科(化)学系チート持ち転生者のお話 Re:オタクルート   作:金属粘性生命体

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2歩

 

 

 

 注文した部品は、数日に分けて届いた。

 

 学校から帰ると玄関の脇に段ボールが置かれていて、翌日にはまた別の箱が増えている。発送元が違うのだから当然ではあるのだが、注文履歴の文字を眺めていた時よりも、随分と大きな買い物をした気分になった。

 

「悠真、これで全部?」

 

 母さんが指しているのは、廊下の隅へ寄せられた大きな箱だった。

 

「ケースが届いたなら、あとは細かいものだけだね。邪魔になるから、先に運んでおくよ」

 

「空き箱もちゃんと片づけてね」

 

「分かってる」

 

 部屋へ運び込み、注文したものと届いたものを照らし合わせる。既に届いている部品も並べていくと、作業用に空けたはずの机がすぐに埋まってしまった。

 

 ケースは机の下。説明書と付属品は脇へ寄せ、使うものだけを手元へ置く。箱の大きさに比べれば、中から出てくる部品はどれも小さい。

 

 メモリもSSDも予定通り。保存用のHDDは、取り付ける場所と配線の通り道を先に確認しておく。後から増設する時に全部外すことになるのは避けたかった。

 

 

 

 組み立ては、次の休みにまとめて行った。

 

 マザーボードへCPUとメモリ、SSDを取り付け、冷却装置を固定してからケースへ収める。電源から伸びるケーブルを繋ぎ、GPUを取り付けたところで、一度手を止めて全体を見直した。

 

 余った配線を奥へ押し込む前に、接続を確認する。問題がなければモニターとキーボードを繋ぎ、側面を開けたまま電源を入れた。

 

 ファンが回り始め、少し間を置いて画面が点灯する。

 

「……よし」

 

 メモリは全部認識されている。SSDとHDDも揃っていて、温度の表示にもおかしなところはなかった。

 

 ひとまず、そのまま標準の環境を入れる。

 

 まだ何も弄っていない状態で、幾つかの処理を走らせて記録を取った。単独で動かした時と、同時に幾つか動かした時。データの読み書きにかかる時間や、負荷をかけ続けた時の温度も残しておく。

 

 これから手を入れる以上、比較するための数字は必要だ。

 

 結果をHDDへ保存し、復旧用のデータも作ってから、ようやく設定画面を閉じた。

 

 部品の異常を疑いながらソフトウェアを弄るのは面倒なので、ここまでは先に済ませておきたかった。

 

「じゃあ、ここからだな」

 

 新しいパソコンの隣には、これまで使っていたものを置いてある。そちらで設計を書き出しながら、開発に使う環境を別の領域へ組んでいく。

 

 

 

 今入れた標準の環境は残す。完成したゲームが、こちらの専用環境でしか動かないのでは困るからだ。

 

 開発用の方は、自分が動かす処理に合わせて変えてしまっていい。

 

 まず、常に動かしておく必要のないものを外す。次に、CPUとGPUへ渡す処理を整理し、制作中のデータを何度も読み直さずに済むよう、メモリ上へ残す場所を決めた。

 

 全部を残そうとすれば、今度は容量が足りなくなる。頻繁に使うものと、必要な時だけ呼び出せばいいものを分け、SSDへ戻す順番も合わせて調整する。

 

 初日に用意した試験をもう一度走らせると、幾つかの処理で待ち時間が短くなった。ただ、同時に動かした時の結果はまだ揃わない。

 

 記録を開くと、作業データの保存と読み込みが同じタイミングに集まっていた。

 

「ここは分けた方がいいか」

 

 処理の順番を変えて、もう一度。

 

 今度は前の処理が終わるまで待たされていた部分が、横で動くようになった。画面を操作しながら裏で検証を回しても、先ほどのように手が止まることはない。

 

 そうやって、学校やアルバイトから帰った後に少しずつ手を入れていく。ひと晩で全部を終わらせようとはせず、変更した箇所と結果を残してから電源を落とした。

 

 数日分の記録が並んだ頃には、何を同時に動かすとどこが詰まるのかも、おおよそ把握できていた。

 

 まだ調整できる部分はある。だが、今の段階で必要なものは動かせそうだ。

 

「これなら、しばらくは十分かな」

 

 ひとまずPC側の作業を区切り、以前作っておいた『制作AI』のフォルダを開く。

 

 ようやく、最初に作りたかった道具へ取りかかれる。

 

 欲しいのは、こちらの指示を受けてコードを組み、素材を用意し、動かした結果を調べるものだった。

 

 話し相手ではないので、人格や感情は必要ない。雑談のための受け答えを整えるより、仕様の読み違いを減らしたいし、自分自身のことを考えさせるくらいなら、その分を検証へ回した方がいい。

 

 ただ、命令の書き方まで毎回細かく揃えなければ動かないようでは、使う側の手間が増える。

 

 俺が普段使う言葉で指示を出し、足りない条件があれば、その箇所だけを返してくれる。それくらいは欲しかった。

 

 最初に用意したのは、コードを読み取り、指定された処理と実際の動きを照らし合わせる部分だ。

 

 短い試験用のコードを渡すと、画面に確認結果が並んだ。

 

『参照先の指定がありません』

『同一データへの重複した書き込みがあります』

『終了条件に到達しない入力を検出しました』

 

 指摘されたのは、あらかじめ仕込んでおいた箇所だった。

 

 それぞれの修正案も表示させてみる。止まらずに動けばいい、という直し方ではなく、こちらが指定した処理を変えずに直せているかを確認した。

 

 ひと通り目を通してから、今度は問題のないものを渡す。不要な修正を提案してこないことまで確かめ、次の作業へ進んだ。

 

 コードの補助が動いたら、自動実行と結果の比較を繋ぐ。画像や音については、当面使う簡単な素材を作れるところまで用意した。

 

 出来上がった機能を別々の画面から呼び出していると、流石に少し煩わしい。

 

 そこも含めて、後で一つにまとめるつもりだった。

 

 

 

 最低限の動作を確認できたところで、制作AIへ次の対象を指定する。

 

 今作っている、制作AI自身のコードだ。

 

 変更する範囲を絞り、作業用のコピーを読ませた。処理の結果を変えずに、作業中のメモリ使用量を減らせるか。幾つか案を出させ、それぞれを別の環境で動かす。

 

 画面の左右に、変更前と変更後のコードが並んだ。

 

 最も軽くなる案は、処理をまとめすぎていた。今は問題なくても、後から機能を追加する時に触りにくい。

 

 別の案を選び、残してほしい区切りを指定する。

 

 俺が全部を書き直している間に試験が止まることもなく、修正した箇所から順に結果が戻ってきた。

 

「これなら、そっちを待たなくていいな」

 

 結果を確認して採用し、次の箇所を渡す。

 

 機能が勝手に増えたわけではない。俺がやらせたいことを決めて、その作業の一部を渡せるようになっただけだ。

 

 それでも、手元で一つ修正している間に、別の箇所の確認が済んでいるのは便利だった。

 

 次に必要な作業を考える余裕ができる。

 

 それなら、このままゲームを作るための環境も整えてしまおう。

 

 翌日の夜には、開発画面の枠を作り始めた。

 

 最初から何でも作れるものはできない。欲しい機能を追加するための接続部分を先に決め、そこへ必要なものを繋いでいく。

 

 今回使うのは2Dの描画と入力、音、セーブ。それから簡単な物理演算と、実行中の様子を調べるための機能だ。

 

 3D表示やオンライン機能は、今作るものには必要ない。追加できる場所だけを用意して、中身は後回しにする。

 

 制作AIへ渡す仕様も、まとまりごとに分けた。画面へ画像を出す部分を作らせている間に、俺は入力の扱いを書いておく。戻ってきたものを確認して繋ぎ、動作が揃ったら次へ進む。

 

 作業を進めるうちに、開発画面そのものも少しずつ変わっていった。

 

 中央には実行中の画面。横へコードを置き、必要な時だけ素材の一覧を開く。下には検証結果を出したが、最初の配置では文字を読むたびにゲーム画面から視線が離れすぎた。

 

 試しに横へ移してみると、今度はコードの幅が足りなくなる。

 

「……ここは固定しなくていいか」

 

 実行中だけ検証結果を広げ、編集に戻ったらコードの方へ幅を渡す。頻繁に触る操作は近くへ寄せ、滅多に使わないものは奥へしまった。

 

 制作AIに出させた画面案には、初めて使う人向けの案内も付いていた。

 

 操作する順番にボタンが光り、説明文を出すらしい。

 

「それはいらないな。俺しか使わないし」

 

 案内を外し、その場所へ直前の変更箇所を表示させる。説明を読むための場所より、戻したい時にすぐ戻せる方がありがたい。

 

 ショートカットも、普段の自分の手に合わせた。

 

 何度か編集と実行を行き来し、手が止まったところを直していく。完成した画面を見て満足するより、使いながら直す方が早かった。

 

 週末には、簡単なものならこの画面だけで作業を進められるようになっていた。

 

 空の画面へ丸と四角を置き、丸の方に重力を与える。落ちた丸が床へ当たり、設定した反発の強さに応じて跳ね返った。

 

 床を傾ければ転がり、摩擦を変えれば止まるまでの距離も変わる。

 

 位置や速度を線で表示して、動きを確かめた。

 

 今回の物理エンジンは、ひとまずこれでいい。

 

 小さなパズルを作るのに、複雑な物体の変形や細かな流体の動きまで入れる必要はなかった。後から扱えるものを増やせるようにしておき、今は丸や四角の動きが安定していれば十分だ。

 

 試験画面を保存し、椅子から少し離れて背を伸ばす。

 

 最初の空っぽな画面に比べれば、随分と色々なものが並ぶようになった。まだ仮のボタンも多いが、作っている途中で必要になった機能を、その場で足せるのは気楽だった。

 

 机の端に置いたスマートフォンを見ると、夕食までにはまだ少し時間がある。

 

 せっかくだし、最初のゲームを決めてしまおう。

 

 趣味ノートに書いておいた案を開き、制作AIへ条件を渡した。

 

『片手で操作できるパズル。1プレイは3分程度。複雑な操作を覚えなくても遊べるもの。初回の試作なので、画面や素材の数は少なくする』

 

 返ってきた案を順に読む。

 

 数字を繋ぐもの、ブロックを積むもの、球を落として同じ色を揃えるもの。どれも、似た遊びを見たことのある案だった。

 

 今回は、それで構わない。

 

 珍しさを出そうとしてルールを増やすより、説明を読まなくても何となく触れるくらいの方がいいだろう。

 

 球を落とす案を選び、同じ色を3個接触させると消えるようにする。消えたところへ上の球が落ち、そこで色が揃えば連鎖する。

 

 指を横へ動かして落とす場所を決め、離せば落下。狙い通りに転がるかを眺める時間も含めて、気軽に遊べるものにしたい。

 

 制作AIの案では操作が1回ずつ区切られていたが、そこは変更した。

 

 前の球が転がっている間にも、次を落とす位置は考えられるようにする。連鎖が終わるまで何もできないのは、少し待ち時間が長そうだった。

 

 大枠をまとめてから、今のエンジンで動く試作版を作らせる。

 

 実行画面に縦長の枠が現れ、その上へ赤い球が表示された。左右へ動かして離すと、球が落下して底へ当たる。

 

 次は青。その次は赤。

 

 同じ場所へ落として色を揃えると、3個の球が消えた。

 

 ただ、それだけだった。

 

「……消えるの、早すぎるかな」

 

 色が揃ったことを確認するより先に、画面から球がなくなる。

 

 消えるまでの間を少し伸ばし、揃ったものが分かるように明るくする。音も付け、連鎖するほど少しずつ変わるようにした。

 

 もう一度遊ぶと、何が起きたのかは分かりやすくなった。

 

 だが、今度は消去の演出が終わるまで次の球を落とせない。

 

 連鎖中も位置は動かせるはずなのに、指を動かしても反応しない時間があった。

 

 処理を止めて確認すると、画面全体が同じ待ち時間へ入っている。

 

 そこを分け、落下する球の処理と、操作を受け付ける部分を別々に動かす。修正を渡している間に、俺は仮の色を調整した。

 

 赤と橙が少し似すぎている。

 

 色だけに頼らず、中へ簡単な模様も入れておけば、画面を小さくしても見分けられそうだ。

 

 机の上でマウスを使っている分には問題なくても、スマートフォンで触るとまた違った。

 

 ビルドしたものを自分の端末へ入れ、指で球を動かしてみる。

 

 狙いたい場所が、ちょうど指で隠れた。

 

「ああ、これだと見えないな」

 

 操作する範囲を下へ移し、上には落下位置の目印だけを出す。指を動かすと、その目印が左右へ動く形に変えた。

 

 ついでに次の色も見えるようにして、もう一度。

 

 今度は手を止めずに遊べる。

 

 目の前の色をどこへ置くかだけでなく、その次の色を見て少し場所を変える。上手く消えた後に別の色が落ちてくると、もう1回連鎖が起こった。

 

 得点が増えたところで、つい次の球を落とす指が早くなる。

 

 そのまましばらく触っていると、階下から声がした。

 

「悠真、ご飯できたよ」

 

「今行くよ」

 

 画面を止めようとして、残り時間が思っていたより少なくなっていることに気づく。

 

 操作しにくい箇所を探すつもりが、途中から普通に得点を狙っていたらしい。

 

 まだ仮の画面だし、見た目を整える箇所はいくらでもある。それでも、このまま1本にできそうな感触はあった。

 

 現在の状態を保存してから、夕食へ向かった。

 

「パソコン、ちゃんと動いた?」

 

 食卓につくと、母さんが尋ねた。

 

「動いたよ。今はゲームを作る方も、少しずつ試してる」

 

「もうゲームになったのか?」

 

「まだ試作品だけどね。触って遊べるくらいにはなった」

 

 父さんが少し興味を示したので、食後にスマートフォンの画面を見せる。

 

 落とす場所を決め、同じ色を揃える。それだけ説明すると、父さんはしばらく黙って画面を触っていた。

 

「もう落としていいのか、少し迷うな」

 

 言われて見ると、次の球を落とせる状態へ戻ったことが、画面からは分かりにくい。

 

 自分は処理のタイミングを知っているから、そのまま触っていた。

 

「そこは、もう少し分かるようにするか」

 

「なるほど。これを完成させるんだな」

 

「まずはね」

 

 端末を受け取り、自室へ戻る。

 

 先ほどの指摘をメモへ足し、入力できる時だけ目印の表示を変えてみた。大きく点滅させるほどのものではないので、少し明るさを変える程度に留める。

 

 画面の横では、制作AIがそれまでの変更を反映した試験を続けていた。

 

 こちらが遊んでいる間にも、操作の組み合わせが幾つも試されている。実行中の映像を表示しなければ、俺が1回遊ぶよりもずっと早く結果が揃った。

 

 途中までの結果を開く。

 

 同じ場所ばかり狙うもの、左右の端へ交互に落とすもの、次の色に応じて位置を変えるもの。操作の違いで得点や終了までの時間がどの程度変わるのか、記録が分かれていた。

 

 得点だけを見ると、少し気になる偏りもある。

 

 ただ、試行回数が少ない状態で直してしまうのは早い。球の出る順番による違いもあるので、条件を増やしてから見たいところだった。

 

 時計を見ると、そろそろ切り上げた方がよさそうな時間になっている。

 

 明日は学校だ。今から細かい修正を始めれば、区切りがつかなくなる。

 

 制作AIの入力欄を開き、夜の間に行わせる作業をまとめた。

 

『進行不能、入力が受け付けられなくなる状態、終了と再開時の不整合を優先して確認。極端に得点が偏る操作手順も抽出。仕様が不足している箇所は、変更せず候補として残す』

 

 試す条件を追加し、実行時間を設定する。

 

 コードを勝手に直して結果だけを見せられても、今はどこで何が起きたのか追いにくい。今夜は問題を見つけ、同じ状態を再現できる形で残してもらう。

 

 修正は、明日その内容を見てからでいい。

 

 開始を押すと、実行中の試験が一覧に加わった。

 

 演算用の処理を優先させ、画面の表示は最低限へ落とす。動作温度を確認してからモニターを消すと、部屋にはファンの音だけが残った。

 

 手を止めても、作業まで止まるわけではない。

 

 それが少し嬉しくて、布団へ入る前にもう一度だけ机の方を見てしまった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 翌朝、着替えを済ませてからモニターをつけると、昨晩は空いていた確認欄がすっかり埋まっていた。

 

 最初に見えたのは、動作不良の報告。その下には未指定の処理と、バランスの調整候補が続いている。

 

「……結構あるな」

 

 同じ原因のものはまとめられている。それでも、順番に見ていけばしばらくかかりそうだった。

 

 ひとつ開いてみる。

 

 操作中に指を画面の外まで滑らせ、そのまま離す。画面へ戻って次の球を落とすと、狙った位置ではなく、前に触っていた端から落下していた。

 

 記録された手順を自分の端末で試すと、確かに同じことが起こる。

 

 操作の終了を取りこぼして、前の位置が残っているらしい。

 

 別の報告では、連鎖の途中で中断し、再開した時だけ表示される得点と内部の得点がずれていた。こちらには、どの変更を入れてから起こるようになったかまで添えられている。

 

 その下の調整候補は、不具合とは違った。

 

 特定の色の並びで、同じ場所へ落とし続けるだけの操作が、狙って置き分ける操作より高い得点を出している。1回だけではなく、条件の近い試験で繰り返し起きていた。

 

 横には修正案が幾つかある。配色の出方を変える案もあれば、連鎖の得点を見直す案もあった。

 

 今すぐ選ぶのはやめて、確認する順番だけを決める。

 

 まずは入力と再開の不具合。その後で、自分でも偏りの出る手順を試してみよう。

 

 昨晩までの俺なら、1回遊んでは直し、また最初から遊んでいたはずだ。

 

 今は、修正するべき箇所を選ぶところから始められる。

 

「思っていたより、使えそうだな」

 

 報告を閉じかけて、端に表示されている新しい候補へ目が留まる。読み始めれば、また時間を使ってしまいそうだった。

 

 時計を確認し、今度こそ手を離す。

 

 続きは学校から帰ってからでいい。

 

 作業中の画面を保存し、朝食を食べに部屋を出た。頭の中では、さっきの球の落ち方がもう一度再生されていた。

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