クロノアールは何処へゆく ─ 先史時代の英傑の新世界探訪記 ─   作:彗砦

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S01-01 大気圏再突入(エンジェルフォーリング)

「流れ星…」

 

 眼下には数本の光の筋が見える。

 

 上から流れ星を見るのはこの惑星全体でも彼女だけの特権だが、二万年も周回軌道上に居れば結構見慣れた光景でもある。

 

 どうやら、今回の流れ星はやや数が多く、個々の破片も大きいようだ。

 

 せっかくなので願い事をしてみる。

 

「次、夢を見るなら美味しいものを食べれる夢を…」

 

 いつかエネルギーが枯渇して流れ星の一つになるなら最後にいい思い出を望むくらい許されるだろうとため息をつく。

 

 最後に食べた食事は何だっただろうか。硬いパンか、薄いスープか、はたまたそこらに生えている野草か。

 

 この身体は食事を摂る必要は無いが、何かしら食べている方が気分は良い。

 

 それにしても今日は隕石が多い。

 

 地上で夜の地域からはさぞかし素晴らしい眺めになっているであろう。そう思いながら気まぐれに流れ星達の来た方向を向く。

 

「…?」

 

 それは点であった。漆黒の真空の中で僅かに光を浴びる点であった。

 

 しかし何かがおかしい。その点は彼女の視界から微動だにせず段々と大きくなっている。

 

 数多の死線を潜り抜けてきた彼女の直感が危険信号を発しまくる。

 

「ちょ、直撃…?」

 

 2万年ぶりの感覚に若干戸惑うが、すぐさま()()()の観測を開始する。

 

「推定距離演算…接触まで五〇ってところでしょうか」

 

 長いこと大して動かしていなかった思考を回し瞬時に状況の整理を行なっていく。

 

「直撃の回避を…いえ、再突入の可能性も…」

 

 彼女の身体に発汗機能は無いが冷や汗が溢れる感覚を確かに感じる。

 

 高い強度と再生能力を持つ()()な義体であっても音速の百倍以上の速度で突っ込んでくる隕石の直撃を受ければひとたまりもない。

 

 もちろん着の身着のままでの大気圏再突入なんてもってのほかだ。

 

 しかし彼女は覚悟を決める。

 

「はぁ…。願い事の成果かは知りませんが、地上までの直行便なら同乗させて頂きます」

 

 そうカッコつけたセリフを虚空へ飛ばすとすぐさま胸当てに付いた収納箱から四つ折りにされた道具を取り出し額に当てる。

 

「HALOアクティベート」

 

 そう唱えると収納状態から輪の形に展開し、彼女の頭上に移動し静止する。

 

「物理的に接触させないと音も届かないというのはやはり不便ですね」

 

 そう愚痴を漏らしながら()()の方を向くとHALOから伸びる無数の線が視界に映る。

 

「稼働率、パラメータ調整完了。さて…エンゲージ!」

 

 そう言い終わるのとほぼ同時に彼女の視界にしか映らない無数の線、百メートル程度離れたその先端が隕石へと触れる。

 

 瞬間、体は進行方向へと吹き飛んだ。

 

「うぐぐっ……!!」

 

 隕石との距離を縮め、速度を合わせ、表面に着地と言うには勢いよく衝突する。

 

「義体損傷…無し! Orbitの射程程度でどれだけ速度を合わせられるか不安でしたが、案外なんとかなるものですね…」

 

 そう言ってる間にも地上への直行便は高度を下げ続ける。

 

 先程まで視界に収まっていた惑星はさらに大きくなっていき、大気圏の接近を実感させる。

 

「うかうかしてられませんね。このままでは私が燃え尽きてしまいます!」

 

 かつて、どの死線でも経験したことのない種類のスリルと運よく手にした地上への切符によってやや寡黙な彼女にしては珍しく口数が増える。

 

 地上への直行便は幸い直径数メートルはあるかという大きさであり再突入時の盾としては期待以上だった。

 

「軌道再計算…落下予測地点、中央大陸南西部、沿岸部或いは海中。問題無し」

 

 宇宙(そら)からの予習によって人の居る地域は凡そ頭に入っている。

 

 大陸西部の多くは未だ森の中であり、その先の外海であれば何かを巻き込む可能性は低いとみている。

 

 そうしているうちに、隕石の外周から火花が飛び始める。

 

 長く伸びた髪の先が燃え尽きていく。

 

 凄まじい振動と轟音。

 

 弾けるプラズマ越しに地上が見える。

 

 轟音、轟音、轟音。

 

 視界がクリアになっていく。

 

 気圧の抱擁を全身で感じ、最も危険であろう再突入を超えたことに安堵する。

 

「久しぶりの空気は美味しいです──!?」

 

 そう言い終わる瞬間、隕石が粉々に砕け散った。

 

「これは…大幅な…予定変更が…必要です…ねっ…!」

 

 突然の出来事にもみくちゃにされながら視界の端に映った大きめの破片を手繰り寄せ、空気抵抗を利用しなんとか姿勢を立て直す。

 

「地上への心配は減ったものの、こんな破片でどうしろと…」

 

 減速時に蹴り飛ばすことで速度を相殺しようと目論んでいた巨大な隕石は、今やせいぜい零コンマ三メートル大の石ころ一つだ。

 

 さらに運の悪いことに、大質量を失ったことで落下予測地点も大きく手前にずれていった。

 

「落下予測……森のど真ん中」

 

 大きな隕石で減速し、海にダイブで安全に地上に戻るはずが、小さな石ころと共に怪物がいるであろう森の中に自由落下である。

 

 さてここで彼女の主な装備を見てみよう。HALO、一器。いんせきのはへん、一つ。あとは小型HALO二器と単眼鏡等の小物類が幾つか。

 

 服はぼろぼろ、靴はロスト。とても大気圏に再突入してきたとは思えない軽装備である。

 

 そうしている間にも雲を抜け視界が開ける。

 

 下を見ると点々と集落らしきものが過ぎ去っていく。砦のような集落が見えたのを最後に人の痕跡は深い森が広がる。

 

「いよいよですね」

 

 浅い突入角度のせいでHALOの有効射程の半分以下の高度からしか減速を開始できない。

 

 チャンスは一度きり、ほんの一瞬で着地時のダメージが決まる。

 

「まずはっ!」

 

 そう叫びながら前方に小さな隕石を全力で弾き飛ばす。焼け石に水程度の減速だがそれでも十分。

 

 お先にとでも言うかのように投げた隕石が森に吸い込まれ何度か土煙を上げる。

 

 更に感覚を研ぎ澄ます。

 

 目標高度まで残り──

 

「掴んだ!」

 

 強い衝撃と共に速度が落ちる。しかし、残る僅かなエネルギーでは出力が足りない。

 

「流路強制変更! バイタル維持以外をHALOに直結!」

 

 ほんの一瞬出力が上がり更に速度が落ちる。

 

 同時に、意識が遠のく。

 

 ドッ

 

 二万年ぶりの大地を全身で浴びる。

 

 ババババ

 

 茂る木々を突き抜け身体が跳ねる。

 

 ドッ…

 

 太い大木に衝突し完全に停止する。

 

 数十メートル或いはそれ以上だろうか。砕けた木や抉れた大地が衝突の凄まじさを物語る。

 

「着地…成功……」

 

 成功というには不恰好すぎる姿だが、無事に大地に降り立つことができた。

 

 朦朧とする意識の中、安堵を漏らすと気を失った。

 

 

 ーー

 

 

 ドーン

 

 静かな森に轟音が響く

 

 ドズズズズドーン

 

 二つの轟音に隊が警戒体制になる。

 

「魔獣にしては妙だ。レティ、上から何か見えたか?」

 

 隊長らしき男がそう言うと上から声が降ってくる。

 

「んーたぶん隕石! 安全だと思う!」

 

 そう言いながら明るい声の主が降りてくる。

 

 屈強な男達で構成される隊の中でやや目立つ赤毛の少女、レティアーナである。

 

「おまえさんなぁ、毎度のことだが報告はもうちっと具体的にしてくれ」

 

「むー、リーダーだって似たようなものでしょ」

 

 彼の肩程度の背丈の彼女が頬を膨らませる。

 

「だいたい二時方向、距離は三百くらい? 一つ目は土埃で見えなかったけど、二つ目は白っぽかった、というか人型っぽい? それに、木で見えなくなる前に遅くなったような気がする。たぶん」

 

「お前の目と直感は信じてるが…それは本気(マジ)か?」

 

本気(マジ)だよっ!」

 

「それに! これは! 絶対いいやつ!!」

 

 この未開の森の探索では行く先々で彼女の目が輝くが、いつにも増して輝きまくっている。

 

 こうした寄り道の先で何か役立つモノが見つかることもあるが、大抵彼女の好奇心を満たすだけで終わる。それにしても今回は特異的である。

 

「斥候としては優秀なんだがなぁ。もうちっと大人しくしてほしいもんだ」

 

 リーダーのため息と共に隊の進路は隕石の墜落地点に変更された。

 

 ガサガサガサ

 

「こっちの方は藪が濃いから後回しにしてたんだがな」

 

 草木をかき分けながら隊は森を進んでいく。

 

 すると不自然に視界が開ける。砕けた木が散乱し、抉れた地面が何が起こったかを物語る。

 

「隕石ねぇ。こりゃまた随分と派手に散らかしてんな」

 

 ついさっきできたばかりの道を辿っていく。道はここで終わりと言うかのように立ち塞がる大木の根元にそれはあった。

 

「あれは…何だ?」

 

 それは、人の形をしていた。

 

 それは、まるで小柄な少女のようだった。

 

 それは、頭上に白い輪が浮いていた。

 

 それは──

 

「この子、生きてるみたい」

 

 いつの間にか()()の近くに居た彼女に驚くと同時に隊員達は我に帰る。

 

「不用意に近づくな! 何が起こるかわからんぞ!」

 

「この子は大丈夫な気がとっっってもする!」

 

 心配を通り越して呆れてしまう。

 

 彼女の直感が外れることはないと今までの経験からわかってはいるが、いささか警戒心というものがなさすぎる。

 

「はぁ。マッピングは一時中断だ。キャンプまで後退する。それと、回収準備だ」

 

 他の隊員にそう伝えると近づいてそれを観察する。

 

 見たことのない意匠の服を着た長い長い銀髪の少女、謎の輪っか付き。

 

 座るように木にもたれかかっている姿でもわかる程度には小柄である。

 

 それに、只の人間なら間違いなくミンチに、身体強化魔術を会得していてもただでは済まない墜落痕を残しておきながら、ぼろぼろになった服とありえない方向に曲がっている関節以外に外傷は見当たらない。

 

 それにところどころ焦げた後まである。上から下まで全てが異質だ。

 

「土産にしては扱いに困るな…」

 

 そう呟いていると少女が近づいてくる。すんごいドヤ顔で。

 

「んふふー大手柄でしょー!」

 

「今まででいちばんの上機嫌だな。ならこれが何か問題を起こしたら責任も取ってくれるんだろうな」

 

「なにそれ! ひどい!」

 

 ぷくーと少女の頬がふくらむ。

 

 こいつはやっぱりいじりがいがあるなとリーダーは心の中で呟いた。

 

 それから程なくして隊は墜落地を後にする。身長およそ一メートルと半分の拾いものと共に。




 どこで改行するのが良いのかいまいちよくわかってない彗砦です。
 大気圏突入させても死なない主人公、便利ですね。
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