プロメシュースの悔恨 ―新エリー都、その記録の外側で―   作:jolend

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これがやりたかった その5
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#14 ルミナススクエア

 —少し前—

 

 雅の一撃を受け、異形となったブリンガーは、斬撃により崩れた足場の中へ倒れ込んだ。

 

 周囲では、まだ残ったエーテリアスとの戦闘が続いていた。

 ホロウの外でイアスからの映像を見ていたアキラは、通信を切らずにいた。

 隣のリンが戦闘記録を呼び出し、一場面を止める。

 

 そこに映っていたのは、ブリンガーの背中側から生えた、あの白い巨腕だった。

 

 二人とも、しばらく何も言わなかった。

 

 10年前

 

 ヘーリオス研究所

 

 燃え上がる施設の中で、カローレ先生を攫っていったものだ

 

「お兄ちゃん、あの腕……」

「ああ」

 

 アキラは短く答えた。間違えるはずがなかった。

 

 イアスの視界へ目を戻す。瓦礫の向こうで、バラバラになったブリンガーの身体の一部がわずかに動いていた。

 

「まだ、息がある」

「行くの、お兄ちゃん?」

「今しかない」

 

 リンは迷わず頷いた。

 二人はこのことを誰にも告げなかった。

 

 六課にも

 

 治安局にも

 

 みんなにも

 

 そして、クラムにも

 

 アキラとリン、二人だけで、静かにホロウの境界へ向かった。

 

 

 ☆

 

 ポート・エルピスの空に、夜明け前の薄い光が差し始めていた。

 

 戦闘によって積み上がったコンテナの残骸

 

 砕けたエーテル結晶

 

 海へ沈みつつある白い巨腕の破片

 

 ブリンガーが生み出した異形は、そのほとんどが活動を停止していた。

 残ったエーテリアスも各陣営によって掃討され、治安官とH.A.N.D.の職員が戦闘区域の封鎖を進めている。

 

 クラムがホロウの境界を抜けると、R.E.L.I.C.の車両脇でオペラが回収物の確認を行っていた。

 薬剤ケースには封印具が取りつけられ、第四研究所から持ち出された製造設備には、一つずつ識別番号が割り振られている。

 

「戻ったわね」

「ああ」

 

 その時だった。

 港湾区の奥から、一度だけ異常なエーテル反応が跳ね上がった。

 R.E.L.I.C.の車両内で警報が短く鳴り、周囲の職員が一斉に端末を確認する。

 

「戦闘区域から?」

 

 オペラが即座に観測記録を開いたが、その強烈な反応は一瞬でかき消えるように消えていた。

 しばらくして、現場へ向かっていたH.A.N.D.の調査班から通信が入る。

 

『ブリンガーの残存エーテル構造が崩壊、周辺の結晶を巻き込んで消失しました』

「遺体は?」

『回収できる状態ではありません。現場に残された結晶片を採取します』

 

 通信が切れる。

 クラムはモニターから目を離し、ホロウの奥へ視線を向けた。

 建物とコンテナが複雑に重なり、その先で何が起きたのかを直接見ることはできない。

 

「最後まで、まともな証拠を残さないヤツだな」

 

 クラムは小さく吐き捨てた。

 オペラが観測記録を保存し、開いていた回収物の一覧へ表示を戻す。

 

「そっちの回収は?」

「未使用の基剤が六本、充填装置が二基、残されていた研究記録も複製したわ。原本はH.A.N.D.へ引き渡す」

「完成品は?」

「ブリンガーが使用した一本だけ。現場に残っていた薬剤成分は採取しているけど、完全な復元は難しいでしょうね」

「十分だ、あいつの変異記録が残ってる」

 

 オペラが端末を操作する。

 画面には、ブリンガーの変異前後の生体情報が並んでいた。

 

 エーテル活性

 

 神経反応

 

 発話中枢

 

 自己認識を示す意識波形

 

 肉体の構造が人間から大きく外れたあとも、意識波形だけは途切れていない。

 

「肉体をサクリファイスへ変えながら、自我を維持する」

 

 クラムが画面をスクロールする。

 

「これが完成形か」

「第四研究所で持ち去られた物とは、まるで別物ね」

「今までは人間を材料にして、化け物を作る薬だった。そして完成品は人間の意識を残したまま、化け物の力を与える薬となった」

 

 ブリンガーは敗れ、サラは捕縛された。

 薬剤と製造設備も回収した。

 それでも、実験そのものは失敗していない。

 讃頌会は一人の信徒と薬の完成品を使い、人間がサクリファイスとの境界を越えられることを証明した。

 

「なーんか、勝った気がしないなぁ」

「少なくとも、被害の拡大は防いだわ」

「それは雅さんたちが勝ち取った結果だ。こっちの仕事は、こいつを二度と作らせないことだ」

 

 クラムは薬剤ケースを閉じた。

 

『こちら11号』

 

 クラムのARへ暗号通信が入る。

 

『対象の引き渡しが完了したわ。生体認証、拘束状態、所持品、すべて記録済みよ。防衛軍臨時拘束区画への収容も確認』

「担当者は?」

『受領記録に記載してある。防衛軍側の認証にも問題はないわ』

「了解。ご苦労さん」

『任務だから、当然よ』

 

 簡素な返答のあと、通信が切れた。

 転送されてきた記録には、サラの移送経路と引き渡し時刻、護送に関与した全員の認証情報が残されている。

 手続き上の不備はない。

 クラムは記録を暗号化し、複製をR.E.L.I.C.の保管領域へ送った。

 

「随分、念入りに残すのね」

「捕まった時より、連れていかれる時の方が嬉しそうだったからな」

「防衛軍に協力者がいると思う?」

「証拠はないが……記録だけは残しておく」

 

 ☆

 

「はーい! そこにいる連中、全員集合!」

 

 邪兎屋の車両の上から、ニコの声が飛んできた。

 周囲で撤収作業をしていた者たちが、一斉に振り返る。

 ニコはいつの間に用意したのか、カメラを片手に立っていた。

 

「事件解決記念よ! ここまで働いたんだから、一枚くらい残しても罰は当たらないでしょ!」

「まだ撤収作業中ですよ!」

 

 朱鳶が資料を抱えたまま声を上げる。

 

「だから今のうちなのよ! このあと全員バラバラになるじゃない!」

「写真撮ってる場合かよ……」

 

 クレタが眉をひそめる。

 

「いいじゃねぇか、社長!」

 

 アンドーがクレタの背中を押した。

 

「新エリー都を救った記念写真なんだぜ!」

「ちょっ、押すなってアンドー! 自分で歩けるから!」

「いいじゃない、クレタ」

 

 グレースは背後で待機している白祇重工の重機へ目をやった。

 

「うちの子たちも大活躍だったんだもの。一緒に写せないのが残念なくらいよ」

「こういうのは、社内写真を撮って以来だな……」

 

 ベンも照れくさそうに列へ加わった。

 その反対側からは、シーザーを先頭にカリュドーンの子が歩いてきた。

 

「ぜーんぶ解決できて、みんなハッピー! 写真を撮ったら、みんなにも特別にニトロフューエルをおごってあげちゃお!」

 

 バーニスが大げさな身振りで両手を叩く。

 

「記念撮影か! いいな!」

「シーザー! このバカ猪、前を塞いでんじゃないわよ!」

「大将、前に立つとお嬢が隠れるぞ」

「おっ、だったら肩車してやろうか?」

「結構ですわ!」

「おぅおぅいいねぇ、若いのは」

 

 ヴィクトリア家政の面々は、ライカンの指示で自然に整列していた。

 

「皆様、足元の瓦礫にお気をつけください。背の高い方は後列へ。前の方との間隔を、もう半歩ほどお空け願います」

 

 ライカンが撮影位置を一瞥しただけで、四人の並びはきれいに収まった。

 

「カリンちゃん、襟が少し曲がっていますわ。せっかくのお写真ですもの、きれいに整えましょうね」

「わっ、す、すみません! カリンがだらしないせいで、余計なお手間を……!」

「謝らなくていいって。誰も襟までは見てないし、それより、早くして。立ったまま寝そう」

「撮影まではあと僅かでございます。どうかご辛抱を」

「はぁ……仕事より長く感じる」

 

 ビリーは既に中央で決めポーズを取っている。

 

「スターライトナイト特別編! 新エリー都を守った英雄たちの大集合だ!」

「ビリー、中央を占領しないで」

「そうよビリー! あたしが発案者なんだから、あたしが真ん中でしょ!」

「ニコ、カメラは誰が操作するんだ?」

「タイマーに決まってるじゃない!」

 

 騒ぎを聞きつけた六課も、封鎖区域の向こうから戻ってきた。

 

「写真だって! 終わったらゴハンもある!?」

 

 蒼角が真っ先に駆けてくる。

 

「写真と食事は別の話ですよ、蒼角」

 

 柳がその後を追い、悠真は欠伸をしながら最後尾を歩いていた。

 雅も少し離れた場所で立ち止まる。

 ニコが大きく手を振った。

 

「お武家ギツネも早く! 主役がいないと締まらないでしょ!」

「主役?」

 

 雅は一度首を傾げたが、柳に促されて列へ加わった。

 

 邪兎屋

 

 白祇重工

 

 特務捜査班

 

 ヴィクトリア家政

 

 カリュドーンの子

 

 対ホロウ六課

 

 ジェーンも、どこからか連れてきたオオヤマネコのシリオンの治安官をつれて、いつの間にか青衣の少し後ろへ紛れ込んでいた。

 

 ホロウから戻ったイアスが、アキラたちの足元で立ち止まる。

 

「お兄ちゃん、早く行こう!」

「あぁ、ほらイアスも」

「ンナ!」

 

 アキラとリンもイアスを連れ、集まった者たちの間へ入る。

 

「クラムたちも!」

 

 ニコがR.E.L.I.C.の車両へ向かって叫んだ。

 

「俺たちはいいだろ」

「ここまで来て何言ってんのよ! ほら、早く! タイマーが切れるわよ!」

 

 オペラが先に歩き出す。

 

「行きましょう」

「仕方ないな……」

 

 クラムは七陽を車両へ立て掛け、その隣へ並んだ。

 カメラのランプが点滅する。

 並びきれなかった者たちが、慌てて隙間へ身体を押し込む。

 

「おいベン! そこで立ったらアタシが見えねえだろ!」

「す、すまない社長!」

「蒼角、旗を下ろしてください」

「えーっ、カッコいいのに!」

「はぁ~、僕もうヘロヘロなのに……」

「悠真先輩!? ジェーン先輩? これ、なんの撮影なんですか?」

「ふふっ、いいからいいから」

「気を張る必要はないぞ、自然体でおればよい」

「ちょっと! 下ろしなさい! シーザー!!」

「……もう目開けてられない」

「ほら、カリンちゃん。笑って」

「え、えっと……こ、こうですか?」

「クラム、もう少しこっちへ」

「入ってるって!」

「ビリー! そのポーズやめてよ、幅取りすぎだぞ!」

「これはな、猫又! ヒーローに必要な──」

「撮るわよ!」

 

 閃光が走った。

 戦いを終えた者たちの姿が、一枚の写真へ収められる。

 全員が笑っていたかどうかは、怪しいものだった。

 少なくともクラムは、目を閉じていた。

 

 ☆

 

 数日後の朝

 

 ルミナスクエアの治安局庁舎周辺は、数日前までとは別の騒がしさに包まれていた。

 ブリンガーの選挙広告はすべて停止され、巨大な街頭画面には治安局からの緊急声明が表示されている。

 R.E.L.I.C.のトラック内でも、同じニュースが流れていた。

 

『昨夜、市政選挙の演説会場で発生した騒乱について、治安局は、ブリンガー元副総監が星見雅執行官を、十分な証拠や正式な手続きを経ないまま拘束した行為についての、不当逮捕の疑いがあるとして、捜査を開始しました』

 

 画面が切り替わる。

 観客の携帯端末で撮影された、激しく揺れる映像。

 青白い狐火をまとい、無尾を抜いた雅から逃げ惑う観客たち。

 そして、雅と群衆の間へ一人で割って入るピンク髪の丸眼鏡の少年。

 

『拘束後、演説会場へ連行された星見執行官は、ブリンガー元副総監が用意した違法なエーテル作用薬剤の影響により、一時的な錯乱状態へ陥った可能性があるとのことです』

 

 映像の中で、男が正体不明の大型武器を構える。

 雅を包んでいた狐火の一部が、男へ引き寄せられていく。

 直後に青い描画ノイズが画面を覆い、男の姿がいくつにも分裂した。

 

『その場に居合わせた身元不明の人物が単独で星見執行官の制止にあたり、一般市民への被害を防いだとみられています。星見執行官および観客に、重篤な被害は確認されていません』

 

「違法薬剤で錯乱、ねぇ」

 

 クラムが頬杖をつく。

 

「無尾について公表するわけにはいかないもの。治安局が発表できる情報だけで説明すればこうなるでしょうね。少なくともブリンガーによる不当逮捕と、彼女を意図的に錯乱させた事実は変わらないわ」

 

 ニュース映像の下では、関連するインターノットの投稿が猛烈な勢いで更新されていた。

 オペラが、閲覧数の最も多いスレッドを開く。

 

 ☆

 

【身元判明?】星見雅を止めた眼鏡、ホワイトスター学会の調査員らしい

 

 1 名無しの市民

 映像に出てきた男、結局誰なんだ? 

 

 2 現地にいた人

 あの男が割って入らなかったら、こっちまで斬撃が飛んでたと思う、あと髪で隠れてよくわかんなかったんだけど、首の後ろに変な丸いマークみたいなのがあったんだよね、わかるヤツいる? 

 

 3 白星ウォッチャー

 上着についてる腕章、ホワイトスター学会のものじゃないか? 

 

 4 資料発掘班

 市政選挙の参加者名簿に、それらしい名前があったわ、クラム=アンマイヤー 所属はホワイトスター学会の、レリック? てとこらしい

 

 5 名無しの市民

 学会の過去の公開資料に顔写真が載ってたわ、映像の男と同一人物でほぼ確定だろ

 

 6 名無しの市民

 肩書きは現地調査員だって、でもそれ以外の経歴はほとんど公開されてないゾ

 

 7 装備マニア

 あの武器は何だよ? 

 ホワイトスター学会の公開装備一覧には載ってないぞ、てか分身したり突然現れたりどう考えてもこっちのがヤバイだろ。何処の技術だよ、ステルス迷彩なんてスリーゲートでも実用化できてないんだぞ? 

 

 8 映像解析中

 武器を構えた直後に、雅様の狐火が明らかに男の方へ動いてたっぽいんだけど、その後のノイズがひどくて解析できなかった……

 

 9 名無しの市民

 名前と所属は分かったけど、じゃあ、ただの学会の調査員がどうやって虚狩りを止めたんだ? 

 

 10 名無しの市民

 

 ☆

 

「……名前まで出るのが早すぎないか?」

「選挙に伴う観測支援は正式な仕事だもの。参加者名簿も公開資料として残っていたわ」

「律儀な行政様だことで」

「削除申請する?」

「いや、今さら消したら余計に騒がれる」

 

 クラムはスレッドを下へ送る。

 新しい考察が秒単位で書き込まれていた。

 

 H.A.N.Dの非公開要員

 

 防衛軍極秘の対虚狩り部隊の一人

 

 ホワイトスター学会が秘密裏に発掘した知能構造体

 

 的を捉えてるようでどれも事実からは遠い。

 それでも、七陽の正体やクラムの本来の任務へ届くものはなかった。

 

「所属は知られた、武器についても調べ始めている……」

「好きに調べさせとけ、TOPSの上層部も知らないんだ、表に出てる資料だけじゃ何も分からない」

 

 クラムはスレッドを閉じた。

 判明したのはホワイトスター学会の調査員という肩書きと、クラム=アンマイヤーという名前だけ。

 

 なぜ彼があの場所にいたのか

 

 どうして無尾の力へ干渉できたのか

 

 背負っていた武器が何なのか

 

 インターノットには、答えのない疑問だけが積み上がっていた。

 画面ではニュースが終わり、治安局の緊急声明へ切り替わった。

 

「H.A.N.D.からも、ホロウ産業に関係する案件を担当する部署が調査へ加わったわ」

「流石に治安局だけに任せるわけにはいかないか」

「パールマンの証言と、白祇重工から提出された書類も再調査されるみたい。ヴィジョンに関する裁判も見直されるそうよ」

「それなら、あのオッサンも少しは報われるか」

 

 パールマンが善人になったわけではないが、それでも彼一人にすべての罪を被せようとした者たちの存在は明らかになった。

 少なくとも今度は、残された証拠を含めた上で裁かれるだろう。

 

「サラは?」

「防衛軍の臨時拘束区画に収容されたままよ。H.A.N.D.と治安局から共同聴取の要請が出ているけど、反乱軍との関係もあるから、先に防衛軍が取り調べるって」

「順番待ちとは、人気者だなぁ?」

「でも、私たちには接触を控えるよう通達が来ている」

 

 オペラが上からの命令を表示する。

 

『回収物を封印指定とする』

 

『Elixir P07及び製造設備を所定の保管施設へ移送せよ』

 

『拘束対象への接触を禁ずる』

 

 短く、拒否の余地がない命令だった。

 

「はいはい、捕まえるところまでは働かせて、あとは触るなってか」

「サラの身柄は防衛軍。事件はH.A.N.D.と治安局。薬剤は私たちの担当よ」

「見事に切り分けられたもんだ、ったく」

 

 クラムは椅子へ座り、最終報告書を開き、回収できた事実を一つずつ記録していく。

 最後に、実験結果の欄へ文字を入力した。

 

「作ったヤツを捕まえて、薬も設備も押さえた」

 

 画面には、サラの拘束記録が表示されている。

 

「それでも、向こうが欲しがってたモノは出ちまった」

「ええ」

「次は、別の人間で試すつもりかもしれない」

 

 オペラが報告書へ電子署名を加えた。

 

「次があるなら、その前に見つけるために」

 

 クラムも自分の認証を入力し、報告書を送信した。

 

 ☆

 

 端末へ、新しい画像が届いた。

 

 送信者はニコだった。

 

『報酬代わり! 特別にタダで送ってあげる!』

 

 添付されていたのは、ポート・エルピスで撮影した集合写真だった。

 

 クレタはベンの身体に半分隠れ、蒼角の旗が悠真の顔へ重なり、ビリーは猫又にポーズを崩されていた。

 シーザーは肩車したルーシーに怒鳴られていて、エレンは立ちながら寝ており、隣ではカリンがぎこちない笑顔で笑っている。

 状況が分からずポカンとしている、セスと呼ばれた治安官のそばで、朱鳶は困ったように笑い、青衣とジェーンはそれぞれ違う方向を見ていた。

 雅は中央で、僅かに口元を緩めて、そのそばでアキラとリンはイアスを挟んで並んでいた。

 

 そして端の方では、目を閉じたクラムの横で、オペラがアンビーの方を見ている。

 

「これで報酬のつもりか? あの銭ゲバ女め、てか見事に撮影失敗してるな」

「そうかしら」

「俺目閉じてるぞ」

「いつもより利口そうに見えるわ」

「どういう意味???」

 

 オペラは答えず、集合写真を保存した。

 トラックの外では、朝を迎えた新エリー都が動き始めている。

 

 通勤する人々

 

 開店準備を始める商店

 

 撤去されていく選挙広告

 

 都市の外縁で何が起きたのかを知らない者たちにとっては、いつもと変わらない一日の始まりだった。

 クラムは報告書を閉じる。

 

 ブリンガーは死んだ

 

 サラは捕らえた

 

 事件に関わった組織にはようやく捜査の手が入り、ひとまず一つの決着はついた。

 

 だが、

 

「ねぇクラム」

「なんだ」

「六課……それに、アキラとリンは……どうするの」

「……どうするって?」

「彼らは、この件の深くまで知りすぎた。私達についても……」

 

 オペラの言葉に、クラムは雅から渡された丸眼鏡をゆっくりと押し上げた。

 都市では一つの物語の幕が下りた。

 そして、新たな物語が幕を開ける。

 

「……そうだな。だが、もう一つ、道はある」

 

 

 ―シーズン1 了―

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(受話器を取る音)

 

(ダイヤルを回す音)

 

(数度のコール音)

 

 ……はい、わたしです。

 ブリンガーはサクリファイスとなり、六課を中心とする部隊によって討伐、

 死亡を確認しました。

 ……はい、結使化も起きていません。

 やはりあの男は選ばれませんでした。

 ……えぇ、星見の者とアレが、あの場で相対した時は焦りました。

 ですが……ええ。

 大勢の目に触れたにもかかわらず、暗示は機能しています。

 少なくとも当面、世間はアレをホワイトスター学会の調査員として認識するでしょう。

 ……はい。

 いざとなれば、彼女を目覚めさせます。

 しかし、分け身に危害が及ぶようであれば⸺

 ……え? 

 カローレの件も……承知しました。

 では、その時は先に、今のヘーリオスの子供たちと会わせます。

 じきに彼らも、自らの力へ辿り着くでしょう。

 サラの身柄についても……ええ。

 可能かと。

 ……はい。

 司教の地位も、しるしも、まだ彼女に残っているはずです。

 ほぼ間違いないでしょう。

 しかし、アレはこちらへ来る途中で、彼女に……

 ……ええ。そのように動くかと。

 では、その件には何も指示を出さずに。

 ……はい、Ghostとファヌス区の件は、計画を大幅に修正します。

 時が来たら、青溟剣をラマニアンホロウへ。

 ……承知しました。

 アレも同行させます。

 ……わたしですか? 

 わたしは、ここから出るつもりはありません。

 もっとも、出られないと言った方が正確でしょう。

 ⸺今のところは。

 ……ええ。

 ありがとうございます。

 そのためのプロメシュースです。

 もう、太陽は奪わせない。

 サクリファイスも

 虚狩りも

 宇宙そら

 ⸺人類に再び、黄金の時代を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⸺ミス・サンブリンガー。

(受話器を置く音)

 




我ながら良くここまで書ききれたな……この後はアンビーのエージェント秘話と絡めたオリジナルキャラのエージェント秘話をやる予定です。
一応全部書ききってますが、細部の修正を行ってる段階です。
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