クロノアールは何処へゆく ─ 先史時代の英傑の新世界探訪記 ─   作:彗砦

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S01-16 作戦開始

 バキッボキッゴリッゴリッ──

 

 食事をしているとは思えない音が森に響き、集まった五十人ばかりの精鋭達から悪い意味で注目を浴びる。

 

 味はそこそこ、硬さは石並み、エネルギー密度は見た目以上。

 

 屈強なシーカー達の最終手段と名高い携帯食を一本また一本と口へ運ぶ。

 

「俺も変な知り合いが多いが、このチョークを主食にしてるやつなんて初めて見たぞ」

 

「腹が減ってはなんとやらですので」

 

 持てるぶんだけ買い込み、作戦開始まで食べれるぶんだけ無(・)心(・)で食べ続けていたが、リーダーの珍しい顔が見れたからよしとする。

 

 目の前にはキメラが開け、工兵達が広げ整えた縦穴。

 

 数日前に子供達とピクニックをした野草の群生地は見る影もなく踏み荒らされてしまっている。

 

「作戦のためとはいえ、寂しいものですね」

 

「ちびっ子と遊んだとこって言ってたな」

 

 やや防具が増えた以外は普段とそう変わらないレティとは違い、リーダーは珍しくフル装備をしている。

 

 片手で扱える全長百センチメートル程度の剣を主武装に、左腕に小柄な盾を装備し、バイタルを守るように身軽な防具で固めている。

 

「不躾ななのですが、そんな剣で大丈夫でしょうか……?」

 

「そりゃ剣だけなら、な。剣と魔術のかっこいいところ見せてやるよ」

 

 そう豪語する彼を真後ろから刺す言葉が一つ。

 

「リーダーのかっこいいところ……?」

 

「あのなあ、レティ。この世界には言っちゃいけないことがたくさんあるんだ」

 

 そう彼はレティの頭をぐりぐりする。

 

 茶番劇がエスカレートしそうな二人を横目に辺りを見渡すと軍の装備で身を包んだオルターが向かって来るのが目に入った。

 

「定刻だ。諸連絡を行う。聞きそびれて最悪になっても知らんぞ」

 

 彼の言葉で静かになったシーカーや兵士達に情報の再確認と追加情報の伝達が行われる。

 

「伝達事項は以上だ。次に今から呼ぶ者がは各目標地点への小隊長として撤退の判断を行うように」

 

 本人たちには事前に伝えられていたようで、呼ばれる者たちは堂々とした佇まいで前へと出てくる。

 

「最後にだが、地下は完全封鎖してある。作戦参加者以外の人間を見たら敵だと思って対応することだ」

 

 そして彼は宣言する。

 

「これより討伐作戦を開始する。おーしさっさと馬鹿をとっ捕まえて退屈な業務に戻るぞ」

 

 集まった猛者達は作戦開始を聞くとすぐさま縦穴へと足を向ける。

 

 ある者はそのまま穴へと飛び込んで行き、ある者は壁に設置されたロープや梯子で降りていく。

 

 彼らに倣い地底へと向かおうとすると、昇降機の近くでオルターが手招きをしていた。

 

「呼ばれているようですが」

 

「連絡でもあるんだろ」

 

 そう言いつつ進路変更していくとオルターが口を開く。

 

「ようよう足掻き屋」

 

 リーダーも呼応する。

 

「おうおう凡人」

 

 二人はグータッチと握手を交わしながら唱える。

 

「久しぶりだな」「久しいな」

 

「「相棒」」

 

 作戦会議の後は忙しすぎたようで話もできず、先ほどの情報伝達中も心底面倒くさそうだったオルターの顔が明るくなる。

 

 話したいことは色々あるようで、昇降機へと誘われた。

 

 穴の深さは数十メートル。およそ数分の移動個室内で二人の会話は弾む。

 

 パーティメンバーだったオルターの妻の話に始まり、彼の妻子自慢に触発されたリーダーがレティを褒めちぎり始めたり戦いの前とは思えない緩さである。

 

 ふと横を見ると、普段なら会話に参戦していそうなレティが珍しく下を向いて大人しくしている。

 

「レティ、大丈夫ですか?」

 

 彼女の顔を覗くと髪色の境目がわからなくなるほど赤面しており、今にも頭にから煙が出そうな具合だ。

 

 あまりに珍しい彼女の一面に思わず驚きつつ、次は自分の話題が飛んで来たことを察知する。

 

「じゃあこいつは」

 

「拾った」

 

 オルターはまたかと言いたげな視線を返す。

 

「嘘じゃねーぞ! というか空から降って来たんだからな」

 

 彼は発見当時のことを語るが、オルターはますます疑惑の視線を投げかける。

 

「黒鐘もなんか言ってくれ」

 

「細かいところに誤差はありますが、概ねリーダーの話した通りです」

 

 本(・)人(・)の話を聞いたからか、まあよしと言うような目つきでオルターが口を開く。

 

「相変わらず変な拾い物してるようで何よりだ。そろそろ戦場に到着だ」

 

 その数秒後、小さな衝撃や音と共に昇降機が底へと到着する。

 

 立ったままフリーズしているレティの手を引き地下へと降り立つと複数の横穴とその奥を塞ぐバリケードが目に映る。

 

「うちの工兵の技術はすごいだろ」

 

 珍しく自慢顔なオルターが装備の確認をしながら近づいて来る。

 

「仲間自慢する癖治ってなさそうで安心だわ」

 

 リーダーもそれに応え軽口を飛ばす。

 

 彼のとの雑談に満足したかのようにオルターが声を上げる。

 

「集まってるかー、一班連中。喜べ、本作戦一番の最悪にカチコミだ」

 

 彼の到着を待っていたかのように声が上がり、討伐が開始する。

 

 

 ーー

 

 

「右に一つ、距離は五十! 斜め左に二つ、距離は七十!」

 

 薄暗い洞窟にレティの声と多くの足音が反響する。

 

 レーダー(レティ)が発見、班員が急行し討伐を繰り返し安全に奥へと進む。

 

 第一班が最初のキメラに遭遇してから早くも一刻は経とうとしているが、負傷者も無く体力も温存できている。

 

 むしろ他のメンバーが優秀すぎてやる事が無いくらいである。

 

 そう考えている間にも近くのシーカーの魔術による狙撃でまた一体キメラが屠られた。

 

 しかし、キメラの数が数な事と長期戦により魔力切れが近い事を申告する者も発生し始めている。

 

 そんな中、レティが気づく。

 

「この先、すっごいたくさんいるみたい!」

 

「遂に来ちまったか。お前らメインディッシュの時間だ! 気張ってけ!」

 

 彼女が指す先へと向かうと対岸がどこにあるかもわからない大空間へと躍り出る。

 

 うっすらと多くのキメラがじっとしたりこちらの存在に気づいたりしているのがわかるが、全容は定かでは無い。

 

 キメラが動き始めるのを見つつオルターから渡されていたロープを通されたペグを高く投げる。

 

 天井へとそれが刺さったのを確認しロープを引き込むと、天高く登った魔道具が地底の太陽となる。

 

「左方を任せてもよろしいでしょうか」

 

「右を全部食っちまいたいと? 欲張りだな」

 

 欲張り、そういう割には全部食っちまっていいぞと言いたげな彼は班員へと告げる。

 

「お前ら聞いたか? 右はこいつの獲物だとよ! 攻撃開始!!」

 

 キメラの方向へと真っ直ぐ前進していくシーカーや兵士達を横目に側面へと走る。

 

 眩い光に照らされ銀の髪が光ると、向かってくるキメラの一部が進行方向を変える。

 

 キメラとの距離が近くなるがさらに加速し、壁をも走る。

 

 そして跳躍し、蠢くキメラの真っ只中へ降り立つ。

 

 同時に周囲のキメラの首が落ちる。

 

 血の匂いで周囲のキメラが興奮し始め、まとめて襲いかかってくるが難無く避けつつ屠っていく。

 

 合間合間に本隊の様子を見ると善戦しているようでじわじわと押し進めていっている。

 

 オルターとリーダーが主戦力として楔を打ち込み、他のシーカーや兵士が後に続く。

 

 彼らの本気を見るのは初めてだが、やや人間離れをした動きでキメラを次々に倒している。

 

 少しの間だけではあるが肩を並べたオルターは、ただ一振りの剣と鋭く力強い太刀筋で的確に弱点を突き敵の命を狙う。

 

 リーダーはオルターに追従するように剣と盾、そして魔術と思わしき炎やら何やらも併用し、迫り来るキメラに混乱をもたらしつつ援護に徹する。

 

 背中を預け合う彼らは生き生きと地底で舞う。

 

 彼らに触発され、他の者も負けじと武器を振るう。

 

 そしてキメラの数が味方よりも少なくなり、ついに視界から動く個体が消える。

 

 しかし、レティの叫びが戦いの音が落ち着いた地底に響いた。

 

「みんな逃げて! 崩れる!!」

 

 直後、広範囲に亀裂が走り地面が崩壊し始めた。

 

「最悪だ。退避! 退避だ!!」

 

 作戦に召集されたのは王国の中でも精鋭。その多くが彼がそう言い終わる前に崩れ広がる穴から脱出していく。

 

 しかし退避するシーカー達の間から、崩落に巻き込まれたシーカーと無理やり位置を入れ替え、落ちていく赤い髪が映る。

 

「レティ!」

 

 崩落から逃げる人の流れに逆らい駆ける。

 

 キメラの死骸を突き飛ばし瓦礫を踏み抜き、淵へと足をかけ黒く深い穴へと飛び出す。

 

 しかし崩れる足場で身体は演算結果とは異なる軌道を舞う。

 

 すかさず剣を離し、足で踏み込み、宙で跳ぶ。

 

「手を!」

 

 視界は彼女の不安そうな手から目を離さない。

 

「来て!」

 

 触れ合った指先から手と手を握りしめ体を引き寄せる。

 

「くろちゃんなら来てくれるって信じてた!」

 

 向かいの壁に剣が突き刺さる轟音が響く中、壁へと着地する。

 

「無事かー! って、壁に、立ってる……」

 

 逃げられない状況でレティの魔の手の気配を淵から顔を出したオルターの声が掻き消す。

 

「問題ありません。部隊に被害は」

 

「何人か下に落ちてる」

 

「こっちも無事だー!」

 

 言ったそばから底に落ちたリーダーの声が飛んでくる。

 

 声色から無事を確信しオルターへ提案する。

 

「そちらの戦力に問題がないのなら下層の支援に行っても問題ありませんか」

 

 人員の確認や迷うような表情をしたのちオルターの声が返ってくる。

 

「あのアホのケツを引っ叩いておいてくれ!」

 

「許可と受け取っておきます」

 

 すぐさま壁を走り突き刺さった剣を回収する。

 

 右手で剣を、左手でレティの手を握り彼女に問う。

 

「この先は何があるかわかりません。レティさえ良ければ上で待っていてくれませんか」

 

「え、やだ」

 

 あまりの即答で頭の中に諦めの二文字が浮かぶ。

 

「では未知を見に行きましょうか」

 

「ふふふーん。一味違う今日のわたしは暗闇でもへっちゃらなんだよ」

 

 妙なテンションの彼女と共に降下し、穴の底の人影付近に着地する。

 

「っわっびっくりしたわ! ん? このちっこい感じは黒鐘か?」

 

「わたしもいるよ!」

 

 レティが点けたランプで光なき地底が顕になる。

 

 リーダーの他に落ちたのは一人、周囲は瓦礫の山、そして穴と同じくらい巨大な横穴。

 

「そこのあんたも大丈夫か?」

 

「わたしは大丈夫だ。先を急ごう」

 

「まあやる気なら問題ないか」

 

 暗くて姿が正確には分からないが、レティと同じくらいの背丈の女の声が返ってくる。

 

 気を取り直し、宣言する。

 

「では、黒幕の顔を拝みに行きましょう」

 

 レティの察知力で余計な戦闘を回避しつつ地下を進む。

 

 中層とは打って変わってキメラの数は少なく、その多くは警戒というよりかはどこかへ向かうような挙動を取っている。

 

 巨大な横穴から逸れ、キメラが通れる程度の横道をいくつも進むと岩肌だった壁が人工的なものに変化していく。

 

「あっ」

 

 カラカラ……

 

 床の切り替わりの段差で転けたのか、女の声が通路に響く。

 

 同時に足元に何かが飛んできた何かを拾い上げる。

 

「これは、仮面……?」

 

「なんか見たことある気がする」

 

「俺もだ」

 

 偶然にしては形状も質感も既視感がありすぎるそれの主が口を開く。

 

「かえじてぐださいいいー!」

 

「げっ」「ええ!?」

 

 声の方を向くと今にも泣き出しそうな情けない顔がランプに照らされる。

 

「次会った時は覚えてろ、だったか?」

 

「ゆるじてーーー!」

 

 彼女は滑らかに土下座のポーズに移行し、許しを乞う。

 

 わずか数秒後、何事も無かったかのように顔を上げる。

 

「よくよく考えたら顔バレしてる人しかいませんし、お面無くても大丈夫ですね」

 

 差し出されたお面をごそごそと仕舞う彼女にリーダーは問う。

 

「想像はつくが一応聞くが、なんでここに居るんだ?」

 

「討伐隊に紛れて遺物を回収か破壊しろって任務押し付けられたんですぅ。わたしの上司ひどくないですか! 最近大変な仕事ばっかりだったのにまた魔窟に放り込むだなんて!」

 

 怒りのお陰か調子が戻ってきたテトラにリーダーは問う。

 

「俺らは黒幕をボコしたい。そんで、あんたは黒幕の遺物を壊したいってことでいいのか?」

 

「そんなとこですぅ」

 

「足引っ張るなよ?」

 

 そう言いつつ彼は手を差し出し、テトラはそれを取り立ち上がる。

 

 そうして暫く迷路のような洞窟を進むと行き止まりへと辿り着く。

 

「ここの筈です」

 

「不自然に壁が薄いってとこがか?」

 

 目の前に映る壁は薄暗さも相まって不自然さは見当たらない。

 

 触ってみてもただの岩だ。

 

 走査してみると壁を動かすような機構がある事がわかり、構造を辿る。

 

「少々お待ちください。開閉機構のスイッチがどこかに──」

 

「ありましたー」

 

 声の方向を向くとさも腕が壁に吸い込まれているテトラが何かを引き出す。

 

 レバーのような何かがその透ける壁から顔を出すと動作音と共に壁が開く。

 

「ささっ、いきましょ……行かないんですかぁ……?」

 

「手慣れてんな……」

 

 つい足が止まるが、何事もなかったかのように先へと進み始める彼女を追う。

 

 “壁”の向こうは岩岩しかった洞窟から打って変わりある程度人工的な通路へと変わる。

 

 人工的とは言っても地面が多少平滑になった程度ではあり、壁は岩肌のままだ。

 

 いよいよ敵の本拠地な気配に全員が足音を立てぬよう気遣って進んでいると、扉があらわれる。

 

 小窓からはわずかな明かりが漏れ、照明の無い通路を照らす。

 

「誰も居ないみたい。たぶん安全」

 

 レティの感じ取った扉の向こうの気配を参考にしつつ、慎重に扉を開ける。

 

「う”。くさーい」

 

「臭いな。なんなんだこの臭いは」

 

「毒性は無いようです。通過は可能かと」

 

 部屋を密閉していた扉を開けた途端奇妙な臭いが流れ出る。

 

 中に入ると天井はそう高く無いが広い空間が広がり、所々に小さく灯りが灯る。

 

 灯りの下を覗くと、泳げそうな広さの格子状の穴が濁った液体で満たされている。

 

 それ以外に特に何も無い空間かと思いきや、反対側にまた別の扉を発見した。

 

 レティを呼び、再び慎重に開けると明かりが雪崩れ込む。

 

 煌々と照明が照らす通路を覗くと壁と天井も綺麗に整えられ、人間数人分は高さのある通路が遠くまで続いている。

 

 何やらメモを取り続けているテトラをそのまま持ち上げ運びつつ通路を進む。

 

「! 誰か来そう!」

 

 真っ直ぐなようで案外曲がっていたり分岐する通路の先に何かを察知したレティが小声で叫ぶ。

 

 あたりを見渡すと灯りの付いた小部屋を発見し、皆で駆け込みキメラらしき足音の接近に隠れ扉を閉める。

 

 足音が通過するのを待ちつつ部屋を見渡すと棚や箱が乱立する倉庫だと気づく。

 

 その多くは分解されたガラクタの山のようで、リーダーやレティは何もわからなさそうだがテトラは違った。

 

「うへぇ。どれもこれも管理指定されるような遺物ですよ」

 

 そう言いつつ彼女は何かのメモを取るのを再開する。

 

 視界に映る大半の部(・)品(・)と違い、形を保っている物の中に、義体の小さな手のひらにすら収まる直方体状の石(・)こ(・)ろ(・)を発見する。

 

「何故ここに」

 

「珍しいもんでもあったか?」

 

「いえ……」

 

 それは、壊れた模造品ではあるが、超高圧縮エネルギー充填媒体、通称エネルギーパックそのものだ。

 

 作りは粗く、軽く見て触るだけでも最大充填容量も当時のものと比べたらはるかに少ない事が分かる。

 

 昔はOrbitを動力源としたものを使う為の道具程度の認識だったが、その製法全てが失われているはずの今の世界では異質さが際立つ。

 

 充填媒体とは言うものの、その本質は半永久的かつ損失が全くといって無いエネルギー保存器、そして変換器である、とアーカイブには記されている。

 

 模造品であれ、これを作れるだけの何かがここには居る。

 

「黒鐘さーん何かおもしろいものでも……こ、これは……! 壊れてますね」

 

「壊れていなかったらどうなるのですか」

 

「わたしの懐に結構な額のボーナスがずばばばー……ナ、ナイショですよ……!」

 

 内部より外部のエネルギー密度が高ければ同等になるまでどんなエネルギーでも勝手に貯めていき、抽出器さえあればどんなエネルギーとしても取り出せる、というのは遺(・)物(・)の専門家にとっても魅力的なのだろう。

 

 石(・)こ(・)ろ(・)を元あった位置に戻した時、レティが察知したまた別の足(・)音(・)が扉越しにも聞こえるほど近づいてきていた。

 

 全員が扉に近づき、各々聞き耳を立てたり扉の下から覗き込む。

 

「あと少し、あと少しで全て整う手筈だったのに!」

 

「(あれが例の魔術士ですか?)」

 

「(わたしが知ってるわけないじゃないですか!)」

 

「(一旦とっ捕まえるぞ)」

 

 声も出さずに目配せとジェスチャーで会話をし、通り過ぎたばかりの足音を捕縛せんと──

 

「見失いましたか」

 

「この長廊下で見失うも何もないだろ」

 

 目の前に広がる長く幅もある通路は横道や扉もちらほら見受けられるが、それにしても通過してから消えるまでが早すぎる。

 

「相手は遺物持ちですよぉ。ちょっとやそっとじゃ捕まらないに決まってるじゃないですか」

 

「この前くろちゃんに捕まってなかった?」

 

 ごふっと致命的ブーメランの直撃を受けていそうなテトラを横目にふと思いつく。

 

「逃げられたなら、見つかっているということですよね」

 

「まあ、そうでもないと説明つかないか……」

 

「ならば、我々も隠れる必要はないですし、見つけてもらうのはどうでしょうか」

 

 疑問符をたくさん浮かべていそうな彼やレティの注目を浴びつつ、指先を壁に当てる。

 

「定格……。いえ、略式、装、填!」

 

 穴が開きそうな鈍い音が地下に響き渡り、頭のおかしい人を見るようなテトラの視線を浴びた。

 

 轟音が収まっても目を白黒させるレティに問いかける。

 

「レティ、何か分(・)か(・)り(・)ましたか」

 

 珍しく即時に意図を理解した彼女が指差す。

 

「たたたたぶん、こっち!」

 

 彼女の指差す方向へ全員が駆け出す。

 

 長廊下から外れジグザグと入り組んだ人間専用と思われる廊下や部屋を抜けていく。

 

 そして入り組んだ区間を抜け、別の長廊下へと出ると遠くにに人影が見えた。

 

「見つけた! あれだよきっと!」

 

「剣を頼みます。Orbitアンロック」

 

 ハードポイントから剣が外れ落下を開始する。

 

 脚部を最大まで踏む混み、腕を振り抜くとスリングショットの要領で身軽な身体が弾丸のように加速する。

 

 剣が床に食い食い込む音を置き去りに逃げる影がへと飛びかかり捕縛する。

 

 勢いで数度回転したのち地面へと押しつけ、その顔を確認──

 

「これは……デコイ……?!」

 

 捕まえたはずのそれは白衣で包まれた肉塊のような何かに変わっていた。

 

 追って来る仲間とは別の足音が遠ざかっていくのも聞こえるが、完全に見失ってしまった。

 

 程なくして剣を引きずるようにリーダー達が追いついて来る。

 

「捕まえたか!」

 

「申し訳ありません。逃げられました」

 

「身代わり系の遺物ってなかなか無いんですけど珍しいですね〜」

 

 何か言いたげなリーダーに気づいていないのかテトラは呑気にデコイの検分を始める。

 

 が、特に何も分からなかったようですぐに興味を失ったようだ。

 

「しっかしこう何度も逃げられるとな……もう一回壁殴れるか?」

 

 そろそろヤケクソ気味になってきているリーダーはさておき走査結果を元にしたマップを再確認しつつ剣の先で壁に転写する。

 

 周辺の通路のを辿るとその多くが繋がる箇所を指差す。

 

「進路からしてこの先に巨大空間があります。賭けではありますが一旦ここに向かってみましょう」

 

「賭け、ねえ」

 

「わたしは賛成!」

 

「あ、そこちょうどわたしが行きたかったとこですぅ」

 

 各々口を開きつつ進路が決まる。

 

 そして、ボ(・)ー(・)ナ(・)ス(・)に向かって再び進み始めた、ただ一人を除いて。

 

「レティ……? 何か察知したのですか?!」

 

「今、すっっごーいゾワってした……」

 

「どうやら当たりのようだな。行けるか? 

 

 レティ」

 

 彼女は引き攣った顔を直し、遅れて歩き出す。

 

「逃げたいけど、ここで止まってたらもっとダメな気がする……!」

 

 そうして、漸く全員が駆け出した。

 

 




 おもれー女、テトラ再臨! じゃなくて、ようやく決戦本番ですわね。
 ちなみに最悪さんことオルター、剣術だけで成り上がった結構すごい凡(・)人(・)。でも魔術とか使えなかったからそこ止まり。
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