ルートB   作:かりん2022

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AIさんの文を直すの難しい……。
そのままだと物凄く読みにくいけど、ちゃんとしてると言えばしてるので。


検証

 月喰を作ってから三日。

 

 僕は朝から、ものすごく機嫌が良かった。

 

「はい、月喰。あーん」

「きゅ!」

 

 小さく切った果物を差し出すと、月喰は嬉しそうに口を開けて食べた。咀嚼するたびに小さな角がぴこぴこと揺れる。可愛い。

 

「美味しい?」

「きゅー!」

「そうかそうか。いっぱい食べて大きくなろうねぇ」

「朝から甘やかしすぎじゃない?」

 

 後ろから声をかけられて振り返ると、桜が呆れた顔で立っていた。その隣では健が、月喰の皿を覗き込んでいる。

 

「何食ってんの?」

「果物」

「式神と違って物食べるんだな」

「実態あるんだから当然でしょ」

「へえ」

 

 健が感心したように月喰へ顔を近づける。

 

「じゃあ肉も食う?」

「食べると思う」

「焼肉行けるじゃん」

「月喰は高級肉しか食べません」

「勝手に決めるなよ」

「きゅ!」

 

 月喰がむふー! と返事をする。可愛い。

 

「ほら、本人もそう言ってる」

「絶対それ便利に使ってるだろ」

 

 失礼な。

 僕と月喰には強い絆がある。たとえ正確な言葉が分からなくても、気持ちは通じている。多分。

 月喰は果物を食べ終えると、満足そうに僕の腕へよじ登ってきた。そのまま肩へ乗り、頬へ頭を擦りつける。

 

「可愛い……」

「はいはい」

 

 桜の視線が生温かい。

 何だその目は。

 月喰は可愛いし、月喰という名前は格好いい。何一つおかしなところはない。

 

「琥珀」

 

 先生が僕達を呼んだ。

 

「今日は月喰も連れていくよ」

「本当ですか!」

「そのための監視期間だからね。実際の任務でどう動くか確認したい」

「やったな、月喰!」

「きゅー!」

 

 月喰が翼をぱたぱたさせる。

 まだ長くは飛べない。けれど、最初に比べればかなりしっかり動くようになっていた。

 

「ただし、条件は忘れないように」

 

 先生の声が少し低くなる。

 

「はい」

 

 僕は月喰を抱き直した。

 

 月喰が人間を襲う兆候を見せた場合、先生が処分する。あの約束は消えていない。

 

「僕がちゃんと見ます」

 

「うん」

 

 先生はそれ以上言わなかった。

 

 ◇

 

 今日の任務は、住宅地から少し離れた古い資材置き場だった。

 

 目撃されたのは四足歩行の低級妖魔。すでに一人が腕を噛まれているが、命に別状はない。周囲の避難も終わっている。

 

「基本は討伐でいいんですよね?」

 

 健が聞くと、先生は少し考えてから頷いた。

 

「危険ならね。ただ、琥珀の力も確認したい」

「僕の?」

「妖魔を鎮めた術。あれが再現できるかどうか」

 

 そう言われて、僕は左手を見る。

 指には、銀色の指輪が嵌っている。

 月喰を作った時、銀の輪とパワーストーンを材料として使った。その時に一緒に生成されたものだ。細身の銀の指輪。その中央に、小さな石が嵌め込まれている。

 

 これが媒体。

 月喰が源。

 今は両方揃っている。

 

「出来ると思います」

「思う、なんだ」

「自信満々で失敗するよりいいでしょう?」

「それはそうだけど」

 

 桜が笑う。

 

「使う時、何か変わるの?」

「多分、かなり」

 

 自分でも楽しみだった。

 

 指輪を通して月喰の力を汲み上げる。

 その感覚を、僕は知っている。

 知らないのに、知っている。

 それが未だに気持ち悪くもあり、懐かしくもある。

 

 ◇

 

 資材置き場へ入った瞬間、月喰が僕の肩で小さく唸った。

 

「きゅる……」

「どうした?」

 

 頭を撫でる。

 妖気は感じる。強くはない。低級で間違いない。

 けれど、それとは別に。

 

「……痛い?」

「誰が?」

 

 健が聞く。

 

「分からない」

 

 指輪へ触れる。

 月喰との繋がりが、はっきり分かる。胸の奥に一本の道があるようだった。

 そこへ意識を向けると、力が流れてくる。

 

「…………」

 

 同時に。

 

 知らない感覚が混ざった。

 

 痛い。

 

 怖い。

 

 逃げたい。

 

 苛立つ。

 

 殺す。

 

 近づくな。

 

「いる」

 

 僕は顔を上げた。

 

「右!」

 

 資材の山が弾け飛んだ。

 

 黒い影が飛び出す。

 

 犬に似ている。けれど脚が異様に長く、口は耳元まで裂けていた。

 

「来る!」

 

 桜が横へ跳ぶ。

 

 健が前へ出る。

 

「おら!」

 

 刃が妖魔の前脚を掠めた。

 

「ギャァァ!」

 

 悲鳴が響く。

 

 その瞬間。

 

 僕の胸まで痛んだ。

 

「待って!」

 

「何だよ!」

 

「こいつ、さっきから痛がってる!」

 

「今斬ったからだろ!」

 

「その前から!」

 

 妖魔は健を狙うのをやめ、資材へ体を叩きつけ始めた。

 

 一度。

 

 二度。

 

 同じ場所を。

 

「……背中?」

 

 右側。

 何かが引っかかる。

 

「先生、右の背中に何かあります!」

「見える?」

「感じる!」

「分かった。健、引きつけて。桜、右へ回って」

「はい!」

 

 先生の指示で二人が動く。

 健が前へ出て注意を引きつける。

 

「こっちだ!」

「ギャァ!」

「死んだふり以外なら怖くねえぞ!」

「限定的すぎる!」

 

 桜が突っ込むのをこらえながら右側へ回り、僕もその後を追った。

 

 見えた。

 

「刺さってる!」

 

 黒い毛の下。

 

 黒い杭が深く肉へ食い込んでいる。

 

「呪具かな?」

 

 先生が距離を取りながら確認する。

 

「多分」

 

 よく見れば、呪詛らしきモノが杭に刻まれている。

 長く刺さったままだったのだろう。周囲は赤黒く腫れ、黒い膿のようなものも見えた。

 

 痛いはずだ。

 

 ずっと。

 

「抜ける?」

 

「やります」

 

「琥珀!」

 

 桜が叫ぶ。

 

 妖魔がこちらを向いた。

 

 牙。

 

 殺意。

 

 恐怖。

 

 痛み。

 

 全部が一気に押し寄せる。

 

 僕は指輪へ触れた。

 

「月喰」

「きゅ!」

 

 力を借りる。

 今度は、はっきり分かった。

 月喰から流れてきた力が指輪へ集まり、そこで整えられる。

 そうして、目の前の妖魔と接続する。

 

「――伏せ」

 

 妖魔の脚が止まった。

 

「グ……」

 

 震える。

 

 抵抗している。

 

 当然だ。

 

『慈しむことが大事なんだよ』

 

 先生。大丈夫。わかってる。

 必要なのは力尽くで押さえつけることじゃない。

 

「大丈夫」

 

 左手を向ける。

 

「痛いのを取るだけ」

 

 一歩。

 

 妖魔が唸る。

 

「近づかないでほしいのは分かる。でも、そのままだともっと痛い」

 

 もう一歩。

 

「力抜いて」

 

 指輪が淡く光る。

 

 月喰の力が僕を通り、妖魔へ流れ込む。

 

 妖魔の肩から力が抜けた。

 

 ゆっくりと伏せる。

 

「…………」

 

 健がぽかんとしている。

 

「本当に伏せた」

「今そこ感心するとこ?」

 

 桜が小声で返す。

 

「だって妖魔だぞ?」

「静かにして」

 

 僕は妖魔へ近づいた。

 

 背中へ手を伸ばす。

 

「抜くよ」

 

「グゥ……」

 

「痛いけど我慢して」

 

 杭を掴み、一気に引き抜く。

 

「ギャァァァァ!」

「大丈夫!」

 

 妖魔が暴れかける。

 

 指輪へ力を通す。

 

「もう終わった!」

 

 傷口から血と膿が流れる。

 

 酷い臭い。

 

 でも。

 

 最初に感じた激しい苦痛が、少しずつ薄れていく。

 

「…………」

 

 まだ。

 

 何かある。

 

 黒い。

 

 奥に。

 

 絡みついている。

 

 悪意。

 

 怨み。

 

 苦痛。

 

 邪念。

 

「これか」

 

 僕は左手を傷口へかざした。

 

「月喰、もう少し」

 

「きゅ!」

 

 力が流れる。

 

 指輪が光る。

 

 妖魔の体から、黒い靄が滲み出した。

 

「見える」

 

 桜が息を呑んだ。

 

「俺にも」

 

 健も。

 

 黒い靄は煙のように揺れながら、僕の手のひらへ集まってくる。

 

 重い。

 

 嫌な感覚。

 

 でも。

 

 扱い方は知っている。

 

「……来い」

 

 引く。

 

 少しずつ。

 

 妖魔の輪郭が揺れる。

 

「琥珀」

 

 先生の声。

 

「無理なら止めて」

 

「大丈夫です」

 

 まだいける。

 

「月喰」

 

「きゅー!」

 

 最後。

 

 強く引く。

 

 黒い塊が妖魔の体から抜けた。

 

 それは僕の手の中で固まり、小さな黒い石になる。

 

「…………」

 

 妖魔は。

 

 消えずにその場に残っていた。

 

 ただ、半透明でずっとあやふやな存在へと置き換わっていた。

 

「え?」

 

 僕が一番驚いた。

 

「消えない」

 

 妖魔はお座りした状態になり、遠吠えをしてふっと消えた。

 消滅したんじゃない。どこかへ行っちゃった。

 

「何で?」

 

 自分でも分からない。

 

 前は。

 黒いものを抜いた後、妖魔そのものが溶けて消えた。

 

 でも今回は、消滅しなかった。

 ただ、半透明になって去っていった。

 

「琥珀」

 

 先生が慎重に近づく。

 

「あれはどこへ消えた?」

「……分かりません。消滅したのではなく、どこかへ逃げてしまったようです」

「攻撃する感じは?」

「ほとんどないです」

「ほとんど?」

「多分」

 

 先生は少し考えた。

 

「分かった。報告を上げておく」

「はい、あの、すみません」

「あのこの危険は殆どないんだろう?」

「はい」

「なら大丈夫。後は任せて」

「はい」

 

 同じだ。

 

 この先生も。

 

 雀を指へ止めていた先生も。

 

 きっと。

 

 根っこは。

 

「何?」

「何でもないです」

「そう?」

 

 僕は少しだけ、嬉しかった。

 

 ◇

 

 学校へ戻ってから、先生は報告書を書き始めた。

 僕と桜と健は、机の周りに座っている。月喰は僕の膝で果物を齧っていた。

 

「月喰、食べながらこぼさない」

「きゅ」

「偉い」

「そこ報告書にいらないからね」

 

 先生が言う。

 

「重要です」

「何が?」

「食生活」

「別紙にしようか」

「お願いします」

「本気なの?」

 

 桜が笑う。

 先生はため息をつきながら、ペンを走らせる。

 

「対象。低級妖魔一体。背部に呪具が刺入。呪詛と負傷による強い痛みと興奮状態を確認」

「はい」

「琥珀が未知の術を使用し、攻撃性を低下」

「未知じゃないんですけど。調霊術」

「調霊術?」

「荒ぶる魂を調律する術です」

「じゃあ、そう書いておくね」

「はい」

「その後、対象内部から黒色物質を抽出。物質は結晶化」

「はい」

「対象は消滅せず、存在を維持。攻撃性は著しく低下」

「はい」

 

 先生が手を止めた。

 

「琥珀」

「はい」

「今回は、前より術が安定していたね」

「指輪と月喰が揃ってるからだと思います」

「指輪?」

 

 健が食いついた。

 

「それ?」

 

 僕の手を見る。

 

「うん」

 

「ただの指輪じゃないの?」

「媒体」

「どこで手に入れたの?」

 

「月喰と一緒に作った」

「何で言わなかったの?」

「聞かれなかったから」

「そういう問題?」

 

 先生が僕の手を見る。

 

「月喰が力の供給源で、その指輪が媒体?」

「多分」

「多分なの?」

「記憶が虫食いなんです」

「記憶?」

 

 先生の目が鋭くなる。

 

「…………」

 

 しまった。

 

「本で読んだ記憶」

「どんな本?」

「昔の」

「どこで?」

「…………」

 

 墓穴。

 

「男の子にも秘密があるのです」

「またそれ?」

 

 桜が呆れる。

 

「便利な言葉にするなよ」

 

 健まで。

 

「月喰」

「きゅ?」

「僕の味方だよな?」

「きゅ!」

「ほら!」

「何がほらなんだよ」

 

 先生は僕を見たまま、しばらく黙っていた。

 

 でも。

 

 今は追及しなかった。

 

「とりあえず、指輪も調べさせて」

「壊さないなら」

「壊さないよ」

「絶対?」

「絶対」

「月喰も見張ってて」

「きゅ!」

「僕より信用されてる?」

「月喰なので」

「どういう基準?」

 

 ◇

 

 その日の夜。

 僕はノートを開いた。

 

【僕の知らない僕について】

 

 その下へ。

 

【分かったこと】

 

 使い魔作成は可能。

 

 月喰は力の源になる。

 

 指輪は媒体として機能する。

 

 月喰+指輪で術の安定性がかなり上がる。

 

 妖魔の感情、特に強い恐怖や苦痛を感じ取れることがある。

 

 妖魔から邪念らしきものを抜ける。

 

 邪念は黒い石になる。

 

 邪念を抜くと消える妖魔と、残る妖魔がいる。

 

 違いは不明。

 

 黒い石の処理方法は、食べる、使い魔へ混ぜる、封印。

 

 食べるは禁止。

 

「…………」

 

 最後の一行を見る。

 

「いや。むしろなんで食べるってのが処理方法なんだよ、知らない僕」

「きゅ」

 

 月喰がベッドの上で果物を食べながら鳴いた。

 

「お前もそう思う?」

「きゅ!」

「だよな」

 

 明らかに体に悪いじゃん。負の感情の煮凝りじゃん。

 まあいい。ノートを閉じる。

 

「分からないことだらけだ」

 

 月喰を抱き上げる。

 温かい。

 

「でも」

 

 少しずつ、使える。

 

 確かに。

 

「世界救えそうな気がしてきた」

「きゅー!」

「だよな!」

 

 ◇

 

 それから何度か、普通の任務へ出た。

 

 妖魔を倒す。

 

 必要なら殺す。

 

 危険なら迷わない。

 

 でも。

 

 先生が、ときどき僕へ聞くようになった。

 

「琥珀。何か分かる?」

 

 ◇

 

 古い神社。

 

 妖魔が唸っている。

 

「怒ってるんじゃない」

 

「じゃあ?」

 

「怖がってる」

 

 裏手。

 

 崩れた祠。

 

 そこに。

 

 小さな妖魔が隠れていた。

 

「子供?」

 

「多分」

 

 親だった。

 

 人を襲った。

 

 危険。

 

 でも。

 

 子供は。

 

 何もしていない。

 

 先生は連絡を入れた。

 

 その日。

 

 僕は初めて。

 

 妖魔が殺されずに連れていかれるところを見た。

 

 ◇

 

 廃工場。

 

 暴れる妖魔。

 

「これ、本体じゃない」

 

「何が?」

 

「何か付いてる」

 

 月喰から力を借りる。

 

 指輪を通す。

 

 黒い靄を引き抜く。

 

 石になる。

 

 妖魔は。

 

 残った。

 

 さっきまでの敵意が消えている。

 

「…………」

 

 桜が呟いた。

 

「これ、全部同じじゃないんだ」

「うん」

 

 僕にも。

 

 少しずつ。

 

 分かってきた。

 

 妖魔そのものが邪念に近いもの。

 

 何かに邪念が絡みついて、妖魔になっているもの。

 

 多分。

 

 他にもある。

 

「…………」

 

 だったら。

 

 殺すしかない奴と。

 

 そうじゃない奴が。

 

 本当に、いる。

 

 ◇

 

「琥珀」

 

 帰り道。

 

 先生が僕を呼んだ。

 

「はい」

 

「今日の対象」

 

「はい」

 

「殺さなくて済んだね」

 

「…………」

 

「そうですね」

 

「嬉しくない?」

 

「嬉しいです」

 

 正直に答える。

 

「でも」

 

「うん」

 

「怖い」

 

「何が?」

 

「分からないからです」

 

 何を抜いているのか。

 

 何が残っているのか。

 

 どういう妖魔なら残せるのか。

 

 どこからが危険で。

 

 どこからが、助けられるものなのか。

 

「分からないものを、分かったつもりになる方が危ないよ。君が処理した妖魔だけど、人を助けるようになったって聞いた子もいるし、また暴れて処分された子もいる」

 

 先生は前を向いたまま言った。知っている。先生は隠さずに教えてくれた。

 

「少しずつ、調べればいい」

「…………はい」

 

 やっぱり。

 

 同じ人だ。

 

 世界が違っても。

 

 考え方は。

 

 全部が全部。

 

 違うわけじゃない。

 

「何?」

「何でもないです」

「そう?」

「はい」

 

 ◇

 

 僕の噂は少しずつ広がった。

 

「妖魔と話せる一年生ってお前?」

「話せません」

「妖魔を操るんだろ?」

「操りません」

「そのドラゴン妖魔?」

「月喰は使い魔です!」

「月喰ちゃん見せて」

「月喰!」

「きゅ?」

「可愛い」

「でしょう!?」

 

 最後だけは。

 

 毎回。

 

 話が逸れた。

 

 ◇

 

 正式な記録も増えていく。

 

 未知の使い魔。

 

 術者との力の循環。

 

 銀の指輪を媒体とした術式。

 

 妖魔への干渉。

 

 感情把握。

 

 攻撃性の低下。

 

 黒色結晶の抽出。

 

 抽出後の対象消失例。

 

 対象存続例。

 

 存続した妖魔の調教例。

 

 既知術式との一致。

 

 なし。

 

 再現性。

 

 あり。

 

 僕はその報告書を見て少しだけ笑った。

 

「何?」

 

 桜が聞く。

 

「いや」

「怪しい」

「世界救えそうだなって」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 三人とも黙った。

 

「冗談」

「その前に世界がピンチになるってことかよ。笑えない冗談やめて」

「ごめん」

 

 冗談じゃない。

 僕にはこれが必要だ。

 

 戦う力。鎮める力。

 

 殺す技術。殺さない技術。

 

 どっちも必要。

 

「きゅ!」

 

 月喰が僕の肩で鳴いた。

 

「うん」

 

 頭を撫でる。

 

「集めよう」

「何を?」

 

 健が聞く。

 

「全部」

「ざっくりしすぎだろ」

「使えるもの全部」

「もっとざっくりした」

 

 いいんだ。

 前の僕達は足りなかった。

 

 次は両方使って、うまくやってやる。

 

 ◇

 

 同じ頃。

 

 新しい報告書が静かに一枚、追加されていた。

 

『対象内部より黒色結晶を抽出』

 

『抽出後も対象は存在を維持』

 

『攻撃性は著しく低下』

 

『術者は対象の苦痛・恐怖を感知したと証言』

 

『使い魔・月喰から術者への力の供給を確認』

 

『銀製指輪が媒体として機能している可能性あり』

 

 紙をめくる。

 

 写真。

 

 小さな黒竜。

 

 その横で笑う少年。

 

 指先が写真の上をゆっくりなぞった。

 

「…………へえ」

 

 楽しそうな声。

 

「使い魔だけじゃないんだ」

 

 次の報告。

 

 妖魔。

 黒い石。

 少年。

 

「鎮める」

 

 呟く。

 

「祓うのではなく」

 

 少し。

 

 笑う。

 

「分けるのか。陰陽道かな? 隠と陽を分ける。隠が妖魔なら、さて、陽はなんと呼ぶべきか」

 

 写真の中の少年は、黒い竜と笑っている。

 

「…………面白いな」

 

 その興味はもう、ただの観察ではすまなくなり始めていた。

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