サカイ・マキナは蛮族の手綱を握りたくない。 作:青いカンテラ
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『オラオラ、さっきまでの威勢はどうしたクソガキ!』
『くっ……!』
モニターの中で、ミオの乗るX2改が雨あられと降るビームを避ける。ブレイクデカールによって異常強化されたリゼルのビーム・ライフルとシールド内蔵のビーム・キャノンは、出力だけやのうてその連射性能まで上がっとる。
アロハのおっさんのエイム自体は大したことないけど、それでもじりじりと確実に追い詰められていっとる。ああもう、なんでこないなことになったんや……! こんなことならウチもガンプラ持ってログインしとけばよかった……!
「ミオ! バトルアウトや! 尻尾巻いて逃げることになるけど、そのおっさんにポイント取られるよりかはマシや!」
『さっきからやってるけど……! エラーで反応しない!』
「そんな……!」
バトルアウトもできんってことは、ウチはこのままミオがあのマスダイバーのおっさんに嬲られるのを見てるしかないってことか……!? そんなの、そんなのあんまりやないか……!
『―――
ミオのX2改を攻撃するのに夢中になっとるリゼルの背後に、白い機体が襲い掛かる。ツインアイが赤く染まったルベリアのガンダム・バエルや。この強襲は意識がミオに向いてたおっさんには完全に不意打ちやったようで、まったく反応できとらん。
二振りのバエル・ソードがそのままリゼルのバックパックを切り裂くかと思った次の瞬間……甲高い音と共にバエル・ソードが弾かれてしもうた。
『っ! 硬い!』
『はははは! 装甲値も限界まで上げてんだよ! そんなナマクラ、斬れるわけねえだろうが!』
『きゃあああ!』
剣が弾かれて完全に動きの止まったバエルの腹を蹴り飛ばして、さらにビーム・ライフルを撃つリゼル。ビームに対して高い耐性を持つはずのナノラミネートアーマーは、飴細工のように溶けてしもうた。なんてバカげた威力……! あんなん、対ビームコーティングしてないX2改が食らったら一発で終わりやんか!
『この、よくもルベリアを!』
「ミオ! あかんて!」
ルベリアのガンダム・バエルが大破させられたのを見て、頭に血が上ったらしいミオがザンバスターを連射しながら、ビーム・ガンの片方をビーム・サーベルとして引き抜きながら突進する。
何発もビームが当たってるのに、リゼルの装甲にはかすり傷一つ付かん。ガンプラのステータスを改ざんして異常な数値にするブレイクデカール。噂程度には聞いとったけど実際に目のあたりにすると、あまりにも恐ろしい。
モニター越しに見てるウチですら怖いのに、実際に戦ってるミオとルベリアはどんだけ怖い思いをしてるか……。
『効かねえって、言ってるだろうがよ!』
『うわぁぁぁ!』
X2改のビーム・サーベルの一撃を弾き飛ばして、リゼルがビーム・ライフルの先端からビーム刃を発振する。無造作に振るわれたそれは、とっさに構えられたビーム・サーベルごとX2改の左半身を破壊してもうた。
『どうだ、身の程を思い知ったかよガキが』
半壊したX2改を月面に蹴り落したリゼルが、ロング・ビーム・サーベルを手にしたままゆっくりと向かっていく。
『そんな
『……せよ』
『あん?』
『取り消せよ、今の言葉ッ!』
ミオの言葉に感応するようにX2改のツインアイが輝き、フェイスオープン。同時にフロントスカートの一部が変形して、シザーアンカーを射出。
『こいつ、まだ悪あがきを!』
『こ・の・おぉぉぉ!』
リゼルに噛みつかせてシザーアンカーを引き戻す勢いを利用して、吶喊。リゼルの振るったロング・ビーム・サーベルに下半身を焼かれながらも、生き残っとった最後のスラスターに火をつけてさらに加速。残った右手でビーム・サーベルを引き抜いて、コクピットめがけて突き出す……
『は、はは……びっくりさせやがって……』
「そんな……」
ビーム・サーベルの切っ先はコクピットではなく、リゼルの肩、その関節を貫いとった。たぶん当たる寸前に機体を引いたんやろう。
ミオの決死の一撃は、届かんかった。
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「……」
「……」
「……」
いや空気おっっっも。しゃあないけど。こんなお通夜みたいな空気になってまうのもしゃあないけど! 結局あの後ミオとルベリアは撃墜されて、このセントラルロビーに帰ってきた。
せっかくの楽しいGBNデビューするはずやったのに、あのアロハのおっさんマスダイバーのせいで全部台無しやん! どうしてくれんのこの地獄みたいな空気。
こうなった原因はウチらにまったくないといえばウソになるけど、それにしたってこの空気は重い。重過ぎる。ほら、通りかかるダイバーが何事かって顔してるやん。
「え、えーと……。あはは、さ、災難やったな、二人とも……」
「……」
「……」
あかーん! ほんまに場が持たん! こういう時にどういう顔してどういうこと言えばいいのかウチにはわからん!
「あの……。そ、そや、さんざんやったけど、GBNは……」
「マキナ」
「は、はい!」
やっとミオが口を開く。けど、その声の低さにウチは思わず背が伸びてしまう。
「……ごめん、ボクはもう、落ちるね……」
それだけ言い残してミオはログアウトしていった。……ミオになんも言ってやれんかったな。マスダイバーなんかにいいようにされて負けて、落ち込んどるやろうに……。こういうときはウチのダメさがイヤになるな。
「……あ、ルベリアもお疲れさん。さっきのことは気にせんでええで。これからもっと楽しいことはあると思うし」
さっきから黙ったままのルベリアに声をかける。GBNの筐体を一晩で揃えるくらいに楽しみにしとったのに、きっと落ち込んどるやろうな。そう思ったけど、
「GBNというのは思っていたよりも楽しめそうね」
そう言った。
「え?」
「あら、
むん、と薄い胸の前で両手を握るルベリア。天誅? なんて? 言ってる言葉の意味はよく分からんかったけど、とにかくGBNを嫌いになったりはしてへんようで何よりや。
「な、なんかよくわからんけど、落ち込んでないようなら何よりやで」
「ええ。それで、次はいつミッションに出れるのかしら! あのお方に天誅返しをしてあげないと!」
「なんて?」
さっきからちょいちょいテンションがおかしいなこの人。
「……残念やけど、ルベリアは撃墜されたからすぐには出れんのや。GBNだとバトルやミッションで傷ついた機体は戻ったらハンガーで修復されるようになっとるから」
「そうなのね……。すぐに天誅にいけないというのはむず痒いけれど、仕方ないわね」
ほんまに、なんというかこう、深窓のお嬢様みたいな見た目してるのに飛び出てくる言葉が物騒すぎるねんけど。なんやねん天誅って。
「マキナ! 待っている間作戦会議しましょう! チーターだろうと必ず弱点はあるはぶしゃっ……!」
「えええぇぇぇ!?」
なんかいきなり吐血したぁぁぁ!?
「ご心配には及びません、サカイ様。お嬢様はお身体が弱いので、興奮しすぎると血を吐いてしまわれるのですわ」
「いや心配するところしかないねんけど! っていうかいつの間におったんや!?」
「メイドたるもの、常に主人の影となるものですの」
見とったんなら助けてくれてもよかったやろ!? というウチの叫びをよそに、異常を検知したダイバーギアの強制ログアウトによって、ルベリアはロビーから姿を消した。そしてメイドさんも、リアルの方でルベリアを介抱するためにログアウトしていった。
……なんやねんこの主従は……。
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「―――思っていたよりもだいぶ早く、部員確保できたようですね」
「はあ、まあ。向こうからやって来ましたからね」
翌日。ウチは生徒会室におった。要件は一つ、模型部廃止の回避のための条件だった部員確保ができたっていう報告や。
今日も今日とてやたらとデカい机の上で両手を組んでいる生徒会長さん。厳かに頷くと「それでは約束通り、模型部の廃止は保留ということにします」と言ってくれた。よかった、これで首の皮一枚は繋がったで。
ただ、ウチにはでっかい心配事があるねんな……。それは……。
「―――お待ちください。生徒会長」
ウチの考えを遮るようにして、待ったをかける声が割って入る。その声がした方を向くと、そこにおったんはやたらと鋭角な三角形のフレームの眼鏡をかけた、神経質そうな顔立ちの女生徒。
「あなたは……美術部部長ですね。何か異論が?」
生徒会長さんの言葉に、美術部部長は「はい」と答えてメガネをクイッとする。
「模型部などという弱小部を残すための条件として、部員の確保だけというのはいささか不十分かと。部員の数だけを確保して、肝心の部活動をおろそかにする……廃部の保留をいいことに、そんなことをするかもしれません。そんな怠惰極まる部など、それこそ我が百合星女学園には不要です」
「は、はあ? 横から入ってきていきなり何をいちゃもんつけてきとんのや! 大体ウチらが部活動をおろそかにするかなんてアンタにはわからんやろ!」
「廃部寸前の弱小部は黙っていろ! 今はこの美術部部長の時間である!」
な、なんやこいつ~~~!
「こほん。やはり部活動の存続の可否は、その活動実績も含めるべきかと」
「……なるほど」
神妙な顔で頷く生徒会長さん。いやなるほどちゃうで! 模型部の活動実績っていっても、いますぐに出れるような大会とかはないし、GBNは実績というにはちょっと言いにくいし……! そんなウチの葛藤を知ってか知らずか、美術部部長はメガネをクイッとして光らせる。
「とはいえ、直近に模型部の実績にできるような大会などもありませんし、どうでしょう。ここは一つ、部の存続を賭けて他の部と戦うというのは。……実は最近、我が美術部は部員の増加に伴い新しい部室を欲していまして。……模型部はかつてガンプラバトルでも成績を残してきた部。そこで提案なのですが、ガンプラバトルで美術部と模型部で部室をかけたバトルをするというのはどうでしょうか」
「ガンプラバトルですか……」
「はい。勝てばそのまま模型部の活動実績にもなりますし。まさかガンプラバトルでは一日の長がある模型部が、ガンプラバトル初心者揃いの美術部に、引けを取るとも思えません」
ニヤリ、と笑ってこちらを見てくる美術部部長。いかにも「そちらにとっても悪い話ではないと思いますが」みたいなツラしとるけど、我に秘策あり! なのはまず間違いないやろうな。それかこっちが3人しかおらんと舐めてるのか……。ええで、乗ったろうやないか。こんなのは勝てばええねん。
「……わかった。そこまで言うなら美術部とガンプラバトル、したろうやないか。ただし実機バトルはできんから場所はGBNになるけど、ええやんな?」
「ええ。もちろんそれで構いませんよ。そうですね、勝負は一週間後というのはどうでしょう? 諸々の準備もありますし」
「い、一週間!? いや、さすがに短すぎると思うねんけど……」
「おや、模型部の部長さんは美術部の素人に勝てる自信がないと? さすがは廃部寸前の模型部、実力的にも弱小というわけですか」
「やってやろうやないか!」
「フフフ……。それでは、一週間後に、GBNで」
ニヤリ、と笑ってメガネを光らせる美術部部長。
こ、こいつぅ……!
―――Episode.01/廃部は一刻を争う! 完
【坂井真紀奈(サカイ・マキナ)/マキナ】
【一人称/ウチ】
【身長/145cm(リアル)/145cm(ダイバー)】
ガンプラの新たな境地を切り開いたという伝説的なビルダーの娘。父親譲りの高いビルド力を持つが、そのビルドの発想力はまだまだ。
一年生ながら、私立百合星女学園の伝統ある『模型部』を先代から引き継いだ。しかし部員が一人しかいないこと、部としての活動実績が無いことから、生徒会に危うく廃部にされかける。廃部回避のために友人のミオと、いきなりやってきたルベリアを加えて当面の危機は回避するが……。
【夜ノ森澪(ヨノモリ・ミオ)/ミオ】
【一人称/ボク】
【身長/183cm(リアル)/145cm(ダイバー)】
老舗塗料メーカー『ヨノモリ塗料』の娘。家がガンプラブームに乗ってガンプラ用塗料を取り扱っている関係で、生まれた時からガンプラに囲まれて育ってきた。
家の手伝いを理由にして帰宅部をしていたが、模型部存続の危機としてマキナに入部を頼み込まれたことで模型部に入ることに。
【ルベリア・
【一人称/
【身長/142cm(リアル)/142cm(ダイバー)】
色素の抜けた白い髪、病的なまでに白い肌、血のように紅い瞳のアルビノ少女。
私立百合星学園に通っているが、あまり長時間外に出られないため登校することはまれであり、半ばレアキャラ扱いされている。ちなみに普段目を閉じているのは、アルビノなので強い光が眩しいから。
【百合星女学園】
中・高一貫のお嬢様学校。企業の重鎮や老舗の跡取りの他にも、いわゆる一般家庭からも多くの女子に門戸が開かれている。
名前のよく似た『百合籠女学園』とは姉妹校。ただし、上流階級御用達で何よりも格式と伝統と面子を重んじる向こうとは、方向性の違いから犬猿の仲。
当初こそ入学は上流階級のお嬢様に限られ、厳しい規則があったらしいが、時の流れとともに学校存続のために門戸を広くしたのが向こうとの違いである。
部活動はどれも大会での入賞、優勝の実績がある。ただ、ここ数年は模型部の規模縮小がかなり目立つようだ。
姉妹校である百合籠女学園とは部活動を通じての交流会が年に2回行われている。