クロノアールは何処へゆく ─ 先史時代の英傑の新世界探訪記 ─ 作:彗砦
お宝のありそうな場所を示したこと、機密物資である地図を勝手に見せたことあたりを理由にボスにほぼ強制的に送り出されて早二日、
「ここもハズレかぁ」
リーダーが情けない声を出している。
頑張れリーダー、次がおそらく目的地です。そう心の中で唱えつつ歩みを進める。
「次のポイントまでの距離はだいたい三キロ! 着いたら夕食にしよ!」
陽も傾いてきて次の場所がキャンプ地、夕食の地となると気づき、レティが元気になる。
「レティお嬢サマは早着をご希望みたいだ。皆、もうちっと頑張ってくれ!」
隊員にかけた声とは打って変わってひそひそ声で彼は声をかける。
「あと、嬢ちゃ……いや、黒鐘。臨時加入を承諾してくれてありがとな。荷物だっていつでもこっちに任せていいからな」
「この程度では可搬荷重の一割にもなりませんのでお気になさらず」
「だからって疲れてるやつの荷物まで拾ってかれるとこっちの立つ瀬がないんだよ」
やや申し訳なさそうで少し疑っているような彼を真っ直ぐ見ながら口を開く。
「命令ならば荷物は元に戻しますが、ここは積載有余のある私が運ぶのが最良と判断します。それに、持ち逃げの心配なら不要ですし、私がそれを許しません」
「難しー話ししてないで行くよー!」
先に歩き始めていたレティの声で彼は我に帰る。
「はぁ。分かった。そんじゃ、行こうか」
一時間半ほど経ち、遂に森が開ける。
「こりゃ、やっと当たりを引いたようだな」
そう口にする彼の目の前には、半径数十メートル程度の不自然に木の生えていない空き地が広がり、中央には高さ三メートルほどの無機質な小屋のようなものが地面から生えている。
「レティ、伝報を頼む。コードは青の七だ」
指示されたレティが小さな箱のようなものを取り出し、がちゃがちゃと操作する。
「キャンプに連絡をしているのですか?」
「これだけで分かっちゃうなんてくろちゃんさすが〜! この板をね組み合わせて、取っ手を持ちながら、ボタンを押す! これでわたしみたいに魔包とか使えない人でも使えちゃうの」
彼女がそう言いながら手順の通り装置を操作すると小さなベルのような音が送信完了を伝える。
そうしている間にも蔓や草で覆われていた構造物が露わになっていく。
「あったあった。ナンバー三〇四、記録の通りだな」
レティには分からなそうな難しそうなことを呟くこと数分、彼はお手上げのポーズをしてしまった。
「一応手順通りに操作したがうんともすんとも言わんな。やっぱりボスの到着を待たんとダメか」
ぶつぶつ言っている彼や
ただし、この大森林のある地域は連邦でも早いうちに放棄されている。
その為、庫内に目ぼしい装備が残っているかは期待できない。
「あれがあると良いのですが……」
彼女の好みの得物が残っていないか少し期待してみていることは探索隊員達は知る由もない。
「何ぼーっとしてるの? 暇なら夕食の準備手伝って! 今日はばーとご馳走にしよう!!」
「そうだそうだ! お宝発見したんだ! 良いもん食っても許されるさ!」
レティと一緒にいつの間にか近くに来ていたリーダーも調子に乗っている。
そんな、二人に挟まれるように宴の会場まで連れて行かれた。
ーー
夜が更け、宴も終わり、静かな森が戻ってくる。
地面より出っ張った小屋、もといシェルターの出入り口の上に座ると辺りが見渡せて見張りにもちょうどいい。
月は輝き、星がまたたく。何が飛び出してくるかわからない森の中でなければじっくりと堪能したいところである。
「これが月下美人ってやつか。今日みたいないい天気だと銀の髪が映えるな」
夜番の交代時間にきっかりでリーダーが起きてきていたことに星空に見とれて時間が経つのに気づかなかった。
以前は物音一つにも即座に反応していたのに随分と緩くなってしまったものである。或いは彼が特殊なだけかもしれないが。
「プロポーズは受け付けていませんよ」
「ははっ、そうかい。嬢ちゃんは眠く無いのか?」
大欠伸をしているリーダーはやや眠そうだ。
「問題ありません。むしろ夜空を堪能していたところです。寝足りないのでしたら今晩の夜番は私に任せてもらっても構いません」
「なら二人で夜番で二倍安全にするか」
謎理論を口にしながら彼はひょいと隣に腰掛けてくる。
「そういえば、隕石と一緒に降ってきたって言ってたが、空の上ってのはどんな感じなんだ?」
「そうですね……」
意外な質問に思わず口をつぐむ。
どんなところか、何があったか、話せる事はたくさんあるが、言いたいことというわけでもない。
僅かな思考の後、口を開く。
「どこにも行けなくて、何もなくて、とても寂しいところです」
「随分と抽象的だな」
「お月さまみたいなものです」
彼は一瞬の沈黙の後、口を開く。
「なるほど、分かりやすい」
「ふふっ、やはり分かってなさそうです。でも、こうして言葉にしてみるとなんだか少し心のもやが晴れた気がします。ありがとうございます」
軽く微笑むと彼はやや驚いたような顔をしたかと思えば悪巧みするような顔になる。
「そりゃよかった。ちなみに、ぐっすり寝ればもーっとスッキリするぞ」
「……では、お言葉に甘えて」
提案に乗りひょいと降りる時、彼の目はどこか懐かしいものを思い出しているような目をしていた気がした。
ーー
流星だ。
夜空に一筋の光の線が描かれる。
自分より幾つも年上の隊長が子供みたいにはしゃいで願い事をしている。
この時の願いはナイショだと言われて教えてもらえなかった。
その願いが終点までに叶っていますように。
ーー
目が覚める。
真横にはレティの顔。どうやら抱き枕にされているようだ。
「レティ、朝ですよ。起きてください」
「むにゃむな……もっと食べる……」
夢の中で昨晩の続きをしているのだろう。
なんとか腕と脚の拘束から脱出しテントの外に出るとリーダーが一人で朝食の準備を始めているのが見える。
「おはようございます、リーダー」
「おう、おはよう。随分早起きだがあと半刻くらいは寝てても良いんだぞ」
「魅力的な提案ですが、その役はレティに任せておきます」
むしろ義体の仕様上、一度休眠状態になると数時間は起きれない。
戻ったところでレティの抱き枕にされる以外にできることもない。
「それに、扉でも開くかどうか一応試してみたがうんともすんとも言わんし、ボスの到着までマッピングぐらいしかできることもない。ゆっくりしててくれ」
「ふむ、では開ければいいのですね?」
「ああそうだ、ゆっくりし──は?」
脳内が疑問符で埋め尽くされていそうなリーダーを横目に、すたすたとシェルターの入り口に向かう。
「認証開始」
そう唱えながらナンバーが彫ってある部分の少し下に手を触れる。
貯蓄エネルギーを確認。残量、基底値──
補助動力炉にバイパス、義体のエネルギーを提供、再起動──
補助動力炉の起動を確認、エネルギーキャパシタに接続。システム再起動を要請──
メインシステムの再起動を確認、認証コードを送信──
システムの応答を確認。シェルター、待機状態に移行完了──
一連の操作を終え、かしゅっと音を立てて壁の一部が凹み、入り口が開く。
せっかくなので口の前に人差し指を置き、隊長直伝の秘伝のポーズをしてみる。
「このことはご内密にお願いしますね」
「ははは……こりゃ、驚いた……」
正直秘伝のポーズは結構恥ずかしかったのでやらなければよかったと思っている。
そんな二人を見ていた眠気まなこがあった。
「いい匂い……むにゃむにゃ……」
食事の匂いに釣られてテントから出てきたレティの頭はまだ半分寝ていた。
その視界に今まで見たことのない変な顔をしたリーダーが映る。
「まだ夢の中かも……」
これは夢だと勘違いして、もぞもぞとテントの中に戻る。夢うつつな脳裏にやっぱり見たことのない変な顔をしたリーダーがよぎる。
「リーダーが変な顔してる!」
もう一度毛布に包まったところで彼女の脳が覚醒し、飛び起きてテントの外に出る。
「ねえリーダー! 夢の中でリーダーが変な顔して……夢じゃないリーダーも変な顔してる……!」
朝っぱらから賑やかな声と共に忙しい1日が始まった。
ーー
「諸連絡すんぞ。あつまれー」
朝食ついでに
「えーまず、夜番中に石碑を調べ直してみたら、なんか運良く鍵が開いたんで、今日は中に入る」
運良く開いたというのは間違ってはいないが、正確とは言い難い。
このせいで彼の中での黒鐘の印象は空から落ちてきても生きているし、大怪我も数日で回復するし、見た目は子供なのに言動は大人っぽいし、さらには古代遺跡を動かす不思議パワーを持った謎多き少女になっている。
「キャンプからの増援は今日明日中に着くはずだ。それまでに運ぶ準備済ませんぞ!」
隊員がおう! と返事をする。
体が小さいからか手前の方にいる黒鐘も皆の真似をして拳をやや上に上げている。
基本的に仏頂面の彼女が心なしかうきうきしているように見えるのも気になる。
やっぱりお宝と聞くと興味が湧くんだろうかと彼は想像する。
一旦、隊の皆が朝食の片付けをしているのを横目に入り口へ向かう。
金属とも石ともとれない不思議な材質は古文明の遺物を何度か見たことがある彼の目にもやはり異質なものに映る。
身長百八十センチメートル程度ある彼でも余裕がある高さで幅も十分ある入り口の先には、下へと続く階段がある。
「まさか迷宮とかじゃないよな……?」
階段の先は真っ暗なため腰に下げたランプの魔道具を起動する。
これは今回の遠征用に貸し出されたもので、手を触れていなくても暫くは辺りを照らす最新式だ。
こんな小さな魔道具ですら数ヶ月は楽に暮らせる値段がする。
今のうちにこの便利さを堪能したいところだが、暗闇の先に何かあるリスクも考慮し、一旦ここで踵を返す。
すると彼の目の前に銀髪が映った。
「入らないのですか?」
「罠とかあるかもしれんからな。それに、毒が篭っているかもしれない」
「なるほど、ではここで待っていてください」
相変わらずマイペースというか止まる気配も無しに銀髪が暗闇へと吸い込まれていった。
「おいおいおい……!」
少し間が空いて下から声がする。
一応安全なようだ。
それとほぼ同時に階段に明かりが灯る。
好奇心は行けというし、警戒心は待てという。
「はあ、どうにでもなれってんだ」
恐る恐る階段を下ると小さめの石碑に手を触れ、何かをぶつぶつ言っている黒鐘が見えた。
「次は何をするんだ……?」
「周囲の安全を確認しました。シェルター、展開します」
「は?」
もう色々と彼の頭には理解不能だった。
ガクンと揺れる感覚があったと思ったら今度はズズズと不気味な音が地下に響き渡る始末。
「地面が回転してる……!?」
急いで階段を駆け上がり、外へ出る。隊の皆は周りの警戒をしながらその場で固まっている。興味津々にあちこち見てるレティを除いて。
「皆聞け! なんか鍵が開いちまった! 地面が止まるまで一旦待機だ!」
彼の言葉を聞いてその場にいた全員が我に帰る。
数分かけてゆっくり回転しながら上昇を終えると視線は周囲の木のてっぺんに近い高さになっていた。
「お宝探しを始めましょう」
「お前さんなぁ、
そう言いながら、彼女のおでこのあたりをちょんとつつく。
「迷い込んだ小動物が間違えて操作してしまったとでも思っておいてください」
大人っぽいと思っていたが、どちらかというと子供寄りなのかもしれないと彼の頭の中で訂正が入ったようである。
ーー
シェルターの封印は解かれた。お宝は目前だ。
彼女にしては珍しく見た目相応程度にややテンションが上がっている。
それもそのはず、起動操作時にこっそり庫内システムにアクセスしたところお目当ての得物があったのだ。
調子に乗ってシェルターを起動させたことは反省しているが、それはそうとして物色をしたい、そう心が疼いている。
「黒鐘、お前はここで待機だ。周囲の見張りでもしててくれ」
「え」
予想はしていたがお叱りを受けてしまった。
起動済みのシェルターは操作方法を知っていれば格納庫を開くことは容易だ。
操作方法は伝えてあるし、分からなければ聞きに来るなりするだろうと入り口の上でぼーっとする。
隣には何故かレティも居る。
理由はお察しである。
「リーダーってばひどくなーい? 絶対変なことしでかすからダメって!」
「まあ、今は景色を楽しみましょう」
レティは頬を膨らませてむーと言っているが今はそっとしておく。
地面から飛び出したシェルター、そのさらに上に出っ張る入り口に座ると森の上から北にある山地まで見渡せる。
ひょいと飛び降りてシェルターの端まで行き、ひょこっと下を眺める。
十メートルほどの眼下にはリーダー達が発見してきた物がいくつか並べられていた。
まず目につくのが直径五十センチメートル長さ一メートル程の筒。
これは我々が運用していた汎用質量投射機、通称カタパルト、その中型モデルだ。
HALOにも使われるOrbit技術を応用し、あの円筒の中を通る物ならほぼどんな物でも飛ばせる便利兵器である。
とはいっても物色している隊員たちはその価値を知らなさそうである。
筒の近くにはかつて見慣れた道具がちらほら映る。
故障していたり使えなかったとしても、古代文明の遺物として高く売ったりするのだろう。
それらから少し離れたところには武器や防具が並べられている。
が、無い。目当ての得物が無い。
庫内システムのデータに不備があったのかもしれないが無い。
無いとしたら諦めるしかないが、そうだとしたら少しは落ち込むことだろう。
「嬢ちゃん危ないぞ」
焦り始めていたところで背後から声がかかる。
「リーダー、こーんな大きくて黒くて重い剣はありませんでしたか?」
様子を見にきたリーダーに獲物のありかを聞いてみる。
全身を使って大きさを表現してみたが、小さな体躯ではそれでも全く足りていない。
「あー、あの鈍器か……」
「不要とお見受けします。ならば頂けませんか!」
「いいぞ……って冗談だよな?!」
「本気ですよ」
思わず上がった口角を戻しつつ冷静に答える。
「折れてねえのが見つかるのは珍しいが、欲しがるのなんて物好きな蒐集家程度のもんだぞ。硬くて魔力もぜんぜん通さんせいで、拾ったのを鍛冶屋に持ってっても門前払いをくらうって評判だ」
「お気遣い感謝します。では、頂きます」
呆れつつ妙に語り気なリーダーを置いて下に向かう。
それは武器庫の端に寝かされてあった。
おおよそ運び出そうとした途中で放棄されたのだろう。
全長二メートル強、刃渡だけでも自身の身長を優に超えるそれは、戦術重剣に分類される黒く、硬く、重い、金属の塊。
生産性と耐久性に特化することで怪物との戦いを支えてきたシリーズと呼ばれる深く黒い武器達の一つだ。
「切れば両断、叩けば粉砕、掲げる姿は鉄の板。たしかそんな風に言われてましたね」
柄を触りつつそう呼ぶその剣は、軍が運用していた武器の中でも特に好んで使い、数多く消耗してきた大剣だ。
それも大陸中で発掘される折れた大剣のかなりの割合が彼女が使っていたものという程度に。
「また会えるとは思ってもいませんでした」
ついつい笑みがこぼれた。
両手で握り、すっと持ち上げる。
「いい重さです。相変わらず手に馴染みます」
横に振る。髪がなびく。体が感覚を思い出してくる。
縦に振る。刃先が床に当たる前に止める。隙間は指一本分。
「いい具合です。何か試し切りできるものでもあればいいのですが……。あ、リーダー、いいところに」
「おいおいおいそんな物騒なもん持ってこっち見ないでくれ……!」
そこまで言わなくてもと内心少し傷付いたが気にしない。
とりあえず試し切りできるものもなさそうなので剣を背中にかざす。
すると剣は背中から少し浮いたところに静止する。
鞘がなくとも武器を背中に保持できるのはやはり便利だ。
寿命が縮んだと呟くリーダーは放置して並べられた戦利品の方に向かう。
上から見た時よりやや数が増えているが、それでも今の人員で輸送可能な量だろう。
それにしてもカタパルトが残っていたことに驚きだ。
見た目や便利さの割に軽い兵器で撤退時に回収することも容易なはずなのに。
何故残っていたか憶測が頭の中を飛び交っているが、今気にすることでもないので一旦忘れる。
そう思案している間にも着実に輸送準備は進んでいった。
ーー
時は少し前に戻る。
「さすがにビビった……というか目光ってなかったか……?」
いくらか鍛えている自信のある彼でも持ち上げるのすら苦労し、振り回すなんてもってのほかな金属の塊を軽々と振っている相手に見つめられると肝っ玉が冷える。
それも薄暗い格納庫の端でやっているのだから尚更だ。
いくらか死線を超えてきた経験のある彼でも命の危機を感じたのであった。
ちっちゃい子でっかい武器同好会の彗砦です。
今回と次回は複数キャラ視点で書いてみたものの空中分解しそうなので、そこ以降は主人公視点固定になります。