クロノアールは何処へゆく ─ 先史時代の英傑の新世界探訪記 ─   作:彗砦

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S01-07 サプライズ

 砂浜だ。

 

 凪だというのに波が打ち寄せている。

 

 見たことのない景色。

 

 いや、遥か上空から見ていた景色。

 

 水面の先から声が聞こえた気がした。

 

 待ってる、と。

 

 

 ーー

 

 

 夢を見た。見たはずだ。

 

 砂浜、波、誰かの声。

 

 個別の要素は覚えているが、その全容が思い出せない。

 

 とりあえず起きる。

 

 寝ぼけた朝日が窓から差し込み部屋を明るくしている。

 

 窓を軽く開けると新鮮な空気と共に街の気配が流れ込んでくる。

 

 早朝だというのに街は既に目覚めているようだ。

 

 良い朝だ。スライム枕のおかげかとても快眠できた。

 

 寝床と決めたらしい鞄に戻ろうとするスライムに昨日の残り物の果実をいくつか分けてみる。少しばかりのお礼だが喜んでいるように見える。

 

 ギルド併設の宿舎ともあって朝から賑やかな声が聞こえてくる。

 

「レティ、朝ですよ」

 

「うーん。眠いー。もう一回ぎゅーっとしてくれたら起きれるかも。ぎゅー」

 

 半分寝ぼけたレティは当分起きなさそうである。

 

 ベットの端に置いた袋に目を移す。

 

 ギルドから借りた綺麗な服だ。

 

 前の服はというと、あちこち血や泥がこびりついているのを発見したレティに没収されてしまった。さようなら戦友。

 

 それにしても衣食住を提供され、日が昇るまで寝ていられるなんて至れり尽くせりだ。

 

 防衛隊に所属していた頃より高待遇かもしれない。

 

 体躯が小さいというのもあって一番小さいサイズを更に工夫して着てみているが、それでもまだ丈が余る。

 

 胸当てまで付けると見た目の不安定さが際立つ。

 

 もそもそと着るのに苦労している姿をレティに見られたらどうなるかは想像に難くない。

 

 きっと見つかり次第素敵な“飾りつけ”をされるだろう。

 

 素早く身支度を終え、下の様子を見に行く。

 

 その前にレティに一言かけておく。

 

「早くしないと朝食が逃げてしまいますよ」

 

 宿舎一階は食堂になっている。

 

 階段からは住み込みの職員や先に起きたリーダー達が食事しているのが目に入る。

 

 朝食のメニューはスープとパンのようだ。

 

 配膳口に受け取りに行くと筋肉の壁がそびえ立っている。

 

「おはようございます、ギルドマスター」

 

「おはよう。昨晩は主役なのにどっか行っちまったみたいだが五月蝿いのは苦手だったか?」

 

「あまり得意な方ではないですね。でも、嫌いではないです」

 

 大きな手で器用にスープとパンを取り分けている彼を眺める。

 

「ま、とりあえずこのギルマス特製スープを味わってくれ」

 

「剣技もそうですがとても器用なのですね」

 

「一時期、料理人に転向しかけた程度には、な」

 

 彼がニカッと笑うのを見届け、リーダー達の元へ行く。

 

「おはよう、黒鐘。レティはまだ上か?」

 

「声はかけたのでそう遅くないうちに来るはずです」

 

 スープは豆と野菜を中心に少量の肉が入っている具沢山スープ。パンも程よく柔らかい焼きたてのパン。

 

 温かいものは士気を保つのに最適だ。

 

 生身の身体でなくなってもこの感覚は変わらない。

 

 噂をすればなんとやら、どたどたと階段を降りる音が食堂に響く。

 

「ごはーーーん!」

 

 恒例行事なのか皆一瞬見るだけであまり気にしていないようだ。

 

「レティも来たことだし、食べながら聞いてくれ」

 

「お宝の報告を上にしたら、追加で依頼が入った。王都までの護衛なんだがお前らも来るか?」

 

「是非」「行く!」

 

「ちなみに行きは鉄路の使用許可が出てる。料金も上持ちだとさ」

 

 ズバッとリーダーが懐から出した依頼書をテーブルに広げる。

 

「んで、お急ぎを要望されたんで、明日の朝の定期便に乗る。黒鐘の剣みたいな大荷物は夜までに駅に運び込んでおいてくれ。俺かボスの名前を出せば通るはずだ。レティは駅の場所覚えてるよな?」

 

「それじゃ準備してこないと!」

 

 了解とポーズしたレティが目にも止まらぬ速さで朝食を平らげ、そのままの勢いで食堂を飛び出していってしまった。

 

「えーっと、お前さん、なんであんな乗り気か心当たりあるか?」

 

 レティと長い付き合いという彼も状況が読めないようだ。

 

「昨晩、この世界でやりたいこと、行きたい場所を思い出したんです。その事をレティに言ったらついて行くときかなくて」

 

「ほーん、レティをそこまでさせるとは。どこまで行くんだ?」

 

「軽く大陸を横断するだけです」

 

「軽くって、お前さんがいうと冗談に聞こえんぞ」

 

「冗談を言ったつもりはないのですが。目的地は山脈の向こうですので」

 

「は?」

 

 脳内が疑問符で埋まってそうなリーダーを置いて食器を下げる。

 

 都市の豊かさを感じられる美味しい朝食だった。

 

 部屋に戻ろうと階段に足をかけると、廊下の角から顔を出して手招きするギルドマスターに気づいた。

 

「ちょっち時間あるか? あいつの要望で急ぎギルドタグを作るんで、いくつか確認事項があるんでな」

 

「時間のつぶし方を考えていたところですし是非」

 

 ギルド内の人々の好奇の目を受けつつ、本館の奥に向かう。

 

 ギルドマスター直々に呼ばれたからか、見た目が特徴的だからか、昨日の試験のせいか、或いは。

 

 想像に耽っていると、所狭しと書物や書類が並び、壁に掛けられた一振りの大剣が目を引く部屋に通される。

 

「そこに掛けててくれ」

 

 書類を探す彼にそう言われたことにも気づかず、つい大剣に見とれてしまう。

 

 これといった装飾も無い無骨な大剣。

 

 その刃は何度も研ぎ直されたことが見て取れ、表面の細かな傷が歴戦の勲章と言えるだろう。

 

 私もこんな剣と共に歩みたかった。

 

 しかし、かつての戦禍の中、強大な怪物と己の未熟さによって多くの剣を失った。

 

「あなたは良き主人を持てたのですね」

 

 つい口に出してしまった。

 

「がっはっはっ。そりゃ光栄だ。下っ端の頃から使い続けた相棒だ」

 

 書類の山を器用に避けつつ何枚かの紙を持って奥から戻って来た巨体の笑いが響く。

 

「ギルドのことはどこまで知ってるんだ?」

 

「規約、階級、階級ごとの特典と義務あたりは教わっています」

 

「基礎はだいたい分かってるか。なら端折って説明するが、俺の推薦でDeeper、いやDランクからの飛び級スタートが決定してる」

 

「それは助かります」

 

「こっからが本題だ、渡り狼と交戦したんだってな? それも群れを狩ったとか」

 

 朗らかだった彼の目に僅かに疑念が混ざるが、その視線をまっすぐ捉えて答える。

 

「はい。敵戦力と交戦地点は報告した通りです」

 

「渡り狼ってのはな、普通なら騎士団が出るような難敵なんだぞ……。まあいい、確認が取れ次第Cランクに昇進が確実だ」

 

 Cランクとなると関所や街の出入りでの通行料が大幅割引または無料になり、国家間の移動もしやすくなると聞いている。

 

 しかしC以上のランクでは身分証明が必要なはずだ。

 

「でだ、その契約書はお前の身分を俺が保証するってもんだ」

 

「こんなぽっと出の一文無しにそんなことして大丈夫なのでしょうか……?」

 

「なんのことないさ。剣と拳は嘘をつかないからな! うちの脳筋共も腕を見る目はある。あんだけ実力を示しとけば誰も文句は言わんさ! それに、こんな優秀な剣士を見逃してたらギルドの名が廃る!」

 

 夜までにタグを用意してやると豪語するギルドマスターに礼を伝え、ようやく部屋へと戻った。

 

 部屋に戻っても特にやることは無い。貴重品は常に持ち歩いている物だけで、大剣はギルドの倉庫に預けてある。

 

 とりあえず寝ようかと考えていたところ、にぎやかな足音が聞こえてくる。

 

 足音は扉の前で止まり、突き破りそうな勢いで入ってきた。

 

「くろちゃん見つけたーーー!!」

 

 勢いよく、というか勢いがつきすぎて空中に浮いている。

 

 後方にはベッド、周辺に危険物は無い。

 

 避ければレティの機嫌が悪くなるだろうが、避けずに捕まればもっと大変なことになると直感が訴える。

 

 この間、零コンマ数秒の試行時間をかけて決定する。

 

 避けよう。

 

「ふぎゅ」

 

 レティは奇妙な声を出してベッドに突っ込んだ。

 

 すぐさま頬を膨らませながらこちらを向いたが、思ってたより機嫌が悪くなっていないようだ。

 

「むー! 避けるなんてひどーい!」

 

「避けないと大変なことになる気がしたので」

 

 彼女はぷすぷす言いながらいつの間にか部屋に運び込んでいた荷物を鞄に詰め始めている。

 

 着替え、保存食、旅で使う道具。

 

 探索隊のキャンプのテントで見かけたよくわからない物もいくつか混じっている。どうやらレティのたからものだったようだ。

 

 量が多いのか一つの鞄に収めようと四苦八苦しているが、その鞄一つに収まるものが彼女の全財産だとしたら相当身軽だ。

 

 彼女がしばらく奮闘したのち、いくつかの消耗品や保存食が入らなかったものの鞄の容積の倍はあったように思えた荷物がみっちりと収まってしまった。

 

 あれだけのものを綺麗に鞄に詰める手腕には流石に驚く。

 

「入るものなのですね」

 

「リーダー直伝、ぎちぎち詰め込み術すごいでしょ〜!」

 

 レティとリーダーの関係の事に興味が出たせいで目の前の彼女の顔がドヤ顔から怪しい笑いに変わったことに気づかなかったのが運の尽きであった。

 

「んふふふ。今度は逃がさないからね〜!!」

 

 がしっと手を掴まれ、されるがままに街へと連れ出されてしまった。

 

 

 ーー

 

 

 お昼時が近い街は賑やかだ。

 

 人が行き交い、屋台や商店からさまざまな声が聞こえてくる。

 

 その中をずかずかと進むレティに引っ張られてゆく。

 

 レティは気づいていないようだが周囲からの視線が気になる。

 

 視線の主や周囲の話し声に注意してみると、昨日の試験の噂が既に町中に流れているようだ。

 

 人類の守り手の一員として戦っていた頃とは違い、ただの一般人という立場で沢山の民衆の注目を一人で浴びるのはややこそばゆい。

 

 十分ほど歩いた頃、目的地と思わしき店に到着した。

 

「ここは……?」

 

「かわいい子は可愛くしちゃわないとねー!」

 

 レティに背後から両肩をがしっと掴まれ、街ゆく人の視線を一身に受けながら店に押し込まれる。

 

「あら〜レティちゃんいらっしゃーい。あらあら〜どうしたのこんなかわいい娘〜!」

 

「てんちょーフンパツしちゃうから、スペシャルなかわいいのお願い!」

 

 服を奢るという大義名分を得て興奮した彼女に店の一角を区切るカーテンの中に連行される。

 

「くろちゃん、お覚悟〜!」

 

「ま、まだ心の準備が──」

 

 身体の危機を感じ、なんとか服を脱がせまいと頑張ったつもりだった。

 

 しかし、抵抗は無意味であった。

 

 揺れた視界に一糸纏わぬ白い腕が映る。

 

「え……?」

 

 先ほどまでの服を着ていれば見えるはずのない腕に脚、姿見はインナーだけになった自分の姿を映す。

 

 その手さばきは正に神業の如く、何が起こったか理解するのに二秒も必要であった。

 

「え……」

 

 加えて、さっきまで着ていたはずの服は綺麗に畳まれ、目の前の彼女の手におさまっている。

 

「ぇ……」

 

 もちろんこうした事も想定して大きさの合わない服をベルトや紐を駆使してしっかりと固定していたはずだった。

 

 だったのだ。

 

 久しく忘れていた感覚を思い出し、あまりの衝撃に足の力が抜けへたり込んでしまった。

 

 かつてどう足掻いても勝てないと理解してしまうほどの強敵と対峙し、己の未熟さと非力さに絶望した時を。

 

「レ、レティ──」「んぶふぉっ」

 

 服を返してと彼女の名を呼ぶが、何かイケナイ事に目覚めそうな彼女には完全に逆効果であった。

 

 更なるピンチの気配を察知し思わず震えそうになったところで店長が顔を覗かせた。

 

「あらあら。レティちゃん、さすがにやりすぎよ。ごめんなさいね、アナタかわいいからこの子も元気になりすぎちゃったのよ」

 

「……あ! ごめんね〜。くろちゃんが満足できる服探してあげるから〜」

 

 申し訳なさそうにしているが、二人の目には明らかに火がついている。

 

 驚いたおかげか、二人は少し優しくなってくれたかと思ったものの、そこからはまさに戦場だった。

 

 店中の服が集められどんどんコーデが出来上がっていく。

 

 そうした服が神技と言わんばかりの速度で身体を着飾っていく。

 

 無抵抗でされるがままな着せ替え人形になってから一時間ほど経った頃、終にコーデに使える服が店内から消滅した。

 

「くろちゃん、気に入ったのあった?」

 

 今更聞くのかと呆れながら一応答える。

 

「さっきの動きやすそうだったのをお願いします……」

 

 正直初めの方に着せられた服は詳しく覚えていないが、揺れものが多く動きにくそうな服ばかりだったのであまり気にしてはいない。

 

 選ばれた服はすぐさま店の奥へ運ばれ、調整が始まる。

 

 結局、動きやすさと機能性重視と頼んだ服は店長によってさらに魔改造されているようだ。

 

 その間にもレティの着せ替えは止まらず、最終的にまるでドレスのような服を着て帰ることになってしまった。

 

「んふふ〜かわいい〜。この服はね、わたしからのプレゼント!!」

 

「こんな豪華なもの頂けません……まるでお姫様みたいじゃないですか」

 

「くろちゃんはお姫様でしょ……?」

 

 何を今更といった顔をしているレティと姿見を交互に見る。

 

 昔からおしゃれには無頓着で、今まで隊服くらいしかちゃんとした服を着たことがない自分には眩しすぎる、そう思えてしまうほど可憐な服だ。

 

 とはいえ、こうして着飾った姿を鏡越しに見るのは新鮮な感覚で、ついポーズを取ったりしてしまう。

 

 身体を揺らせば風になびくように、回せば花開くようにスカートが広がる。

 

 慣れない感覚だが見る分には悪くない。

 

 しかし、そんなひと時も終わりを迎えた、それも恐ろしい猛獣によって。

 

「うへへへ。くろちゃんかわいい、かわいすぎる〜!」

 

 恐る恐る横を見ると今にも襲いかかってきそうなレティが居た。

 

 しかし、暴走寸前で店長に阻止された。

 

「レティちゃん、それはダメよ〜。せっかくキマってるのにくしゃくしゃになっちゃうわ」

 

「うぅ……ごめんなさいてんちょー」

 

 普段、自由奔放なレティが驚くほど素直になったのを見て思わず目を丸くしてしまう。

 

 そうして奇妙な沈黙を店の奥から紙袋を取ってきた店長が気さくに破る。

 

「は〜い、あした出発って聞いたから急いで仕上げちゃったけど、最高のクオリティでできたわ! 行ってらっしゃい、お姫様たち!」

 

 ふんすとドヤ顔な店長に支払いを済ませ、二輪の花となり街へと繰り出す。

 

 

 ーー

 

 

 義体には空腹の概念は無い。戦闘のような過度な運動をせず周囲に吸収できるエネルギーがあれば食事の必要もない。しかし、食べ物の味や匂いは人と同じように感じることができる。

 

 こうして昼過ぎの屋台を見てまわっているのもレティの付き添いである一方で、この時代の食べ物を味わってみたいという好奇心によるものが大きい。

 

 あれこれ観察している間にも、屋台の軽食がレティの胃に吸い込まれていく。

 

「くろちゃんもたべなよー。これとか特においしいんだよー!」

 

 そう渡された串焼きを頬張る。程よく柔らかく塩と香草で味付けされたであろう肉串。かつて隊の仲間とこうして食べ歩きをしたこともあったな、と思い出しながら味わう。

 

「あそこの肉串はお姫様方のお気に召したようだな。通りから外れてる穴場だが俺も気に入ってんだあの店」

 

 上からの声の主を見る。同じように肉串を頬張っているリーダーだ。

 

「結構混み合ってますが、よく見つけられましたね」

 

「銀髪のお姫様と赤髪の侍女が通りにいるって噂が流れてきてな」

 

「侍女って何よ〜! じゃあー、リーダーは庭師ね!」

 

 屋台からの戦利品をどっさり抱えたレティも会話に加わる。

 

「おぅ、お姫様二人に騎士さままで集合して何してんだ?」

 

 ギルドマスターまでやってきて周囲の注目が一気に集まる。

 

「いつもは渋る上からの承認がすぐ来てギルドタグがもう出来上がっててな、戻り次第渡すからよろしくな」

 

 そう言い残した彼もまた肉串を買いギルドの方へ戻って行った。

 

「私達もそろそろ戻りましょう」

 

「ならこの騎士さまが案内してあげよう」

 

「むー。じゃあわたしも騎士やる!」

 

 賑やかな騎士二人の先導を受け屋台を後にした。

 

 

 ーー

 

 

 ギルドは街の中心部にある。普段から人通りが多い場所だが、普段は無い人だかりができているとリーダー達が訝しんでいる。

 

「探索隊のことは昨日やってるし……まさかアレ(王命)が漏れてんじゃねぇよな?」

 

「ま、まさかね〜。な、なんか飛び級とかなんとかって噂で聞いたよ〜」

 

 探索隊でたんまり叱られたレティは目が泳ぎまくっている。

 

「それでしたら恐らく私ですね」

 

「まじ?」「そうなの?!」

 

「Dランクにしてくれるとのことで」

 

「え?」「え?!」

 

 目を見開いたり丸くしたり、二人の表情はころころ変化していく。

 

「俺だってDeeperまで五年はかかったんだぞ」

 

「わたしはまだEランクなのに……」

 

 シーカー式のランクの呼び方は慣れないがEffecterなるEランクが一人前、DeeperなるDランクが玄人。ChangerなるCランクは一流。リーダーの位置するBolderなるBランクが凡人の限界、傑物と尊敬されるランクとのことだ。

 

 特にギルドマスターのような伝説的な活躍をしたり、名を轟かせたものはBolderのさらに上、AchieverたるAランクに任命されるらしい。

 

「おうおうおう! 主役達の登場だ!」

 

 あれこれ思い出しながらギルドに近づくと、ギルドマスターの声が人の波を割った。

 

「黒鐘、と、レティ! こっちまで来い!」

 

 羨望、尊敬、好奇、様々な種類の視線が全方位から突き刺さる。

 

 全方位からの殺意には慣れているが、こうした経験の少ない視線の中だとさすがに緊張してくる。

 

「くろちゃん緊張してるの? かわいい〜」

 

「慣れない事には私でも緊張します」

 

 レティの小さな気遣いに肩の力が抜ける。緊張を見越してかレティも呼んでくれたのには助かった。

 

 ギルド入り口の前に巨躯が構える。

 

 目の前に来たというのに威圧感は無く威風堂々とした佇まいだ。

 

「お前ら! よーく聞いとけ!」

 

 彼の一声で群衆が一気に静まる。

 

「この開拓都市で十年ぶりに飛び級スタートの勇者が生まれる!」

 

「その目で見た者もいるだろう。噂を耳にした者も多いだろう」

 

「文句は言わせねえぞ。なんてって俺をタイマンで負かすお転婆姫だからな!」

 

 ギルドマスターはいつになく愉しそうだ。

 

「シーカーズギルド、ツィーブ王国ホーン支部がギルドマスター・ジョイスが小さき勇者、黒鐘をDeeperランクに任ずる!」

 

 どっと歓声が沸き起こる。だが、それで終わりでは無いとギルドマスターの口角が上がるのを見逃さなかった。

 

「まさか……その話はまだ早いのでは──」「お前ら! まだ終わりじゃないぞ!」

 

「こいつには渡り狼の群れの単独討伐実績もある! よって俺の保証の下、黒鐘を暫定Changerランクとする!」

 

 先ほどより大きな歓声が湧き上がる。

 

「確認が取れてからではなかったのですか?!」

 

「がはは、すまんすまん。この機会に行っとく方が良いと思ってな。あの後一応、服と剣を調べさせてもらったんだが、狼の血と毛が確認できたんでな。サプライズだ」

 

 そう言いながら、金属製のタグを渡された。

 

 長方形の板状のそれを眺める。

 

「伝えられている形状と少し違うようですが……?」

 

「ん? ああ、ギルマス権限でChanger用のタグを使ってるんだ」

 

 ギルドマスターの権限に感心しつつ再びギルドタグを眺める。

 

 見た目は厚みのある識別票なのだが、身元を保証する証明証能と他いくつかの機能を複合した魔道具なのだと聞いた。

 

 手の中に収まっているChangerランク用のものは緊急時に光をや音を発する機能などさらに複数の機能を内蔵しているらしい。

 

「さて、待たせてすまない、レティ」

 

「はいはいはーい!」

 

「お前は、探索隊での貢献、撤退時の索敵と的確なルート構築、隊からの推薦……。てことで、おめでとう、今日からDeeperだ!」

 

「んー! やったーーーーー!」

 

 今までのレティの中でも一番明るい声が街に響き渡る。

 

 全身で喜びを表現したり、周囲のギルド関係者に胴上げされたり楽しそうだ。

 

「どうよ、うちのお嬢様は」

 

「さすがというか、とても慕われているのですね」

 

「模範的な回答だな」

 

 正直こうした表現は得意でないのでニコッとして誤魔化す。

 

 正直なところ、彼女や街の人々を見ていると憧れに近い感情を少し抱いてしまう。

 

 私は旧時代の生き残りで、彼らは今の世界を全力で生きる主人公達。

 

 かつて理解らなかった感覚を二万年越しに理解する。

 

「もしや……これが青春というものなのですね」

 

「それはちょっと違うんじゃねぇか……?」

 

 どうやらまだ少し違ったようだ。




 さぽらーいずじゃなくてさぷらーいず。なんか気づいたら8千字になってました。ゎーぉ
 いつもの夢は記憶の再放送ですが、今回は…?
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