結局金田たちは、転移魔法を2回ほど中継して王都を見渡せる山の中腹に出た。
最初は集落から村を過ぎた森の中、そこから海に面した大きな町を見渡せる丘の上に出た。
そこは、王都と各地域を繋ぐ国の交易の中心となる町。そして最後に、王都を見渡す山の中に転移した。
「…あそこがお城で、その正面が中央広場です。あそこの地下深くにある封印の間に王が封印されています」
レプトルは木々の枝葉の間から見える風景を指さし、そう言った。
金田が彼の示した方向を見た。
王都は、防衛上の戦略性も考えたのであろう、盆地に形成されている。
広く密集した町の風景は、村とは明らかに違う。
作りこまれた美しさと、勢いを感じる雑多な建物群が見事な調和を成していた。
その町並みの中心部――ひときわ高い位置に、白い石造りの城がそびえている。
ゴシック調のその城は、太く高い主塔を中心に、いくつもの尖塔が細いアーチで結ばれていた。
そして城の正面、城門を隔ててほとんど目と鼻の先には大きな広場が広がり、そこを起点に大通りと商業施設が長く連なっている。
その広場こそ、王都中央広場。
秋元とミリアが目指す場所があそこだと、金田は一目見て理解した。
そして意外な事実に気づく。
「どうしてお城じゃなくて、広場の下なんだ?」
「政治の中心である城より、人の往来や文化といったエネルギーが常に滞留しているあそこの方が封印には適している…みたいなんです」
「要するに、封印のためのエサがいっぱいあるってこと?」
「…すごく乱暴に言うとそういうことです」
レプトルは少し考えながらそう言った。
多分、細かいことは言っても理解できないだろうという雰囲気だった。金田も、そのくらいの知識でいいと思った。
「人の気が集まるところで封印が安定するという思想は、陰陽道でも同じなんですよ」
と、会話に割って入る声。
同時に背後の茂みが揺れた。
山の斜面に生い茂る木々の葉が押し分けられ、誰かがこちらへ向かってくる。
「…あ、田所さん」
レプトルが声を上げる。
金田が振り向くと、木の枝を手で払いながら、あの“原始人を従えていたおっさん”が姿を現した。
息を切らしつつも、どこか落ち着いた足取りでこちらへ近づいてくる。
「ご無事でなによりです、金田さん」
田所と呼ばれた男は、最後の茂みをかき分けてこちらに出てきた。
さらに驚くべきことに、その背後には侍が続いていた。
「おお!先生ではないでござらぬか!」
侍はなぜか金田のことを先生と呼び、最初のころの寡黙なイメージとはまるで正反対のふるまいを見せている。
金田はどれから驚いていいのか困惑していた。
「改めて、田所さんと斎藤さんです。こちらは金田さん。今回はこの3人で穴を掘り進めていただきます」
レプトルが言うと、田所は金田に歩み寄る。
「…1982年で工業部品の町工場をやってました」
そう言うと、胸ポケットに入っていた自分の名刺をそのまま金田に手渡す。
彼のフルネームは田所恵三。有限会社田所製作所の社長ということらしかった。
「…社長さんですか?すごいっすね」
金田は、田所がいきなり80年代から来たことを明かしたのも驚きだったが、彼が社長であるということにも意外さを覚えた。
「いえいえ、ただの町工場ですから、そんな大したものじゃないですよ。社長兼、技術者といったところです。金田さんは何年からです?」
「俺は2015年からです!」
金田が言うと、田所の目は驚きと興味の色を濃くした。
「これはすごい。聞いた中では金田さんが一番未来人ですね」
「そうなんですか!?…あの召喚システムの年代の振れ幅って、どうなってたんでしょうかね?」
二人は苦笑いを浮かべながら、斎藤を見た。
「いやー、見ておりましたぞ、女子をかばって散りゆく姿!あれこそ武士の生きざま!拙者、感服いたしたでござる!」
二人に視線を向けられた斎藤は、あまり気にすることはなく、金田を見て嬉しそうに言った。
「…あれは、完全に勢いというか…そもそも、散ってますしね」
「いかなる戦場にあっても、己の信念のためにいつでも死ねる覚悟!いやいや、金田殿は本物の武人でござるな!これからは、ぜひ先生と呼ばせていただくでござる!」
「…はは、先生は言い過ぎでしょうに…」
斎藤のテンションは高い。
金田は、ミリアを守った件に関してほめてくれるのはうれしいが、少し勘違いも混ざっているな、と感じた。
「…ところで二人はどうやって騙されたんですか?」
金田は斎藤の話題をそらすように、二人にそう問いかける。
自分と秋元は天使エミリーに“勇者として”と騙されかけた後に、強引に連れてこられた。
他の人たちはどうだったのか。
これは実のところ、前々から召喚者たちに聞いてみたい内容だった。
「…自分の工場の融資の増額をちらつかされまして…」
「…柳の下で遊女にかどわかされたでござる」
二人は苦笑いで返す。