そしてしばらく時間も経った夕方、家畜の糞の処理が終わった金田のところに、秋元が走ってくる。
「金田ー!」
秋元は叫びながら、汗だくで近づいてくる。息も絶え絶えでみっともない様子だったが、表情はとても明るい。
「おぉ!どうだった!?」
金田もそれに応える。
金田には、秋元がここに来た理由が今日行ってきた道具屋の話だと予想がついていた。
「だっ、大丈夫!で、で、できるよ!スピーカーとマイク!」
秋元は、荒い呼吸のまま金田に嬉しそうに報告した。
「お仕事お疲れ様です、金田さん」
その後ろから遅れてやって来たのはミリア、
どうやら今日も二人で行動していたらしい。
金田にはそれがちょっと羨ましかった。
「でも、本当にいいんすか?俺たちの思い付きに突き合わせちゃって…」
秋元が道具屋に行った理由は、この世界の道具でミリアに天使エミリーの曲でライブをさせるためだった。
スピーカーとマイク、あわよくばステージ用のライトがあれば最低限再現できる、そう考えていた。
結果、その道具そのものはなかったが、音を大きくする、光を制御する技術は存在した。あとはそれを秋元が望む形に加工すればいい、というそこまで難しくない話だった。
「いいんです、それどころか感謝してるくらいなんです」
ミリアはそう言って微笑んだ。
修道院までの帰り道、3人はミリアを真ん中にして並んで歩いていた。
夕陽と、ちょっと涼しい風が通り過ぎるのを感じた。
「感謝?」
金田が聞き返すと、ミリアは遠慮がちに頷いた。
秋元が嬉しそうに口を挟む。
「ミリアちゃんにはゆめがあるんだよねー?」
秋元の言葉を受けて、ミリアは少し恥ずかしそうに話し始める。
「…私、王都の中央広場でみんなの前で歌うのが夢なんです」
「王都?中央広場?」
「王都の大通りの一番目立つ場所に、大きな舞台があるんです。そこは、みんなが認めたほんの一握りの人しか建てない場所で…この国で芸能を志す人みんなの憧れのばしょなんです」
…なるほど、こっちでいうところの武道館、ドーム公演みたいなものか…。
金田はそう思った。
同時に、昼間のリーガンの言葉を思い出す。
口にこそ出さないが、司祭も村人も、みんなミリアの夢を知っていて応援している。
そう考えると、自然と納得できた。
「子供のころ一回だけ、そこで歌う人の姿を見たことがあって…その日からずっと、私もそこに行きたい!って思い続けているんです」
ミリアは言った。まるでその時の光景や感情を思い出すような熱っぽい口調で、。
そして、自分に言い聞かせるように続ける。
「でも、今のままじゃきっとダメなんだ、何かを変えないとあそこには辿り着けない、それもわかってるんです…だから今回、秋元さんたちと一緒にあの感じを再現してみて、なにかきっかけみたいなものを…そういう変わる何か…を、もらえたらな、って思ってるんです」
ミリアは言い終わると、少し空を見上げた。
その言葉には、彼女が内に秘めた静かな情熱を感じとるには十分な力を宿していた。
金田は、思いのほか真剣な目で語ったミリアに返す言葉がうまく探せなかった。
「…そうか!いいっすね!ミリアちゃんなら絶対そこまで行けると思うよ!」
なにか特別なことを言いたかったが、言葉が出ない、きっと恋愛感情が自分の素直な言葉を邪魔しているな、と自覚した。
そして、自分がかつて諦めて置いてきたものをうっすら思い出して、心がざわついた。
…この人にはそういう思いはしてほしくない。
口にはできないなにかが、大きくなるのを感じた。
「大丈夫!絶対ぼくらが連れて行ってあげるよ!ね、金田?」
一瞬の沈黙の後、秋元は言った。
「はい、お願いしますね」
ミリアはそれに笑顔で答える。
秋元の言い切り、ただ金田にしてみればそれは、なんの計画もなく、なんの根拠もないいつもの秋元の言動でしかない。
しかし、このどうしようもないほど人を安心させる裏表のなさが金田には羨ましかった。
「…そうだな!みんなで王都まで行こう!」
金田の声と3人の笑い声が、夕陽で染まる農道に静かに溶けていった。