クロノアールは何処へゆく ─ 先史時代の英傑の新世界探訪記 ─ 作:彗砦
血の匂いが漂う午後の森に一人佇む。
「敵の撃滅を確認。戦闘行動を終了します」
勢い余って地面にまで刺さってしまった剣を抜きつつそう唱える。
いつになくやや冷静さを欠いたような戦いをしたせいか、義体には無縁な疲れをを感じた気がし、思わずため息をつく。
子供達を先に行かせてから凡そ半刻、散らばるキメラを各個撃破し続け、森は骸と戦闘の爪痕で荒れ果てている。
野草採取を行った地点は王都に最も近い出没地点だったようで、奥まで潰し続け森の深くまで来てしまった。
義体のエネルギー残量は殆ど残っておらず、次HALOを起動したならば最初のエネルギー消費にも耐えられないだろう。
HALOを停止する前に最後の走査でキメラの殲滅を再確認する。
「全周走査──これは……」
森の近くに集団がいることを確認つつ歩みを再開する。
激しい戦闘でところどころ禿げた森を早足で進む。
木々の間を抜け暫く駆けるとようやく始まりの巨穴へと舞い戻る──
「何者だ!」
そこには走査で探知した集団、シーカーや兵士の混成部隊が待ち構えていた。
「待て、そいつは俺の知り合いだ」
一触即発の気配をギルドにサボり、ではなく道案内しに来ていたはずのオルターが遮る。
周りに気怠そうに指示を飛ばしつつ歩いてくる彼を見て不思議に安心感が湧く。
「予想より早い到着ですね。オルターさん」
「はぁ。会うたびに余計な仕事を増やされてる気がするな。また迷子か?」
「ちょうど今帰り道が見つかったところです」
何を言っているんだと言いたげな顔をする彼は理解したくない事を否定したいかのような口で問う。
「それはそうと、魔獣の大発生って聞いてるが、この惨状は一体なんなんだ」
「掃討しました」
「はあ?」
「掃討です。そ、う、と、う。殲滅あるいは撃滅とでも言えばわかりやすいでしょうか」
「(すーーーーーーーーーー)」
あまりに長い深呼吸と共に、彼の頭は地下での出来事を踏まえ、状況を飲み込もうとしているが今にも爆発しそうである。
「それ以上余計な事を言うな。今は最低限俺の頭が耐えられることだけ伝えてくれ」
「はい、ではまず大量のキメラが地面から飛び出して来て、その全てが王都に向かって──」
「ストップだ」
今にも頭から煙を噴き上げそうな彼に指示され渋々と別の担当者に状況を伝える。
「こっからは俺達の残業だ。はぁ。最悪だ」
遂に口癖が出た彼に後片付けを託し森を出る。
ーー
ギルド戻
「あー! くろちゃん発見!!」
返り血があちこちに付いた服で通行人を驚かせながらようやくギルドへと帰り着くと、聞き慣れた声が飛び込んで来た。
「何故ここに……?」
「門の近くの市場でギルドのちびっ子共がパニクってんのを見かけたんだよ。銀髪が魔獣と戦ってるって」
レティの声を聞いてかギルドの入り口からリーダーも顔を覗かせる。
「子供達は無事ですか!」
「ああ。疲れてるようだったからギルドの空き部屋で寝かしてる。あと一緒に居た坊主はどっか行っちまったな」
「よかった……」
ようやく肩の荷が完全に降り、小さく溢す。
「なんか集まっちゃったしそろそろ帰る? くろちゃん血まみれだし」
しれっと刺されたような気がするがいちいち気にしていられるほどの気力も無く、そのまま成り行きでギルドを後にした。
気を紛らわすのも兼ねて今日の出来事を一つ一つ説明していくとレティの声が通りに響く。
「え〜! パーティずるい! わたしも呼んで欲しかったー!」
「この前の依頼の時はパーティではなかったのでしょうか?」
「パーティっちゃパーティだがあの依頼限定の臨時のな。正式なパーティ作るにはゴタゴタしすぎて時間がなかったんだよ」
頬を膨らましているレティの頭を撫でてあやすリーダーが口を開く。
「では、リーダーとレティは?」
「一応パーティではあるが、二人だからな。三人以上とはちっと区分が違うんだ」
ギルドについてもまだまだ知らないことが多いと考えていると通りかかった路地の奥に気配を感じた。
機構員テトラ遭遇
「あれは……?」
「ん? なんか居たか……? あ?」
薄暗い路地の奥に揺らめく黒いマントを全員が捉える。
「レティ、この前の襲撃者にかなり似ていると思うのですがどうでしょうか?」
「すんすん……うん、雰囲気はとってもすごい似てる」
回答を聞くや否やすぐさま路地へと足を向ける。
「では捕縛しましょう」
「おいおい、ちょっと待て」
リーダーの静止をするりと抜け路地へと突き進む。
しかし、数歩入ったところで気がつかれじわじわと後退される。
「こちらはギルド所属Cランク黒鐘です。少々お時間をいただけませんか──」
やましい事でもあるのか、言い切る前に逃走されてしまった。
「追います! 着いてきてください」
「だからいろいろ待てって」「あいあいさー!」
二人を置き去りにし路地を駆ける。
入り組んだ路地を抜け、屋根を飛び越え、空家を抜け、停止を呼び掛けつつ追う。
「停止しなさい。これが最後の警告です。さもなくば強硬手段を取ります!」
それでも尚止まる気のない逃走者に狙いを定めた。
「Orbitアンロック。弾道計算、射出」
背中の戦術重剣を外し、腕と小型HALOの力で宙に飛ばす。
同時に、確実に首を刈り取るような鋭い視線を向ける。
いきなり強い殺意を向けられた逃走者は思わず後ろを向きつつ足を速めたが、その直後前方から響く何かの突き刺さる鈍い音で再び前を向く。
「なっ?!」
逃走者も走れば剣に当たるというべきか、何とも間抜けな声を上げ、大の字で倒れ込んだ。
完全に気絶していることを確認しながら、その正体を暴く。
「お顔、拝見いたします」
仮面取るとレティと同じくらいの年頃の少女の顔が映る。
「これは、随分と意外ですね」
先日の襲撃者の仲間とは思えない可憐な顔を観察していると、追いついてきた二人の足音が近づく。
「なんかさっきすごいぞわぞわしたんだけど大丈夫!?」
「少し殺意を見せただけです」
「あれが、くろちゃんの本気……!」
「べつに本気というわけでは……」
なぜか目を輝かせるレティに呆れるようにリーダーが口を開く。
「駄弁ってないでこいつどうするんだ?」
「拘束具の類は持ち合わせてないですね」
「早くしないと起きちゃうんじゃ……?」
「もう遅いようですが」
微かな気配を感知して伸びていた少女の方を向くと音も無く起き上がり目をぱちくりさせていた。
「あれ……お面……お面……ない……?」
衝突する直前に漏らした声とは真反対な弱々しい声で彼女は辺りを見回す。
「お面とはこれのことでしょうか」
自身の顔をペタペタ触りながら落とした眼鏡を探すかのようにお面を探す彼女に手に持つそれを見せ──
「ぶえええ返してくださいいい! なんでも全部話しますからー!」
「なんでも……?」
思わずそう答えてしまったが、彼女の反応は訂正するよりも早かった。
「はい、はい、はいぃぃ! 私、テトラって言うんですけど、遺物統制機構っていうのの下っ端やってるんですけど、ちょっとやばいのが王都の地下にあるってタレコミがあったんですけど、いろいろゴタゴタがドタドタで私みたいな雑用係まで調査に回されてるわけなんですけど──」
あまりの早口に勝手に息切れしてゼーゼー言ってる彼女は続ける。
「な の で ! わたしは特に何も悪いことなんてしてないんですぅ! むしろ王国の危機を防ごうとしてる側なんですぅ! だからお面返してくださいいい」
流れるように彼女がしたその姿勢は、あまりに綺麗なDOGEZAであった。
「悪い子じゃないっぽいけど……」
「レティがそう言うなら……。聞きたいことは色々とあるのでまだ解放はしませんが返却だけならば」
「お願いしましゅぅぅ」
へたり込みしなしなになった彼女にお面を被せ──
「よくも恥をかかせてくれたな! 覚悟──」
さっきまでの萎れ具合は何処へやら、あまりの勢いに思わず剥がしてしまった。
「ぶあああ調子乗ってすみませえええん」
流石に申し訳なくなり再び被せ──
「この屈辱ただでは許さ──」
剥がした。
「びえええ許してくださいいい」
「お前楽しんでないか?」
「そういうつもりではないですが……言われてみるとたしかに」
お面に何か秘密があるのかと観察しつつ答えるが、ぱっと見はただの黒いお面だ。
「く、くろちゃんが変なシュミに目覚めちゃう! ダメダメー! それにきっと大事なモノなんだから!」
大げさにバツのポーズをするレティの言葉で我に帰る。
「形見でしたか!? 申し訳──」
「いや、形見とか大切なとか全然そうでもないです。大事ではあるんですけど、支給品の中古遺物ですしぃ」
だんだんと状況に慣れてきた彼女も気まずそうに目を逸らす。
「返そうにもお面被ると凶暴化するんじゃなぁ」
「リーダー! 女の子にそんなこと言っちゃダメだよ! ぷんぷん」
「事実だろ」「事実ですぅ」
久しぶりに頬が膨らんでいるレティに二人からのツッコミが直撃した。
「自覚あるのですね……。それはそうとして王都の地下には何があるのですか」
気を取り直して本題について聞くと、テトラは姿勢を正し、正座で語り始めた。
「はひぃ。結論から言うと、王都が大大ピンチですぅ。ご存知の通りここの地下には結構どでかい遺跡があって合成獣でギチギチの噴火寸前でして……。わたしも二度ほど潜らされてるんですけど、あれはほんとにやばいです。小国くらい余裕で滅ぼせます」
今までのテンションとは打って変わって淡々と状況が説明されていく。
「首謀者疑惑の魔術士は、機構が厳重管理対象にしたのと同種の遺物と同時に数年前失踪してから足取りが掴めないものの、確実に遺物を使って戦力増強しています。関係組織を調べ上げて潰しては居るんですけど、最下層に篭られてて手が出せないんですぅ」
「それだいぶ不味くないか?」
「ですぅ。機構からも王国やギルドに警告文は送ってるはずなんですけど、全然動きが無いんですよぉ。いつ爆発したって──」
「もうしてますよ」
「はぇ?」
思わず出てしまった言葉に目を白黒させながら困惑するテトラに補足で追撃する。
「郊外の森で大量に湧き出たのを討伐して来たところです」
「あー、はい。終わりです。わざわざ離れたところに出したってことは先遣隊か偵察部隊か……あれ、でも討伐して来たって……?」
「そのままの意味です──」
「とりあえず、あんたの言い分はわかった。だけどな、この前の襲撃は何が目的だ?」
話があらぬ方向へ行く気配を察し、強引に軌道修正をしたリーダーによってテトラの困惑はさらに加速する。
「しゅうげき……襲撃?」
「列車を爆破しようとしたり、輸送車ごと軍施設を狙撃したのはお前の仲間じゃねえのか?」
いきなりすぎる話題だったのか、彼女は一瞬ぽかんとしてまた一瞬考え込んだ。
「んー。あー。あ。報告で聞きましたね。影槍をぶった斬った黒い剣のバケモンに阻止されたって……え?」
「くろちゃん?」
「たしかに黒い剣だな」
「狙撃なら切りましたね」
状況を完全に理解したのかテトラの顔から血の気が一気に引いていく。
「遺物使っても逃げられないわけですぅぅぅ」
諦めの境地に達したのか、諦めが一周回ってきてしまったのか、彼女は再びとぼとぼと口を説明を再開する。
「はあぁぁ。あなた方を襲撃したのは強硬派とか呼ばれてる連中でして、危険な遺物の管理のためなら自身や民間人の犠牲も厭わない頭のおかしい人たちなんですぅ。機構も一枚岩じゃないんですぅ。襲撃の件にわたしは無関係なんですぅ。でも一応代わりに謝りますぅ」
「……こいつお面付けてなくても全然図太くないか?」
感情が一周回りすぎて更に清々しい土下座をした彼女に全員が毒気を抜かれてしまった。
「遺物というのは一体?」
「俗にいう旧文明、つまり古代魔包文明やその前の文明、さらには機構ですら持ってる情報が少ない先史文明とかが作った特殊な道具とかのことですぅ。世界の理すら変えるとかいう激ヤバなのもあるらしいですぅ」
激ヤバという単語にレティが興味津々になっているが間髪入れずにリーダーが続く。
「そんで、この前の襲撃は俺たちが運んでたのが遺物だったからってことか?」
「ですですぅ。王都のこのゴタゴタに発見例の少ない先史文明の遺物まで増えて強硬派もきっと焦ったんですぅ。結局そこまで危険ではないって判断された武器系遺物に二人も散らせてアホなのですぅ」
「普通に図太いなこいつ」
呆れる彼に一縷の望みをかけたテトラが口を開く。
「あのぉ、そろそろ解放してくれませんかー?」
呆れを通り越して別の感情になりそうなリーダーの目配せに答えると彼は少し考えたのち口を開く。
「まあ、そろそろ日も落ちてきたしなそうするか」
「いいんですか?! じょ、上司より優しいですぅ。こんな怪しさしかないのに信じてくれるんですか」
「俺の勘だ。あと嘘発見機も何も言わんしな」
「リーダーその言い方ひどーい!」
レティのツッコミを華麗に受け流しつつ彼は続ける。
「それにボロが出たらすぐとっちめるつもりだったし」
そう言いつつ彼はテトラに軽くチョップをした。
「やっぱりこの人優しくないですぅ。わたしだって頑張ってるのにぃ」
「ごめんねーテトラちゃん」
思わずテトラに小動物的な何かを感じ、彼女を撫でたレティに反応してか情緒不安定さが加速する。
「お姉ちゃんができたみたいですぅ。じゃないです! わたしお姉ちゃんなのにいぃぃ」
しょげながら立つ彼女にお面を差し出すと彼女の表情がぱーっと明るくなる。
「お気をつけて」
「やっと返してもらえましたぁ」
お面を掲げ、子供のようにはしゃいだのち、ついに元あった位置へと戻──
「つ、次会った時は覚えてろよ!」
凶暴化というよりツンなデレのような状態になってしまった彼女は、フードやマントを整えながら早足で立ち去っていく。
「またね〜」
「気をつけて帰れよー」
彼女は少し離れたところで影に溶けるように消えた。
「忙しい人でしたね」
「またどこかで会えるかなー?」
「さあな。それはそうとして、だ」
薄暗くなった路地で彼の声が空気を切り替える。
「俺の経験からして、数日以内に上位シーカーには招集がかかるはずだが、お前は呼ばれなくても行くんだろ?」
「知ってしまった以上、見て見ぬ振りはしませ──な、なにをっ!?」
「今日はいったん休め。珍しく疲れてるって顔してんぞ」
「二人だけ盛り上がってずるーーーい!」
問いかけに真っ直ぐ答えた途端、彼に頭をわしわしされ更にレティまで参戦して薄暗い路地が明るくなる。
テトラ置いとくだけで無限に喋ってておもろいですね。
召喚するだけで5000字増える女、とてもつよい。