サカイ・マキナは蛮族の手綱を握りたくない。   作:青いカンテラ

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Episode.02/私のガンプラは凶暴です
「やっほー、マキナちゃん。元気にしてたぁ?」


 -15-

 

 ―――女の子が、宙を飛んどった。

 

 ガンプラ製作を仕事にしてる親父の書斎兼作業場。そこに忍び込んだウチは、たまたま見つけたビデオをなんとなしに再生してみた。

 

 そこに収められとったのは、とあるガンプラ大会の映像。『メイジン杯』と名づけられたその大会の、授賞式。壇上におるんは、わっっっかい親父の姿と、親父が終生のライバルや! と言っているメガネをかけたお兄さん。

 

 自分が作った渾身の出来のガンプラが受賞できんかったことにゴネる親父に、グラサンをかけた主催者の二人が提示したのはガンプラバトルによる決着。

 

 メガネのお兄さんはゼータガンダムのカスタム機で出撃。そして親父は……女の子やった。いや、親父が女の子になったとかではなく、親父が出撃させたガンプラが、女の子だったんや。

 

 明るい色のサラサラとした髪をポニーテールにして流し、フリルのあしらえられた白いエプロンの付いた黄色いミニスカメイド服。背中にはサブアーム付きのシールド二つと大型ライフルが組み合わさったバックパック。

 

 MSの武装や装甲を身につけた女の子が、スラスターを噴きながら宇宙を飛ぶ。ゼータのカスタム機の攻撃をひらりひらりと避けながら、表情をくるくると変えてポーズまで取って見せる。その姿に、ウチは衝撃を受けた。

 

「……かわええ……」

 

 正直、一目惚れやったと思う。それまでガンプラ……ガンダムのプラモデルと言えば人型のロボットの玩具。ゴツゴツとしたものや、細身のもあるけど、基本は鋼鉄でできたロボットをプラモデルにしてるもの。そういう認識やったし、実際に世に出とるガンプラっていうのはそういうものやった。

 

 けどそれは違った。分厚い装甲の代わりにフリフリの服を着て、短いスカートや半袖からは柔肌を晒して、そこにアクセントのように武装を取り付けとる。ガンプラやけどガンプラやない、後々に『MS少女』と呼ばれるその女の子に、ウチは目を奪われた。そして思った。ウチもこれが欲しいと。

 

 いつかウチもこんな可愛い女の子を作ってみたい、ガンプラバトルで戦ってみたい。そう思ったんや。

 

 思えばこれが、ウチがガンプラ製作に熱を入れるきっかけやった。百合星に入って模型部になったんも自分の腕を磨くためやった。

 

 いやあ、懐かしいなあ。ウチの原風景ともいえるものや。あの後に親父に見つかってこっぴどく怒られたのも覚えとる。例の女の子のガンプラについては「あれはワイの若気の至りや」といって結局見せてくれんかったけど。

 

 ……で、ウチがなんでこんなことをつらつらと思い返しながら現実逃避しているのかと言えば。

 

「ねえマキナちゃぁん。聞いてるぅ?」

「……はい」

「ならいいけどぉ……」

 

 隣に座ってウチの顔を覗き込んでくる人が怖いからや。

 

 

 

 -16-

 

「はい、二人分の入部届けは受け取りましたぁ。これで模型部の廃止は先延ばしになるんですねぇ。おめでとうございます、サカイさん」

「おおきにな、マリエせんせ」

 

 生徒会に模型部廃止の件を保留にしてもらい、美術部部長から宣戦布告をされた次の日の放課後。ウチは職員室で模型部の顧問であるマトイガワ・マリエ先生にミオとルベリアの入部届けを出していた。

 

 さすがに入部届を出すのを忘れてましたー! なんてベタなことはせぇへん。これではれて模型部は存続できるけど、問題は山積みや。

 

 初GBNはマスダイバーなんかのせいでめちゃくちゃになってもうたし、美術部とは一週間後に部室をかけて戦うことになってもうたし。まさに一難去ってまた一難やな……。

 

「ああ、そうだ……。聞きましたよ、美術部との一件。部室をかけてガンプラバトルをするとか」

「あれ、もう知ってはるんですか。耳が早いですね」

 

 生徒会室でのあれこれ、昨日の今日なんに、情報の伝達が早いな。

 

「これでも模型部の顧問ですからねぇ。自分が顧問を担当している部に関わることはちゃんと知っておかないとですからぁ。……生徒のことなので、私はガンプラバトルには参加できませんけれど、ここで応援、していますね」

「あはは、おおきにな! マリエせんせの応援があれば負ける気なんかせえへんで!」

「うふふ。……これからも色々とあるかも知れないですけど、模型部部長として頑張ってくださいね」

「はい!」

 

 マリエせんせに一礼して職員室を後にする。もはや放課後のルーティンワークのようになっとるからか、足は自然と模型部の方へと向かう。

 

 さて今日はどうするかな。ミオはなんか用事があるとかいうて帰ったし、ルベリアも体調不良だとかで学校に来とらんからウチ一人やねんな。

 

 せっかく部員が増えたのに早速一人に逆戻りか。なんや寂しいなあ。そう思いながら部室のドアを開けると、先客がおった。

 

 特注の薄桃色な百合星の制服を着て、胸元のリボンは上級生であることを示す鮮やかな赤色……。うぉ、胸でっか……。やなくて、薄いピンクの髪を頭の上で二つ、お団子にしてるこの人は……。

 

「やっほー、マキナちゃん。元気にしてたぁ?」

「こ、小比類巻先輩……」

 

 飴細工みたいな甘ったるい声で、ほわほわとした笑みで手を振ってるふわふわおっぱいの持ち主なその人は、ウチにガンプラのイロハを教えてくれた師匠的な人にして先代の模型部部長、小比類巻恋香(コヒルイマキ・レンカ)先輩やった。

 

 

 

 -17-

 

「こ、コヒルイマキ先輩……久しぶりです」

「うん、久しぶり」

「……なぜここに?」

「なぜって、先輩が後輩ちゃんの様子を見に来るのはそんなにおかしいことじゃないでしょぉ? もぉびっくりしたよぉ。いつの間にかGBNの筐体が部室に置かれてるんだもん」

「あ、あはは……。まあそれについては色々とありまして」

 

 コヒルイマキ先輩、相変わらず緩い雰囲気しとるなあ。これでビルドはガチやって言うんやから驚きやで。GBNの筐体については、行動力と権力と資金力のあるお嬢さんがメイドさんに一晩でやってもらったからな……。

 

「マキナちゃぁん、いつまでそんなところで立ってるのぉ? 私の隣空いてるから座ったらぁ?」

「あ、いえ、ええと、ウチはこのままでも……」

()()()()()?」

「アッハイ」

 

 圧よ。ゆるふわ~な雰囲気なのに圧がすごい。ギャップで風邪ひいてまうでこんなん。

 

 言われるがままに先輩の隣に座る。先輩は「あはぁ。マキナちゃんの肌すべすべだねぇ」とか言いながらウチの太ももをさする。いや手つきがセクハラオヤジ……!

 

「あのぉ、先輩? ウチの様子見に来たって……」

「そうそう。聞いたよぉ、()()()()()()()()()()()()()んだって? なんでもぉ、負けたら部室取られちゃうとか?」

「……!」

 

 冗談やなくて温度が下がった。なんでそのことを、とかそれを知ったから今日やってきたんかとか、頭の中で言葉はぐるぐるしてるけど、口には出てこん。冷や汗がだらっだら流れてるのがわかる。

 

「ねえマキナちゃぁん。聞いてるぅ?」

「……はい」

「ならいいけどぉ……」

 

 「それじゃ、続けるねぇ?」と先輩は言う。ウチはそれどころやないけどな!

 

「部員が足りなくなって、自然に無くなっちゃうのなら、それは時代の流れに呑まれる運命だったから仕方ない。仕方ないよね。けどぉ、ガンプラバトルに負けたせいで消えるのはダメだよぉ。それは模型部として許されないこと。私はそう言ったよねぇ。覚えてる?」

「も、もちろんです……」

「うんうん。いい子いい子ぉ。だからねぇ、例えマキナちゃん一人でも……今は三人だっけ? まあいっかぁ。とにかく、数で負けててもガンプラバトルでは負けちゃだめだからねぇ?」

「は、はい……」

 

 なんとか頷くと、先輩は「うん、よろしい」と言って圧が消える。い、生きた心地がせぇへんかった……。

 

「さてと、それじゃあ、いこっか」

「へ? どこにです?」

 

 椅子からぴょんと飛び降りて、先輩はGBNの筐体へと足を向ける。

 

「もちろん、GBN(気持ちいいことする場所)だよぉ」

 

 

 

 -18-

 

 GBN、セントラルロビー。そこにウチはおった。今日も今日とて、ロビーは多くのダイバーで賑わっとる。さすがはアクティブユーザー2000万人を抱えるゲームやな。

 

「マキナちゃん、待ったぁ?」

 

 そんなダイバーの流れを見とったら、先輩の甘ったるい声がしたので、そちらを向く。全身をピンクのゴスロリ衣装でコーデした先輩が、小さく手を振りながらやって来る。

 

 GBNでもその低身長と反比例するような大きさの胸は存在を主張していて、通り過ぎていくダイバーが何人も二度見していく。

 

 中には「自前?」「さすがにスライダー引っ張ってるでしょ」とかいうのも聞こえてくるけど、その人は自前なんよ。身長はウチよりも小さいけど、胸に関してはミオよりもかなり大きい。

 

 それでいてふわふわやからな。百合星が共学やったら何人の男子を前かがみにしとったかわからへんで。

 

「先輩、GBNにログインしたんはええですけど、いまから何するんです?」

「それはねぇ、マキナちゃんの実力を確かめてあげようと思ってねぇ。マキナちゃん、ここ数か月はログインしてなかったでしょ?」

 

 う、そこまでわかるんか……。いや、フレンド同士は相手がログインしとるかどうか分かるし、それかな。

 

「この前は一回してたみたいだけどぉ、やっぱり模型部を賭けた大事なバトルの前だからねぇ。マキナちゃんのバトルの勘が鈍ってないか、先輩としては心配なんだよ」

「それじゃあ、いまから1対1やる感じですか?」

「んー、それでもいいけどねえ。どうせやるなら楽しくやりたいじゃない? 私もGBNは久々だし、せっかくマキナちゃんと遊べるんだから、敵がたくさん出てくるミッションしたいなあって」

「なら、無双ミッションとか?」

「ノンノン。NPD戦なんて楽しくないよぉ。どうせやるなら、対人戦。それも敵味方が入り乱れるような、ね?」

 

 そう言ってミッションカウンターに向かった先輩は、あるミッションを受注する。

 

「さてと、格納庫いこっか」

 

 コンソールを操作して、格納庫へ。そこにはGBN内で144分の1スケールから原寸大へと変わった()()()()が置かれとる。

 

 片方は先輩の、R・ジャジャをベースにしてるガンプラ。そしてもう片方は……ウチの()()()()や。

 

「……マキナちゃんのガンプラ、いつ見てもガンプラっていうよりも、美プラとかそういうのだよねぇ。今だとMS少女っていうんだっけ?」

「ガンプラのパーツつこてるからガンプラですよ~。GPEXくんもこれはガンプラだな! ヨシ! とスキャン通してくれますし」

「ならガンプラかあ」

 

  そう、ウチのガンプラは、ガンプラのパーツこそつこてるけど厳密にはガンプラとは言い難いもの……。それこそガンプラやない、美プラや! と言われたら反論はできん。でもウチにとってはこれはガンプラなんや。

 

「まあ機体のチェックも済んだし、早速行こうかぁ」

「了解です。……さて、久々のバトルや。頼むで、シャルトーネ」

 

 

 

 ―――To Be Continued




ガバガバGPEXくん。
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