4人の足音が坑道内に響く。
壁は粗く削られたままの岩肌で、ところどころにツルハシの跡が残っている。
天井には打ち込まれた木材の支柱が規則的に並び、
その隙間から細かい砂がぱらぱらと落ちていた。
金田は思わず天井を見上げる。
そのトンネルは意外と長く彫られていた。
(…これ、5年も掘ってるのか。そりゃ長くもなるよな)
足元は固く踏み固められ、長年ここを行き来してきた者たちの痕跡がはっきりと残っている。
聞けば、開通も時間の問題らしい。
この国、リストリア王国の王城には、現在使われていない地下回廊がいくつも存在するという。
今回の穴掘りは、その一つとここを繋ぎ、封印された王を奪還するための“裏道”を作る作業だった。
ただのランプにしては妙に明るい光が坑道を照らしている。
恐らくこれも普通の火ではないのだろう。
金田は、相変わらず随所に登場する謎の力に驚きつつも、
(まあ、異世界だしな…)
と、半ば諦めの境地で納得していた。
その“あやふやな力”は、この洞窟を長年人の目から隠すためにも使われていたらしい。
そしてもちろん、山からここへの移動手段も転移魔法陣だった。
「しっかし…ここまで散々魔術を駆使しておいて、肝心の掘削が人力とは…なんというアンバランスさ」
ミオンから渡されたヘルメットをかぶり、ツルハシを振るいながら金田はぼやいた。
「すいません、あんまり派手な魔術を行使すると、さすがに人目に付きますので…」
レプトルは、額の汗をぬぐいながら、申し訳なさそうに笑った。
「でも、このツルハシやスコップは普通のものとは全然ちがいますよね?やはりこれも魔術ですか?」
田所は掘削作業中に使っていた道具類の、その不思議な使い心地にいちいち関心していた。
「そうですね、やはり道具の使い勝手は重要ですからね」
「…確かに!この威力は気持ちいいでござるな!」
上半身裸の斎藤はそういいながら、大きく振りかぶり、ツルハシを振り下ろす。
ツルハシの先端を撃ち込まれた目の前の岩が、乾いた音を響かせた後に砕けて崩れ落ちる。
その腕っぷしの強さに金田は少なからず驚いた。
「お見事です、では私も」
レプトルはそういうと、斎藤に並んでツルハシを振り下ろす。こちらもまた、人間では到底及ばない破壊力のある一撃。
斎藤が割ったものよりも更に大きな岩が、ひび割れて崩れ落ちた。
「…さすが魔族」
金田はそれを見て、ミオンが岩を素手で破壊する様子を思い出した。
「そういえば…」
ふと、金田はレプトルに問いかける。
「魔王軍ってさ、ミオン様がトップなの?」
魔族の側に身を置いてから数日、幾つか気になることがあった。
その一つが、魔族の中でのミオンの扱いだった。
金田自身は、ミオンは最初のイメージ通り、魔王軍の女幹部で何人もの実力者の一人だと思っていた。
しかし、実際に魔族の中に入ってみると、それらしい幹部も組織体系もなく、ただミオンがみんなに慕われ、頼られて信頼されているだけだった。
確かに魔王復活を掲げて行動はしている、しかし、自分が思う魔王軍とは何かが違っていて、安心するとともに若干拍子抜けもした。
「…そうですね、ミオン様は10年前に我々が侵略を受けて王を失い、途方に暮れている中で、唯一、王の奪還という生きる目標を示してくれた方なんですよ。この計画もそうで…以来、我々はミオン様の指揮の下で行動をしています」
レプトルは一度ツルハシを置いて、懐かしむような表情と声色でそう語った。
「若いのに立派なものです、しかし魔王代理というよりは、みんなのお姉さんというカンジではありますね」
話を聞いた田所が、素直な感想を口にする。
金田と斎藤も同じ感覚を抱いていた。
「そうなんです、そこもまたミオン様の不思議な魅力のひとつで…そもそも、魔王軍、というのもミオン様が言い出したんです」
レプトルはふっと笑みをこぼす。
「…で、この計画って、絶対リストリア王国?お城?に協力者、いますよね?」
金田がさらに続ける、この作戦の中で気づいたもう一つの違和感。
魔族の領域からの転移魔法陣によるスムーズな移動、そして城の地下回廊という外からでは知り得ない情報と、それをめがけて彫る正確さと手際の良さ。
これは、魔族だけでは計画できない内容だ、と金田は感じていた。
それを受けたレプトルは、一瞬驚いたような表情を見せたが、再びいつもの温和な顔つきに戻り、話始める。
「鋭いですね、その通りです」
その声色は、どうやら隠す気もなく、知られて困るというものでもないことを物語っていた。
「これもミオン様の段取りなんです、リストリア城の宮廷魔術師に協力者がいます、我々は彼の手引きでここを掘削している、というわけです」
「…人間の協力者を、怪しんだりしないでござるか?」
斎藤が口を挟む。金田も田所も、それは同じ意見だった。
人間側、魔族側のどちらの立場に立っても、その魔術師の目的に納得のいく展開がイマイチ想像できなかった。
「…まぁ、最初は疑問に思いましたけど、こうして人間も魔族も誰も被害なく、5年近く彫り続けていますからね…協力者どうこうより…結局、我々が信じているのはミオン様ということなんでしょうね…」
レプトルは狭い坑道を見渡しながら、自分に言い聞かせるように穏やかな口調で言った。
最後はどこか、自嘲気味でもあった。
そんなレプトルと長年にわたって掘り進められた坑道を見て、金田はまた、ミオンの瞳を思い出していた。
誰もが未来に絶望しかけた時、救いを求める気持ちは人間も魔族も同じこと。
魔族には救いが必要で、それがミオンだった。
金田は妙に納得してしまった。
「…さて、掘るか」
金田はツルハシを振り上げた。
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カクヨム:ボクが見た優しい異世界の話。
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