クロノアールは何処へゆく ─ 先史時代の英傑の新世界探訪記 ─   作:彗砦

10 / 18
S01-09 鉄路

 カーンカーン

 

 発車時刻を伝える鐘が響く。その音に応えるかのように、遠くからも鐘の音が聞こえる。

 

 警護車の外通路から身を乗り出し前方を眺めると、鉄道門が開き、はね橋が降りようとしている。

 

「ほらお前ら危ないぞ」

 

「そうだよくろちゃんちっちゃいから危ないよ!」

 

「レティ、お前もな」

 

 同じように身を乗り出したレティと仲良く叱られつつ開門を見届ける。

 

 機関車が目覚める音も響いてくる。水流のような不思議な息吹だ。

 

 線路が繋がってから少し間を置き、信号機らしき灯りが灯る。

 

 機関車の横に居た駅員が笛を鳴らした後、車両に小さな衝撃が走り、ゆっくりと動きだす。

 

 さあ出発だ。

 

 今まで見ているだけだった、今は知らない世界に。

 

 

 ーー

 

 

 夜風が心地良い。

 

 開拓都市ホーンを出発し早数日。三つの都市と複数の駅を経由しながら列車はツィーブ王国王都までもう半日といったところを進んでいる。

 

 時速はおよそ四十キロメートル程度だろうか。少しの勾配ならものともせず力強く線路を駆ける機関車、その後ろの警護車の屋根の上から周囲を警戒している。

 

 開拓都市周辺は辺境ということもあり、運行は昼のみで暗くなってからは防衛設備のある都市か駅で夜を明かした。

 

 二日ほど経った頃からは駆動城主ことパシュミトンともう一人の操鉄屋が交代で夜も止まることなく列車を走らせ続けている。

 

 王国内はある程度管理が行き届いており、線路に寄りつく魔獣や野党もほとんど居ない。居たとしてもこの目とレティの直感の前では丸裸同前で車掌車に乗務する魔術士によって近付く間も無く追い払われていた。

 

「進路上に構造物を確認。あれが最後の停車駅ですか?」

 

「んだ、あそこで停車して、充填魔力を回復すする」

 

 機関車備え付けの仮眠室より警護車の方が寝心地がいいと入り浸っていたパシュミトンが呼びかけに応える。

 

 駅までの距離はおよそ数キロ、今の速度でなら数分程度で着くだろう。

 

 少しして機関車側でも駅を視認したようで車両の鐘が響く。

 

「妙です。駅の反応がありません」

 

 これまでの駅では列車側が鳴らす鐘に対応した返答の鐘を直ぐに鳴らしていた。加えてそもそも駅に灯りがついていない。

 

「先頭で警戒を頼む! こっからはおらが操鉄する!」

 

 不穏な気配を察知してか彼女はすぐさま上着を着て機関車に走っていった。

 

 こちらの会話を聞いてか、警護車の窓からひょこっとレティが顔を覗かせる。

 

「なになにどうしたの? なんかいやな感じがぷんぷんするんだけど」

 

 彼女がこうした言い方をする時は大抵野党や魔獣のような悪意を持った何かがいる。

 

「周辺の警戒をお願いします。私は機関車前方の警戒を行います」

 

 列車は速度を少し落としつつ、駅へと近づいていく。

 

 駅がはっきりと視認できるようになった頃、ようやく明かりが点き、返答の鐘が響いた。

 

 周囲に人影は無く、駅舎周辺に数人、こちらの死角になる位置に複数の人影が索敵に引っ掛かった。

 

 ちらっと後ろを見ると目が合ったレティが全力で顔を横に振っている。

 

 彼女は危険の回避に関してはずば抜けているが戦闘に関しては素人同然だ。

 

「安全なところに隠れててください」

 

「ももももちろんそうするって!」

 

 すかさず警護車の屋根から降り、運転室へ声をかける。

 

「悪意を持った何者かが隠れているようですがどうしますか?」

 

「元気っ娘の直感か。さっきのは応答の鐘で、聞こえんかったとしたら問い直しの鐘が鳴るはず……怪し──」

 

 シュッ

 

 彼女がそう言い終わろうとしたその時、運転台を目掛けて何かが飛来した何かを受け止める。

 

「襲撃のようですね。強行突破しますか?」

 

「矢?! 浮いてる!? んでそな落ち着いてるんだよ!」

 

 手首に付けた小型HAROは通常稼働時でもエネルギー消費が少なく、こうした咄嗟の対処に便利だ。

 

「驚くのは後にして今は離脱を最優先でお願いします」

 

「わーってるって!」

 

 困惑しつつも列車を再加速させる彼女を横目に再び駅舎を注視する。

 

 矢が飛来する直前に見えた屋上の人影は居なくなり、灯りも消え、駅舎は再び沈黙した。

 

「敵影をロスト、警戒を続行……いえ、敵影視認! 列車後方に注意してください!」

 

 加速を続ける列車が乗降場を通り過ぎようとしたその時、駅舎の横から飛び出してきた人影が列車に取り憑いた。

 

 人影の一つは迎撃に向かおうとしていたリーダーや車掌達より遥かに素早く、数十メートルはある加速中の列車の先頭に一瞬で迫る。

 

「自己強化魔術か! 黒鐘、気をつけろ! そいつ速いぞ!」

 

 そう彼が叫び終わるより早く暗器が迫る。しかし、その刃先は身体に触れる直前で静止する。

 

「残念ながらその程度では届きません。抵抗を止め、投降しなさい」

 

 仕留めようとした丸腰の相手に武器を封じられた賊はすぐさま蹴りの体勢に移る。

 

 しかし、そのささやかな抵抗も虚しく足首を掴まれそのまま屋根へと叩きつけられた。

 

「目的を教えなさい。それと、あちらも貴方の仲間ですか?」

 

 散発的に飛んできている矢の主、加速する列車になんとか並走する馬を駆る人影を横目に問いかける。

 

 しかし、足元で倒れている賊は答えず、むしろ謎の呪文を唱え始めていた。

 

「黒鐘! そいつを今直ぐ叩き出せ! 自爆する気だ!」

 

 賊の体内のエネルギーが妙な上昇をしていると観測値が表示される。このままでは警護車はもちろん機関車や後ろの客車まで巻き込むのは確実だろう。

 

「話す気が無いのでしたら降りてもらいましょうか」

 

 そう口にしながら賊を遠くに投げ飛ばした直後巨大な火球となって衝撃波と共に辺りを照らした。

 

 並走した賊も爆発に驚いた馬から落馬している。

 

「周辺に敵影無し……。警戒を続けます」

 

「くろちゃん大丈夫!?」「黒鐘、大丈夫か!」

 

「そちらも無事で何よりです」

 

 最終的に乗り込んで来た賊は三人、そのうち二人は列車後方でリーダー達に降車させられたらしい。

 

「おめえさんがた、屋根から降りんとトンネルにぶつかんぞ」

 

「そりゃいけないな」

 

「もう危ないのはこりごりー!」

 

「その時は私がどうにかします」

 

「無茶はすんなよ」

 

 運転室からの警告を聞き、軽口を叩きながら各々持ち場へと戻った。

 

 

 ーー

 

 

「王都ってどんな感じなのかな!」

 

 進路警戒について来たレティが興奮を抑えられなくなっている。

 

「おっきな街に人がとーってもたくさん居て、お城とかもあるんだって!」

 

 連日の鉄路の旅で寝不足な彼女ではあるものの、興奮モードに入ってからは全て吹き飛んでしまったようである。

 

 そうしている間に最後のトンネルを抜けた。

 

 白んできた空が慌ただしい夜の終わりを伝える。

 

「やっと朝だー」「夜明けですね」

 

 つい声が重なる。

 

 ふと横を見ると、にへーと笑う彼女と目が合った。その瞬間、疾風で赤い髪が舞い上がる。

 

「風気持ちいいねー!」

 

 赤い髪、眩しい笑顔、どこまでも真っ直ぐな彼女がかつての隊長と重なる。

 

「そんな見つめられるとちょっと恥ずかしいかも……まって、もしかしてそーしそーあいってやつ?!」

 

「い、いえ。髪が朝日の色に綺麗だと思っただけです」

 

 つい言い訳を溢すが、重なった面影を見続けてしまう。

 

「ごまかしてもムダだよー!」

 

「楽しそうなとこすまねが、関所着く前には警護車に戻ってくれな」

 

 猛獣に襲われる寸前、すっかり忘れていたパシュミトンによって阻止されたのであった。

 

 彼女曰く、王都直轄地とその外を区切る関所を抜ける際に乗員は車内に戻る必要があるとのことだ。

 

 暫くした頃、線路の先に長い城壁が映る。

 

「あれが関所」

 

「おっきい壁だね」

 

「前回行った時より増築されたか?」

 

 リーダーまで機関車の前に来てやや窮屈なことになってしまっている。

 

「おめえさんたち、ほーら戻った戻った」

 

 残り僅かな充填魔力をどうにか関所まで持たせようと苦心しているパシュミトンは、まるで子供のようになっている三人に呆れ気味の様子だ。

 

「呆れられてますね」

 

「パシュちゃんかわいい」

 

「そーんなジトーってしてると顔が台無しだぞ」

 

「手え離せねぇからって好き勝手言いやがって……」

 

 警護車に戻る間にも壁は更に大きくなり、見上げる頃になってやっと関所へ到達した。

 

 開拓都市で見たものよりさらに緻密で遥かに高く巨大な城壁とそれに比べると小さな開口部。それでも列車が通るには大きすぎるほどの門が開かれ、はね橋が降りて来ている。

 

 窓から溢れ落ちそうな程飛び出して眺めているレティはあまりの大きさに口をぱくぱくさせてしまっている。

 

 巨壁に圧倒されていると再び列車が動き出し、まるで凱旋するかのようにゆっくりと門をくぐる。

 

「王都だー!」

 

「レティ、王都はまだ先だぞ」

 

「え、え゛ー」

 

「そんな露骨にテンション下げることないだろ.」

 

 この長大な城壁は王都外周を囲う第四環状防壁の一部であり、この関所から王都までは鉄路でも数十分はかかる。

 

 レティはテンションがやや下がった勢いでふて寝してしまい、リーダーも買い物に出かけてしまった。

 

 発車までの時間のつぶし方を考え始めながら、もはや定位置となりつつある警護車の屋根の上に腰掛け、関所の周りに広がる駅や宿場街が一望する。

 

 開拓都市と比べると小さいものの活気のある街だ。

 

 バァン

 

 朝日が程よく暖かく昼寝でもしたくなってきた頃、足元に見える機関車の天板が勢いよく開いた。

 

「閉っ込められるとこだった……」

 

「デジャヴというやつでしょうか……」

 

 ふと目が合った。

 

「……暇ならちと手伝ってくんねか?」

 

 さっと了承し、機関車メンテナンスを少しばかり手伝う。普段は手伝ってくれる助手も溜まった疲れで寝てしまって一人で作業していたらしく、ネコの手も借りたかったようだ。

 

「あんのぉ爆発野郎……今度オーバーホールしねぇといけんくなったじゃぬか。あ、そこもう少し上照らしてくれ」

 

「護衛でありながら守りきれず申し訳ありません」

 

「元より定期メンテの時期だかんな。あんまり気にすな」

 

 一時間程度経った頃、メンテナンスと充填魔力回復も終わり再出発の準備が完了した。

 

「そんじゃ、出発すぞ!」

 

「おー!」

 

「お、おー」

 

 水面を進む船のように滑らかに発車した列車は今までより更に加速してゆく。

 

 街を抜け、畑を抜け、草原と森を貫く線路を滑るように進んでいく。

 

「随分と加速しますね」

 

「こかな、線路がええから最高速で飛ばせるんだ」

 

 風を切るように列車は進み、数十分のラストスパートは一瞬のように過ぎていった。

 

 




 案外脳筋実際パワー極振りの主人公、バランス型オールラウンダーなリーダー。
 二人に守られるは、一応ヒロイン枠ことレティ! 戦闘力は無いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。