科(化)学系チート持ち転生者のお話 Re:オタクルート 作:金属粘性生命体
学校から帰って鞄を放り投げるや否や、朝イチで確認したバグ報告のリストを再び引っ張り出した。
まずは、画面外で指を離した時に操作が残ってしまう厄介な不具合。それから、アプリの中断と再開を挟むと得点がズレる現象。この2つをサクッと修正し、制作AIへ同じ操作を延々と繰り返させる。
直した箇所だけでなく、その前後も含めて動きに問題がないことを見届け、残りの報告へと目を移した。
操作不能になるものや、表示と内部の数字が食い違うといった致命的なバグは、原因がハッキリしているのでそのまま直せばいい。少し頭を悩ませたのは、得点の偏りについてだった。
なんと、画面の片側へ球を落とし続けるだけで、真面目に狙って置き分けた場合よりも得点が伸びてしまうことがあるらしい。
記録された操作を再生してみると、端っこへ積まれた球が見事な斜面を作っていた。そこへ次の球を落とせば、コロコロと転がっている間に同じ色と触れて消え、さらにその下が消えることで上の球も雪崩のように崩れ落ちる。
なるほど、賢い。これなら何も考えなくても大連鎖が起きるわけだ。
試しに自分でも同じように適当な操作をしてみると、確かにアホみたいに得点が伸びた。頭を空っぽにして球を落としているだけなのに、連鎖の嵐で球がドカドカ消えていくのは、正直かなり爽快で楽しい。
「……これ、裏技っぽくて残してもいいかもな」
適当に画面をこすっているだけでも楽しく遊べるのは、ゲームとして別に悪いことじゃない。むしろ大歓迎だ。この爽快感を潰すために球の出る順番を不自然に弄り回す方が、後々自分の首を絞めることになりそうだった。
ただ問題なのは、真面目に頭を使って遊ぶよりも、適当に斜面を作った方が得点が高くなってしまうことだ。
なので、連鎖の加点バランスを見直し、球を残す場所によってもう少し得点に差が出るように調整した。適当に消してもそこそこ点は入るが、ちゃんと考えて上手く繋げればさらにドカンと伸びる。そのくらいの塩梅で十分だろう。
変更した条件を制作AIへ丸投げし、比較用のテストプレイをぐるぐると回しておく。
その隙に、こっちは画面の見た目のお化粧を始めた。
仮置きの味気ない四角で済ませていたボタンを作り直し、数字の大きさを綺麗に揃える。球の模様も少しアレンジして、似たような色でも見間違えないように工夫を凝らした。
やろうと思えば、派手な演出なんていくらでも足せる。
ただ、連鎖するたびに画面がピカピカ光り、デカい文字が飛び出し、肝心の球の位置まで見えなくなるのは流石に邪魔くさかった。いくつかド派手な演出も試してみたものの、結局は最初の案より控えめな形に落ち着いた。
どこが消えたのかがパッと見で分かって、気持ちいい音で連鎖が続いていると伝われば、それで十分なのだ。
そんな作業を放課後やアルバイトのない夜にコツコツ進め、週末にはひと通り遊べる形に仕上がっていた。
よし、今度は母さんにも触ってもらおう。
食後、ソファでテレビを見てくつろいでいたところへスマートフォンをスッと差し出すと、母さんは画面とこっちの顔を交互に見比べた。
「これ、この前お父さんがやってたやつ?」
「そうそう。ちょっと手直ししたから、テストプレイお願いしてもいい?」
「いいわよ。どうやればいいの?」
「最初だけ、何も説明しないから適当に触ってみてほしいんだ。それで、どこが分からなかったか教えて」
母さんは「??」と頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、開始ボタンをタップした。
画面へ球がポンッと出る。
そして、その球を指で直接触った。
当然、動かない。
今の仕様では、画面の下にある操作エリアを触らないと、落とす場所を変えられないのだ。自分はそれを作った本人だから知っているので、最初から下へ指を置いていた。
「これ、いくらタップしても何も起きないんだけど」
「……あー、なるほど。最初はそっちを触っちゃうか」
「え、違うの?」
「本当は画面の下の方をスワイプするんだけど、確かにそれじゃ分かんないよね」
正しい操作方法を伝えると、母さんは普通に遊び始めた。
同じ色が揃ってポンッと消え、続けて上の球も雪崩のように崩れる。途中で1度だけ「あ、消えた」と声を出した後は、真剣な顔で黙々と画面をこすっていた。
やがて制限時間が終わり、結果画面が表示される。
「もう1回やっていい?」
「いいよ。でもその前に、分かりにくかったところだけ教えてもらっていい?」
「うーん、最初にどこを触ればいいのか戸惑ったくらいかな。あ、あとこの上にある小さい丸は何?」
「それは次に落ちてくる球の色」
「ああ、そういうことね! じゃあ次はもう少し上手くできそう」
自室へ戻ってから、最初の操作だけ短い案内を出すように改良した。
長ったらしい説明画面なんて誰も読まないから作らない。指を置く場所と、左右へ動かして離せば落ちること。それだけを、最初の球を落とすまで画面にポンと出しておく。
ついでに、次の色を示す丸にも短い表示を添えておいた。
制作AIへ変更箇所の確認を任せ、いよいよ公開に向けた準備へ取りかかる。
ゲームの名前をバシッと決め、アイコンと紹介画像を用意した。アイコンは小さく表示されても球の色がパッと見で分かるようにデザインし、紹介文はルールと1回にかかる時間を中心に分かりやすくまとめる。
ただ、売り文句を考えるのには少し頭を抱えた。
遊びやすい。短時間でサクッと終わる。連鎖すると気持ちがいい。
どれも間違ってはいないが、いかんせん似たようなゲームの紹介欄には死ぬほど書いてありそうな言葉だ。
制作AIにイカした案を出させてみたら、今度は『宇宙の真理を解き明かす究極のパズル体験!』みたいな、妙に大げさで胡散臭い文章が出来上がった。
「いや、ただのパズルにそこまでの壮大なストーリーはないんだよな……」
結局、余計な飾り言葉は全部削ぎ落とし、実際に遊んでいる画面がひと目で分かる短いプレイ動画を作った。
ゴチャゴチャと文章で語るより、触った時に何が起きるのかを直接見てもらった方がよっぽど早い。
料金設定は基本無料。
広告を入れるのはゲームの合間だけにして、毎回結果を見るたびにウザい広告が挟まるような極悪仕様にはしない。プレイ中に画面の端を広告に覆われるのも腹が立つので、遊んでいる最中も絶対に出さないことにした。
課金要素は、広告を完全に消し去るための買い切りプランだけだ。
ガチャで追加の球を引かせたり、得点を無理やり増やすアイテムまで作るつもりは毛頭なかった。記念すべき最初の1本で、管理するものをこれ以上増やして自滅したくはない。
公開に必須となるストアの登録や売上の受け取り手続きについては、父さんにもガッツリ協力してもらった。PCを買うために借金のお願いをした時とは違い、今回は実際に動くゲームを見せながら堂々と相談できた。
色々な手続きや審査を待つ間にも、制作AIのテストプレイは止めずに回し続けていた。
ただ、その頃には致命的な不具合の報告はピタリと止まり、ほとんど増えなくなっている。
もちろん、細かい調整の余地はまだある。ボタンの位置、効果音の間隔、球が落ちる微妙なスピード。それでも、全部を完璧にしようとしていたら、それこそ寿命が尽きるまで終わらない。
スマートフォンで最初から最後まで遊び、結果画面からもう1度始める。アプリを中断してホーム画面へ戻り、音を消した状態でも遊んでみる。
少なくとも、今の自分が気になってイライラするようなところは全部潰した。
「よし、これでいっちょ出してみるか」
公開用のデータをカチッと確定し、作業用のフォルダとは完全に分けて保存する。
自分が作った最初のゲームがストアへ並んだのは、それから少し後のことだった。
◇
学校から帰ると、ついにアプリが公開されたことを知らせる通知が届いていた。
さっそくストアを開き、用意した自分のページを確認する。
うん、自分で選んだアイコンと、何度も書き直してスッキリさせた紹介文。プレイ画面の画像も、バッチリ予定していた順番で並んでいる。
公開前に飽きるほど見た画面のはずなのに、いざ他のゲームと同じ場所に並んで表示されているのを見ると、なんだかソワソワして落ち着かない。
表示が崩れていないか確かめた後、実際にストアからスマートフォンへ入れ直して動かしてみる。
よし、動作も問題なし。完璧だ。
その後、期待に胸を膨らませて管理画面も開いてみた。
……うん。まだ、ほとんど何も表示されていなかった。
気を取り直して、夕食を食べてからもう1度見てみる。
数字は少し増えている。
ただし、本当に「少し」だ。
翌日になっても、ダウンロード数はせいぜい2桁のままだった。
「まあ、世の中そんなに甘くないわな」
分かってはいたことだ。
最初から何万人もの大勢に遊ばれるなんて夢みたいなことは思っていないし、大金をつぎ込んで特別な宣伝をしたわけでもない。
それでも、公開の準備までずっと手を動かして忙しくしていたせいか、今度はただ数字が増えるのをじっと待っているだけの時間が、妙に長く感じられて仕方なかった。
何度更新ボタンを押したところで、急に数字が跳ね上がる魔法なんてない。
そっと管理画面を閉じ、公開用に作った短い動画と紹介文を、自分の投稿ページへ載せる。もちろん、ここも沢山の人に見られているような影響力のある場所ではなかった。
もう少し見つけてもらう方法は考えたいところだ。
ただ、何の関係もない場所へ自分のゲームの宣伝だけをスパムのように書き込んで回るような真似は絶対にしたくなかった。
ひとまず、遊び方がちゃんと伝わる形でそっと置いておく。
あとは、次のゲームのアイデアでも練っている方がよっぽど建設的だろう。
そうして数日が過ぎた頃、待ちに待った最初の感想が付いた。
『普通のパズルだけど、動きが軽くて遊びやすい。広告が少ないのもいい』
随分とあっさりした短い文章だった。
どこの誰が書いてくれたのかも分からない。家族へ頼んで無理やり書いてもらったサクラレビューではないので、少なくとも、見知らぬ誰かが遊んでくれた結果なのだろう。
その短い一文を何度も何度も読み返してから、管理画面へ戻る。
ダウンロード数も、亀の歩みではあるが少しずつ増えていた。
翌日には、また別の感想が付く。
『3分で終わるのに、もう1回やってしまう』
その下には、音量の調整をもう少し細かくしたいというありがたい要望も書かれていた。
効果音とBGMは分けているが、設定できる段階がざっくりしすぎているらしい。試しにイヤホンを挿して聞いてみると、確かに静かな場所で遊ぶにはもう1段下げたいと思うところがあった。
よし、そこはサクッと直しておこう。
制作AIへ変更内容を投げ渡し、他の音の設定まで巻き添えになって変わっていないか確認させる。
まだ大勢に遊ばれているわけではない。それでも、公開してから初めてユーザーの声を聞いて行う、記念すべき修正だった。
更新データを出すと、数日後には同じ感想へ追記が付いていた。
『音量調整できるようになってた。ありがとう』
画面の前で、思わず少しだけ頬が緩む。
自分の部屋でちまちま作っていたものが、どこかの誰かの手元でちゃんと動いている。直したところも、しっかり向こうへ届いているらしい。
ついでに収益の欄も確認してみる。
そちらは、まだ市販のゲームソフトを1本買うことすらできないほどの金額だった。
「親への借金返済は、もう少しかかりそうだな」
PCを買うために借りた25万のことを思い出し、管理表へ今の数字をポチポチと移す。
ダウンロードされた数と、画面に表示されている収益。それに、実際に自分の口座へ振り込まれる金は、別々に管理しておく必要があった。
まだ、開発用の機材を新しく買い足すような段階ではない。
◇
最初の公開からしばらく経つと、少ないながらもプレイヤーの遊び方の傾向が見えてきた。
確認するのは、起動から終了までの時間や、何回くらい続けて遊ばれたかといった大まかな集計だ。誰がどのタイミングで何をしていたのかまで、ストーカーのように追う必要はない。
制作AIへ集計結果と寄せられた感想を放り込み、内容を分かりやすく分類させた。
操作性についての不満は驚くほど少ない。
一方で、1回3分のプレイ時間の途中でアプリを閉じているケースもそれなりにあった。
最初は制限時間が長すぎるのかとも疑ったが、閉じた後にちゃんと再開されているものもある。そもそも隙間時間にサクッと遊ぶためのゲームなのだから、途中で電車を降りたり用事ができたりするのは当然のことだろう。
ここをひと括りにして「途中で離脱されているから失敗だ」とネガティブに扱うのは少し違う。
中断後に問題なく元の状態へ戻れているかだけを念入りに確認し、そこは今のままの仕様で残すことにした。
それよりも気になったのは、長く遊んでくれているコアな人たちから届く要望だった。
時間を気にせず、とことん連鎖を続けたい。
毎回ランダムな盤面だけじゃなく、同じ条件でハイスコアを競い合いたい。
どちらも機能の追加自体は難しくないが、一度に全部を詰め込むと、最初のシンプルな画面がゴチャゴチャと混み合ってしまう。今のゲームへ足すものと、潔く次へ回すものを分けた方がよさそうだった。
趣味ノートのゲーム案を開き、その横へ新しいページをバサッと作る。
次は、一気に2本作る。
最初の1本で作り上げた描画や入力、セーブの仕組みは、そのまま使い回せる。素材を作り、プログラムに組み込み、動作を確かめるという一連の流れも既に1度経験した。
同じパズルを少しだけ変えて出すのではなく、今度は全く遊び方の違うものを作ってみたかった。
片方は、のんびり放置して進める育成ゲーム。
小さな庭へ鉢を置き、植物を育てて、収穫したものから次の種や可愛い飾りを手に入れる。アプリを開いていない間も勝手に育ち、戻ってきた時にちょこっと作業するくらいの、ゆるいゲームだ。
もう片方は、見下ろし型のダンジョン探索アクションにした。
こちらは短い区切りで敵のいる部屋を進み、途中で拾ったアイテムを組み合わせて、次にどんな能力強化をするか選んでいく。遊ぶたびに部屋の繋がりと手に入るものが変わり、毎回少し違うプレイスタイルになるような仕組みだ。
まだ、どちらも規模としては小さい。
庭を街全体へドデカく広げたり、ダンジョンへ壮大なファンタジーの物語を付けたりするのは、今回はやめておく。
「よし、まずはこのくらいの規模で2本同時に進めてみよう」
企画の大枠をそれぞれ渡すと、制作AIが必要な処理を手際よく分け始めた。
共通で使い回せる部分。
既にあるプログラムへ少し追加すれば済む部分。
今回新しくゼロから作る必要がある部分。
前のパズルでは本当に何もないところから全部を用意したわけだが、今回は空っぽの画面から始めずに済む分、かなり気が楽だった。
庭へ仮の鉢がポコポコ並んでいく横の画面で、ダンジョンのテスト用の部屋もサクサクと形になっていく。
こっちが庭の成長スピードを調整している間に、もう片方の画面ではキャラクターの移動と敵の厄介な動きが自動でテストされている。
時々、同時に重い処理が走りすぎて、画面の切り替えがモッサリと鈍くなることもあった。
そんな時は、制作AIへ渡す仕事の順番を賢く変える。
自分が今リアルタイムで触っているものを最優先にし、素材のまとめ作りや膨大なテストプレイは、寝ている間や学校に行っている時間へ回した。メモリに残しておく範囲も上手く分ければ、今のPCでもまだまだ十分に動かせる。
庭の方で最初に手を入れたのは、時間の扱いだった。
毎秒毎秒、全ての鉢の成長度を書き換え続ける必要なんてない。アプリを閉じた時の状態を保存しておき、戻ってきた時に経過した分の時間をまとめて反映させればいいだけだ。
その賢い仕組みを追加すると、制作AIは間隔をバラバラにした起動と終了のテストを高速で繰り返し始めた。
その隣で、ダンジョンに使う部屋の繋がりを作っていく。
部屋をただ適当に並べるだけでは、行き止まりばかりのクソマップになったり、出口まで敵も出ずにただ歩くだけの虚無空間になったりする。
どこで敵と乱戦になり、どこで美味しい強化を選び、どこで少し息を抜けるか。最低限の気持ちいい流れを決め、その枠組みの中でランダムに変化するようにした。
同じ処理を何度も無駄に書いていることに気づけば、すかさず共通で呼び出せるスマートな形へ直しておく。
片方を作るために閃いて加えた機能が、もう片方でもそのままポンと使えることもあった。
設定画面やセーブの確認などは、ほとんど前のパズルゲームのものを使い回している。音と画像を新しいものに差し替え、必要な項目を少し増やせばそれだけで完成だ。
日が経つにつれて、2本ともちゃんと「ゲームとして遊べる部分」がどんどん増えていった。
ただ、庭の方は、待っている時間が少し長すぎて退屈だった。
最初の鉢を育てるところまではいいが、その次にできることが増えるまで、ただじっと画面を眺めているだけの虚無の時間が続く。放置するゲームとはいえ、始めた直後から何もできないのは流石につまらない。
なので序盤だけは、新しい鉢や飾りを選べるチャンスを少し早めに設定した。
反対に、ダンジョンの方は忙しすぎて目が回りそうだった。
拾うアイテムも、選ぶ強化の選択肢も多すぎる。短い間隔でバンバン選択画面が開くので、アクションゲームなのに走り回っているより文章を読んでいる時間の方が長くなってしまう。
「こっちは要素を削ろう。最初から全部乗せにする必要はないしな」
強化の種類をスッキリ整理し、違いがパッと見ただけで分かりやすいものから出すようにする。
飛ばす弾がドバッと増える。攻撃の間隔がマシンガンのように短くなる。移動する速さが忍者みたいに変わる。
細かな数字の違いしかないような地味な強化は、ゲームの後半へ回した。
制作AIがドヤ顔で用意した案を、全部律儀に使う必要はない。せっかく作った素材も、使わないものはフォルダの奥にそっと保存しておけばいい。
そんな具合に、片方を触って直し、テストへ回している間にもう片方へサッと移る。
前の1本より扱っているデータの量は格段に増えたのに、何もできずにぼーっと待つ時間は明らかに減っていた。
アルバイトから疲れて戻ると、指示しておいた素材がバッチリ揃っている。学校へ行く前にテストプレイを走らせておけば、帰った時には問題のある箇所がリストアップされている。
それを見ながら、次にやらせるタスクを決める。
何週間か経つ頃には、寝る前に翌日分の作業をAIへ割り振るのが、すっかり日課になっていた。
◇
2本の公開準備がバッチリ整った頃、最初のパズルはまだ細々と遊ばれ続けていた。
どこかで大きくバズって話題になったわけではないが、公開直後のように、ダウンロードの数字がピクリとも動かない日ばかりではなくなっている。
短い感想も少しずつ増え、音量以外にも気になったところへいくつか手を入れた。
そうして綺麗に直した設定画面は、今回の2本にもそのまま使っている。
新しいゲームの紹介画像を作り、プレイ動画を用意し、配布するデータを確定する。1度経験している分、何を先に準備しておけばスムーズかは手に取るように分かっていた。
今回は、パズルの説明欄にも「こんなゲームも作ってます」という他の作品への案内をこっそり足しておく。
遊んでいる最中にいきなり新作の宣伝画面をドカンと割り込ませるような無粋なことはせず、気になった人が見に行ける程度にひっそりと置いておいた。
2本が同時にストアへ並んだ後、最初の時と同じように配布されたものをスマートフォンへ入れ直して確認する。
庭の植物を育て、途中でアプリを閉じてまた戻る。
ダンジョンを突き進み、敵にボコボコに負けた後にもう1度最初から始める。
うん、問題なくサクサク動く。これを確かめてから、管理画面を閉じた。
流石に今回は、焦って何度も開き直すような真似はしなかった。
ただ、翌日に見た数字は、最初のパズルを出した時よりも明らかに大きな動きを見せていた。
新作の感想欄にも、見覚えのある名前がチラホラと混じっている。
『パズルの人の新作だったので入れてみた』
『こっちも動きが軽い。種類が全然違ってちょっと笑った』
前のゲームを遊んでくれた人が、ちゃんと次の作品も触ってくれたらしい。
庭の方は、のんびりとゆっくり伸びた。
時々開いて収穫し、鉢や飾りを少しずつ増やしている人が多いようだ。派手な反応は少ないが、数日後にもしっかりと戻ってきてくれている。
ダンジョンの方は、それよりもずっと早いペースで数字が増えていた。
手に入った強力な組み合わせや、どこまで深く進めたかをSNSに載せている投稿を見つける。短い動画の中では、自分がテスト中に好んで使っていた組み合わせが、随分と楽しそうに暴れ回っていた。
その投稿を見た人が新しく遊び始め、そこから作者の他のゲームへも移ってくる。
しばらく凪のように止まっていたパズルの数字まで、つられて少し大きく動くようになった。
3本のページを見比べながら、寄せられた感想を制作AIへ次々と渡していく。
庭の装飾をもっと増やしてほしいという声もあれば、ダンジョンに新しい凶悪な敵が欲しいという声もある。全部に応えるかどうかは別として、次に何を足すか考えるための最高の材料にはなる。
少なくとも、作って出したきり、誰にも見向きもされずに終わるという悲しい結末は回避できそうだった。
月の区切りが近づいた頃、3本分の収益を管理表へまとめた。
今月分として表示されている数字は、合わせてようやく万の桁に乗っている。
まだ、親へ借りた25万には遠く及ばない。
これだけでアルバイトを辞めて悠々自適に暮らせるわけもないし、すぐにハイスペックな新しいPCをドーンと買えるほどでもなかった。
ただ、最初のパズルを出した時には、自販機で飲み物とお菓子を買うくらいだった数字が、今は少しまとまった金になり始めている。
「……このまま続けていけば、ちゃんと開発資金にはできそうだな」
未確定の収益と、実際に口座へ振り込まれた金はきっちり分けて記録する。
入ってきた分から、少しずつ返済していけばいい。捕らぬ狸の皮算用で先の見込みまで使ってしまわなければ、焦る必要はどこにもなかった。
表を閉じ、開発画面へ戻る。
最初のゲームを作り始めた頃には、絵を描き出す処理もボタンの入力も、全部こちらでゼロから用意する必要があった。
でも今は違う。作ったパーツを選んでブロックのように繋げられる。
画面の切り替え、セーブ機能、設定画面、音の管理。時間の経過を扱う賢い処理や、部屋を繋いでランダムなマップを作る仕組みも手持ちのカードとして増えた。
制作AIへ渡す仕様書も、前よりずっと短くて済む。既にある機能を使えと指定すれば、その部分の面倒な説明を毎回書き直す手間が省ける。
次も同じような小さなゲームを作るなら、今までよりもずっと楽に作れそうだった。
趣味ノートには、まだ使っていないボツ案がいくつも残っている。その中から次の2本に使えそうな面白そうなものをピックアップし、別のページへ移した。
その時、リストのずっと下に放置していた案がふと目に入った。
最初に思いついた時は、作るために必要なものが多すぎると判断して、泣く泣く後回しにしたゲームだ。
改めてその企画書を開いてみると、当時どうしても埋められなかった空欄のいくつかは、今の整った環境と知識ならもう埋められることに気がついた。
もちろん、今の素材だけで全部作れるわけじゃない。新しく足す機能もあるし、規模を広げればバグを検証する地獄の量も増える。
だが、完全に何もない更地から手をつけるのとは全く違う。
「これなら、もう一回りデカいゲームも作れそうだな」
その壮大な案を、次の2本の下へそっと移した。
まずは今あるノウハウを使って、もう少し小さなゲームの数を出してみる。
その間に、こっちの大作の企画も少しずつ詰めておこう。
制作AIへ次の試作に必要な素材をパパッと指示し、後回しにしていたゲームの企画書を開いたまま、最初の空欄へ勢いよく文字を書き足した。