クロノアールは何処へゆく ─ 先史時代の英傑の新世界探訪記 ─ 作:彗砦
街を抜け、防壁をくぐり、更に半刻ほど歩くと小さい森へと着く。
広い草原の傍に広がる森は、訪れを歓迎するかのように昼前の程よい陽気で地面を照らす。
主に野草採取や掃除のような雑用から他パーティと協力して害獣駆除まで手がけている彼らなんでも屋は元気に歩みを進める。
「それでねそれでね! この前はこーんな大きな尻尾をトライが踏んづけて襲われるー! って思ったんだけど、尻尾だけが落ちてただけだったから大丈夫だったの!」
興奮しながら冒険譚を語るペトラを中心に森の小径を進む。
そんな彼女の話に気を取られ、何かに足も取られたへプカが地面へとダイブした。
「あー! 変なしっぽ!」
「また尻尾かよー。いてて」
それは、今さっきまさにペトラが話していた鱗で覆われている奇妙な尻尾であった。
「さ、最近、尻尾以外にも魔獣の一部が落ちてたりする」
尻尾をつんつんしているノナの横でしゃがむトライはそう語る。
「たしかに奇妙ですね」
奇妙である。それもそのはず、大きさこそ違うもののキメラのしっぽと酷似しすぎている。
「この為に私に護衛を?」
「あ……えーっと。依頼じゃなくてパーティに入れるなんて卑怯なことしてごめんなさい!」
理解する間もなく突然謝られてしまいついポカンとしてしまうが、ペトラの早口が追い打ちをかける。
「わ、わたしたちお金がちょーっと足りなくて、護衛の依頼なんて出したら一瞬で野草採取の報酬も飛んでっちゃうのでもパーティに入ってもらえれば分け前は減ってもマイナスにはならないから強そうで優しそうなあなたを誘ってみたら入ってもらえてつい嬉しくなっちゃって──」
だんだんと早口が収まってきながら指同士をつんつんするペトラは語る。
「だからわたしの事は嫌いになっても、この子達の事は嫌いにならないで……」
「みんなのお姉ちゃんなのですね」
しょんぼりしている彼女を撫でる。
「いいの……?」
「子供の安全が第一です。ただし、今日は森の奥まで行かない事が条件ですよ」
そう言いつつ軽く微笑むとペトラや様子を伺っている他の子達の表情も明るくなる。
「では、出発しましょうか」
「「「「おー」」」」
気を取り直して、彼女たちの見つけた野草の群生地への歩みを再開する。
ーー
「あ! スライム!」
「あぶないよ」
「ノナ達の草を取るなー!」
森が開けたと思うと、木々の中の孤島のような草原へと出る。
危険の気配は薄く、居るのは野草を食べているスライムや草食獣程度の平和な草原だ。
「よかったーまだ誰にもバレてないみたい!」
子供達の喜ぶ声がそよ風に流された頃、各々草むらに入っていき黙々と野草取りが始まる。
軽く辺りを見渡していると、ごそごそと一株引き抜いたペトラがその葉をちぎり渡してきた。
「この草が目的の?」
「そう!」
見た目は遥か昔とそう変わらないただの草。それをおもむろに口に運ぶ。
成分も概ね変わらぬただの草。しかし、僅かにデータベースに存在しない何かが含まれていることに気づく。
「え?」
「どうかしましたか?」
「そのままじゃ毒あるよ!」
「たしかに毒の成分も含まれていますね。この身体には効かないのでご安心を」
若干引きつつ野草取りに戻っていくペトラを見送り、剣を置き同じように野草取りを始める。
日がてっぺんまで来た頃、野草入れの袋が遂に満杯になった。
「す、すごいわ! まだお昼なのに依頼分集まっちゃった!」
うきうきが最高潮に達したペトラが他の二人とはしゃぐのを横目に、おとなしいトライと昼食の準備をする。
「混ざらなくていいのですか?」
「ぼ、ぼくは見てる方が好きだから……」
軍学校にいた頃、はしゃぐ同級生を遠目から見ていた事をつい思い出しつい口が開く。
「今でなくても、一度は混ざってみるのもいいかもしれませんよ」
「そ、そうかなぁ」
「あー! ナイショ話してるー!」
「なになに、おしえてー!」
はしゃぐのに満足して戻ってきた子供達も増え昼食の準備はあっという間に進んでいく。
草を踏み固めペトラのお気に入りという布を広げると、各々持ってきた昼食が並ぶ。
そんな子供達に倣って買い物袋からパンを取り出していく。
「やはり買いすぎたかもしれないですね」
王都を発つ前、ギルド近くのパン屋に行ったところ、どれも美味しそうでついパンを選ぶ手が止まらなくなってしまったのだ。
「お姉ちゃん、もしかして食いしん坊さん?」
「お金もちだ」
義体のエネルギー残量は九割以上、これ以上は補充ではなく無駄になるだけだ。
持ってきた量の半分以上はあるであろうパンの山を見て目が釘付けになる彼らに問う。
「要りますか……? 私は一口味わえれば満足ですので」
目が泳ぎまくっている彼らに大きめのパンをちぎりながらもう一押ししてみる。
「食事は皆で食べた方が美味しいですよ」
「い、いいの?」
「お昼からこんなぜいたく」
「や、優しすぎる」
「ノナ、はらぺこだからもらう」
「「「あ!」」」
一抜けした彼女に続いて昼食が始まる。
子供の食欲はすごいもので、山のようにあったかと思ったパンは彼らの胃の中にすっぽり収まってしまった。
満腹になって昼寝を始めたり、野草を追加で取ったり、散歩したりする子供達を横目に雲がいくつか流れる空を眺める。
「のどかですね……」
ーー
半刻ほど経った頃、そんな平和な時間も終わりを迎えた。
直下からの激しい衝撃がその場にいた全員を僅かに浮かせる。
「うえええ〜! 何何何?!」
パニックになりかけた子供達を落ち着かせつつ状況を整理する。
地震にしては違和感のある衝撃。この違和感を無視できるほど鈍ってはいない。
「全周走査──」
念の為の全周走査しつつ周囲を観察すると不自然に地面が盛り上がり始めているのを確認した。それも、昼食後の散歩をしていたノナの真下の地面が。
「あなたたちはそこで待機を!」
すぐさま彼女の元へと走る。
「ノナ! 衝撃に耐えてください!」
「え? ぶへぁ」
急減速しつつ彼女を抱き上げ、子供が耐えられる程度の後方再加速でその場を離脱する。
直後、彼女が居た地面が盛り上がり、割れ、怪物の顔が飛び出してきた。
そのずんぐりとした体から伸びる不自然に長い首。それはまさしく地下で見た──
「キメラッ!」
キメラは一瞬周囲を見渡し、目標へと狙いを定めた。
「まずい! ノナ、ここで待機を!」
ペトラ達に向かうキメラの突進と同時に地面を抉るように加速する。
二度ほど地面を蹴り十分以上な速度に達した事を確認すると、足を畳みつつキメラの横に並ぶ。
「加重計算完了、定格装填、相対座標ロック」
突き進むキメラの胴体へと両足を当て叫ぶ。
「
小型HALOで体を固定することにより体重の差を無視し、脚部出力の全てをキメラへと叩き込む。
何十倍以上もの重量差があるキメラもこの一撃には耐えられず、突進の方向が大きく外れ、横転するように子供達の横を過ぎる。
すかさず、着地するより早く彼らの近くに横たわる剣へと手を向ける。
「再接続」
地面に足が着くと同時に強引に体を回すと腕の延長線上へと剣が舞う。
全身のorbitを瞬時に伸縮させ、黒い弧を加速させ、過ぎ去るキメラの首に狙いを定める。
「落ちろ」
乾いた音が森に響くと同時に、頭を失った巨体が木々を薙ぎ倒しながら停止する。
それを見届けつつ軽く腕を引き、戻ってくる剣を右手で受け止め、背中のハードポイントへと戻す。
「皆さん! 怪我は!」
周囲を警戒しつつ子供達に問う。
「大丈夫ー!」
「び、び、びっくりしたー!」
「こしがぬけたー!」
彼らは各々状況報告をしたが、一人の声が足りない。
「ノナ! 無事ですか!」「ノナ!」「ノナちゃん!」
下ろした場所で放心したように座る彼女の元へ皆で駆け寄るとようやく口を開く。
「ノナは全然大丈夫」
しかし彼女は放心したままのように棒読みで答える。
「大丈夫には見えません。やはり衝撃が大きすぎました申し訳──」
「衝撃は、大きかった……。魔包みたいな、ひと断ち」
一言一言口から出る度に彼女の目の輝きは増して行く。
「ノナ、超感動した。見つけた! ノナの師匠!!」
「「「「師匠!?」」」」
ついさっきまでの殺伐とした雰囲気を完全に破壊するに足りる衝撃であった。
「そういうのは受け付けていませんので……」
目を輝かせる彼女の事は一旦置いておき、気を取り直して口を開く。
「急ぎ撤退の準備を」
「「「はーい」」」
そうして、すぐさま片付けをしたのち、王都へと足を向けた。
しかし、少し移動した頃、前方からの血の匂いと戦いの気配に気づく。
子供達に静止を伝え、物音を立てないように茂みの先を覗くと、数刻前にギルドで別れたはずの青年がそこには居た。
「誰かと思ったらあなたでしたか」
「うわああ! お前らが気になってつけてきたとかじゃないぞ! けっして、ない!」
思わず尻餅をついた彼の前には妙に小さなキメラだったものが横たわっていた。
「落ち着いてください。今は有事です。状況の共有を」
「落ち着きすぎだろ!」
「感情の制御は戦闘の基本です。それで状況は」
「急かすな急かすな! 状況もなにも、さっきの地震の後にこいつと出くわした、それだけだ」
彼の指差すそれを眺める。
「随分と小さいキメラですね。幼体、いえ、小キメラとでも呼びましょうか」
思っていた以上に早く落ち着いた彼の評価が一段階上がるのを感じたのはここだけの秘密である。
小キメラの観察をしていると、落ち着きを完全に取り戻した彼が口を開く。
「そういえばCランクだよな? タグの非常通報機能があるはずだ。起動しておいたほうがいい」
完全に忘れており、思わず視線が泳ぐ。
「そういえば、そんな機能ありましたね」
「Cランクが聞いて呆れる……。教えるからやってみろ」
そう言う彼に従い手順通りに操作する。
「うんともすんとも言いませんね……」
「そんなはず……って動くじゃねーか」
彼がタグに触れた直後、小さな音を立てて僅かに光を発する。どうやら救難信号が送信されたようだ。
気を取り直し、呆れ返して腰がひん曲がりそうになっている彼に何事もなかったかのように問う。
「ところであなたの事はなんとお呼びしますか」
「そう言えば自己紹介もまだだったな」
彼は無駄にポーズを付けて宣言する。
「オレはジオ、Eランクのジオ・グラフィンだ」
「黒鐘です。ジオ、共同戦線よろしくお願いします」
彼の握手に応え再び出発する。
ーー
一行は往路を外れ王都までの最短経路となる林を先頭の道案内をするジオと子供達を挟むように進む。
「このルートで本当に大丈夫なのですか?」
「オレが森に来る時にいつも使うって言っただろ。何とも遭遇しなけりゃ最速だって」
「それを、フ──静かに」
皆が歩みを止めて見つめる先、体の各所がややカラフルなキメラがもそもそと歩き去る。
「これで何体目だよ」
「先ほどの個体と見た目の差異も確認できます」
キメラの気配が去った事を確認し立ちあがろうとすると幼い視線に気づく。
「おうち帰れるかな……」
雲が日を遮り始めやや薄暗くなった林の気配でいつも元気なペトラも不安になってきている事が声色から伝わってくる。
「みんなで無事に帰りましょう」
彼女の頭を撫で、再び立ち上がる。
ーー
キメラを避けるようにジグザグと森を抜けてる最中、ジオが倒していたのと殆ど同じ小キメラと遭遇した。
「あと少しで森を抜けれるってのに……!」
「無駄口はいいですから前だけ見ててください」
それ一体だけなら良かったものの、次から次へと遭遇して完全に追われる構図となっている。
そうして散発的に襲撃してくる小キメラを迎撃しつつ早足で森を進む。
「左前方十時方向、一体接近!」
「ちっ、遂に来たか!」
迎撃した彼の一撃で物言わぬ肉塊となった小キメラの横を通過しつつ呟く。
「キメラが連携を取っている気がします」
「魔獣だって連携くらいとることはあるさ。そんなおかしいことでも」
「確信は持てませんが、この感じは確実に誘導されています。この近くに危険な場所は?」
「んなこと……いや、崖になってるところがあったはず」
「嫌な地形ですね」
ただひたすら撤退することに限界を感じつつ、辺りを見渡す。
木々がやや少なく視界が程よく開けており、攻撃や防御に使えそうな岩が点在している。
仮設陣地の配置をイメージしつつ口を開く。
「ここで迎撃しましょう」
「はあ?! いくらなんでも無茶だ!」
「相手に有利な状況が固まる前の今が最善です。無駄口を叩く暇があるなら陣地構築を始めますよ」
そう言いつつ剣を振るうと近場の木が次々に倒れる。
「ちっ、聞く耳無しかよ」
文句を言う彼も状況は芳しくないことを理解しているようで、指示した地点の地面を調べ始めている。
「万が一ではありますが、討ち漏らした場合あなたが最後の砦です。頼みますよ」
「大層な役割どうも」
彼が不機嫌に何かを唱えた直後、ゆっくりと地面が盛り上がり、その土壁の外周に堀のような窪みができる。
「見事ですね。これも魔包とか魔術とか言う異能ですか……?」
「魔術な。天才だけの奇跡と凡人のための叡智を一緒にされちゃ困る。この岩の魔術だって騎士になるには不要かもしれないけど、何かと役に立つんだぞ」
「私の居た部隊ならきっと大活躍することでしょうね」
地面に割った木を打ち込み出来の悪いバリケードを作りつつ応用方法を思案してみる。
陣地を作り始めて早数分。およそ数十秒に一回のペースで小キメラが襲来するようになった。
「そろそろ本隊と接敵でしょうか。それでは、ジオ、よろしくお願いしますね」
「わーったよ」
そろそろウンザリしていそうなジオの返事を聞きつつ、折り畳まれたHALOを取り出し、展開する。
「エネルギー残量確認、継続戦闘限界を六〇〇にセット」
その白い輪を頭にかざしつつ唱える。
「起動制限設定、広域走査。HALOアクティベート」
頭上へとHALOが静止すると同時に視界に敵座標が映る。
王都方向に数体居るが気づく素振りはない。しかし逆方向からは無数の小キメラらしき反応と数体のキメラの接近を感知する。
「王都を零時方向にセット、二時方向、八時方向各一。あなた達は特にこの二体に注意してください。五時方向の群れは私が殲滅します」
抜剣した剣を構え曇天の森を見据えた。
少なくともすぐに接敵するのは十体以上。
大半は小さく素早い軌道を描くが、僅かに通常サイズのものも居るようだ。
先頭の小キメラが小型orbitの射程内に入ったこと確認し、宣言する。
「交戦開始」
その直後、木々の隙間や揺れた草むらから複数の小キメラが襲来した。
軽く剣を振り今噛み付かんとする頭を砕く。
次々と接近する個体の命を刈り取る。
広域走査によってキメラの居場所は丸裸であり、最も効率的に討伐する作業と化す。
血に誘われ更に小キメラが自身の周りに集まり、それを討つ。
十、二十、三十、陣地と森の間が肉塊だらけになった頃、ずっと聞こえていた木を薙ぎ倒す音の主がいよいよ顔を見せる。
ただでさえ歪なキメラの中でも特に奇怪な姿をしたそれは、小キメラを引き連れ、今もなお小キメラを産み落として数を増やし続けている。
「親玉の登場のようです。これより、該当個体を親キメラと呼称します」
「子が居るなら親もってか。いくら潰しても湧いてくるわけだ!」
そう言う間にも次々と向かって来る子キメラの波を退けつつ、剣で地面を抉り煙幕とする。
「照準補正」
僅かにできた隙に体勢を整え突撃を開始する。
煙幕を突き抜け、親キメラの脳天を貫き、その勢いのまま後ろへ抜ける。
斃れた親キメラの周りの小キメラを倒しつつ陣地方面に戻る最中、陣地の周りや森に待機していた小キメラまでもが親キメラの周りに集まり始めたのが木々の間から視界に映った。
大半は親キメラを覆うように固まり、一部は妙に凶暴化し陣地をも無視して突撃して来ている。
だがそれは親を守ろうとしている姿とは程遠く、特に固まっている方は共喰いのようにも見える異様な光景であった。
瞬時に思考が巡るが、絶命したはずの親キメラに僅かな反応を確認し、確信に変わる。
「先ほど、岩の魔術と言いましたよね! 巨大な岩を出せますか! できるだけ硬く、重く、親キメラの頭より大きなものを!」
「そんな無茶言うな! ったく、一分よこせ!」
凶暴化した小キメラの猛攻を捌きつつ追加注文をする。
「投擲はできますか」
「注文多いな!! オレの近くにしか出せないし、初速も最低限だ!」
親キメラを指しながら叫ぶ。
「ならば親キメラの上空に向かって!」
「大雑把すぎだろ!!」
クレームを垂れ流し続けるものの彼はすぐさま斜め上に腕を伸ばし、呪文を唱え始める。すると周辺の地面が少しずつ抉られ、空中で一つに固まり岩になり始める。
圧縮と硬化を繰り返し、遂に人間二人分はある直径に達すると、結構限界そうなジオが叫ぶ。
「行くぞ!!」
「はい!」
彼が何かを投げるように腕を振ると宙に浮く岩塊が斜め方へと加速しながら落下軌道へと入る。
すぐさま戦闘を中断し、小キメラを引き連れながら岩塊の下へと跳ぶ。
「相対座標ロック。強度出力最大」
全身を軋ませ、親キメラ目掛けて最大出力で質量を射出する。
「質量と! 速度は! 大抵の問題を解決します!!」
親キメラの中心を捉えた岩塊は集まっていた小キメラもろともその場を更地にする。
守るべき相手を失ったのか、残った小キメラが一斉に襲いかかって来た。
しかしその挙動は獣というにもお粗末な単調な動きとなっており、あっという間に殲滅が完了する。
ようやく一息つけると立ち止まりつつ、状況を再確認する。
「残りの要警戒個体は──」
それは動きが遅く最後の最後まで戦線に辿り着けなかった、かと思っていたキメラであった。
それが不自然に停止したのをを確認した数秒後、強大なエネルギーの収束が視えた。
「この値、まさか……!」
鬱蒼とした森が明るくなった次の瞬間、視界が炎で埋まる。
同時に、演算を加速させる。
木々を薙ぎ倒しながら向かってくるそれは、熱線ではなく爆炎。
炎の射線上には陣地。避ける選択肢は無い。
炎の到達前に皆を退避させる、剣で防ぐ時間を稼ぐ、バリケードにした木材を使う、あるいはHALOの制限の解除。演算結果は限りなく小さな数値を返し続ける。
しかし解除宣言からの数秒、この間さえ耐えれば勝機はある。
なんとしてでも止める、その覚悟で叫ぶ。
「起動制限解──」
「だめーーー!!」
背後からペトラの叫びが聞こえた直後、炎の流れに不自然な乱れが生じた。
その乱れは瞬く間に広がり、まるで壁があるかのように炎が踊る。
突然の異変に一瞬呆けてしまうが、消えた炎の向こうに構える大口を開けたキメラを見て我に帰る。
「今ッ!」
瞬時に加速し、陽炎を貫き、何が起きているのか理解していないキメラの頭を穿ち、首を断ち、その心臓を貫く。
「異能型の沈黙、要警戒個体の撃滅を確認。戦闘行動を終了します。皆さん無事ですか!」
キメラが自身の熱で内部から焼け始めるのを横目に、HALOを仕舞いながら子供達の元へと戻る。
「こっちは無事だ! でもこの子が……!」
「状態は!」
「無事だ。だけど、多分さっきの魔包で魔力切れを起こしてる。しばらくは起きないはず」
聞き慣れない単語に若干混乱するが一旦飲み込みつつ問う。
「撤退に支障は?」
「オレが背負ってけば問題ない」
そうして安堵の間もなく焦げ跡が広がる激戦地を後にする。
ーー
「この木があるってことは……森は後少しだ!」
また少し歩いた頃、ジオの言葉に子供達の表情が明るくなる。
天気も回復してきて森の先に明るく照らされる平原が見えてきた。
「や、やっと脱出だぁ……」
「ここからが本番。でしょ、師匠?」
ノナの言葉で集まった全員の視線に向かって口を開く。
「本番、確かにそうかもしれません。ここからはあなた達だけで戻ってもらいます」
「「「「!」」」」
予想していなかった答えだったのか、全員が足を止める。
「他のキメラはまだ森の中ですから王都までは安全です。途中で他のシーカーに会えれば救援要請もできます」
「で、でもお姉ちゃんはどうするの」
まだ意識が朦朧としているペトラが呟く。
「安心してください、お姉ちゃんはとっても強いのですから」
彼女を優しく撫でながらそう唱える。
「本当にアンタ一人で大丈夫か?」
「あなた方が安全であるほど自由に戦えます。今は前だけ見て進んでください」
平原を進む彼らを見届け、森へと振り返る。
「起動制限設定、広域走査、走査間隔三〇。HALOアクティベート」
頭上に白い輪が静止し、視界に更新された座標が映る。
「全目標の予測軌道を再設定。これより、掃討を開始します──」
何やら炎と因縁がある様子ですが、まあまた今度。
というか過去編だけでもう1作品作りたいので…(希望的観測)。