやで。
「……チッ。……ガンプラなど所詮は遊びですよ。それに、何事も息抜きというのは必要です。それがたまたまガンプラだというだけです」
「へー、その息抜きついでに模型部にバトル挑んだわけか。大事な交流戦の前やってのに、遊び程度の息抜きで触ってるもんでバトル仕掛けて勝つ自信があるなんて、美術部は自信家の集まりなんやねえ」
「貴様ッ……!」
ウチの言葉に、美術部部長は一瞬激昂するも、すぐに平静さを取り繕う。
「……フンッ。どちらが膝をつくことになるか、ガンプラバトルではっきりするでしょう……。その時に後悔しても遅いですよ」
そう言い残して、美術部部長は去っていった。
「―――ということがあってな」
「まあ、そうなのね」
模型部部室。今日は体調がいいとかで登校してたルベリアと二人。ミオはまたなんか家の用事があるとかで来てない。
ちょくちょくそういうこともあるんやけど、やっぱりガンプラブームに乗っかって事業を大きくしてきた老舗メーカーんとこのお嬢さんは忙しいねんな。
ま、美術部とのガンプラバトルの日は何が何でも出るというてたし、そこらへんは心配しとらんけど。
「美術部、ガンプラ素人や初心者の集まりっていうても、人数は模型部よりも圧倒的に多いし、数を頼みに来られたら厳しいかもなあ」
「その美術部というのは何人くらいいるのかしら?」
「んー? 十五人とかそこらやなかったかな。よそのところやし、正確な人数は知らへんけど」
「ふむ……。なら一人あたり五人斬れば勝てるわね」
「計算がおおざっぱ」
戦力比1対5。数にしてみるとかなり厳しいけど、実際は美術部はガンプラバトル素人。実力差で言えば人数差は縮まる……かなあ? 厳しいもんは厳しいけどな。
「まあ、ガンプラの素人だというのなら、ガンプラ自体の出来栄えもそれ相応……ということになるわよね。なら、勝機はあるんじゃないかしら?」
「ああ、そう考えると確かに」
ガンプラの性能で勝負が決まるわけでもないけど、ガンプラの性能というのは無視できないものでもある。
「それに
「これは……マルコシアスか?」
ルベリアが机の上に置いたのは、左肩に赤いマントをつけたガンダム・マルコシアスのガンプラ。見たところ改造はされてせえへんみたいやけど、丁寧な作業で作られとるのがわかる。
「この左肩のマント……布製か?」
「ええ。めたるびるど? というものを参考にさせてもらったわ。マルコシアスと言えばウルズハントの厄災戦での雄姿ですもの」
なるほど、ウルズハントか。よく見れば全体のプロポーションバランスも整えられとるしな。この短期間で仕上げたにしては上等やで。
「ルベリアが使うガンプラはマルコシアスかあ。そういや、初めてのGBNの時もバエルやったな」
「
「その幕末ってのはなんなん……。いや、なんとなくわかるけど」
「天誅し合うゲームよ? マキナも今度やってみましょう! きっと楽しいわ!」
「いや、ウチは遠慮しときます……」
目を輝かせながら天誅し合うゲームってなんやねん……。なんか手ぇ出したらダメそうやと脳内で警鐘がなっとるんやけど。
「このマルコシアス、本体の改造はしていないけれど武器には自信があるわ。今からGBNに行って、確かめてみない?」
「今からか? この後予定もないし、ええで」
「それでは、イン・トゥ・ザ・GBNね」
その後、GBNにログインしてSEED系のミッションを受けたルベリア。そのミッションで自信があるという武器の威力を見たウチは、衝撃を受けた。
「ルベリア……これは……」
「ふふふ、どう? これが
-25.5-
―――夜。
それも深夜に差し掛かろうかという時間。生徒も教職員も全員が帰宅し、宿直室に詰めている警備員以外は誰もいない百合星女学園。
その、誰もいないはずの学校の校舎で人目を気にして動く影が一つ。警備員が巡回していったのを物陰から確認すると、懐中電灯の灯りを頼りに素早く目的の場所へと向かう。
「……」
目的の場所へと着くと、その人影は再度周囲を確認し、ゆっくりと……ゆっくりとドアのカギを開ける。
カチリ。
静かな深夜の学校に、鍵の外れる金属音が鳴り響く。巡回中の警備員が聞きつけてやって来ないかとしばらく警戒して……。そっと、極力音を立てないようにしながらドアを開けた。
「……!」
ガラス戸の棚に置かれているそれらを、見る。懐中電灯の灯りに照らし出されたのは
「……ククク」
そのうちの一体を手にして、思わず声が漏れる。さすがは模型部に置かれているガンプラ。出来栄えはそんじょそこらの素人が作ったものとは比べ物にならない。
「ガンプラなんて玩具、わざわざ作る必要なんてないのですよ……。なぜならここにあるのだから、ね……」
―――To Be Continued
【九重右見/九重左和(ココノエ・ウミ/ココノエ・サワ)】
ウーとサー。二人はウーサー。
前髪で右目が隠れていて、明るく人懐っこいのが右見。
前髪で左目が隠れていて、生真面目な堅物っぽいのが左和。
腰のあたりまでの黒髪に、前髪の一部に赤いメッシュが入っているのが右見。
腰のあたりまでの黒髪に、前髪の一部に青いメッシュが入っているのが左和。
右見は制服を少し着崩していて、左和はきっちりと着ている。
顔立ちも体形もそっくりな双子。前髪のメッシュがなければどちらがどちらなのか判別することは困難。
ただこれも気分で変えることができるらしく、時折入れ替わっている。その際お互いの性格のエミュレートは完璧で、実の親ですら見破ることはできない。