クロノアールは何処へゆく ─ 先史時代の英傑の新世界探訪記 ─ 作:彗砦
平原を二つの影が風切り音だけを残して高速で駆け抜けて征く。
先行するは、自分より大きな黒い大剣、というより柄の付いた金属の塊をローブのように纏う銀髪の少女。
次いで、百以上はあるであろう剣を羽のように追従させ紅の髪をなびかせる少女。
大きく姿の異なる二人の共通点、それが頭上に浮かぶ白い輪である。それが彼女達が死地に向かう理由であり、死地を切り抜ける力である。
「
平原に点在する森をいくつか抜け、獲物の姿が視界に入る。
「……目標視認、凡そ
「ははっ、あと少しで安全域に撤退できるってのに最後にラスボスとはな! ぱっと見ファイブとそう変わらなさそうだがシックスってのは
「はい、クラスファイブの能力ではあり得ない異常現象、及び他個体に命令を与えるような挙動を観測したとの報告が上がっています。加えて、撤退ルートと交差するように移動している為、ここで撃破しないと遅かれ早かれ本隊が発見され終わり、と釘を刺されています」
「倒せなきゃ終わりなのはいつものことだがさ、最後の最後にとんだ貧乏くじだぁ!」
人が狂い、動植物が怪物と化すようになってしまった世界。その中で生き残った人類が縋る思いで進めるは、大陸北部の安全域と推定される地域への撤退作戦。その先鋒が彼女達である。
「隊長、お喋りの時間は終わりです。シックス周囲にスリーからフォーの群れを多数確認。幸いファイブは突入ルート上に居ないようです」
「雑魚狩りからスタートか。交戦は最低限にシックスを最優先で叩く!」
雑魚と言われる視界を埋め尽くすそれらはそこらの家よりも大きく、凶暴で、炎や雷といった
長年戦線の最前線で戦い続けた
「オーダー了解。
そう唱えると纏う大剣の一部が分離し両翼の宙に並ぶ。
「先行します」
幾らか減ったとはいえ直接纏っている大剣の重量からは考えられない加速で銀髪の少女が群れに突入し、薙ぎ払い、一撃一撃で確実に肉片に変え、道を開く。
「我が隊の誇る黒鐘ちゃんは今日も元気だなっ!」
紅の少女も襲い来る雑魚を適当に仕留めながら後に続く。
「そのあだ名で呼ぶのはいいですけど、ちゃん付けはやめてください!」
今まで幾千万と狩ってきた相手となると、他愛もない会話すら混じる。しかし、
「シックスまでの距離、千! 気づかれたようです!」
「一気に詰めるぞ! 大技撃たれる前に挨拶してやらんとな!!」
人類の命運を背負った二人の戦士はさらに加速する。ここからが戦いの本番、地獄の始まりだ。
ーー
夢を見ていた。目覚める直前になると夢という形で過去を思い出す。
瞼を開ける。目の前には何処までも続く黒、散らばる星々。
眼下にはかつてテラと呼ばれた惑星がある。
地上までの距離はおよそ数千キロメートル。所謂周回軌道上だ。
生きとし生けるものを拒絶する真空で目覚めるは、周囲に銀の髪を漂わせる身長およそ百四十センチメートルの少女。
身体情報を確認しながら生身だった頃の感覚を思い出すように伸びてみる。
「んー……パラメータ良好、エネルギー残量は……想定より回復せず。休眠期間、20年……寝すぎましたか……」
何処にも届かない独り言を言いつつ単眼鏡を取り出し地上へと向ける。
この
「あの村、ずいぶん大きくなりましたね」
地上は遥か遠くだが、彼女の特別な目と単眼鏡があれば地上をいくらか高精度に観察することができる。
「街が荒れてます。戦争でも起きたのでしょうか。或いは──」
世界が一つの政府に統一される前は各地で戦争があったと習ったが、新しい世でも人の性質とはあまり変わらない。
怪物が跋扈する世界では無くなったようだが、こうして空から見てわかる程度に街や国は遷り変わる。
「森が随分後退しましたね。畑と、家もちらほら」
かつてこの惑星の隅々まで開拓し尽くした文明の跡は深い森の中、或いは風化か朽ち果てている。
そんな既知が未知に戻ってしまった大地で強かに生きる新たな文明の彼らを今日も眺める。
大陸東部に差し掛かると彼女はある場所を探し始める。
「あった」
視線の先には自然のものにしては丸すぎる円形の湖。それは最後の戦いの地であり、敬愛する隊長の墓標である。
宇宙から見えるその墓標に黙祷することがルーティンの一つになっている。
「最後まで諦めず、最後まで誇り高く、最後ま人の為戦い抜いた彼らに良き来世が在らんことを」
黙祷を終えると長く伸びた髪を邪魔そうに押し退けつつ器用に体の向きを変える。二万年も宇宙を漂っていれば造作のないことだ。
かつての死と隣り合わせの日々と比べると暇すぎて死にそうなくらい何も無い日々だが彼女は満足している。
日々変わりゆく地上の様子が部隊の仲間と強大な怪物に立ち向かい滅亡の運命から人類を救えた証だと信じている。
とはいえ彼女にも悩みはあった。彼女の体を動かすエネルギーの残量についてだ。
軍、ひいては連邦随一の
地上であれば有機物やエネルギーパックの摂取、動物を怪物に変貌させたマ素からの変換等々手段は多い。しかし、ここは上空数千キロの真空。エネルギー回復の手段は恒星からの光程度である。
別にエネルギー枯渇で永遠の眠りに落ちるのが怖いというわけではない。
地上の様子はここ数百年は大きく変化しており、ここで終わってしまうのは勿体無いと直感が強く訴えている。
「どうしたものでしょうか……」
やはり何処にも届かない独り言が虚空に消える。
しかし、運命は彼女を面白い方向へ転がすことにしてみたらしい。
初めまして、小説読むも書くも初心者の彗砦です。
ちっこいのが謎テクででっかい武器ぶん回すOCのこと考えてたら勢いあまって爆誕してしまった当作品を楽しんでもらえば幸いです。
今後の更新予定:
もうすぐ最後まで完成しそうな1章のストックが無くなるまで毎日18時ごろ
(1章完結後は半年後くらいに2章が出る、はず(希望的観測))
備考:
1話平均5000文字程度、1章はプロローグ含め全18話予定