「候補は13箱まで絞れた」
『13箱も!?ホントに調べたのか?』
「元は334箱です」
『なんだよ!先にそっちを言え十分じゃないか!』
クラムはパールマンの証言から拾い出した日付と工事名を、白祇重工の保管記録へ重ねていた。
荷台のモニターには白祇重工の事務所が映っている。机を挟んだ向こう側で若き社長、クレタが机を叩いて身を乗り出した。
クレタの隣では、クマのシリオン、ベンが送られてきた書類番号を手元の保管台帳と照らし合わせていた。
『旧地下鉄改修計画が4箱、爆破解体工事が3箱、機材の搬入記録が6箱だ。保管場所はすべて同じ資料倉庫になっているな』
「箱ごと確保してください。中身を確認する時も、通常回線へ繋がった端末は使わないで」
『ああ、分かった。移動記録はこちらで残して、封も開けずに別室へ移そう。元の保管状態も、証拠として残しておいた方が良さそうだ』
「助かります。候補の箱だけ先に別室へ移してください。パールマン本人がいればもっと絞れるはずです」
クレタが腕を組んだ。
『だけど、そのオッサンを助け出すのは、六課の連中とアキラたちに任せるしかないのか?』
「ええ。こっちはこっちでやれることをやります」
『ニコのヤツから急に連絡が来てビックリしたが、そんなヤバいことになってるなら手を貸さないわけにはいかないからな』
ニコとの通話を終えてから、すでに数時間が過ぎていた。その間に、ニコからパエトーン兄妹がRandom Playへ戻ったことを知らせる短いメッセージが届いていた。
白祇重工との通信を切ろうとしたところで、オペラの指が別の画面を弾いた。
「待って、クラム」
治安局庁舎内の配車記録が、AR上へ展開される。
選挙期間中の巡回検査
行き先は、六分街
派遣されるのは通常の巡査だけではない。武装した治安官を乗せた車両まで同じ経路へ組み込まれていた。
「抜き打ち検査にしては物騒ね」
「目的地は?」
オペラが地図を拡大し、表示された地点を見てクラムは舌打ちした。
「……『Random Play』」
ほぼ同時に、六分街の送電網へ不自然な負荷が掛かる。地域一帯を狙ったものでは無く、一本の配電経路へ集中し特定の建物へ過電流を送り込もうとしている。
「クソ! 店とH.D.Dを先に潰してから、治安局の名札をつけて踏み込むつもりかよ!」
「アキラたちへ連絡する!?」
「もう繋いでる!」
だが、呼び出し音すら返ってこない。
回線の向こうにあるはずの端末は、通信網から切り離されたように沈黙していた。
六分街の街頭カメラをハッキングすると、治安局の車両が映り込んだ。
一般の巡回車両が二台とその後ろへ武装治安官を乗せた輸送車が停まった。
降りてきた治安官たちはRandom Playを取り囲む。
治安官の一人がドア越しに臨検を告げ、しばらくして開かれた入口から、部隊が次々と店内へ入っていった。
「もう中まで入られたわ」
「部隊側の映像を拾えるか?」
「こっちで枝は付けた」
「悟られるなよ」
オペラが車両を中継している治安官の装着カメラへハッキングした。
揺れる映像の中で、治安官たちが店内を進み、二階と店の奥へ分かれていく。
残る数人の映像には、店の奥にある扉と、その前へ立ちはだかるリンの姿が映っている。
「おい、まずいぞ」
「H.D.Dのある工房ね」
治安官が扉を開けるよう求める。
リンが時間を稼ごうとしているが、相手は引き下がらない。治安官の一人が、自分で開けると告げて扉へ手を伸ばした。
クラムが椅子を蹴って立ち上がる。
「ここからじゃ間に合うわけないわ!」
「分かってる!だから、偽の緊急指令を⸺」
クラムが治安局のシステムへ処理を割り込ませようとした、その時だった。
治安官の装着カメラに、店の入口から入ってくる二人の女性の姿が映る。
特捜班の朱鳶と青衣だ。
青衣が扉の前に立つ治安官を制止し、朱鳶が新たな指令を読み上げた。
直後、配車記録が更新され、臨検を行っていた部隊には別の街頭巡回任務が割り当てられ、六分街一帯の検査権限が特捜班へ移された。
責任者として表示されたのは、今しがた店内へ入った二人の名だった。
「……間に合ったか」
「偶然とは思えないわね」
「あの二人が何か掴んだんだろ。こっちが今から割り込むより、任せた方がいい」
クラムは深呼吸をして、再び椅子へ腰を下ろした。
白祇重工との通信画面では、クレタが怪訝そうにこちらを見ている。
『…何かあったのか?』
「友達の店に、押し込み強盗が来ただけです」
『治安局のカメラをハッキングしながら言う台詞じゃねぇだろ』
「細かいことを気にすると背が伸びませんよ〜」
『あ゛ぁ!?ケンカ売ってんのか!?』
『社長、今は書類の確保が先だ』
ベンが身を乗り出しかけたクレタの肩を押さえる。
『こっちは予定どおり探しておくよ。該当する箱を移し終えたら、俺の端末からアンタたちの回線へ送るとするよ』
「お願いします」
今度こそ通信が切れた。
オペラは、Random Playへ集中していた送電負荷を監視し続けていた。
数分後、跳ね上がっていた数値が正常域まで下がり、遮断されていた周辺の通信も少しずつ復旧していく。
「送電網への攻撃が止まったわ。H.D.Dにも、また電力が流れ始めている」
「朱鳶さんと青衣さんが現場に残ってる。なら、店長たちはひとまず大丈夫か」
クラムが状況を確かめようとRandom Playの回線を呼び出しかけた時、別の通知がARへ割り込んだ。
H.A.N.Dのホロウ入域記録に対ホロウ六課が映った。
指定座標は、バレエツインズでありほぼ同時に復旧したH.D.Dから、同方面へ向けて暗号化された遠隔接続が開始される。
「六課はもう現地へ入ったのね」
「どうやらパールマンはそこにいるみたいだな。店長たちが臨検を受けてる間に、向こうも準備を整えてたらしい」
クラムはRandom Playへの発信を取りやめ、治安局庁舎の出入口を映すカメラをARに表示した。
「六課にはパエトーンがついてる。なら俺たちは引き続きブリンガーの動向を見張るぞ」
その言葉を待っていたかのように、庁舎の地下駐車場から黒塗りの公用車が現れた。
前後を警護車両に挟まれた長官専用車だ。公開されている予定では、彼は一時間後の演説に備えて庁舎内で待機しているはずだった。
「六課がホロウに入域した直後よ」
「本当に分かりやすいな、アイツ」
車列は演説会場とは別の道へ進んでいく。
オペラが交通監視網を辿り、進行方向を割り出した。
「バレエツインズ方面よ」
「六課が入った直後に、ブリンガーが同方向へ向かう。偶然で片づけるには出来すぎてるな」
クラムは運転席に移りエンジンを掛けた。
「追うぞ!」