クロノアールは何処へゆく ─ 先史時代の英傑の新世界探訪記 ─   作:彗砦

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S01-11 簀巻きinアンダーランド

 目が覚める。

 

 見慣れた天井が映る。

 

 一年と少しの間だけ過ごした隊舎の一室。ただ毎日睡眠を取るだけだった部屋。

 

 綺麗に整えられた制服、机の上の整理された書類、仲の良かった隊員から貰った変な置物、それら以外殺風景な部屋。

 

 思い入れはあまり無いとはいえ夢に出てくるのも久しぶりだ。

 

 ああ、これも夢。そう思うとまた夢から覚める。

 

 

 ーー

 

 

 

「知らない天井……」

 

 昨晩、確かに宿で寝たはずなのだが、ほとんど真っ暗な視界には冷たい岩肌が広がっている。

 

 上を見るとくたびれた箱と袋が沢山、横にはロープで簀巻きにされたレティ、下を見るとこれまた簀巻きにされた自分の身体。

 

 一応義体のログも確認する。休眠中は断続的な記録しかされないが、確かに何者かに運ばれた形跡がある。

 

 場所は不確かだが、王都の地下なのは確かだろう。

 

「これが噂の誘拐事件ですか」

 

 まさか自分が当事者になるとは思ってもいなかったが、起きてしまったことはしょうがないと蜘蛛糸をちぎるかのように簀巻きから抜け出す。

 

 昨晩着替えずにそのまま寝てしまったのが功を奏したのか、服と装備はそのまま。手首の小型HAROも盗られていない。

 

 ただし大剣は見当たらない。ああした重量物を盗む物好きな人攫いではないのだろう。

 

「レティ起きてください、緊急事態ですよ」

 

「むにゃ〜」

 

 軽く揺らしても起きる気配は無く、かといって強引に起こすと変な大声を出される可能性もあるのが厄介だ。

 

 レティは自然に起きるのを待つことにして、縄を解きながら感知器の感度を上げる。視界が開け、些細な音も耳に入ってくるようになる。

 

「あんな上物二人だ。結構な額になるぜ」

 

「服も着替えないで寝てんだからな。まとめて売れればもっと上乗せできるぞ」

 

「服も上物っぽいしどっかの貴族のお忍びだったりしないか? 身代金も取れれば大儲けだ」

 

「どうだか。部屋に転がってた魔剣は銀髪の持ち物だと上は言ってたな。まあ、魔剣頼りのガキとただのガキってとこだろ」

 

 薄明かりを漏らす扉の向こうから二人の盗人の雑談が聞こえてくる。あまりに典型的すぎる悪党なセリフに逆に呆れてしまう。

 

 声以外の音に耳を澄ますと話している二人に加えて、少なくとも追加で二人以上の気配もしている。

 

 後ろで寝ているレティの気配も動いた。

 

「むにゃ……?? くろちゃんここどこ──」

 

 声が大きくなりすぎる前に彼女の口をそっと塞ぐ。

 

「落ち着いて聞いてください。どうやら私達は誘拐されてしまったようです」

 

「!!!」

 

「ここは恐らく王都の地下です。まずは上を目指しましょう」

 

 口を自分の手で塞いだまま全力で頷く彼女を見て、確かこうだっただろうかと彼女の頭に手を乗せ軽く撫でてみる。

 

「! 〜!」

 

「大丈夫です。私が責任を持って貴女を地上へと送り届けると約束しましょう」

 

「! ──」

 

 囁くように言ったせいかレティは気絶してしまった。更に悪いことにその時の物音が隣の部屋まで届いてしまった。

 

「今なんか音しなかったか?」

 

「商(・)品(・)が起きたんだろ」

 

「お前見てこいよ」

 

「はーだる」

 

 接触は避けられそうにないことを悟り、扉の前に立つ。

 

「前方走査完了。相対座標ロック」

 

 扉に均等に力がかかるようにOrbitを固定し腕部を稼働させる。

 

「今なんか聞こえ──」

 

 瞬間、扉をぶち抜いてその奥の男ごと部屋の向こうまで吹き飛ばす。

 

 何事かと構える男三人の前に堂々と姿を現し、警告を唱える。

 

「一応確認なのですが、あなた方は盗賊或いは人攫いということでよろしいでしょうか」

 

「ちっ魔剣頼りってわけじゃないのか。多少のキズが付いてもいい! とっ捕まえろ!!」

 

「はぁ。わかりやすい回答をありがとうございます」

 

 ガタイの良い男の合図で先程の会話に加わっていなかった二人が飛びかかってくる。

 

 が、次の瞬間、壁際から吹き飛んできた大きな棚が二人まとめて反対の壁に叩きつけ沈黙させる。

 

「て、てめえ今何──」

 

 指示を出した男は状況を理解する間も無く、顔面へと飛来した二つの足によって意識を刈り取られた。

 

「制圧完了」

 

 人攫いが起きる前に適当なロープで拘束を済ませ室内の物色をする。

 

 至る所に積まれた箱の中は概ね盗まれた物が詰め込まれているが、大して脱出に使えそうな物はない。

 

 それでもと探していると、数本の剣が見つかる。

 

「一旦はこれで」

 

 そう言いながら腰の左右にそれを差す。手入れがされていなさそうな剣だが、何かあった際はこれで対処できるだろう。

 

「それでは出発しましょう」

 

 気絶してから伸びたままのレティを背負い扉を開け出発する。

 

 人工的な部屋と通路の先の岩肌と暗闇に向かって。

 

 

 ーー

 

 

 歩き始めて数十分は経っただろうか。この地下洞窟は広すぎる。

 

 足跡と反響観測でルートを絞り、空気の流れまで考慮して道を選んでいるが上へと進む道は一向に現れない。ただいたずらに行動ログから作成される観測済みまたは通った場所の地図が広くなるだけだ。

 

「全周走査──」

 

 定期的に壁の向こうまで小型HALOで走査しても映るのは岩、岩、岩。

 

 稀に別の通路を観測しても壁が厚すぎて行くことはできない。

 

「どうしたものでしょうか」

 

「どうしたものなの〜」

 

「起きてましたか、レティ」

 

「今起きたとこ〜ぎゅー」

 

 完全に甘えモードな彼女に背中からよしよしされながら歩を進める。

 

「真っ暗なのにくろちゃんには見えてるの?」

 

「目で見ている、というより音で見ています。灯りも拝借してきてるので点けることも可能ですが」

 

「真っ暗なままでもいいよ。そのかわりもう少しこのままでいさせて〜」

 

 頑張って気を落ち着けようとしているのが声色から伝わってくる。

 

 こうして背負っているだけで彼女の不安が和らぐのならずっとこのままでも良いかもしれない。

 

「わたし、くろちゃんに助けてもらってばっかだね」

 

「私も何度も背中を押されているのでおあいこです」

 

 暗闇の中でゆっくりと時間が流れていく。

 

「何があったかうまく思い出せないんだけど、昔とっても怖い思いをしたの」

 

 囁くように、吐露するように背中から言葉が流れてくる。

 

「だから、真っ暗は得意じゃないんだけど、くろちゃんと一緒なら怖くない、かも」

 

 彼女の体温と吐息がそのどちらも無い身体に染み込んでいく。

 

 足音だけが響く光の無い洞窟で二人だけの時間が流れる。

 

「ふふっ。誰かに話してみるのって結構すっきりするね」

 

「私でよければいつでも相談してください」

 

「そーするっ!」

 

「いつものレティが戻ってきましたね」

 

「うん! 完全復か──」

 

 言い終わる前に口籠った彼女もそれに気づいたようだった。

 

「貴女も気付きましたか」

 

「誰か戦ってるね。血の匂いもする」

 

「恐らく人と魔獣の戦闘でしょう。征きますか?」

 

「もちろん!」

 

 返事を合図に彼女を背負ったまま洞窟の奥へと加速した。

 

 

 ーー

 

 

「次、左! その次の次まっすぐ、の次右!」

 

 レティの掛け声に合わせて光の無い洞窟を騎馬の如き速度で疾走する。

 

 分岐を進む度に血の匂いが濃くなり、獣の死骸もちらほら見かけるようになる。

 

 そうしてほのかに明るい最後の角を抜けると灯りに照らされた影が視界に入る。

 

「一度降ろします。隠れていてください」

 

「あいあいさー!」

 

 前方で戦っている集団から一歩離れた岩の影で減速しレティを降ろす。

 

 隠れた場所から離れるように軽く助走してから跳躍する。

 

 いくつかの明かりの中に四つの人影を視認する。二つは獣と剣を交え、一つは一歩引いた位置に。もう一つは体勢を崩し襲われかけている。

 

「援護します! 回避を!」

 

 洞窟内に反響する声に集団が驚きつつ反応する。そうしてできた隙間をすり抜けその先の獣の群れに突入する。

 

「討伐目標ロック。数三」

 

 まず、今襲い掛かろうとしている一体をひと突きで脳天を貫く。

 

 刺さった剣を放棄しつつ近くに居たもう一体の首を狙う。

 

「浅い。ならば!」

 

 つい戦術重剣の感覚で剣を振ると、首を落としたつもりが薄皮を切った程度の浅さになってしまう。

 

 身体の動きを再演算しつつ、体重を乗せた一撃で今度こそ首を落とし、奥へと抜ける。

 

「残り一つ」

 

 獣も慌てて振り返るが、そこに銀の髪は居ない。何故なら、天井からその首を狙っているから。

 

 天井を蹴った加速と体重を剣にかけ、最後の首を落とす。

 

「敵の撃滅を確認。警戒態勢に移行します」

 

 刺さった剣を回収し、剣についた血を振り落としつつそう呟く。

 

 暗い洞窟の先、壁の向こう。視覚と聴覚、走査も併せて確認を行う。

 

 安全を確認し、未だ警戒している一団へと向かい、隊長と思わしき男に視線を合わせ、口を開く。

 

「緊急時でしたので申し遅れたことお詫びします。私はシーカーギルド所属、暫定Cランクの黒鐘です」

 

「わ、わたしもーギルドのレティ、です──」

 

 少し離れた岩の影から出てきた彼女にも一団がまた注意を飛ばす。

 

「シーカーだと? 何故こんなところに居る」

 

「要約して説明します──」

 

 人攫いによって地下に連れてこられたこと、制圧したのち地下を探索していること、人攫いのアジトまでのルートは完璧に記憶していることを話す。

 

 疲れていそうな頭にいきなり情報量を詰め込まれたせいか、小娘がやったという現実を受け入れ難いせいか、彼は頭を抱えてしまった。

 

 状況をなんとか飲み込んだのか彼らの目的も最低限話してもらえた。

 

「つまり、あなた方はこの王都地下空洞上層の定期掃討任務を行なっており、現在は地上への帰還途中なこと。また、人攫い等の地下に潜む犯罪者及び私達のようなイレギュラーは管轄外ですが対応も可能。ということでよろしいでしょうか?」

 

「ああ。だいたいそうだ」

 

 せっかく仕事がもう直ぐ終わりそうなところで厄介事が飛び込んで来たような男の顔を見る。

 

「では、これより黒鐘以下二名。戦闘員、非戦闘員各一名、あなた方の指揮下にて同行の許可を」

 

「はー、分かった許可する。俺はここの隊長やってるオルターだ。残業か。最悪だ」

 

 とても嫌そうな顔をしているが仕事には忠実な様子だ。

 

 人攫いのアジトまでのルートを紙に書き記すと最短ルートがあると言いながらその場を後にした。

 

 

 ーー

 

 

「それで、ここが?」

 

「確かにここなのですが」

 

 アジトの目の前に来たものの視界にはただの岩肌が広がっている。

 

 走査をすると目の前に通路があることがわかるが、隠し扉というわけでもなくただ岩肌が広がっている。

 

 耳を当ててみると、中から物音と、聞こえにくいものの声もする。

 

「この先に通路と何者かが居るのは間違いありません。壁の破壊許可を」

 

「好きにしてくれ」

 

「では安全確保の為距離を空けてください」

 

 安全を確認し、岩に足をかける。

 

 岩の感触を確かめながら、脚部の出力を徐々に上げていく。

 

 その場の誰の耳にも聞こえる何かが壊れる音が響いた次の瞬間、人が通れる程度の大きさで壁の一部が奥へ倒れこみ、通路から漏れた灯りが洞窟を照らす。

 

「通路の確保を確認。あ──」

 

「あ!?」

 

 アジトを脱出する前に縄で縛っておいた人攫いの一人が仲間の縄を解いているところだった。

 

「はー仕事が増えた。最悪だ。制圧すんぞーかかれー」

 

 後ろからひょこっと顔を出してきたオルターの号令によって瞬く間にアジトと人攫い達は制圧された。

 

「よわっちいな。盗みしか特技が無い奴らはこんなもんか」

 

 そんな呆れるような声が静かな洞窟に響いた。

 

 魔道具の偽装は完璧だった筈、そうぼやきながらアホ面を晒す人攫い達が加わり大所帯となって洞窟を進んでいく。

 

 ジグザグと洞窟を進むと太い通路へと繋がる。

 

 だが通路へと足を踏み入れる直前、先頭からのハンドサインによって止められた。

 

「ちっ最悪だ。下層から上がってきやがったか」

 

「状況確認の許可を」

 

「でかい音は絶対立てるなよ。最悪なことになりかねない」

 

 そっと太い通路を覗くと、それは居た。

 

 暗闇の中で存在感のある毛が生えていたり生えていなかったりする巨躯。そこから伸びる棘のような鱗で覆われた長い尾がチグハグさを際立たせている。

 

 おもむろに向きを変えたそれの正面が顕になる。

 

 ずんぐりとした胴体と比べると不自然に細長く見える首が生える。その首に繋がる猿のような頭部と口から飛び出した鮫のような牙が目立つ。

 

 それはまるで伝説の中に登場する怪物──

 

「キマイラ……?」

 

「変な訛りだな。知ってんのか?」

 

「見た目が近いものを聞いたことがあるだけです」

 

「あれについてここで見たもの聞いたもの他言無用だ。ぜーったいに漏らすなよ。そこの赤髪もだ。漏らしたら最悪になる」

 

 小声で指名されたレティも口に手を当てたまま顔を上下に振っている。

 

 のそのそと太い通路を通過していくキメラに見つからないように脇道にしばらく身を潜めるとそれは去っていった。

 

 動きは鈍いが全長十メートルはある巨体のせいで見た目の割に速い。

 

 そうしてキメラが闇の中に溶けた頃脇道を抜け出し早足で反対方向へと進み始める。

 

「仕事が増えた。最悪だ。地図に無い道がどっかにある。立坑までにあれが戻ってきたらもっと最悪だ」

 

 ぶつぶつと呟く彼の後を歩きながら思考を回す。

 

 彼はどう考えているのか定かではないが、同じように人員、武装、敵戦力、常に最悪を想定して考え続ける癖は未だに抜けない。

 

 が、しかし、想定外というのは案外簡単に発生する。

 

「あああ、あいつ俺たちを始末しに来たんだぁ!!!」

 

「てめっ黙れ」

 

 ストレスで発狂しかけた人攫いを隊員が押さえつけるが、叫んだ声は既に闇の奥へと反響していった。

 

「くろちゃんくろちゃん逃げよう今すぐ……!」

 

 反響が止むより先に涙目のレティが逃げの体制に入りながら懇願してきている。が、時既に遅し。

 

 その場にいた全員が気づくほどの何かによる衝撃と音が太い洞窟の奥から伝わって来た。

 

「総員戦闘準備。撤退しつつ追いつかれたら迎撃。はぁ。最悪だ」

 

 掛け声ひとつで一団はすぐさま先を急ぎ始める。

 

「待って、前からもいっぱい来る……!」

 

 そろそろひょろひょろになりそうなレティがなんとか絞り出した警告に全員が足を止める。

 

「本当か? 本当なら最悪だぞ」

 

「彼女の危機感知の正確さは私が保証します。レティ、数は分かりますか? 

 

「うーん、十以上は……」

 

「数が多いな。最悪だ。はぁ、迎撃しつつ前進。キメラに追いつかれるまで時間を稼ぐぞ」

 

「あいよ」「おけーい」「了解」

 

 彼の部下に混ざり返事を返しつつ歩行ペースを上げる。

 

「キメラの特性はどの程度分かっていますか?」

 

「機密事項なんだがな、この際黙ってても仕方ないか。最悪だ。まず、ああ見えて何かと素早い。突進と硬い尾の薙ぎ払いには注意しろ。目は弱いようだが耳は良い、鼻はわからん。あと個体差はあるが魔包を使ってくるやつも居る。知っといた方がいいところはそれくらいだ」

 

 淡々と情報を伝える彼を見るとこの地下で何があったかを窺い知れる。

 

 その時、暗闇の中で蠢くものを視界が捉えた。

 

「前方、敵性集団を視認しました。接敵まで凡そ三〇」

 

「総員抜剣。襲ってきたやつだけ切れ、それ以外は無視しろ」

 

 オルターの合図で隊員全員が剣を構えつつ前進を再開する。

 

「私も参戦してもよろしいでしょうか?」

 

「お前は待機だ。キメラの監視とそこの馬鹿共が逃げないように見張っててくれ」

 

「了解」

 

 接近音が限界まで大きくなった頃、その姿が暗闇の中に映る。

 

「キメラ視認! 間もなく接敵!」

 

「これ以上前進は無理か。最悪だ。非戦闘員は適当なとこにでも隠れてろ!」

 

 レティや人攫いが近くの岩陰に隠れたのを確認しオルターに声をかける。

 

「非戦闘員の保護を任せて良いでしょうか?」

 

「まさかあれを一人でやる気か?」

 

「大型種の討伐には慣れていますし、刃が通らなくても時間稼ぎくらいはできます。全滅のリスクを避けるには最善かと」

 

 襲い掛かる魔獣を雑にさばく彼は一瞬の沈黙ののち口を開く。

 

「はぁ。最悪は避けろよ」

 

「オーダー了解。健闘を祈ります」

 

 身を翻し、暗闇へと向かう。

 

 暗視で最大まで闇を映す視界にのそのそと近づいてくるキメラが入る。

 

 両腰に携えた剣を取り出し、獲物を見定めようとするそれと視線を合わせる。

 

 視線と距離を合わせたまま互いの位置が四分儀の半分ほど回るように歩いたところでキメラが動いた。

 

 その巨体と普段ののそのそとした動きに似合わない素早い突進、からの噛みつき。

 

 常人から見れば不意打ちにも近い攻撃だが、それでも遅い。

 

 最小限の回避行動を行いつつ軽く刃を立てる。体毛は見た目以上に頑丈で生半可な攻撃は弾かれてしまう。

 

 毛の薄い箇所に傷が付いたことを確認しつつ尾の薙ぎ払いを避ける。

 

「対象の情報を更新──」

 

 再び接敵時と似た距離に戻る。最速の撃破方法を演算している一方でキメラは再び突進を選ぶ。

 

 先ほどの突進は本気でなかったと言うかのごとく、より速く、より殺意のこもった牙が迫る。

 

「相対座標ロック──」

 

 軽く腕を動かしつつ両手首の小型HALOが僅かに発光した直後、キメラの下顎が叩き上げられ首が無防備となる。すかさず加速し、両の手の剣を同時に突き刺す。

 

 ガキンッ

 

 洞窟内に響き渡る音を立てて折れた一振りを放棄し、もう一本を両手で握りしめる。

 

「相対座標再設定」

 

 そう呟きつつ跳躍する、首の横を通り過ぎるように。

 

 跳んだ身体が首の横を通過し始める頃、側から見れば不自然に軌道が曲がる、キメラの首を中心にするかのように。

 

「廻撃」

 

 一回転し終わる頃、キメラの首が落ちる。

 

「キメラの沈黙を確認、向こうの援護に戻りましょう」

 

 軽くレティの様子を確認し、もう一つの戦線へと向かった。

 

 最終的に二十頭以上居た獣を倒しきり、前進を再開して半刻ほど経った。

 

 幾つかの横道を抜けた頃、洞窟が緩い上り坂になり、登り切ると開けた空間に出る。

 

「到着だ。昇降機が来るまで周り見張ってろ」

 

 直径二十メートル程の立坑の壁面に備え付けられた足場の中を金属製のカゴがゆっくりと降りてくる。

 

「すっごい冒険だったねー」

 

 そう口にしながら昇降機に向かうレティの後に続く。

 

 乗り込む直前、ふと後ろを振り向く。立坑の岩肌には来たものとは別の道がたくさん繋がっているのが見える。

 

 旅はまだ始まったばかりで、王都に長居する気は無い。

 

 しかし、この地下に広がる世界にはまだ何かある気がしてならない、そう考えながらレティの後を追った。




 最悪さんことオクターことオルターのせいで妙に筆が乗った回でした。(間違えすぎてオルターになった)
 オルターよりリーダーの方が本名決まるの遅かったのまじ…?
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