科(化)学系チート持ち転生者のお話 Re:オタクルート 作:金属粘性生命体
次の2本は、最初のパズルほど時間がかからなかった。
画面を出し、入力を受け取り、途中の状態を保存する。そうした部分は既に揃っているので、新しく作るのは遊びの中心になるところと、それに使う素材がほとんどだ。
俺が片方の動きを確かめている間に、制作AIがもう片方の素材を用意する。変更を渡して検証へ回したら、今度は出来上がった方へ移る。
既に公開している3本の更新も、その合間に進められた。
庭のゲームには、今でも時々、配置した植物の画像が投稿されている。何かを足すたびに全体を並べ直している人もいて、見比べると前とは少しずつ違っていた。
次の2本を公開した時も、そこから見に来てくれた人がいたらしい。最初のパズルを出した頃に比べれば、新しいものを置いた時の反応は分かりやすくなっている。
収益も増えていた。
ただ、今はまだ部品を買い足すより、手元の環境でできることを増やしたい。制作AIへ小規模な更新の準備を任せ、俺は以前から残していた企画を開いた。
ダンジョンを作り、侵入してくる冒険者を迎え撃つゲーム。
これまでの探索ゲームとは、立場が逆になる。
通路を進んで宝箱を開けるのではなく、どこへ通路を繋ぎ、何を置いて待ち構えるかを考える。強い魔物を入口へ並べるだけでも遊べるが、地形や罠を組み合わせれば、別の守り方もできるようにしたかった。
入口で足を止め、その間に後ろから攻撃する。
隊列を途中で分け、回復役だけを前衛から引き離す。
長い通路で少しずつ削るのか、一つの部屋へ集めてまとめて迎撃するのか。
配置を考え、実際に侵入してくるところを見て、上手くいかなかった場所を直す。その繰り返しなら、俺はかなり長く遊べそうだった。
以前は、必要なものを並べただけで後回しにしていた企画だ。
今なら部屋の生成も、敵の行動も、配置や数値の管理も、土台に使えるものがある。足りないものは、その上へ追加していけばいい。
「まず、1区間だけ通してみようか」
全体の流れを書き出し、制作AIへ渡す仕事を分けた。
基本はウェーブ制にする。
冒険者が侵入してきて、防衛を終えたら次の準備へ移る。そこで得た資金を使い、魔物を増やすか、罠を置くか、通路を作り直すかを選ぶ。
通常のゲームは100ウェーブまで。
先へ進むほど冒険者の構成が変わり、途中には勇者も入ってくる。最後まで防衛できれば、そこで一度きちんと終わるようにする。
クリアした後に遊び込める部分は、その先へ分けておけばいい。
何も考えず際限なく数字だけが大きくなるより、まずは100という目標が見えている方が、そこまでやってみたくなる。
保存できるのは、10ウェーブごとの区切り。
最初から使えるセーブ枠は3本にした。
少し前の状態を残しておけば、上手くいかなかった時に、そこから配置を組み直せる。直前の操作を何度でも戻すのではなく、次の10ウェーブへ向けて何を準備するかを考えてほしかった。
俺自身、失敗するたびに最初から全部を繰り返すのは、あまり好きではない。
原因が分かったところへ戻って、別の方法を試したい。
そのための保存だった。
◇
新しく追加した描画部分へ、仮の床と壁を置く。
部屋同士を通路で繋ぎ、魔物を配置すると、画面の中に小さなダンジョンができた。最初は色分けした形だけだったものが、制作AIから素材を受け取るたびに置き換わっていく。
壁際の明かりが灯り、床へ罠が収まり、入口を見張るゴブリンが棍棒を持つ。
配置を確かめるために少し視点を回しただけで、最初の図面より随分それらしく見えた。
魔物には、どこで待ち、どの範囲へ入った相手を狙うかを設定できるようにした。細かく指定しなくても動くが、通路の途中へ引き込んでから攻撃させたい時には、待ち構える場所を変えられる。
冒険者の方も、一列に歩いて同じ相手を殴るだけでは足りない。
前へ出て攻撃を受ける者がいて、その後ろから弓や魔法で攻撃する者がいる。傷ついた仲間を回復する者や、罠を見つけて処理する者が混じれば、同じ配置でも結果は変わる。
ひとつずつ機能を足すたびに説明する必要はなく、俺は実際にダンジョンへ入れて動かした。
何もない通路なら、そのまま進む。
目の前に魔物がいれば足を止め、罠が見つかれば隊列が少し変わる。その後ろが詰まり、横へ広がる場所があれば、遠距離の攻撃役が移動する。
行動を見ながら配置を直していると、作業は自然と、防衛する遊びそのものになっていった。
最初に10ウェーブを通した時には、入口の近くへ魔物を集めるだけで守り切れた。
次の区間では、後ろから攻撃してくる冒険者が増えた。入口で戦い続けると、こちらの魔物だけが一方的に削られる。
少し奥へ下げると、今度は通路を抜けてくる相手を順に迎撃できた。
そうして区間を増やしていくうちに、保存データも少しずつ先へ進んだ。
30ウェーブを終えたところで保存し、次の準備に入る。
今の構成なら40までは行けるだろうか。
手持ちの資金で前衛を強化し、通路の曲がり角へ罠を増やした。足を止めている相手を後ろから狙う形は、ここまでは上手く動いている。
31、32と防衛が続き、34も守り切った。
35ウェーブで入ってきたのは、盾を持った前衛に、回復役を含む一団だった。
先頭が曲がり角で止まる。
こちらの魔物が攻撃し、後ろからも攻撃が届く。相手の体力は減っているのに、倒し切る前に戻されていた。
回復役は、まだ罠のある場所まで来ていない。
「……そこに残られるのか」
時間がかかっているうちに、こちらの前衛が先に倒された。
後ろの攻撃役まで詰め寄られ、そこで防衛が崩れる。最後の部屋へ置いた魔物も、まとまった一団を相手には長く保たなかった。
結果を閉じ、30ウェーブの保存データを読み込む。
入口へ近い場所で止めすぎたらしい。
前衛を奥へ移し、回復役まで通路へ入ってくるのを待ってから攻撃する形へ変えた。強化に使っていた資金の一部は、隊列の後ろを狙う罠へ回す。
同じ区間をもう一度進めると、今度は35ウェーブも守れた。
ただし、そこまでの得点は前の構成より落ちている。
対処できる相手は増えたが、それまで素早く片づけられていた冒険者にも時間がかかるようになった。守り切るだけなら、このまま先へ進んでもいい。
だが、両方をもう少し上手くできそうだった。
「罠を変えるなら、こっちかな」
再び30ウェーブへ戻る。
配置を少し変えて、また開始した。
今度は前衛を下げる距離を短くし、後続の冒険者が止まりやすい場所へ罠を置く。先頭を相手にする魔物とは別に、後ろへ向かうものも配置した。
35ウェーブの回復役が、前の仲間から離れる。
先頭の体力が減り切り、そのまま隊列が崩れた。
「ああ、これならいいか」
区間の得点を見て、前の結果と比べる。
もう少し伸ばせる気もしたが、まずは40まで進めて保存することにした。10、30、40と保存先が埋まると、最初に残した10のデータを消すか、少し迷った。
今はもう使わないかもしれない。
ただ、違う構成で最初から進めたくなった時には、残っていると便利でもある。
保存枠を眺めているうちに、画面の端に出していた作業メモが目に入った。
今日の予定には、まだ別の項目が残っている。
40までの動作を確認するつもりが、同じ10ウェーブを何度も遊んでいたらしい。
「……先に、こっちを終わらせよう」
現在の状態を保存し、開発用の画面へ戻した。
もっとも、罠の配置については、別の案もメモへ残しておいた。
◇
防衛側が形になったところで、次は冒険者側を繋いだ。
同じダンジョンへ、攻略する側として入れるようにする。
自分で作っている以上、何がどこにあるかは分かっている。それでも、配置する画面と、実際に通路を進む画面とでは見え方が違った。
上から見た時には狭く感じた通路にも、意外と脇を抜ける余地がある。
魔物がこちらへ向き直るまでに距離を詰められる場所もあれば、足を止めた瞬間、別の部屋から攻撃される場所もあった。
罠の位置は知っていたはずなのに、前の魔物を避けたところで踏んでしまう。
移動が鈍くなった間に、後ろから追いつかれた。
「……作った場所で引っかかると、少し悔しいな」
何が起きたのかは分かる。
だから今度は、手前で魔物を動かしてから抜ければいい。そう考えて戻った後、防衛画面を開くと、その誘い出し方を防ぐ配置まで思いついた。
潜る。
作り直す。
また潜る。
それだけでも、思っていたより長く遊べる。
この保存データを他の人へ渡せれば、今度は自分の知らない攻略の仕方が出てくるはずだ。
防衛モードで保存した状態から、公開用のデータを作る機能を追加した。
地形、配置した魔物と罠、それぞれの設定。サーバーへ投稿したものを、冒険者側のプレイヤーが選んで挑めるようにする。
作者がその場で操作する必要はない。投稿された時点の状態を使って防衛し、挑戦が終わったら結果を残す。
冒険者に突破されたからといって、手元で育てているダンジョンまで壊れるわけではなかった。
公開したものと、作業中の保存データは分ける。配置を改良したら、その時に更新すればいい。
冒険者側が投稿ダンジョンへ挑めるのは、1日5回にした。
ダンジョンを選ぶ画面には残り回数を出しておく。同じ場所へもう一度挑むか、別の場所へ行くかを選べるよう、挑戦したものも一覧へ残した。
作った側には、挑まれた回数と、防衛に成功した実績に応じて達成報酬がある。
ただ公開したきりではなく、遊んでもらった結果が戻ってくる形だ。
そこまで繋いで試していると、防衛側に表示している結果が少し物足りなくなった。
成功か、失敗か。
それだけでは、どこを直すか考えにくい。
「階層ごとに見られた方がいいな」
挑戦結果を分け、それぞれの階層へ何組が到達し、何組がそこを突破したかを表示させる。
到達した冒険者のうち、どれくらいが次へ抜けたのか。その割合も並べた。
入口から順に抜かれているのか、途中の部屋でほとんど止められているのか。最後まで突破されたとしても、全ての階層を同じように作り直す必要があるとは限らない。
試験用の結果を流し込み、表示を確認する。
長い文章で並べるより、階層の図へ数字を添えた方が見やすそうだった。そこから詳しい件数を開けるようにし、配置の画面へもすぐ戻れるようにした。
自分なら、どこを見た後に何を触りたくなるか。
それを確かめながら、画面同士を繋いでいった。
◇
ゲームの中身が揃ってくると、公開に必要な部分も増えていった。
今回は基本無料にして、広告削除、追加のセーブ枠、スキン、経験値ブーストを購入できるようにする。
保存枠は最初の3本に加え、1枠500円で2本まで増やせる。最大で5本だ。
広告削除は、買い切りで1,280円。
広告は準備や結果を見る区切りに置き、ウェーブの途中や、冒険者として通路を進んでいる最中には出さない。
スキンは、幾つかをまとめたパックにした。1パック240円で、主にテクスチャを差し替えて見た目を変える。
制作AIに最初の素材を作らせると、確認画面へ赤と白の衣装を着たゴブリンが並んだ。
サンタの格好をしている。
試しにダンジョンへ置くと、そのまま棍棒を持って冒険者へ向かっていった。動きも強さも元のゴブリンと変わらないので、見た目だけが少し間の抜けた光景になった。
「……これ、何体か並んでいたら結構かわいいな」
同じ通路へ追加で配置する。
赤い一団が待ち構える奥に罠があり、入ってきた冒険者が足を止めたところで、一斉に棍棒が振り下ろされた。
かわいいかどうかと、迎撃の結果は別らしい。
スキンの確認を終え、経験値ブーストの表示へ移る。
こちらは1回120円。1日1回だけ購入でき、その時点から、その日の終わりまで獲得経験値を1.5倍にする。
24時間ではないので、購入画面には終了までの残り時間も出した。
夜に購入すれば使える時間は短い。そこが分からないまま買われるのは困るので、価格の隣で確認できるようにする。
ブーストを購入しても、冒険者側の挑戦回数は5回のままだ。
購入と反映の試験を制作AIへ任せ、俺は紹介用の動画を作り始めた。
最初は、何もない場所へ部屋と通路を置くところから。
魔物を配置し、罠を仕掛け、ウェーブを開始する。冒険者が通路へ入り、用意した場所で迎撃される。
その後、同じダンジョンを冒険者側から映した。
防衛画面で見ていた曲がり角を進み、さっき置いた罠へ近づく。敵を避けながら奥へ抜けたところで、別の魔物に行く手を塞がれた。
作る側と、潜る側。
同じ場所を両方から遊べることが伝われば、細かな説明を大量に入れる必要はない。
最後に投稿画面と、階層ごとの防衛結果を短く見せて、動画を終える。
何度か見直してから、既存のゲームを紹介しているページへ、新作として載せた。
反応は、最初のパズルを出した時よりずっと早かった。
『今度の、前より随分作り込まれてない?』
『ダンジョン作るだけじゃなくて、自分でも入れるのか』
『これ他人のところも潜れるんだよな。ちょっとやりたい』
庭のゲームから見に来た人もいれば、探索の方を遊んでいる人もいる。
そのうちの何人かが動画を紹介してくれたらしく、今までより多くの人に見られていた。
紹介した段階で、既に配置の自由度や保存について質問が来ている。
どこまでできるか分かりにくかったところは、別の短い動画で見せた。通路を組み替える場面や、保存した場所へ戻って別の構成を試すところだ。
その間も、完成へ向けた確認は進めていた。
100ウェーブを終えた時の区切りも作り、クリア後に遊べる部分を分ける。途中の保存地点から再開した時に、必要な状態が揃っているかも確かめた。
制作AIが結果をまとめている横で、自分でも何度か通して遊ぶ。
最終盤へ置いた勇者を倒し、100ウェーブ目の結果が表示されたところで、ようやく一つのゲームになった気がした。
最初に作った、丸と四角だけの試験画面はもう残っていない。
その時のデータはHDDの中に保存してあるが、今動いている画面には、自分で作ったダンジョンと、そこを守り切った魔物たちがいる。
結果を閉じ、公開版を保存した。
◇
新作の公開日は、休日に合わせた。
朝のうちに配布されているデータを入れ直し、起動から保存、投稿まで一通り確かめる。問題がないことを確認してから、公開したことを告知した。
今回は、待っていた人がいる。
管理画面を何度も開き直さなくても、少し別の作業をして戻った時には、数字が増えていた。
早い人は、その日のうちに最初のダンジョンを投稿している。
10ウェーブを終えたばかりの小さなものだ。それでも冒険者として挑めるので、公開された一覧には、完成した大きなダンジョンばかりではなく、短く遊べるものも並び始めた。
最初の数日は、不具合の報告と、操作についての質問を優先して見た。
制作AIが似た内容をまとめ、再現できる条件があれば検証している。俺は結果を確認し、直すものと説明を足すものを分けていく。
ずっと窓口へ張りついている必要はなかったが、今までの小規模作より報告は多い。
その中に、ゲームを遊んだ感想も混じっていた。
『勇者が来たところで全部抜かれた。30のデータ残しておいてよかった』
『防衛してる間、普通に応援してしまう』
『サンタのゴブリンに囲まれて死んだ。プレゼントが棍棒だった。それと季節感ないのおもろい』
『あの赤い部屋作ったの俺だわ。来てくれてありがとう』
『礼を言われると余計に腹立つな』
短いやり取りの下に、問題の部屋の画像が貼られていた。
赤いゴブリンが、通路の両側へ並んでいる。
確認用に俺が適当に置いた時より、ずっと綺麗に揃えてあった。
数日が過ぎると、攻略の投稿も増え始めた。
強い魔物へ資金を集める人もいれば、弱い魔物を役割ごとに分けて配置する人もいる。罠だけでどこまで進めるか試している人は、保存枠を追加して、違う構成を残しているらしかった。
冒険者側では、挑戦回数を使い切った人が、翌日どこへ潜るか相談している。
『同じダンジョンに3回使った。残り2回どうしよう』
『そこまで行ったなら明日用に攻略考えておけば』
『今なら抜けそうなんだよ』
その後に付いた投稿では、残り回数がゼロになっていた。
突破できたかどうかは、書かれていない。
作る側の報告にも、変化があった。
挑戦された回数の達成報酬を受け取った人が、ダンジョンを更新している。防衛には失敗していても、遊ばれた分が無駄になるわけではないので、改良版へまた来てほしいと紹介していた。
通常の100ウェーブを進める遊びと、投稿されたダンジョンを巡る遊びが、同じところで動き始めている。
どちらか片方だけを遊んでいる人もいた。
冒険者として潜ってから、自分ならどう守るかを考え、作成側へ戻っていく人もいる。
紹介動画やプレイ画面が増えるたび、そこから新しく遊び始める人が入ってきた。
初作の時には数日かけて動いていた数字が、今度はもっと短い間隔で増えている。
過去のゲームも同じだった。
新作の作者だと知って、庭やパズルの方を入れてくれる人がいる。更新のために開いた管理画面で、しばらく落ち着いていた数字がまた動いていることに気づいた。
ただ、見ていて一番面白かったのは、やはりダンジョンの方だった。
◇
俺自身も、公開後に一つダンジョンを投稿していた。
確認用に作ったものとは分け、普通に防衛モードを進めて保存した、4階層のダンジョンだ。
それなりに守れるつもりだったが、挑戦が増えた後で結果を見ると、気になるところがあった。
『第1階層 到達60組/突破42組 突破率70.0%』
『第2階層 到達42組/突破12組 突破率28.6%』
『第3階層 到達12組/突破12組 突破率100%』
『第4階層 到達12組/突破3組 突破率25.0%』
3階層目が、全く止められていない。
もっとも、そこへ来ているのは2階層目を突破した12組だけだ。入口に来た全員が簡単に抜けるという意味ではない。
それでも、用意した配置がどう使われているかは確かめたくなった。
冒険者側から同じ場所へ入り、通路を進む。
3階層目は、長い直線の奥から攻撃する構成にしていた。手前の魔物で足を止め、その間に奥から削る。
防衛モードの試験では、そこそこ機能していた場所だ。
ところが自分で動かしてみると、手前の魔物を少し引き出すだけで、奥からの攻撃が曲がり角に遮られた。
前衛だけを先に相手にして、その後で奥へ進める。
「ああ、ここまで出てくるのか」
待機させる範囲を広く取りすぎていたらしい。
防衛側へ戻り、追いかける距離を短くする。ついでに奥の配置も少しずらし、通路の入口だけを安全な場所として使えないようにした。
同じ条件で潜り直すと、今度は手前へ誘い出すだけでは済まない。
ただ、完全に逃げ場をなくすほどでもなかった。別の順番で魔物を動かせば、抜ける余地はある。
これなら、どう攻めてくるか見てみたい。
改良した状態を公開し、前のものと結果を分けて残す。
翌日には、そのダンジョンへまた挑んだ人がいた。
『3階変わってる。前の抜け方できなくなってた』
『別のところから行けるぞ。ちょっと面倒だけど』
結果を開く。
まだ件数は少なかったが、今度は3階層目でも何組か止まっている。
俺が見たのと違う抜け方もあるらしい。
数字だけでは、その方法までは分からない。投稿された短い動画を開くと、こちらが攻撃を始める順番を利用して、別の魔物を先に動かしていた。
「なるほど。そっちか」
これは不具合ではない。
設定した通りに動いた結果、そういう攻め方ができているだけだった。
すぐに直すのはやめて、動画を保存しておく。次に別のダンジョンを作る時には、少し考えてみよう。
同じ頃、他の作者も階層ごとの数字を投稿し始めていた。
1階層目が強すぎて、せっかく作った奥まで誰も来ないという人がいる。逆に、最終階層だけで止めていて、途中を全部作り直すか悩んでいる人もいた。
難しいダンジョンへ挑みたい人が集まる一方で、変わった配置を見に行きたいという人もいる。
作った側が「突破してみてほしい」と載せたものへ、冒険者側が残り回数を使って挑みに行く。
その結果を見て、また配置が変わる。
こちらで新しいステージを毎日追加しなくても、公開される一覧は少しずつ変わっていった。
◇
収益をきちんと見直したのは、公開後の対応が少し落ち着いてからだった。
広告削除の購入が多い。
何度も遊んでいる人がまとめて購入しているらしく、感想にも広告を消してから続けていると書かれていた。
セーブ枠も、少しずつ増えている。
途中の区間を残しながら別の構成を試す人には、追加の2枠が使われているようだった。スキンは、自分のダンジョンを画像や動画で紹介している人のところでよく見かける。
経験値ブーストも動いていた。
それぞれは、決めた通りの価格だ。
ただ、購入する人の数が、前のゲームとは違う。
3本を合わせてようやく万の桁になった時の表を開き、今の数字を隣へ入れる。見込みの段階ではあるが、比較すると差ははっきりしていた。
「……これなら、まとめて返せるな」
返済用に25万円を分けても、その後の運営費と、新しい開発環境を用意する余裕がある。
今すぐ全部使うつもりはない。
サーバーを動かし続ける分も残したいし、公開直後ほどの勢いが、そのまま続くと決めつけることもできなかった。
それでも、次のPCの構成を考える時に、メモリを半分にするかどうかで悩まずに済みそうだった。
実際の入金があった後、借りていた分を返すことにした。
夕食の後、父さんが台所へコップを取りに来たところで声をかける。
「前に借りた25万円、返せるようになったよ」
「もう返すのか?」
「うん。新しく出したゲームが、思っていたより遊ばれてる。売上も入ったから」
父さんは手にしていたコップを置き、俺の方へ向き直った。
「返したら、また足りなくなるんじゃないのか?」
「そこは大丈夫。しばらく動かす分も残してるし、次に使う機械の分もあるから」
「そうか。ちゃんと形になったんだな」
「最初に貸してもらえたからね。ありがとう」
父さんは少し笑い、返済先を確認してくれた。
近くで聞いていた母さんが、こちらを見る。
「次に使う機械って、またパソコン?」
「そうなると思う。今のはゲームの方で使い続けたいから」
「部屋、狭くならない?」
「置く場所は考えてるよ」
まだ買ってもいないのに、先にそちらを心配された。
確かに、机の上は最初より埋まっている。新しい機械を入れる前に、一度整理した方がよさそうだった。
自室へ戻り、返済した分を表へ記録する。
最初に書いた25万円の欄が、ようやく埋まった。
そこで家計の表を閉じ、趣味ノートを開いた。
ゲームの案や更新の予定が増えたせいで、最近は下の方まで見ることが少なくなっている。
少し戻ると、最初から残っている項目があった。
ボーカロイドに返事をしてもらう。
その下に、MEIKOとKAITOの名前が並んでいる。
今の制作AIは、そのままゲームの制作と保守に使いたい。公開したものが増えた分、任せておける作業も増えていた。
だから、新しい環境は別に用意する。
会話を動かし、音声を出し、記憶を扱いながら、画面の中の姿も動かす。そのために、どこへ余裕を持たせるか。
新しい部品表を作り、必要なものを書き出し始めた。
ただ、自分だけを相手にした確認では、どうしても偏るだろう。
母さんが最初に球を直接触ろうとしたことも、投稿したダンジョンが予想外の方法で抜かれたことも、俺一人で触っていた時には、そのまま通り過ぎていた。
会話についても、こちらが何を言わせたいか知っている状態だけで進めたくはない。
まずは別の人にも使ってもらえる、小さな会話アプリを作ってみようか。
その案を、PCの構成表の隣へ書き留めた。
「今度は、こっちの番だな」
画面の端では、制作AIがゲームの報告をまとめ続けている。
その確認が終わるのを待つ間に、俺は新しい表のメモリ欄へ、予定している容量を入力した。